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9 上位互換との戦い

 戦闘が始まり、俺は回避に専念していた。

 今は荒峰がフレイムショットを放ち、それを横に飛んで回避したところだ。


(厄介なことになったわね、照日。相手はあなたと同じスキルとステータスなんて……)


 アムリスが心の中で呟く。


「しかも、俺と会う前に持っていたスキルだってあちらにある。スキルだけ見れば完全に俺は不利だ」


 俺は分析した現状を話した。

 今現在はまだ無名なところもあるが、戦闘力は俺の方が不利と考えている。


(ファンのいいようにされたからよ。あれがなければ……)


「ああ、その通りだ。だけど、今はこの状況を打破するしかない。それに俺の武器は複製されてないから、完全に俺が不利と決まったわけではない」


 それにアムリスだって相手にはいない。

 彼女だってまだ有利になる要素である。


 その会話の中で荒峰は空から俺に手を伸ばす。


「確かに武器は複製できてないけど、それで勝てるのかなー?」


 荒峰は翼を生やして空を浮き、影の手を俺へと四つ伸ばした。

 翼はレックスから回収した翼人化スキル、影の手は早乙女から回収した暗黒操作化スキルで。

 人魚の方は荒峰と一緒にいるが、特に動きはない。


「なら俺は……水魔法、フロストビーム」


 俺は伸ばしてきた影の手に向けて、白いビームを撃つ。

 影の手に当たって凍結し、影の手は破壊された。

 今回のように効いたのであれば、早乙女戦でもフロストビームは使えたかもしれない。


 俺の行動はまだ終わらない。

 剣に結晶を六つ精製して、それを相手に投げ飛ばした。

 結晶に爆弾化を念じてだ。


「む、速いね」


「どうだ、こうなったら?」


 五つの結晶が荒峰に向かう。

 相手は動こうとしない。

 すると、人魚が水を発生させて、その水が荒峰を包む。


「ざんねーん。武器はないけど、この水が守ってくれるから、私には」


「くっ……一筋縄ではいかないか」


 攻撃が届かず、俺は苦言を出す。

 結晶は水に弾き返されてから、爆発した。

 五つの爆弾化した結晶は届かなかった。


 しかし、攻撃はこれで終わりでない。


「そうそう、周囲の防御はばっちりだから、角度とタイミングをずらしてもダメだよ」


 荒峰が話している間に俺は浮遊化した爆弾結晶を後方から突っ込ませた。

 その爆弾は覆われた水に弾き返されて、こちらも攻撃が届かなかった。

 水が出てきた時点で攻撃が通るとは思わなかったが、もろい部分がないか確認のためである。

 結果、攻撃が通らなかったが、言っている通り周辺の防御はばっちりのようだ。


「攻撃を通すのも一苦労かもな」


 弾かれた結晶が爆発した後、俺は呟く。

 その後に霊降下を念じる。


 荒峰の周囲の水は四散した。


「そうだよ。楽に勝てると思わないで……ね!」


 荒峰が手を伸ばすと、足元から影が伸びていき、そこから四つの魚が俺へと向かってきた。

 あのスキルは早乙女から回収した配下暗影操作化スキルで出したものか。

 おそらく、あれは荒峰の契約したモンスターの影だ。


 俺は剣に魔力を込めて、結晶の刃を精製し、同時に軽くする。

 あの魚は俺に向かいながらも自在に動き回っていた。

 そのため、飛び道具で落とすよりかはこちらで一体一体落とすのが確実だろう。


「これで落とす!」


 俺は結晶の刃を伸ばして、斬撃を瞬時に放ち、四体の魚を迎撃した。

 その後に刃を荒峰へと伸ばす。


「速いけど、かわせる攻撃よ。炎魔法、フレイムフォール」


 攻撃を荒峰はかわして、魔法を唱える。

 後ろから炎の球が10個出てきて、それが俺へと向かう。


 数は多いが、軌道は直線のみだ。

 俺は軌道を読んで、まっすぐ走ってそれらをかわした。


「妙だな……」


 この戦いで俺は一つ感じていたことがあった。


(どうしたの、照日?)


「相手は思ったよりスキルを扱えてない気がするんだよ」


(……そう言えば、照日だったらもっとうまい使い方あるわよね)


「俺だったら闇の手に粘着化した空気を紛れさせたり、爆発させた煙に隠れて接近したりするんだけど……」


 荒峰の戦いを見ての感想を俺は小さく呟く。

 俺だったらこうする方法を相手はやってこない上に、スキルの使い方は実直な方法しか使ってきてない。

 スキルを獲得したのが今日だからと言えば、無理もないのかもしれないが。


(で、どうするの、照日?)


「あまりこういうことはやらないけど、確かめたいからな。今回限りは少しの間、倒すことを後回しにする」


 俺は倒す前に荒峰の実力を確認するための方法へと移る。

 自然治癒があちらにある以上、時間をかけるのは不利だが、今のところ荒峰にダメージはないので問題ない。


 荒峰の足元に魔法陣が出ていた。


「どうしたの? 攻撃しないならこっちから行くよ。水魔法、アクアスプラッシュ」


 荒峰が掌を突き出し、直径4Mはある水の球が俺へと向かう。

 その水の球は一直線に向かうが、俺は敢えて動かなかった。


「俺の先生はこういっていた」


「何を?」


「スキルって言うのはその文字だけの活用法に捕らわれてはいけない。頭一つでやりたいことが大きく増えるんだ、と」


「それよりもかわさなくて……」


 俺に荒峰の放った水の球が近づいてくる。

 対して俺は水の溜まに拳を向けた。

 反射化を念じて。


 拳に水の弾が当たって、逆方向へと向かっていく。

 荒峰の方向へ。


「今の俺のスキルは反射化だ」


「あ……やば……」


 荒峰はその水の球をかわした。

 俺の攻撃はまだ続く。


「そして、敢えて同じ魔法を使わせてもらう、水魔法アクアスプラッシュ」


 俺は掌から水の球を同じく放つ。

 その球に粘着化と圧縮化を念じて。


「あれ? 私よりも小さいじゃない……」


 荒峰の言う通り、俺の球は直径が1M未満しかない。

 球が荒峰へと近づいていた。


「その水の玉、粘着化して圧縮しているからな」


 球への圧縮を俺はさらに強める。

 粘着化した水の球は四つへ分離して飛んで行く。


「わっ!」


「それで驚かない方がいい」


 水の球を遠隔操作して、一つ圧縮する。

 その球は再度四つに分かれ、その行動を他の三つの玉にも順にやっていく。

 計12個の水の球が生まれて、それが周囲へと散らばった。


「わわわっ!!」


 荒峰は慌てながら拡散した水の球をよける。

 全てはよけきれなかったようで、一つだけ当たってのけぞることになる。


「俺のスキルはこういうやり方もできるんだよ」


「うう……」


「もっと俺以上に上手い使い方があるなら、それはそれでいいんだけど……」


「……」


 荒峰は黙っていた。

 おそらく思い浮かばないのだろう。


「どうも、俺の上位互換ってわけではないようだな、お前は……」


 これでほぼはっきりした、荒峰が俺の上位互換でないと。

 そして、俺以上のスキルの応用力がないと。

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