生真面目に、適当に。
生真面目で、適当。
世界はぼくの住んでいる世界だけであるとは限らない。
そんなことを考えながら今日も学校へ登校中だ。
ぼくの住んでいる世界はもしかすると、もっと大きな世界の石ころの中の世界かも知れない。とすると、ぼくが今蹴り続けている石ころの中にも世界はあるのだろうか。なら、その世界の人は災難だ。ぼくはこの石ころを川に蹴り落とそうかと考えている。
石ころの中の人々はどうなるのだろう。石ころに水が入って、何が起こったか分からないまま溺れるか。あるいは、さして変化はないのかも知れない。
なら、ぼくの世界も変化は無いかな。それとも、地震は大きな世界の誰かがぼくらの世界である石ころを転がしたせいで起こるのだろうか。それなら迷惑な話だ、とぼくはムッとして石ころを川に蹴り飛ばす。石ころは土手のコンクリートを転がり落ちて、川へ飛び込んだ。小さい石ころだから水の波紋も川の流れによってすぐ消えた。
酷い話だ。石ころの中の世界を仮定した上で、しかももしかすると影響を与えるかも知れない、と思った上で石ころを蹴り飛ばすなんて。どうか石ころはただの石ころでありますように。せめて大きな世界の誰かがぼくに罰を与えませんように。
そんなこんなで石ころへの関心は失せてしまった。でも、学校へはまだまだある。
次は何を考えようか悩んだ末、並行世界のことを考えてみる。
いろんな世界にいろんなぼくがいて、そのぼくひとりひとりが違う。違うならぼくじゃないと考えてみるが、やっぱりそれはぼくで、並行世界のぼくもまた、むこうからしたら並行世界にいるぼくのことを考えている。
タイムマシン。
なんの理由もなしに飛来したその単語は、その突然さからか、一瞬で消えた。ぼくがそれについて思うのは、ネコ型ロボットだけだからだ。
未来には行けるだろう。実際、どっかの科学者が言っていたし。光の速さで地球を回り続ければ自分の一年が、周りの四年だとか。もどる方法は無いわけだし、それがタイムスリップかというと違う気もするからなんだかな。
過去は論外だ。自分が行くことによって起こるタイムパラドックスなんて想像したくもない。そこで出てくるのが並行世界さんで、辻褄を合わせるためにぼくを別の世界に飛ばしてくれる。というか、原理的に無理。そんなことができたら世の中犯罪者だらけになるだろう。ぼくだって、なにもしないという自信はない。あんなことこんなこといっぱいあるから。
「ハイ!ジョージ!」
唐突に耳に入ってきたこの呼びかけに、思考が停止する。ぼくに言ってるわけじゃないはずだ。ぼくは治五郎だし、絶対ジョージっていう顔はしていないはずだ。「西洋系だね」とか、「鼻が少し高いね」とかは言われるけど、日本人顔であることは間違いない。少なくともジョージ顔ではない。ジョージ顔ってなんだ。
思いとは裏腹に、声はだんだん近づいてくる。
「ヘイ!ジョージ!ホイ!ジョージ!……てやんでい!ジョージ!」
ジョージは一体何者なのだろう。どんな遊びだ、これは。とりあえず、ぼくがジョージで無いことを教えなければならない。だが、ここでぼくの特性である人見知りが発動、いかなる反応もできない。
「ジョージ!おいコラジョージ!逃げようったて無駄だぞ、周りは俺の仲間が囲んでる。さあ、諦めて金返せジョージ!」
ジョージこの野郎。ジョージは一体何をしでかしたんだ。後ろの奴も、なんで学生服の日本人をジョージだと思っているんだ。あれか、ハーフか。木下ジョージとか高橋ジョージとか。それともあれか、キラキラネームか。浄児とか譲治とか。これはキラキラネームじゃないけど。
譲治。まさか。「ハイ!」のせいで外人だと思っていたけど、もしかしたら日本人か。気付かなかったのは先入観のせいだろう。その考えがあったか、と自分で関心している間にも、声の主は確実に近づいてきている。
「この!クソ野郎!」
「人違いです!」
勇気を振り絞って後ろを振り返ると、中年の男がスマホを持って喚いている。
「うおっし!ステージクリア!ったく手こずらせやがって。次はマイクか。誰だろうと尋問してやる!」
ごく自然な流れでぼくの拳が男の顔面に直撃した妄想は瞬時に浮かび上がった。勿論ぼくにそんな勇気は無い。内申点は大事だ。それよりも男のゲームの内容が気になって仕方がなかったが、何度も言うようにぼくには度胸がない。
みょうちくりんな話だけど、これがぼくの日常。漫画でよくある学園生活も、なにもない。
ぼくはただ、生真面目に、適当に過ごす。それだけだ。