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おはぎ  作者: Robin
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第一話

 どういう結末になるか楽しみにして待って頂けると嬉しいです。

ベッドから起き上がり、煙草に火を点けた。さっきまで抱き合っていた女が、抱き着いてきた。うっとうしく思いながらも、そのまま煙草を吸い続けた。煙草を吸い終わる頃、女が話しかけてきた。


「泊まってもいい?」


「俺もその方が嬉しいよ。」


そう答えると、飲み物を取ってくるのを理由にし、抱き着かれている体を話した。水を持ってベッドに戻ると、また女が抱き着いてきた。


 「歩、大好きだよ。」


 「俺も好きだよ。」


 そう答え、軽いキスをした。こんな嘘に心苦しさを覚えてしまった。あいつはこのことを喜んでくれているのだろうか。そんな考えがよぎって、この女を尚更うっとうしく感じたが、帰れとは言えなかった。


 どうしたら忘れることができるのだろう。いや、どうしたら…。




俺のルックスは中の下くらいだと思う。でも不思議と女に困ったことがない。色んなタイプの女と付き合ったが、本気で惚れたことはなかった。いや、俺は人間というものを信じてないから、これからもない。そんな俺でも最低限のルールはある。

 一つ、他の女の影は見せず、惚れている振りをする。

 二つ、別れたくなれば相手に振らせる。

 三つ、友達の彼女や彼女の友達には手を出さない。

 人に疲れた俺が、他人にしてやれる最高点の優しさだ。

 あっ、ちなみに女とヤリたいだけじゃない。そういう時期もあったけど、今は違う。

 俺には深い友達もいなくなった。これから作る気もない。


現在は三股中です。今日は晶子という二つ年上の女とデートする予定だ。

その晶子とのデートで、カラオケに行くことになった。近所のカラオケボックスに入ると、受付に見知った顔の男と彼女らしき女がいた。


「もしかして信広じゃない?」


「えっ、歩か?久しぶりじゃん。今何してんの?」


 「真面目な大学生よ。お前は何してんの?」


 「俺はしがない浪人生よ。そこの予備校でな。」


 目の前にある有名予備校を指差しながら言った。


 「お前が浪人って、医学部でも目指してんの?」


 信広とは小・中と塾が一緒だった。小さな塾だったが、俺といつも一番を争っていた。頭のレベルもそうだが、女遊びや悪さも一緒にしていた。


 「まぁな。」


 どうやら相変わらず学力をキープしていたらしい。


「あの信広が医者ねぇ。お前のいる病院にだけは行きたくないよ。」


 「アハハハ、俺もそう思うよ。」


 「横にいるかわいい子は彼女?」


「そう、恵梨奈。こいつは俺の友達の歩。」


 どうやら相変わらず勉強以外も忙しく過ごしているようだ。


「初めまして。恵梨奈です。」


恵梨奈が俺達に話しかけてきた。明らかに年下に見えたけど、顔もかわいいし、感じのいい子だと思った。信広の彼女にしては、恋愛に慣れた風には見えなかった。


「初めまして。こっちは晶子。」


「初めまして。」


一通り挨拶が終わると、 信広が聞いてきた。


「どうせだったら一緒にどう?」


 晶子は不満そうだったが、俺はその提案を受け入れることにした。普段ならこういう時は断るはずなのだが、その時は何故か断らなかった。

 恵梨奈という子は歌も上手く明るかったし、信広は盛り上げ上手なので、皆が楽しんで帰った。

 家に着いても俺は何故か恵梨奈という子が頭から離れなかった。俺が言うのも何だが、信広は遊び人だった。それは今も変わってなさそうだった。色んな女とヤリたいというよくいるタイプだが、上手に騙せるタイプでもない。高校一年生で信広が初めての彼氏だそうだから、可哀相に思ったのかもしれない。そんなことを考えること自体、俺らしくないのだが…。




 ピーンポーン。

 誰だろう。急に家に来るタイプの彼女はいないはずだし、郵便もないはずだが…。

 玄関を開けてみると、信広だった。


 「よっ。」


 カラオケ以来、信広とは何度か遊んだ。でも二人きりで遊んだことはなかった。いつもお互いの彼女と四人で遊んでいた。何より大学に入って一人暮らしを始めて以来、男が一人で訪れるのは初めてだった。

 

