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8 敵対せし者

 俺はアムリスがいない間のことを隠さず話すことにした。

 彼女は呆れた顔だったが、それで怒ることはなかったのは幸いである。


「全く……ファンには気をつけなさいよ」


 アムリスからの注意。


「すまない、俺も予測できなかったことなんで、以後はこういうことがないように動くから」


 それに俺は謝った。

 幸いにもステータスを含めて俺に異常はなく、試合前に不利な仕込みをされた様子もない。

 これからファンと称して不利なことをしてくる冒険者が出てくるかもしれないので、気を付けたい。


「……まあ、いいわ。許してあげるけど、次の戦闘が終わったら……」


「次の戦闘が……? 終わったら何をする気なんだ?」


「あ、気にしなくてもいいことよ。それよりも次の戦闘に向けて怠りはないの?」


 アムリスからの確認。

 先ほどの話で試合の経過具合についても聞けた。

 試合も俺の番までもうすぐで、試合の進行状況も半分は終わっているとのことだ。


 そして、この試合に勝てば次は決勝で、幸前と戦うことになる。


「そうだな。準備も問題ないし、ばっちりだ」


「なら、いいけど」


 準備するものと言っても装備品はほとんどアイテムボックスにある。

 今回作ってくれた装備品は俺の腰にすでに付けていた。

 ただ、次の相手の試合を見る時間がなかったのは少し心残りではある。


 この会話に横に入るように声が響く。


「それでは天川照日対荒峰(あらみね)三咲(みさき)の試合が始まります。両者、試合控室に集まってください」


 メイルオンさんの声が部屋に響く。


「じゃあ、行こうか。この試合に勝てないと幸前に申し訳ないからな」


 俺が言った後、アムリスは頷く。

 そして、二人は部屋を出て行った。




 俺は試合控室へと入っていき、戦闘の準備を整えた。

 更にその奥の通路を進む。


(緊張してきたわ……)


 すでに俺の中に入ったアムリスが心の中で声をかける。


「なに、アムリス。いつもの調子でいけば問題ないさ」


(照日は緊張しないの? ここで負けたら次はないのよ)


「次がないのは今までやった戦闘全てがそうだったさ。今更な話だよ」


 緊張が全くないといえば嘘にはなるが、行動を縛るほどの大きなものはない。

 内面的にはいつもと同じだ。


 歩んでいて、入口までたどり着く。

 先を踏めば相手もいるだろう闘技場だ。


(そっか。じゃあ、がんばろ)


「ああ」


 そう言って、俺は一歩踏み出す。

 その先に広がるのは円形のフィールドで、観客も密集していた。

 俺が入ったことで急に声が上がり、観客の興奮が見て取れる。


(凄いわね。優勝候補が受ける歓声だと思えば、納得だわ)


「歓声のすごさに飲み込まれるなよ。こんなことで行動に制限がかかっては笑い物だから」


 アムリスに注意するように俺は話す。

 この言葉は俺にも言い聞かせる意味でも話した。

 歓声は今までの戦闘でなかったものだったから。


 俺は歓声から敢えて耳を傾けないようにした。

 すでに戦闘への意識を高めて、だ。


 そう考えていると、向かいの通路からも人の出入りがあった。


(来たわね、二人……三咲って人とパートナーが)


 二人は俺の対戦相手以外にあり得ない。

 そのパートナーは空を泳ぐ人魚のようで、足の代わりに生えた尾びれを動かして移動してきた。

 そして、冒険者の相手だが。


「……な、まさか!」


 荒峰美咲という対戦相手。

 名前だけは初めて聞いたが、俺はその相手に見覚えがあった。


「天川さん、また会ったねー」


 荒峰という俺と同じ高校の制服をまとう人物は声と共に俺へと手を振る。

 その荒峰という相手、俺のファンだと語った相手だったのだ。

 それが分かって思い浮かぶのは俺にやったこと。


「……なんだ、俺に対して何を仕掛けたんだ?」


「ふふふ、別に天川さんに悪いことしたわけではないけど? まあ、気分がいいから今ねたばらししちゃおっと」


「何をする気だ?」


「というわけで、デモンストレーションをしまーす。審判さん、対戦相手に攻撃はしないので許してね」


 荒峰は壁の方へと掌を突き出す。

 すると、その掌から粘着性のある空気が飛んで行った。


「え? そのスキルは!?」


「そうだよ。天川さんの持っていたスキル、粘着化。私ね、あの時に自分のスキルでコピーしちゃったのよ」


 粘着化した空気が壁に当たり、荒峰からの解説が入る。

 間違いなく俺と同じことが出来ていると分かる。


 そこで俺は感づいたことがあった。


「俺のスキルを……まさか、俺のスキルを全部……!」


「察しの通ーり。私はスキル複製化スキルを持っていてね、密着した相手のスキルと同じものを私に移せるの」


「ということは、自然治癒もか……」


「そういうことよ。これが本命だったけど、すごく強そうなスキルも私が所持しちゃったわ。ありがと」


 荒峰はウィンクをして礼を言った。

 更には粘着化した空気を手に平から浮かせると、空気に赤い線がはしる。

 その後に空気は爆発した。


「あの時は複製するためにあんな近づき方を……」


「まあ、そういうことね。天川さんの遺伝子も取り込めれば、理想的だったけど……あれが欲しかったのは事実なのよ」


「あれが……何が欲しかったんだ?」


「あの時の固いもの。あれが入ってくれれば、遺伝子から天川さんを私好みにアレンジして複製できたのだけどなー」


 あのまま意のままにされていたら、戦力が上増しになっていたようだ。

 過激なことにならなくて助かったわけだ。


「……そうか、あそこまでいかなくて助かったよ」


「そうかなー? 今の私はあなたよりもスキルがあるし、複製したのは天川さんのLVもなんだよね」


「もしや俺の力も複製したのか? あの時道逃げられないと思ったけど、俺と同じくらいの力になっていたからか」


「悪いお知らせだけど、そういうこと。で、これがどういうことか分かる?」


「つまりは……俺の上位互換になったといいたいわけか?」


「察しがいいねー。私は優勝候補でもないし、戦闘経験も少ない。でも、スキルの数はあなた以上になったからこれで勝機はあるの」


 LVもステータスも真似されて、スキルも俺と同じものを獲得しているのであれば、荒峰の言うことは間違いないだろう。

 俺から獲得したスキル以外にも今まで獲得したスキルはあるだろうから。


 不意を突かれたとは言え、相手をここまでにしたのは俺に責任がある。


「とんだダークホースがいたものだな……」


「そんな顔して、気を落とさないでね? ファンだっていうのは嘘ではないし、今でも憧れの天川さんだとは思っているのよ」


「ファンにしては過ぎる行為じゃないか?」


「その天川さんを倒したいっていうのもあるけど。倒したらどうしちゃおうかなー?」


 視線を俺から外して、荒峰は語る。

 なかなか厄介なファンではある。


「俺は利用されたわけだが、それでも負けるつもりはないからな」


「どうだろうね? この戦闘、あなたが思っている以上に簡単には行かないよ?」


「それはいつものことだ、長話はそろそろ終わらせて戦闘と行くぞ」


 その俺の言葉を聞いて、荒峰は構える。

 更にメイルオンさんは頷く。


「それでは、お待たせしました。天川照日対荒峰美咲……戦闘開始!」


 審判を務めるメイルオンさんからの声。

 それで俺と荒峰の戦いが始まった。

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