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8 ヒーローとの対面

 俺の前に現れた男は幸前ではなく、大河原だった。


「大河原!? 幸前じゃなくあの男がここにいるってことは……」


 その事実に俺は驚くしかない。

 アムリスもそれを聞いて、俺から出てきた。


「幸前さんもフェリアも倒されたってこと……?」


 アムリスも不安顔で話す。

 ここに大河原がいるということはそれ以外ありえない。


「ということは俺が倒さないといけないか、あの大河原を」


「照日の耐久力は7500よ……幸前さんを倒した男と再戦なんて……」


 こちらは自然治癒があるとはいえ、まだまだ回復していない状況だ。

 あの男だってどれくらいの余力があるかだって分からないというのにこちらの方が不利だと思うしかない。


 その様子の中、メイルオンさんは黙っていたままだった。


「妙ですね」


 そしてメイルオンさんは口を開く。


「メイルオンさん? それって……」


「私は大河原を倒したという報告を幸前から受けていました、天川照日。なので本当であれば、大河原があそこにいるはずなんてないのですが」


「倒したならなんであそこに……?」


「一度倒した後に再び立ち上がりましたが、手元にあった矢でとっさに反撃して倒したと本人から聞きました」


 メイルオンさんもどういうことになっているのか分からないと聞く。

 ここまで具体的に聞いているのであれば間違いないだろうし、幸前が嘘をつくとは思えない。


「ということは……あの大河原って」


 俺は疑問を呟く。


 すると一つ起きたことがある。


 大河原が前に倒れたのだ。

 その後に白い煙が巻き起こって、大きな狐へと変わる。


 その後に狐の後ろから銀髪の男が白い馬に乗ってきたのであった。


「偽物に化けていたとしても戦闘力は大したことでもなかったな」


 銀髪の男、幸前が話す。

 フェリアも後ろにいるので、本物の幸前だ。


「幸前! 大河原を倒したんだな!?」


 俺は幸前の方へと滑るように飛んで、高度も下げる。


「ああ、天川君。僕は今、残党狩りをしていたところでね。大河原君に化けた狐のモンスターと戦っていたところだよ」


「なんだ、偽物だったのか……」


 俺は安心の言葉を出した。

 狐燐さんも俺に化けていたし、別の姿に化けるモンスターがいてもおかしくはない。


「この様子を見るに……天川君も早乙女君に勝てたようだね」


「ああ、こっちも撃破したよ」


「メイルオンさんから聞いたと思うけど、僕も勝てたよ。苦戦はしたけどね」


「まあ俺もだな、無効化できない自然治癒の逆のスキルを受けて戦ってたんだ。こっちも苦戦した」


 幸前は楽に勝てたと言われると俺の苦戦も立つ瀬がない。

 それがあってか、幸前の苦戦はちょっと安心がある。


「どちらも苦戦したわけか……ともかく、これで僕と天川君が戦う可能性が残ったのは何よりだ」


「そうだな。こんなところで負けるなんて嫌だし」


 幸前とは再戦の約束をしたんだ。

 どちらか片方欠けて約束を破るなんて、願いたくもない。


「天川君もこれから残党狩りに行くことになるのかな?」


「まだまだモンスターも残っているようだし、そうなる」


「なら、区分けして当たっていこう。どこを当たるか話したいけど、いいかい?」


「ああ、今から下りるから」


 俺は幸前の元へと降りて、話し合いを進めた。

 メイルオンさんはジャクソンと早乙女を拘束して、別の世界へと連れて行った。




 話し合いをしてから、俺は幸前と別の区間を見回ることになる。

 見回っている間、避難する人を数えるほどしか見かけなかった。

 見かけるのはギルドの人たちが多い。

 そのギルドの人たちは戦闘であったり、負傷したギルドの人の治療等に当たっている様子を見受ける。


「えっと……俺は本当に加勢しなくて大丈夫ですか?」


 俺はゴーグルをかけた中年の男性に声をかけた。


「おう、天川さん! 元はと言えば俺達の世界の不手際だしな。それに主犯を倒してくれたおかげで十分なんだよ」


 中年の男性は二つのハンマーを持って、斧を持った牛のモンスターと対峙していた。

 この人はガンワークに所属している戦闘員らしい。

 事実、特に傷らしい傷もなく他のモンスターを倒せているので、戦闘力は間違いなくある。


「……えっと、申し訳ないですけどここは任せます」


「おう、ここは俺に任せな!」


 男性はハンマーの攻撃を当てて、俺に話す。


 その光景を見ながら俺は遠ざかる。

 今の俺のやることは現在まで見回りだけしかないという状況。


「任せてしまったけど、本当にいいのかな……?」


「いいんじゃないの? 私たちはこうして見回れるから」


 アムリスは俺から出てきて声をかける。

 言っていることはおかしくない。

 俺達は頼まれたことに専念できるとも言える。


「まあ、そうなんだけど……見回っていてモンスターを倒せてないのは逆に不安な気もしてきて……」


「シュンとミュサも今のところ大丈夫だしね」


「それもそうなんだよな、そっちの加勢も必要ないときた」


 空のモンスターもジャクソンと戦って以降、あまり見かけていない。

 空を飛んで戦う必要だってない状況。

 ちなみにトルーハさんと狐燐さんは空の見回りをやっている。


「でも、照日には嗅覚があるでしょ? それで隠れていそうなモンスターを見つければいいじゃない」


 アムリスの言う通り、確かに俺は嗅覚が強化されている。

 しかし、それはレックスもだし、あちらの方が嗅覚が上回っている。

 そのレックスも回復していて見回り中だ。


 見つからないモンスターはレックスの方が対処していると思うのが正直な感想だ。

 だが、それが見回りを辞める理由にもならないのも分かっている。


「いるのか分からないけど……まあ、そうするか……ん? あれって」


 言葉の途中で俺はある人を見かける。

 ヒーローのような姿でその姿は傷も入っているようだ。


「あ、マーシナルライオン……だっけ? ご当地ヒーローの」


 アムリスもその人に気が付く。

 あの人は幸前とダンジョンに行く前に見た人、マーシナルライオンで間違いない。

 その人が俺の方へと向かってきていた。

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