エピローグ ~長月~
埃っぽい熱風が少女の頬に吹き付ける。空気中の塵が目に入ったのか、手の甲で眼尻を拭うような動作をした。甲の皮膚は濡れていた。
空間を満たす熱気の半分ほどは太陽光線によって熱せられた大気で、もう半分は十何両も連ねられた列車の排気だ。ピークの時期はとっくに過ぎたということもあってその薄暗いプラットフォームに人影は少ない。それでも断続的な列車の発着時刻を告げるアナウンスと車両から響く、低く耳障りな音とが弱弱しくもその声を張り上げている虫たちの存在を全く認識できないようにしていた。
少女よりも少し背の高い、それでも小柄な娘が彼女の手を取りいくらか言葉をかけた。目元の雰囲気が似ている二人は姉妹らしかった。少女は丁寧に選んだ言葉を用いて返答した、その大人びた様に姉と思しきほうは苦笑いしたがその眼からは同情とも憐憫とも思える感情が読み取れた。妹は年相応な少し無理をしたような微笑みを以ってそれを誤魔化そうとした。けれども直ぐに唇は固く結ばれ、目は虚ろにコンクリートの地面を撫でるようになってしまった。
列車の昇降口付近で待っていた二人の両親と思しき一対の男女は、姉にその手を引かれてやってきた少女をやさしく迎え、共に車内へ入った。