2 桃色の女性と銀色の男性
俺はトルーハさんに乗せられて、さらわれた女性を追う。
「乗っていると段違いだな。これなら空の戦闘もいけそうだ」
空を飛びながら俺は呟く。
先ほどの空の戦闘は加減が分からなかったが、その加減も他人任せにできる。
実質、空飛ぶ土台で戦っているようなもので、空で停滞するという問題も帳消しだ。
「あの鳥、さっき戦ったやつとは同じように見えるけど、異様に黒いな……なんでだろ?」
トルーハさんも呟く。
確かにあの鳥先ほど戦った二対の羽のモンスターと同じだが、色は黒い。
特異個体なのだろうか。
「まあ、そこは後回し。今は女性の救出が優先だ」
「だね、天川君」
空を飛ぶ速度もトルーハの方が速い。
俺が追い付くのも時間の問題だ。
少ししてから距離を詰めていく。
この距離であれば、結晶を伸ばして攻撃が届く。
そのときに周囲から大きな蜂のモンスターや翼の生えた人型のモンスターが計6体現れる。
それらも妙に黒い姿だ。
「また、黒いモンスターか」
「集団で爆発して黒焦げになったやつかな? 仲がいいモンスターだな」
首をかしげて、トルーハさんは呟く。
流石に黒焦げは違うと思うが、そこは口に出さない。
黒い六体のモンスターは俺に向かって突撃する。
「出来ればさっさと片付けたいんでね。他のモンスターからの加勢はされたくない!」
俺が結晶を精製し刀身を伸ばすとともに、トルーハさんも口の中から緑色の光を生み出す。
そして、ガティークソードの力も発揮し、軽量化も行った。
あまり空に長居すると、モンスターの追っ手がすぐに来る。
出来ることなら空での戦いはしたくないところ。
俺は向かってきた三体のモンスターに変則軌道の斬撃を放つ。
モンスターの並びが不規則であろうと、斬撃の速度自体が早くなっていて、軌道を瞬時に変えることも可能。
当たった三体のモンスターはのけぞって光へと変わる。
「だね。俺も加勢するからさっさと終わらせようか」
トルーハさんは残った三体のモンスターの中央へと生み出した光を放つ。
すると、その光の中から植物の蔦が三本伸びる。
伸びる速度はモンスターがこちらに向かうよりも早い。
残った三体のモンスターは捕らわれて、蔦に圧迫された。
同時に蔦が光の方に戻っていき、三体のモンスターは衝突する。
それらはダメージを受けて光となった。
あと残るは女性をさらったモンスターのみ。
俺はそちらへと狙いを定める。
「当たれ!」
俺は結晶を伸ばした。
魔法でも可能だが、今の土台は飛行中でブレもある。
ならば、自由が利く結晶精製の方がいい。
鳥のモンスターはこちらに気付くことなく避けなかった。
結晶の刀身はモンスターを貫き、女性を落とす。
このままではコンクリートの上に落下する未来しかない。
そのため、俺は粘着化した空気を女性に向けて放った。
空気は女性の速度よりも早く、体よりも大きい。
「あっ!」
包まれた空気に女性は声を上げる。
落下の衝撃もあるため、包んだ後は少しづつ停滞させる力を増加させた。
この空気も浮遊化しているため、その場へと停滞させることも可能。
結果的に女性を包んだ空気はその場にくぎを打たれたかのように止まった。
「おー、ナイスキャッチ」
トルーハさんはその場で止まって、拍手をする。
女性の姿はよく分からないが、傷を負っている様子もない。
「この様子なら大丈夫そうだ」
「さてと、俺達も下りた方がよさそうだ。増援来たら面倒だし」
「急に人間になったりしないでくれよ」
「ははは、流石にそれはしないさ」
トルーハさんは笑う。
正直言えば、そんなことをしそうな予感もしていた。
悪気あっての行動をすると思ってもいないが、俺が上にいることを忘れてしてしまうこともあり得る。
彼はどうしても抜けているところもあるので、そういう予感がどうしてもちらついていた。
下へと見て、女性の方へとふと視線が行く。
よく見ると、女性の髪は桃色だった。
「この髪色……見たことがある」
ふと呟いた俺の言葉。
(ねえ、照日……あの娘って)
その後にアムリスが俺の心の中から語る。
女性は制服でその制服も見たことがある。
俺と同じ高校の制服ではなくて、だ。
「追ってた時はよく見てなかったけど、今では間違いなく分かる」
彼女はメイルオンさんが見せてくれたあの
(照日、後ろ! 避けて!)
そう思っていた時にアムリスからの言葉が不意に来る。
俺が後ろを見ると黒いマントを羽織った銀髪の男性、その男が握り拳を作って俺に向けようとしていた。
更にその握り拳は黒いオーラも出ている。
不意のことで避けることはできなかった。
「ぐあっ!」
俺は拳を受けて、のけぞる。
足の裏が粘着化されているため、なんとかその場で踏みとどまれた。
しかし、それでもなぜ接近できたか分からない。
臭いも何かが近づいているようには感じ取れなかった。
急に俺の後ろに表れたかのようだ。
「ちっ……落ちてくれればと思ったが、そう簡単にはうまくいかないか」
男性が俺から離れて苦言を吐く。
その男性も見たことがある。
「お前か……この騒動の主犯、ジャクソンは」
「そうだ、この俺、ジャクソン・ボーアが空を夜にしてモンスターをダンジョン外に放った」
ジャクソンは問いに対して肯定で答える。
この男がこんなことをしなければ、周りもめちゃくちゃにならなかった上に、佐波さんだって泣くことはなかった。
戦わない理由はない。
「でも、本命の仕込みはうまくいきましたわね。ジャクソン様」
ふと女性の声が聞こえる。
その声は粘着化した空気に包まれた桃色の髪の女性から。
「確か早乙女って名前だったな。ただ捕まっていたわけではないようだな」
「ええ、天川君は優しい性格なのは知っていますから、捕まった私を救ってくれることは考えてました」
「おびき寄せる罠だったという訳か」
「まあ、それはそうね。最もそれだけではないのだけど」
早乙女は手でもがくと、瞬時に包んだ空気を破ってくる。
更に黒いマントも背から出して自らの力で空中に浮き始めた。
「俺の粘着化した空気を……やぶったのか」
「私は吸血鬼へと化けるスキルもあるの。助けた天川君に近づいて血を頂こうとも考えていましたのよ。その作戦は失敗だったけども」
「空気の方に救出を任せて正解だったな。これは」
あの方法を俺が選んだのは偶然だ。
その偶然がなければ、今頃、俺も噛まれて血を吸われていたことか。
そう思っていた時にだ。
急にだるさと冷たさを感じ始める。
「でも、ジャクソン様のおかげで本命の仕込みはうまくいきました。このスキルさえ天川君へと忍び込めれば……」
「スキル……? なんだそのスキルって……」
俺はステータスを見る。
すると、耐久力が徐々に減っているのが分かる。
しかも身に覚えのないスキルまでもが増えてもいた。
「強性呪印 急性衰弱スキルです。それも無効化しようと、すぐに元通りになるほどの強いものです」
早乙女はそう語った。
言葉によれば、ジャクソンが殴ったときについたものか。




