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8:言の一字
■言の一字
はじめにことばありき。
ことば神とともにありき。
ことばは神なりき。
ヨハネの福音書の書き出しである。
コトバはかつて言、詞、言端の字もってコトバと読んだ。
「言」はコトとも読むとおり、「事」の意味を持っており、つまりは事実を語るためのコトバだった。
そこで、事実ならざるコトバの意味を持つものとして「言の葉」が生まれた。
徒然草ではすでに「言葉」という単語が用いられている。
古今和歌集に曰く、
「やまとうたは ひとのこころをたねとして よろづのことの葉となりける」
表現としてのコトバとして「言葉」が用いられるようになり、やがてこちらが定着した。
さて、言の一字は辛と口から成るコトバだ。
辛とは入墨に用いられる針、口とは祝詞を入れる容器のことである。
それは神に盟誓するものであり、違えしときは入墨の刑を辞さないという意味をもつ。
つまり「言」とは、盟誓するものが神に言を捧げて応答を待つ、契約のコトバなのである。
≪出典≫ 「雑談」 著:覚山 召 より抜粋