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 初っぱなから突き付けられた理不尽な現実にがっくりとしていると、ジャケットの内ポケットがもぞもぞと動いた。


「え? まさか……」

「どうしたの、お姉ちゃん。あ、その子……」

「――ピィ!」


 おずおず、と頭だけ覗かせて小さく鳴いたのは、コウモリに似た羽根を持つ白蛇だった。βテストの時に貰った卵から孵った、精霊である。


「レヴィ! レヴィも引き継がれていたんだね!」

「ピィ、ピーィ!」


 レヴィは嬉しそうに鳴いて私の肩に乗ると、頭を頬に擦り付けてきた。私は指で喉の辺りを撫でてあげる。

 そんな私達を見ていたキサラが目を輝かせて口を開いた。


「やっぱりレヴィちゃんなんだね! わあ、スクリーンショットで見るより可愛い! おいで、おいでー」

「ピィ?」

「レヴィ、この子はキサラ。私の妹なんだよ」

「ピィ!」


 手招きされて首を傾げていたレヴィは、私の言葉に警戒を解いたらしく、キサラへと飛び移った。


「ピィ、ピィ」

「わー、すべすべ気持ち良いー。よろしくね、レヴィちゃん」

「ピーィ」


 あっという間に仲良くなったキサラとレヴィにほっこりしていると、ふと周囲のざわめきが聞こえてきた。


「おい、あの目立つ二人組が連れてる蛇、なんだ?」

「片方はエルフの美少女、片方は怪しい黒服の犬耳美少女。しかも小さいとはいえ蛇付き。マニアックだな……」

「なんの話だよ。それより、あの蛇、どっかで見たような……」


 うわわ、ヤバイ。めちゃくちゃ見られてる!!

 誰かに話し掛けられる前に移動しなくては!


「キサラ、とにかくどこかに移動しない? えっと、ここ、プレイヤーがいっぱいだし……」

「あ、そうだね。じゃあチュートリアル受けに行こうよ。神殿で受けられるみたいだよ」

「うん、いいよ。レヴィ、おいで」

「ピィ」


 レヴィは素直に戻ってくると、何も言わないうちに自分からポケットの中に入った。うん、相変わらずいい子だね。

 そして私達は注目を浴びながら神殿へと向かったのだった。




 神殿に入るのは、初めてである。βテストの時はまだ実装されていなかった神殿は荘厳な雰囲気で、白いローブを着た神官が何人か立っていた。


「チュートリアルを受けたら、ポーションとかのアイテムが貰えるんだっけ?」

「うん。お姉ちゃんはβテスターだったからチュートリアルは必要ないだろうけど、受けた方がいいと思うよ」

「そうだね……わっ」


 歩きながらキサラと話していると、曲がり角から出てきたプレイヤーとぶつかりそうになった。

 高校生くらいの少年は、少し長めの黒髪の下から私をじろりと睨み、驚いた顔になる。

 そうだよね、真っ黒な怪しい女ですから驚くよね。


「ご、ごめんね。えっと……」

「…………」


 まだ人見知りの私は、謝罪した後の言葉が続かずに口籠もり、そんな私を黒髪の少年はもう一度睨み付けてから歩き去った。


「大丈夫? お姉ちゃん」

「うん……私は、大丈夫。でも今度からは気をつけないと駄目だね」

「そうだね。でも、お姉ちゃんが謝っても睨むだけで一言もないなんて、失礼だよね!」


 むう、と眉を寄せて少年が去っていった入り口を見るキサラに、私は苦笑しながらふと思い出したことを口にした。


「そういえば、さっきの男の子、キサラと同じ格好だったね。魔法使いを目指しているのかな」

「どうだろう。あたしも魔法使いを目指してるわけじゃないし、一概にそうとは言えないんじゃないかなー」

「え? キサラ、魔法使いを目指してるんじゃないの?」

「違うよー」


 長いローブ姿からてっきりそうだとばかり思っていた私が驚くと、キサラは笑って首を振った。


「あたしが目指してるのは、精霊使い……エレメンタラーだよ」

「エレメンタラー……」

「うん。魔法使いもいいけど、前やった事あるし。攻略サイト見て、精霊を集めるの楽しみにしてたんだ。お姉ちゃんも協力してね」

「うん、もちろん手伝うよ。……あ、あの人が神官長みたいだね」


 ステンドグラスの窓から差し込む光の下、祭壇の前に初老の男性神官が立っている。私がその人を目線で示すと、キサラも頷いて同意した。


「うん、そうみたいだね。ところで、お姉ちゃん」

「なに?」

「今まで聞けなかったけど……お姉ちゃんのクラスは、何なの?」

「…………それ、は」

「それは?」


 私は自分の真っ黒な服装を見下ろすと、無駄な抵抗だと察して答えた。


「……暗殺者」

「……うん、納得」

「だけじゃなくて」

「うん?」

「……首狩り暗殺者」

「……いったいβテストでどんなプレイしてたのお姉ちゃん」


 真顔で尋ねられ、私はかなりの精神的ダメージを負った。ふ、普通にプレイしていたよ?

 単に短剣使いだったから、急所狙いをよくしていただけで!

 ……主に首を狙っていたけど。


「攻略サイトにも、そのクラスは載ってなかったなー。後でスキルとか詳しく教えてね」

「……うん」


 興味津々のキサラに力なく頷き、私はとぼとぼと神官長らしきNPCの下へと歩いたのだった。

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