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7 ファンからの好意

 俺は不意にファンの女性からのキスを受けてしまった。

 まさかの予想外の行動に俺は防ぐようなことも出来なかった。


「……!」


 流石にここまでくるとアムリスが見ていなくてもまずい。

 俺は女性の腕に手をかけて放そうとする。


 しかし、思ったより力が入らないのか、絡まっている手を除けることはできない。

 女性の方の力が強いのか、それとも俺のやり方が下手なのか分からない。


 その間にも女性は左右に顔を動かして、唇同士でこすり合わせる。

 さらに女性は後方へと倒れ掛かって、俺も同じく前に倒れてしまう。

 現状は向かい合いながら俺が女性の上に被さっているというところ。

 女性は腕も俺の後ろに絡ませながら、更に自身の足も俺の腰に絡ませてきた。


「……」


 女性は俺の唇を無言で味わいつつ、密着も楽しむ。

 今は胸も腰もお互いに密着していた。

 密着してから少しして、ようやく唇との距離が離れる。


「ちょっと、いくら何でも君とこんなことは……」


「そうだね、だからキスは辞めたんだよ」


 女性はそう呟く。

 しかし、密着している状況はやめようともしない。


「離してもらいたいんだけど……」


「やだ。せっかくの機会だからこうしたい」


 女性はさらに俺の腰を自らの足で押し込み、更なる腰と腰の密着もしてきた。

 ついでと言わんばかりに、女性は俺の顔も引き寄せて頬と頬も触れ合わせる。


「そのさ、アムリスが帰ってきたら嫌がるんだよ。分かるでしょ、俺のファンだったら」


「そうかもね。でも、私だってアムリスさんが帰ってきたら嫌がるもの。できるだけ長くこの時間を楽しみたいし」


「それがダメなんだよ、俺は君とはこんなことできないんだよ」


「ふーん。そうなの?」


 女性は疑問を投げる。

 笑みを浮かべつつ、聞くことなのかとも表情に浮かべているかのようだ。


「ああ、やめてほしいんだけど」


「固くなっているのが触れ合っているのに? これ、私とこうしたいって証じゃない?」


 笑いつつ女性は聞き返す。

 さらに女性は脚の絡みに強弱をつけて、股間との密着に緩急を出してきた。

 快感はないわけではないので、こうなるのも仕方がない。


「そ、その……慣れない体勢だからこうなってしまって」


「そんな言い訳、通じなーい。お互いに気持ち良くなろ」


「あ、そんな……は、離してくれ」


「だめ。恋人のようにさ、このままで話そ」


 女性はこの状態でい続ける気だ。

 さっきから俺は手に力を込めて腕との絡みを解こうとするも、それはうまくいかない。

 それどころか、彼女の手足の力は先程以上になっていて、俺との密着もさらに難しくなっていた。

 この力はどこから出ているのか疑問だ。


「こ、こんな情けない格好、したくもないんだ……頼む……」


「上手い感じで興奮してきたわね。もう少し時間が経ったらさ、もっと肌と肌で密着しよ。当然、服も脱いでその固いものも……」


 女性はさらに過激なことに出ようと宣言した。

 俺だってそこまでする気もなければ今の状態も早く辞めてもらいたい。


 と、ここでだ。


「あら、お邪魔したかしら?」


 ドアから別の女性の声が響く。

 その声はアムリスでも佐波さんでもない。


「西堂さん!」


 俺は予想外の来訪者に喜ぶ。


「私はこんな光景を見るのは予想外だったけど……」


「その、情けない格好ですけど、すごく助かりました! 本当に情けないんですが、これを何とかしてほしい状況で」


 西堂さんがいれば、この状況を何とかしてくれるかもしれない。

 そんな希望があった。


 しかし、その希望もすぐに消える。

 女性がすぐに絡んだ手足を緩めたのだから。


「……邪魔が入っちゃったなら、もういいかな」


 女性はそう言いつつ、俺との密着を解く。

 その後、俺の座っている椅子からも離れたのであった。


「え? あ、そう……」


「天川さんとは十分楽しめたし、ありがと」


「……その、こういうことはもう辞めてほしいからさ」


