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第八話~潜入~


第八話~潜入~



 陽が暮れ、辺りが薄暗くなる。神殿から少し離れたところで隠れながら待機していた訳だが、いい頃合いだと判断して行動を開始した。


「とはいえ。やっぱり、鎧がないと何か落ち着かないな」

「仕方ないでしょ、兄貴。それに、納得したよね」

「理性じゃ分かっているんだけど」

「おい。静かにしてくれ、もうすぐ神殿だから」


 ローナン兄妹に注意すると、二人はばつが悪そうな表情を浮かべる。それから仕草で謝るのを見た俺は、視線を前に戻した。因みに先頭だが、ミリアが務めている。その理由は、エルフが暗視能力を持っているからに他ならない。遥か遠くを見ることは幾ら何でも不可能だが、近くであれば夜や闇でも相応に見通せるらしいのだ。

 なお、俺もエルフ程ではないが、常人よりは暗闇で物を判断する事は出来る。これも爺ちゃんに拾われて以来住んでいたあの森のせいなのだから、何が幸いするか分からない物である。


「もう少しで着くわ、警戒して」


 先頭のミリアから、注意が促される。頷くことで、ミリアへの返事とした。程なくして、無事に神殿へ近づくことに成功する。夜の神殿は、おごそかの中にもどこか不気味な感じがする。これが全ての神殿に感じることなのか、それとも堕ちた神の神殿ゆえかは分からなかった。

 少しの間、様子を伺っていたが、特に変化もなかったのでそのまま建物の外周へと回り込む。そして見つけた壁が崩れているところから、建物内に侵入した。

 その場所は、さほど大きくはない部屋である。外から月光が差し込んでいる為、中を確認するのは難しくなかった。


「部屋……みたいね。出口は、あそこに一つとこちらに一つね」


 最も出口といっても、一つは壁が崩れた為に出来たのだろう。何といっても形は歪だし、すぐ近くには瓦礫がれきが散乱しているのだ。何とはなしに隣が気になり、壁が崩れたと思える場所から覗き込んでみる。そこは侵入した場所とほぼ同じ広さを持つ部屋であったが、こちらは壁が崩れておらず出口は一つだった。


「あ、二つか。天井が崩れているからな」

「どう? エムシン」

「ただの部屋だな、ミリア。一応、気配を探ってみるが」

「お願いね」


 もしかしたら地下室とかあるかもしれないと、そう考えたのだ。しかし気配は、全く感じなかった。その旨を告げると、彼女は頷いたあとで部屋の中からそっと外を覗き見る。光源が乏しいので、この位置からは何となく向こう側に壁らしきものがあるぐらいしか分からなかった。

 顔を振り左右を何度か確かめたミリアは、俺達を手招きする。静かに近づくと、ミリアは様子を告げてきた。


「恐らく廊下ね。左右、どちらの方向にも、続いているわ」

「どれどれ……って分かんねぇ」


 左右どちらの方向にも、少し先に光が差し込む場所は見て取れる。その光の周りを判別することぐらいは出来るのだが、それ以外は全然判別できない。そこでウォルスとアローナに目を向けてみるが、二人も大して変わらない雰囲気だった。


