第四十九話~クレア爺さんとの再会~
お待たせしました。
第四十九話~クレア爺さんとの再会~
一頻り笑いあった後、ギルドの建物が目に入る。 反射的にダンジョンから出てきたのなら報告しないと思いだした俺は、皆に報告へ行こうと言いだした。
「ちょっとまってよエムシン」
「アローナ、何だ?」
「ギルドに報告って、できる訳ないじゃない。 あたしたち、ダンジョンに入る手続きしてないんだから」
「へ?……あ、そう「そう言う事じゃ」かって、クレア爺さん! 何でここに!!」
「反応があったのでな」
そう言うと、クレア爺さんは俺たちが身に着けていた装備を指さす。 そう言えば、今身に着けている装備はクレア爺さんから譲られた物ばかりだった。
「一応、それらには儂が掛けた強化の術が施されておる。 であるにも拘らず、ゲートで送った後は術の反応がなかった。 しかし、いきなり反応が現れた。 それでここへ来た、という訳だ」
「はー、そうなんだ。 エルダードラゴンロードってすごいんだな」
「すごいなんてものじゃないよ! エムシン!!」
「そ、そうなのか?」
「そうなの!!」
「いや、そういわれてもさぁ。 俺、術なんか、気術以外は疎いし……」
「取りあえず、場所を移さぬか? 目立っておるぞ」
『あっ!』
一先ず、クレア爺さんの言葉に従い場所を移す。 慌ててこの場から離れ、目立たない場所まで移動した。 そこで、どこに向かうかを考える。 人目に付かないと言うのなら、クレア爺さんのいる魔の森が良いのだろうが、あそこは辺境も辺境すぎる。 そこで、一先ず俺の家へ移動することとした。
最も、ゲートでの移動だから場所はそれほど関係ないのだがそこは気分の問題である。 やがて家に到着すると、めいめいが思い思いに腰を下ろす。 それから、女性陣が説明を始めた。 所詮あらましだし、何より俺とウォルスが説明するより彼女達の方が上手いのだ。
「なるほど。 それならば十中八九、ブロルトは滅んだとみていいだろう」
「そうか。 クレア爺さんからのお墨付きなら、間違いなく安心できる」
「何だ、実感はあったのだろう?」
「倒した実感はあった。 だけど相手が相手だから、もしかしたらと言う思いが無きにしも非ずと言うか……」
俺の言葉に、皆も頷いている。 どうやら、想いは同じであったらしい。 そんな様子を、クレア爺さんは微笑ましそうに見ている。 それが何か恥ずかしく、強引に話を進めた。
取り敢えずブロルトの話はそれまでとして、話題はこれからのこととなる。 そもそも俺たちがダンジョンへ潜ろうと考えた理由は大金を得て移動用の馬車、ただ曳くのが馬になるかは分からない。 それはそれとして、兎に角、移動用の手段を手に入れる為である。 だがその大金も、財宝の山を得たので問題はない。 しかしながらその財宝は、多分だがブロルトが持ち主だったと思われる代物となる。 そんな物を売っぱらっても大丈夫なのかと言う思いがない訳ではない。 正確に言うと、俺にはないが他の皆にはあるらしかった。
「ふむ。 それならば、わしの持つ財物と交換しよう」
「クレア爺さん、いいのか?」
「構わん。 それにそちらの嬢ちゃんたちが気にしている事も、分からんではないからの」
「そうか。 クレア爺さんはこう言ってくれているが、それでいいか?」
「ええ。 エルダードラゴンロードであられるクレランス様に預けられるのであれば、問題ありません」
そう答えたディアナの言葉に、ミリアたちも釣られたかのように頷いている。 皆が良いのならば、別に問題はない。 俺もそれでいいと了承し、クレア爺さんの持つ財宝と交換と言うことで話は付いた。 結局は、魔の森へ移動するはめとなる。 それならば最初から移動すればよかったなと思わないでもなかったが、それは結果でしかない。 今更言っても仕方がないので、そこは黙っておいた。
