4 ワープへの打開策
「しぶといやつだな! おらよっ!!」
ジャクソンが言葉と共にマントから二匹の黒い蛇を出す。
その攻撃に俺は結晶の刃の斬撃で迎え撃って、攻撃を防いだ。
「まだだ!」
防ぐと同時に俺は言葉も込めて、ジャクソンへと結晶の刃を伸ばす。
ガティークソードで軽くしているため、素早い同時攻撃も可能だった。
結晶の刃は相手がマントに包まれて移動したために、その場から逃げられてしまう。
俺はジャクソンからの攻めをいなしつつ、攻撃もしていた。
トルーハさんも狐燐さんも六体のモンスターを迎撃していて、そちらは任せて問題ない状況。
現在の状況は数の面を考慮すると不利。
だが、こうしていなしていて、恐ろしいほど傾いているわけではないのは幸いだ。
(ねえ、照日。私だって攻撃手段はあるんだから、加勢するわよ)
俺の中からのアムリスからの呟き。
人手はアムリスもいる。
それでも、彼女には敢えてまだ手を出さないでもらいたい。
今こうして手を出さないでいた方が後々にいい方に響くと考えていたからだ。
(うーん、分かったわ。急遽人手が必要ってなったら、遠慮なく言ってよ)
分かってくれて何よりだ。
するとだ。
別の方角から叫び声や羽ばたきなどの音が聞こえてきた。
「どうもまだモンスターは増えるようですね。やはり、この空にいる以上はこうなりますか」
狐燐さんが残念を呟く。
早乙女とは別の方向から小さい竜のモンスターや鳥のモンスターも何体か確認できる。
もちろん敵の加勢だ。
「負担がでかいけど、そっちは任せるよ」
「了解です」
俺からの依頼に文句なしで狐燐さんは引き受けてくれる。
どれくらいの数の加勢か分からないが、俺も余裕があるなら少しでもモンスターを減らしておきたいところだ。
それと、敵には卑しい部分が一つある。
「あの瞬時のワープさえ何とか出来れば、お前なんて……」
ジャクソンの方へと向いて、俺は言葉を出す。
同時に俺は粘着化した空気を放つ。
「残念だな。そう簡単に俺は捕まらねえんだよ」
言葉と共にジャクソンはマントに包まってワープし、粘着化した空気を回避した。
瞬時のワープがありながらも、ジャクソンの方から接近することはなくなっていた。
俺の斬撃が段違いに早いことが分かったときからだ。
それから遠距離からの攻撃が主になっている。
近距離の斬撃は受けたくないのだろう。
最も接近する必要がないといえば、それも理由に含まれるかもしれない。
俺の耐久力を見る。
値は20000から16000へと減っていた。
「耐久力が減少中だしな……あっちが攻撃しなくても俺は負けるだけだ」
「ああ、そうだ。俺はお前の攻撃を避け続ければ理論的には勝てるんだよ」
何度かワープを見て分かったことはある。
その距離は1、2M程度が限度のことだ。
ワープの後、どれくらい使えない時間があるかは分からない。
そう思考を巡らせていた時だ。
「……もしかすると……」
俺は一つ思いついたことがあって、魔力を注いで結晶を六つ精製する。
その内の三つをジャクソンへと放つ。
これらの結晶には粘着化を念じてだ。
結晶はワープでかわされるも、それは想定内。
その後にもう一度三つの結晶をワープ後のジャクソンへと放った。
更にと粘着化した結晶の一つを遠隔操作でジャクソンの方へと飛ぶ向きを変える。
三つと一つの結晶が挟み撃ちで向かう。
「おっと!」
その挟み撃ちの結晶をジャクソンは横へと飛んでかわした。
ワープではなく滑るように。
これで分かったことがある。
「ワープ後は使えない時間が存在する……間違いなく」
小声で理解したことを俺は口にする。
先ほどの攻撃はワープでなら一番安全にかわせる。
それをあえてやらなかったのは、何かしらのデメリットがあってのこと。
