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【言音】(ゲノン)  作者: 墨
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9:幸復

■幸復


 幸運の顔というおまじないがある。

 一言でいえば、財布に入れておくと金運を呼ぶよ、というラッキーアイテム。


 やり方は単純で、人の顔が象られた硬貨を削って「のっぺらぼう」にする。それだけ。

 とはいえ硬貨を破損するのは犯罪なので、おもちゃのメダルが使われるようだ。

 目鼻口を削り出入りを無くす、といった意味が込められているらしい。


 ただし、絶対に耳は残しておくこと。

 おまじないの終わりを硬貨に告げたとき聞こえるようにしておくこと、これだけは絶対だ。


 昔、ひとりの若者がこのおまじないで幸運をつかんだ。

 くじを引けば連続で当たるし、仲間とちょっとした賭けをすれば全部いい方に転んだ。


 気を良くした若者は、賭けごとや投機に夢中になり、使う金額もどんどん増えていった。

 若者の生活は派手になり、羽振りもよくなった。

 彼の強運を知っている人間は誰も彼と賭けをしなくなり、まっとうな商売の相手はもちろん、いかがわしい賭場からも煙たがられるようになった。

 どう転んでも彼が儲けてしまうので、相手がそのツケを払うことになるせいだ。


 彼一人が幸運で、周りが不運に見舞われるとあって、次第に友人たちも離れて行った。


 あるとき、彼の知人が街中で彼を見かけた。

 みすぼらしい姿で血色も悪く、ずいぶんと落ちぶれた姿であった。

 哀れに思って食事をご馳走しながら話しを聞くと、あれから財産を使い果たし、方々のつてから借りられるだけ金を借り、それでも支払いに窮しているのだという。

 しまいには、食事を恵んでくれた知人にさえ金の無心をする有様だった。


 痩せこけた彼はしきりに「金がない、払えない、終わりだ」とぼやいていたという。


 さて彼の死後、遺族となった遠い親戚が彼の財産を確認したところ、預金などは全くなく、わかっていた通りあちこちに多額の借金があった。

 ところが彼の住んでいた部屋の押し入れや戸棚からは、溢れんばかりの現金や貴金属が見つかったそうだ。

 それらを処分すれば、借金や税金を差し引いても相当な額が残る。


 周囲は、病的な守銭奴に成り下がった彼が金銭をかき集めるだけでは飽き足らず、それを隠し通すために、貧しいふりを続けていたのではないかと考えた。

 遺産を相続した遠縁の若者は、知人友人たちへの借金にも利子をつけてきれいに清算し、その後、商売で成功して大富豪になったという。

 周囲の不運と引き換えに幸運であり続けた男の不幸によって、他人が幸運を手にしたのは、ある意味運命だったかもしれない。


 だが、彼の死については疑問が残る。

 死因が、あろうことか餓死なのだ。


 「払えない、終わりだ」とぼやいていた彼は、死ぬまでありあまる財産に手を付けなかった。


 もしかすると彼自身のなかでは、部屋に残されていた財産はすでに自分のものではなかったのかもしれない。

 だとすれば彼はいったい誰に、何のために金を払い続けたのだろう。


 彼の「終わりだ」という悲痛な言葉は、どうやら相手の耳には届かなかったらしい。



 ≪出典≫ オカルト投稿板「ウサンク」 投稿者: ないとメア より転載




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