後は移動だけなのだか、その前にクレア爺さんが俺へある提案をしてくる。 その提案とは、この家の保全であった。 具体的にはこの家自体に劣化を極端にまで遅くするような術を掛け、その上で家の周囲に結界を張ると言う物だそうだ。 そんな事が出来る物なのかと思ったが、言い出したのはエルダードラゴンロードである。 出来ないのならば言わないだろうと思い、お願いすることとした。
その後、全員が家から出るとその劣化を遅くする効果を持つらしい術を掛けている。 そして、その術を掛けられた家からある程度離れると、今度は結界を生み出している。 特に苦労する様子もなく術を使っているクレア爺さんを、きらっきらっした目で見つめているアローナが妙に印象に残ったものだった。
「やっぱり、これってすごいのか?」
「当然でしょ! エムシン」
「そうなのか……」
「そうなのよっ!」
間もなく結界を張り終えたらしいクレア爺さんは、ゲートを開く。 何度も見てもう慣れっこになってしまった俺たちは、何も言わずにそのゲートを潜って行った。
間もなくゲートから出ると、そこは言わずものがな魔の森となる。 そして当然だが、クレア爺さんの本体となるエルダードラゴンロードが、文字通りの意味で眠っている洞窟の前となる……筈であった。 しかし、ゲートから出た先に洞窟など全く見当たらない。 あるのは、ただ壁があるだけだった。
思わずどうしていいのか分からず、クレア爺さんの方に目をやる。 すると、ひょうひょうと当たり前の様に言い出していた。
「眠りの邪魔などされたくないのでな」
何とクレア爺さん曰く、どこからか大きな岩を移動させてそれで入り口を塞いだらしい。 流石はエルダードラゴンロ―ドだと、感心とも呆れともつかない言葉を俺を含むパーティー全員が漏らしていた。
それはひとまず置いておくとして、ならばどうやって入るのかと尋ねたが、特に問題はないらしい。 よくよく考えれば、クレア爺さんはそもそも本体ではない。 あくまで術によって作られた、いわば仮初の体なのだ。 術を解除すれば、それで済んでしまうとのことだった。 しかし、此方はそんな訳には行かない。 強引に入り口を作ること自体は可能だが、そんな真似はできるならしたくない。 しかし中に入らなければ、宝物の交換など無理な話だった。
「そんなことは分かっておる。 ゲートを開くから、入るのだ」
「初めから、中に出るようにしておけばよかったんじゃないか?」
「一応、お前たちにも見せておきたかったのだ。 今、どのようになっているかをな」
そう言うことならいいかと、それ以上は言わずに相槌をうっておく。 するとクレア爺さんは一つ頷いてから、再度ゲートを開いていた。 そこを潜れば、洞窟の中となる。 まず目に入ったのは、寝息を吐いているが圧倒的な存在となるエルダードラゴンロードだった。
次に目に入るのは、そのエルダードラゴンロードの体躯すらをも凌駕する莫大な財宝である。 二度目とは言え、その量はまさに圧巻だった。 あまりの膨大さに、欲しいと言う気持ちすら起きない。 あまりにも数がありすぎると、逆に欲しくなくなるなんてありえない何て思っていたことが実感できるのだから相当な物だった。
「さて、では取り敢えず件の財宝とやらを出せ。 見慣れぬバックを背負っているから、そこにでも入れたのだろう」
「えっと。 はい、その通りです」
言われた通り、魔具のバックバックからブロルドの出したゲートから出たところにあった全ての財宝を取り出す。 最後に、バックバックを財宝の上に置いた。
「バックバックも置いたと言う事は、それもそうなのか?」
「そうだよクレア爺さん」
「なるほど。 では…………ふうむ。 ざっとこれぐらいか?」
そう言うと、うずたかく積まれた財宝の一部が移動する。 それは金貨と白金貨が中心であるが、貴金属も相当に含まれていた。 そして同時に、俺たちが出した財宝も動き出す。 魔具のバックパックより取り出した財宝は、エルダードラゴンロードが眠るこの部屋と言うにはあまりにも広い一角へと移動する。 そして移動したことで空いた場所には、クレア爺さんの力によって移動した財宝が据えられる。 そして最後に、どこからともなくバックパックが幾つか移動してくると財宝の上にそっと置かれた。