「信広じゃん。急にどうした?まっ、入れよ。」


 今日はバイトも休みで、もうすぐ前期も終わるので、溜まっていたレポートをやる予定だった。正直、部屋に上げたくはなかったのだが、信広の暗い表情がそうさせた。


 「適当に座ってろよ。缶コーヒーでいいだろ?」


 「悪いな。」


 冷蔵庫から缶コーヒーを持ってきて、手渡した。信広が一口飲むのを待って聞いた。


 「何かあったんだろ?話せよ?」


 「いや、たいしたことじゃないんだけどな…。」


 お約束の台詞だった。俺は黙って先を促した。


 「恵梨奈っているだろ?何か好きになってきたんだよな…。」


 「まじでっ!?へぇ〜、あの信広がねぇ…。付き合って三ヶ月くらいだったっけ?」


 本心で驚いてしまった。昔の信広からは想像のできない言葉だった。昔から信広もどこか壊れた奴だった。親が海外で、兄が水泳のオリンピック候補だからかもしれない。そのせいか昔から気が合った。ただ、心がざわついたのは驚いたからだろうか…。


 「自分でも驚いてるよ。」


 「で、のろけにきたわけ?」


 わざと意地の悪い言い方をした。


 「いや、そういうわけじゃないよ。困ることがあるんだよな…。」


 「まさか他の女と別れる苦しみとか?」


 言いづらそうなので、茶化して言った。


 「アハハハ、一つは近いかな。勉強で忙しくなるし、どっちにしても女の数は減らす予定だったんだけど、問題は絢那なんだよな。」


 「絢那って携帯の?」


 「そう。絢那と別れると携帯が無くなるんだよな。」

 絢那という女は信広が三年以上付き合っている、年上の彼女だ。そして、信広の家では何故か携帯を持たせてくれなかったので、それをプレゼントしてくれた女だ。しかも絢那名義なので、毎月の支払いもしてくれている。


 「それはまじで痛いな。俺なら絢那だけは付き合ってくな。」


 「歩らしいな。少し前までなら俺もそうしたかな。でも、今はしたくないんだよな。さすがに浪人中だし、これからは二股かける時間もないしな。」


 信広が普通の男になったせいか、何故か少し苛ついてしまった。でもその感情はすぐに隠して聞いた。


 「それなら仕方ないな。で、もう一つの方が本題なんだろ?」


 「まぁな…。それが恵梨奈のことなんだけど…。あいつの考え方がわかんないだよね。」


 俺は黙って先を促した。


 「俺って高校の時バーでバイトしてたって言ったよな?その時の先輩の影響かな、深く考えるのがアホらしくなったんだよな。でも恵梨奈はそうじゃなくて、そのせいであいつを追い込んでいってる気がしてな…。好きなんだけど、俺じゃ無理かなって気もするんだよな。ってか、こんなこと考える自分が嫌なんだよな。」


 そう言ったきり黙ってしまった。俺は煙草に火を点け、一口吸ってから答えた。


 「具体的なことはわかんないけど、それでいいんじゃないか。相手の気持ちがわかって、それが自分の気持ちと重なれば理想だけど、実際はそんなことばっかじゃないじゃん。そうじゃないのに、相手の気持ちに沿うだけなら、お前じゃなくてもいいじゃん。彼女だってそんなお前と一緒にいたいんだろうし、お前がわかりたいって気持ちを持ちさえすれば、それでいいんじゃないか?それこそ深く考えなくていいんじゃない?」


 自分の言葉に吐き気がした。所詮人間なんて、自分のことしか考えていない。他人の気持ちの表面はわかっても、本当のところなんてわかるわけがない。本当の気持ちなんて、本人すらわかってないことが多いのに。それなのに、わかろうとすることに価値なんてあるのか?その結果は決まっているのに。


 「そんなもんかな?何か楽になったよ。」


 俺のこんな言葉に満足してくれたらしい。それにまた吐き気がしたので、急いで煙草の火を消した。その後、くだらない話をして、しばらくして帰った。


 「今日は急に悪かったな。レポート頑張ってな。」


 「気にすんなよ。お前こそ色々頑張れよっ。じゃあな。」


 俺の嫌いな言葉ランキングトップ5に入る、『頑張れ』という言葉を帰り際に言いあった。時計を見ると、18時だった。かなり時間を取られてしまった。ただ、信広が帰った後も少し考えてしまった。恵梨奈という女のことを。信広を変えた女に興味を抱いた。自分でも驚いた。他人に興味を抱いたのは初めてだった。

 ふと時計を見ると、19時だった。急いで晩飯を買いに行って、レポートの続きをやろう。



 今思えば、この時かもしれない。恵梨奈を意識したのは…。


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