「凄いわねぇ。話には聞いたことはあったけど、この暗さで様子が見えているんだ」

「全くだな。これだけでも、夜は戦力になるよな」


 ミリアの暗視能力に、ウォルスとアローナが感心している。それは俺も同じで、兄妹の言葉に対して頻りに頷いていた。


「それはそれとして、ここで話していてもしょうがない。廊下の左右、どちらに向かうかだな」

「構造から考えると、右手が神殿の奥になると思うわ」

「なら、そっちだな。ミリアには引き続いて先頭を頼むとして、廊下は二人並べそうか?」

「そうねぇ……半歩ほど下がって貰えれば可能かしら」

「じゃ、ウォルス頼む」

「俺でいいのか?」


 俺の言葉が意外だったのか、ウォルスは尋ね返して来た。


「しょうがないだろう。ウォルスがある程度距離があっても気配を探れるっていうならば、俺でもいいけど」

「すまん。近くしか無理だ」

「それが理由だ」

「あー、それは申し訳ない」

「いいって。気にするな」


 手をひらひらと振って、ウォルスへ気にしていないと態度で示す。するとウォルスは頷き、ミリアから言われた通り、彼女から半歩ずれた場所に付いたのだった。



 途中、部屋らしきものが数室あったので一つずつ確認するが、目立った物は見当たらない。その時、先頭のミリアが立ち止まる。同時に俺も、通路の先に気配を感じて立ち止まっていた。


「隠れて」


 ミリアの声に俺達は、すぐ近くの壁が崩れたところより中に入る。そこは、やはり部屋だったと思われる場所だった。そこで壁際に立ち、通路の様子を伺ってみる。そのまま、少し時がたつと明かりが見え始め、やがて影が一人だが分見て取れる。その誰かは、手にしているランタンの明かりで男であることが分かった。

 その男が通り過ぎると同時に、俺は気配をなるべく断った状態で通路に出る。そのまま男に近付くと、首筋に手刀を一発当てた。すると、小さなうめき声を上げて倒れかけたので、後ろから抱えるようにして支える それから男を、隠れていた場所へと運び込んだ。


「いきなり、行動しないで」

「済まない。相談している暇が無かった」


 ミリアに詫びを言いながら、男が着ていたローブを脱がす。それからウォルスに頼み、彼のバスタードソードでローブを切り裂いて貰う それを簡易的なロープと猿轡さるぐつわの代わりとして、男を拘束した。


「で、理由を聞いていいか?」

「ウォルス、良い情報源だと思わないか?」


 答えを聞き、ウォルスは納得したらしく頷く。だがアローナは、一言文句を言って来た。


「でもやっぱり、事前に話して欲しかったな。あたしとしては」

「すまんな。さて、と。尋問といきますか。ウォルス」

「何だ?」

「今からそいつを起こすから、脅す様に剣でも抜いていてくれ」


 その言葉にウォルスは眉を顰めたが、それも一瞬のことである。ウォルスは表情をなるたけ消したかと思うと、バスタードソードを抜き男の前に立った。そんなウォルスに頷くと、俺は気絶している男に活を入れる。その活で男は目を覚ましたがが、自分の置かれた状況を察したらしく声を上げようとする。だが、猿轡を噛ましているので、声にはならなかった。


「黙れ、口を閉じろ」


 声のトーンを抑えながら、出来るだけドスが効いた様な声を出す。するとウォルスもタイミングを図った様に、バスタードソードの切っ先を男に向けた。途端に男は小さく悲鳴のようなくぐもった声を一つ上げると、口を閉じる。その男に、やはり声のトーンを押さえたまま尋ねた。