なお、クレア爺さんが使った術はテレキネシスと言う名前の魔術らしい。 通称念動力とも言われる術で、物体を移動させるのに使い勝手がいい術だとアローナが教えてくれた。 ついでに言っておくと、クレア爺さんが移動させた量は、通常では考えられないほどだとも教えてくれる。 やはりドラゴンは別格なのだと、改めて認識していた。
「さて取り敢えずこれで終わりだが、そこの嬢ちゃん……アローナとか言ったか。 術に興味があった様じゃが、幾つか教えてやろうかのう」
「え、ええっ!? 本当ですか」
「うむ。 素質はある様じゃしな」
「お、お願いします!」
喜色満面を表したような表情で、アローナが了承した。 とは言え、悠長に術など教えてもらってはどれだけ時間が掛かるか分からない。 そのことを伝えると、あからさまにアローナが落ち込んでしまう。 その様子は俺たちの方が申し訳なくなるような、そんな雰囲気だった。
「安心せい、そこまでは掛からん。 そうよな、ざっと二週間もあればいい」
「……どうする?」
「それぐらいなら、待ってもいいと思うわ。 幸い、懐も温かいしね」
「そうだな。 それに妹の為だし、皆がいいなら俺からも頼む」
「私も、同じくよ」
皆に不満がないのなら、別に俺も異論はない。 どんな術を覚えてくるのかは知らないが、あって損などないだろう。 その旨を伝えると、アローナは嬉しさを表していた。
「兄貴、みんな……ありがとう」
「どうやら異存はないようじゃな。 では、嬢ちゃんを預かるぞ。 おぬしらはそうだな……何処かの街で待っているがいい」
「それじゃ、馬車の購入をしておくか」
「そうね。 それがいいわね」
その後、この場に残るアローナから場所の仕様における希望を聞いた上で、離れることにする。 その後、クレア爺さんの出したゲートを潜ると、前に馬車の購入を検討したガアルの町から程よい距離にある森の中に出ていた。
その森から出てガアルの町へ到着すると、取り敢えず宿を取る。 そこは、俺がガアルの町へ来る度に利用していた定宿みたいな宿である。 何で同じ宿なのかと言えば、とても気楽だからだ。
その日はそのまま眠ることにして、翌日に前回利用した店へと向かう。 やがて到着した看板に蹄鉄が描かれている店に入り、店長のアリアさんがいるかを尋ねる。 暫くすると、アリアさんが現れて用件を尋ねてきた。
「以前、場所の検討をしたエムシンですけど」
「えーっと……あぁ、思い出しました。 ですが、お一人足りないのではありませんか?」
「ちょっと所用で別行動してまして」
「そうでしたか。 それは立ち入った事をお聞きして、申し訳ありません。 それで、エムシン様におかれましては、場所のご購入をなされますか?」
「はい」
その後、改めて要望を伝えた。
口頭で伝えるのも面倒なので、事前に書き出しておいたものを差し出す。 その要望を基礎にして、話を詰めて行った。
その結果、車体の基本となるのはありふれたものを使用したが、揺れを抑える為に追加で装備を増やしていく。 そして車体を引かせるのは、エアレーと言う名を持つ獣にした。
そのエアレーだが、どちらかと言うと幻獣に近い存在となる。 見た感じだが、馬と言うよりスマートな牛に近い。 違いは、自身の意思に従って自由に動く大型の角と獅子の後ろ脚と尻尾を持つ点となる。 更に付け加えると、手触りのいいふさふさな体毛も備えている。 最後に、基本的には温厚な性格であるが、怒らせた存在には容赦がないと言う荒々しい一面も持つ幻獣でもあった。
全てを終えると、代金を払い店から出る。 幸い幻獣は店にいるから問題はないが、馬車を改造する時間が多少は掛かるからだった。 どの道、アローナを待つ必要がある。 その間、クレア爺さんの下で修業中の彼女には悪いが、ガアルの町でまったりゆっくりと過ごして時間をつぶすのであった。
やっと、馬車(?)購入です。
結構掛かってしまったよ。
ご一読いただき、ありがとうございました。