考えられるのはワープ直後から使えない時間があるため。
「なんだ? もう終わりなのか?」
ジャクソンはマントを翻して、黒い裏地から黒い蝙蝠を生み出す。
その数は30もあるか。
しかしそれはどうでもいいこと。
俺には攻略の道筋が頭の中に確立していた。
「だったら俺はこうする」
そう言って俺は空気を粘着化して、それを両腕にまとうように覆う。
更にその粘着化した空気に周りの空気も閉じ込めて、圧縮させた。
耐久力を見ると、16000から15000へと変わっている。
仕掛けるならもたもたできない。
30匹もの蝙蝠は俺へと向かってきていた。
俺はさらにと魔力を注いで、四つの大きな結晶を精製させた。
爆弾化も念じて。
その結晶を全て蝙蝠の群れへと放つと、結晶に赤い線が走り始める。
蝙蝠の群れの中で爆発と黒い煙が巻き起こった。
半数以上の蝙蝠が消滅したが、残りは俺へと向かってくる。
「爆発したところで俺へと届かないんじゃあな」
臭いから察するに、ジャクソンは奥の方で動きがない。
仕掛けるなら今だ。
「当たれ!」
俺はジャクソンへと結晶の刃を伸ばす。
俺と相手の間には大きな煙。
煙に紛れて、その攻撃も見えないだろう。
しかし、ワープしてその伸びた結晶の刃はかわされてしまった。
「煙に紛れての攻撃か? それだけじゃあ……ん?」
刃の攻撃はかわされた。
だが、俺の攻撃はこれだけじゃない。
「これだけじゃダメとは思ったよ」
俺は呟く。
ジャクソンの顔を見ると、その顔は驚きを隠せていなかった。
「な、お前……」
驚くのも無理はない。
二人の距離はあったが、それを一気に詰めたのだから。
今の俺の位置はジャクソンの斜め上にいる状況。
詰めた理由は簡単だ。
俺の体は軽くなっていて、腕には粘着化した空気がまとわりついている。
その粘着化した空気の中にある圧縮した空気を放った反動で飛んだだけだ。
おかげで、蝙蝠の上を飛んで安全に接近できたことになる。
「やっととらえたぞ」
そう言って俺はジャクソンの胴へと飛び込んだ。
腕は粘着化していて、そう簡単にはがれることはない。
「何しやがるんだよ!? 俺を吸血鬼だと知ってこんなことを!」
「ああ、知っているよ。パートナー以外の血を吸っちゃいけない吸血鬼だろ?」
確かにジャクソンは吸血鬼だが、俺に首を噛めないのは知っている。
早乙女が最初に話していた上に、その彼女は今でも険しい目を向けているからだ。
目で噛みつくなと釘を刺すかのように。
ジャクソンの表情は不味いと語っていた。
こうして俺がくっついているようではワープしても俺と一緒になってしまう。
「さ、早美佳! 頼む! 今回だけはこうするしか方法がないから、許してくれ!」
ジャクソンの懇願。
しかし、それでも早乙女の表情が変わることはない。
忠誠がどうのこうの言っていたようだが、それは度を越えているようだ。
「残念だったな。この状況、噛むことはできないようだしな。それとまだ俺の打開策は終わってないんだよ」
「何言ってやがる! こんな状況で何が出来るって言うんだ!?」
「まあ、確かに出来ることは限られているな。でもな……」
ジャクソンの言うことに俺は同意した。
下手にやればジャクソンと俺もろとも被害が出る。
それはお互いに知っていること。
俺の足元に魔法陣が出てきた。
「は……!? お前本気か!? 下手にやったらお前だってただじゃ済まないだろ!!」
「一緒に爆発しようぜ」
「やめろ! 離せ!」
「炎魔法、ブラストボム」
撃破するにはこの方法しかない。
だからこそ威力の高いブラストボムを選択した。
俺の手から火の玉が出てくる。
それはジャクソンの体に当たり、起爆する。
そして、爆発に俺ごと巻き込んでいった。
二人は大きな黒い煙に包まれた。