「質問に答えろ。返事は、首を振るだけでいい。それで、ここに攫われた者たちはいるのか?」


 その言葉に、男は頷いた。

 その途端、ウォルスとアローナから怒気が溢れる。その怒気を本能的に感じ取ったのか、捕えた男は少し怯えたような表情をした。


「落ち着け、二人とも」

「だけどよ!」

「でもっ!」

「いいから落ち着けって。こいつに案内させればいいだけだろ」


 そういうと、にこやかに笑みを浮かべながら男の肩に手を置く。そして思いっきり、手に力を込めた。途端に男は暴れ出す。そこで力を抜くと、もう一度笑みを浮かべた。


「案内してくれるよな」


 男は目に涙を浮かべながら、頻りに頷いていた。



 捕えた男に案内させて、攫われた人達の元に向かう。そこは、神殿の敷地内の外れに建っていた。その入口には、番をしていると思われる者が二人立っている。


「さて、どうするか」

「あたしに任せて」


 アローナはそう言うと、何かを呟く。それは、魔術語マギ・ワードと呼ばれる物であった。

 魔術語は、魔術を唱える際に詠唱する言語である。その魔術語を最後まで唱えたアローナは、術を行使すると同時に手にしている杖を小さく振った。


「ヒュプノディック・クラウド(眠りを誘う雲)」


 アローナの言葉と共に、見張りの男達が薄い靄の様な物に包まれる。すると見張りは、まるで崩れるようにへたり込んでしまった。


「何したんだ?」

「眠らせたの」

「眠らせた? そんなこともできるのか、魔術って」

「ええ」


 完全に理解できた訳ではないが、何であれ見張りが無害となったのであるならば問題はない。万が一も考えて俺とミリアがその場に残り、ウォルスとアローナは建物の中へと向かった。それから待つ事暫し、建物の中に入ったウォルスとアローナが飛び出してくる。そのまま二人は、無言で捕まえた男に近付いた。


「おい! ディアナを、彼女をどこに連れて行った!!」


 男の胸倉を掴みあげながら、ウォルスが鋭く問い掛ける。そんなウォルスの様子に、再び男は怯えていた。


「どうした一体、そんなに血相変えて」

「あの建物の中に捕えられていた数人に聞いたんだ、ディアナがつい先程連れて行かれたって」

「連れて行かれたって、どこに?」

「分からん。だから、こいつに尋ねている! おい!! もう一度聞く、ディアナを……旅装をした僧侶で神術使いの女を、どこへと連れて行った! 教えればよし、さもなくば殺す!」


 ウォルスの雰囲気と言葉の迫力に押され、完全に男は恐縮していた。


「おい、ウォルス」 

「何だ」 

「それじゃ、喋るものも喋らないぞ」

  

 俺の言葉で畏れ慄き気圧けおされている男の様子を漸く認識したのか、ウォルスは掴んでいた男を離す。そこで人心地が付いたのか、怯えの気配が少し収まった。


「で、知っているのか?」


 少しまだ震えていたが、それでも頷いていたので、そのまま引き続き男に案内させる事にした。



 古びた神殿の一番奥まったところにある部屋、そこにディアナさんとやらは連れて行かれたらしい。そこまで案内させると、再度男を気絶させた。


「邪魔されても面倒臭いからな」

「理屈は分かるけどね」


 ミリアが溜息をつきながら、気絶した男を壁に持たれ掛けさせるように座らせていた。


「じゃ、行くぜ」


 そう言うとウォルスは、思いっきり扉を蹴り開けている。そうして部屋の中に入った俺たちの目に飛び込んで来たのは、今まさにナイフを振り降ろそうとした姿で固まっている男の姿と、床に寝かされた女性の姿だった。


「っと、飛衝拳!」


 咄嗟に、男が手にしているナイフ目がけて技を放つ。技が直撃したナイフは砕け、その余波で男も数歩分だけうしろへ飛ばされた。


「ディアナ!」


 直後、ウォルスが寝かされている女性に駆け寄る。ウォルスは先ずその場から離すべきと考えたらしく、床に寝かされた女性をいわゆるお姫様だっこで抱え上げるとことらへ戻って来た。その段になって、攻撃を受けた余波で倒れていた男は漸く立ちあがる。しかし、床に寝かしていた女がいない事に気付くと、その男は睨みつけてきた。


「おのれ! よくも神聖な儀式を!」

「何が神聖だ。生贄をささげるのが神聖! とか、今のご時世で言わないよな」


 昔は生贄を捧げるという習慣も、極一部であったらしい。しかし、今はそんな事をする者などまずいない。ゆえに皮肉を込めた訳だが、目の前の男は全く気にせず寧ろ胸すら張って言い放った。


「当然だ。我らが神の復活の為に、その女は捧げられるべき存在なのだ。分かったら、その女を寄越せ」

「分かるか、アホ」

「あ、あほだと!? 許せん!」


 すると男は、何かを呟き始める。 その言葉を聞き咎めたアローナから、注意の声が飛んできた。


「気をつけて! 魔術使いよ!!」


 相手の様子から、ミリアが警告を飛ばしてくる。その言葉に反応するように、俺たちは身構えたのであった。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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