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活動報告で書いた、エラーが起きなかった場合の物語。

反応が良ければ続きも投稿します。今のところ三話しかありませんが(^-^;

 風が涼しくなってきた九月のある日、新作VRMMORPG《World》が正式にサービス開始となった。


 《World》とは、従来のRPGとは異なる行動ありきのオンラインゲームである。プレイヤーはゲーム中の行動によってスキルや称号を得て、クラス(職業)に就く。

 そんな一風変わったシステムが話題になり、今秋の目玉ともいえるゲームになっている。それが《World》だ。



 正式サービス開始の日、私はいそいそとヘッドギアタイプのVR機器を頭に装着し、ベッドに横になっていた。


「あー、なんだか緊張するな。皆、元気かなあ」


 サービス開始の時間まで、あと数分。私は自然と緩む頬を手で押さえながら、数ヶ月前の事を思い出す。

 私、神月理央かんづきりおは、人見知りが酷くてゲームは好きだけどオンラインはプレイした事がなかった。そんな私が《World》のβテスターに選ばれて、一ヶ月半の間ゲームをプレイしたのが、今年の夏休みの話である。

 普段はアクションゲームばっかりやっている私は、どう動けばいいかもよくわからず、右往左往しながらゲームを進めた。手探りしながらのプレイで失敗もしたけど、楽しかった。


 それはきっと、一人じゃなかったからだ。




 深い眠りから浮上するように、徐々に意識がはっきりとしてくる。

 目を開くとそこは闇に閉ざされた空間だった。


 ――チリーン……。


 小さな鈴の音が聞こえ、真っ暗な世界に淡い光が灯る。ゆっくりと光は広がり辺りは青色に包まれた。

 空とも海ともつかぬ空間に、柔らかな女性の声が響く。



『《World》へようこそ。あなたのIDは登録済みです。データを引き継ぎますか?』

「何が引き継げるの?」

『容姿の引き継ぎ。これは変更可能です。以前の三分の一のステータス引き継ぎ。称号やスキルも引き継げますが、スキルレベルは一に戻ります』

「所持金やアイテムや装備は?」

『特殊なアイテムを除き引き継げません』


 私はβテストで愛用していた武器を思い出して残念な気持ちになった。使い勝手良かったんだけどなあ。 特に片方はフレンドに作ってもらった思い出の武器だったから、すごく残念なんだけど、仕方ないかな。今度はお客として依頼しよう。


「えっと。データ引き継ぎで……容姿を変更したいのですが」

『了解しました』


 私はアバターを少しいじり、髪の毛を伸ばした。前はショートカットだったけど、肩に届くかどうかの長さにする。なんとなく、ちょっとだけ変えたかったのだ。

 後はそのまま、中肉中背のたれ耳、ふさふさの尻尾の犬系獣人の姿。

 目は緑色で髪はやや明るい茶色、耳や尻尾は焦げ茶色である。少しだけ胸やウエストの辺りに補正をかけているのはささやかな抵抗なので、気にしないで欲しいところだ。

 私は久し振りの《リン》の姿を眺め、決定する。


『ゲームを始めます。よろしいですか?』

「はい」


 うなずくと、また周囲が暗くなり、システムの声だけが響いた。


『プレイヤーネーム【リン】、クラス【首狩り暗殺者】、獣人(犬)――再登録を完了しました。では、どうぞお楽しみくださいませ』


 ぐるり、と揺れるような感覚に思わず目を瞑る。明るくて軽快な音楽が流れはじめ、気が付けば私は懐かしい時計台の下に立っていた。


「……《白の都》だあ」


 乳白色の建物が並ぶ綺麗な街並み、赤煉瓦の石畳、鳴り響く鐘の音。

 約二ヶ月ぶりの《白の都》に、胸がいっぱいになる。アクションゲームでは得られない感覚だ。


「……ん?」


 久し振りの《白の都》に感動していた私は、ふと視線に気付いて首を傾げた。周囲のプレイヤーが、私をまじまじと見ている。

 以前に比べたらだいぶ良くなっているけど、私は人見知りである。注目されると緊張して気分が悪くなり、逃げ出したくなる。 今もそうで、見られていると感じたとたん、逃げ出したくなった。

 な、なんで見られているんだろう……。

 逃げたい……でも、まだ奈緒に会っていないし……あうう。

 私がどうしたらいいのかわからず、パニックになりかけていると、明るい声が呼び掛けてきた。


「お姉ちゃん、だよね?」


 声をかけてきたのは、人目を引く華のある美少女だった。水色の髪は背中の半ばほどあり、大きな瞳は澄み切った夏の空のような青色。耳が長いから、種族はエルフだろう。

 色彩で印象は変わっていたけど、一目でわかった。


「奈緒、だよね?」


 エルフの少女は花が咲くような笑顔を浮かべ、頷いた。


「うん! 名前は《キサラ》だよ。如月からとったんだ。お姉ちゃんは?」

「如月……二月生まれだからだね。私は《リン》だよ」

「そっか。改めてよろしくね!」

「うん、私こそ」


 なんだか妙に照れくさい。奈緒とゲームするなんて、何年ぶりだろう?

 私がそう考えていると、奈緒――キサラが不思議そうな顔で尋ねてきた。


「ところで、お姉ちゃん」

「ん? なに?」

「なんでお姉ちゃんだけそんな格好なの?」

「え?」


 そんな格好?

 私は自分の身体を見下ろして、ぎょっと目を見開いた。


「な、なにこれ!?」


 黒かった。黒い服に黒のズボン、ブーツまで黒。かつて出会ったとある黒づくめの男性を彷彿とさせる、真っ黒くろすけの格好だった。

 キサラはごく普通の魔法使いっぽいローブ姿だし、周りのプレイヤー達だってごくありふれた初心者冒険者の格好をしている。

 なのに、私は真っ黒。

 私は慌ててウィンドウを開くとステータス画面をチェックした。


【Name:リン 種族:獣人(犬) クラス:首狩り暗殺者


 武器:ナイフ

 頭装備:鎮静のカチューシャ

 首装備:なし

 上装備1:下級暗殺者の服

 上装備2:下級暗殺者のジャケット

 腕装備:なし

 腰装備:黒のベルト

 下装備:下級暗殺者のズボン

 足装備:黒のブーツ

 アクセサリ1:なし

 アクセサリ2:なし 】


 ……あ、鎮静のカチューシャは引き継がれてる。ラッキー……じゃなくて。


「あ、暗殺者ファッション……」


 思わず私はその場で蹲り、がっくりとうなだれた。

 まさかの暗殺者ファッション。そういえば、前回はあった洋服の選択がなかったな……。


「お、お姉ちゃん、大丈夫?」


 キサラに心配されながら、私は始まったばかりのゲームの先行きを案じて、虚ろに地面を見つめていたのだった。

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