 俺からの注意をよそに女性はドアへと進んでいく。

 注意を分かってくれたかどうかは分からない。


 だが、こうしてすぐさま俺の望んでいたことになったので、それはそれでよしとする。


「じゃあね。また会いましょ」


 そう言いつつ、女性は部屋から出ていく。

 また会うと言っていたが、こんなことをされるようでは会いたくないのが正直なところだ。


「えっと、醜態は晒してしまいましたが、すごく助かりました」


 以前見せたテニスウェアではなく、私服姿の西堂さんへ俺は礼をする。

 その彼女が来てくれなければおそらく解放されないままだったので、礼はしておきたい。


「私は来ただけだけど、助かったのならそれはいいわ」


「本当に……あと、あの時は俺の仲間も回復してくれてありがとうございます」


「ああ、あれはたまたまよ。あんな状況だったから、回復に徹しておいた方がいいと思って助けただけの事。回復魔法を使える人って貴重だから」


 西堂さんは大したことないと話す。

 しかし、その大したことのないことをやってくれて、助かった人がたくさんいるのもまた事実だ。


「ですけど、俺は別のことがありまして回復も出来ませんでした。だから、お礼はさせてください」


「……まあ、分かったわ。その気持ち、受け取っておくわよ」


 西堂さんは腕を組んで、答えた。

 嫌そうな表情は浮かべていないので、まんざらでもないと見える。


「しかし、なぜ俺の部屋に来たんですか?」


「私は応援と天川君の様子を見に来たかったから来たのよ」


「思ったよりシンプルな物だったわけですか」


「あら、それだけではないわよ」


 そう言って西堂さんは俺に近づく。

 嫌な予感はしてきた。


「え? 他に何か用があって?」


「天川君、まだ満足してないでしょ?」


 言葉が少ないが西堂さんの言いたいことは分かる。

 代わりに私が女性のやったことの続きをやる、と。

 おそらく西堂さんはまだ俺の強さを奪おうと考えているはず。


「その……彼女のやったことはもういいですから」


「そうは言っても、私はなかなか会える機会もなかったわけなの。不満が爆発しちゃうかも」


 西堂さんはそういうが、俺は会えない方が良かったのだ。

 その不満を爆発されて、俺が弱くなってしまえば溜まったものではない。


 急に西堂さんは腕を伸ばして、俺へと接近し始めた。

 その伸ばした手を俺は捕まえて、密着状態への移行を防ぐ。


「悪いですけど、あの時のようにはいかないですからね。状況は俺が出来ることが以前よりも多いですし」


「あら、抵抗するの? アムリスがいないのに必要ないでしょ?」


「そのアムリスだってそろそろ来ますから」


「残念ね……二人で気持ち良くなって、強さも奪えると思ったのだけど……」


 どうも俺の推測は当たっているようだ。

 ならば抵抗するしかない。


 会話をしているとアムリスが戻ってくる。


「戻ってきたわよ、照日……って、西堂さん! 何しているの!?」


 アムリスからの驚く声。

 この状況で驚く他はないだろう。


「ほら。来ましたから、ここは退いてください」


「……しょうがないわね。このままやっても私のペースに持ち込めないでしょうし」


 西堂さんは俺から距離を置く。


 アムリスが近くにいるため、スキルだってある。

 そのスキルを使って密着してきた西堂さんを離すことも可能だ。

 諦めなかったとしても、対処法があるわけだ。


「ふう……助かった……」


 俺は一息をつく。

 今回は諦めてくれたようで何よりだ。

 西堂さんは部屋のドアへと向かっていき、アムリスがすれ違うように歩んでいく。


「ところで、照日。どういう状況だったの? 私のいない間にいろいろあったようだけど?」


「ああ、それだけど……」


 俺はその言葉の後に起こったことの説明を続ける。

 ファンの女性にされたことと、西堂さんのことも含めてだ。


 結果的にアムリスは不満は浮かべていたものの、抵抗したということで許しは得ることが出来たのだった。

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