第四十八話~報酬?~
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第四十八話~報酬?~
悪魔ブロルトが作成したゲート、そこを抜けた先はかなり大きめの部屋だった。
そして視線の先には、豪華そうな椅子がある。 更にその周りには、いわゆる金銀財宝が雑然と置かれていた。 その様子は、クレア爺さんの本体であるエルダードラゴンロードがいた棲み処を連想させる。 ただ場所の大きさからすれば大分小さいので、数と言う意味では及ばない。 それでも、軽く一財産……いやそれを十分に越えるだけの量がおかれていた。
「……宝物庫か?」
「かなぁ。 それだと、あの豪華な椅子がある理由が分からないよね」
何とはなしに呟いた俺の言葉を聞こえたのか、アローナが言葉を返してくる。 あまり気にした様子もないので、恐らくだが自身の考えを述べたのだろう。 最も、この景色に同じ考えを持つ者は多数いると思われた。
事実、ミリアやウォルスそしてディアナも頷いている。 しかし、そうなると椅子がある意味が分からない。 もしかしたらこの部屋の主は、財宝を見て越にいる様な趣味でもあったのかも知れない。 あくまで想像でしかないが。
何であれ、ただ椅子や財宝を眺めていたところでどうにもならない。 先ず、此処が何処なのかはっきりさせる必要がある。 それが分からなければ、先の方針も立てられないのだ。
取り敢えず部屋を調べるが、目立つのはやはり椅子と財宝となる。 他には目立つ様な物は、パッと見にはない。 なお、この場所へと繋がっていたゲートに関しては既に消えているので目立つ候補から除外していた。
「うーん。 壁に照明があるから、見る分には問題ないけどな」
「そうね兄貴。 だけど、物探しには暗いよね。 「……ライト!」」
アローナが術を使う、すると彼女のすぐ近くに光を放つ玉の様な塊が発生する。 その塊から発せられる光は、壁に掛かっている照明より遥かに明るい物だった。
その発生した明かりを頼りに、調べていく、 同時に俺は≪混沌の力≫を軽くに使いながら、何か違和感がないかを確認していく。 たぶんできるだろろうなと思いながら使ってみたのだが、大成功だったようだ。 どうやら、ブロルトとの戦いで使った≪混沌の力≫のお陰で、力を使う精度みたいなものが上がったようだ。
すると、≪混沌の力≫に引っ掛かりを感じる。 それは、無駄に豪華な椅子から感じられる……かと思ったが違う。 どうやら感じたのは椅子ではなく、椅子のすぐ近くの床からだ。 椅子からも力のような物を感じるので、この椅子ももしかした魔具なのかもしれない。 だが、椅子から感じるものと床から感じる物には違いがあった。
何で別々に感じるのかなと思いつつ、椅子のすぐ近くの床を調べる。 すると、椅子に座った時に足が置かれるんじゃないかと思えある場所が凹みそうな感じがするのが分かる。 そしてその凹みから繋がっているのか、流れのようなものは壁の一角に繋がっているのかとも感じる。 この手の事に詳しくないので、取り敢えずアローナを呼んで確かめて貰うことにした。
「エムシン。 何?」
「いや。 それなんだけど、スイッチみたいに思えるんだよな」
そう言ってから、俺はその場所を指し示す。 すると、アローナはその説明でも十分だったらしい。 それ以上は聞いてくることはなく、何かを見極める様にしたり多分魔術じゃないかと思うが術を使ったりしていた。
すると、当然だが皆が集まってくる。 結局、スイッチかなと思った凹みの様な個所を調べているアローナと、彼女の邪魔にならないように少し距離を取りながら見守っている俺たちと言う配置になっていた。 そんな配置のまま、暫く見守ていたがやがてアローナが立ち上がる。 そして彼女は、納得した様な顔を俺たちへと向けた。
「…………大体、分かったわ。 それで絶対とは言い切れないけど、エムシンが言った様に多分これはスイッチね」
「罠とかじゃないんだな」
「違うと思うわ。 そのスイッチを押し込むと、壁が開くとかそんな仕掛けだと思う」
「ああ。 それで、こっちの壁に繋がってるのか」
そう言いながら、壁へと近づく。 すると、皆も一緒に移動した。
近づいた壁は、丁度壁に取り付けられている照明の間に当たる場所となる。 そして、壁自体に取り分けて目立つ様な何かがある訳でもなかった。
「ん? あれ? 今、確か」
「どうしたの」
「いやな、ミリア。 スリットのような物が見えた気がして」
「スリット? 本当?」
「ああ。 アローナ、明かりくれ」
「うん」
アローナが手を俺の方へ動かすと、その動きに合わせる様に彼女が生んだ魔術の光が近づいてくる。 白色な光に照らされてさっきよりかなり見やすくなった壁をじっとよく見る。 すると石組みと思える壁に紛れさせるように、スリットが見える。 一度見えれば、そのスリットを追うのは難しくない。 それは、天井付近まで続いている風に見えた。
「うん。 やっぱりスリットだ。 天井まで続いてるのかな」
「どれどれ……あー、確かにひびにも見えるけどスリットね」
「俺にも見せろよ」
ウォルスも近づいて見ている。 だが、確信が持てなかったのか首を傾げていた。 その時、ミリアが壁に手をかざしたかと思うと、精霊術を行使し始めた。 すると視界に、壁から生える人型が見える。 「これ、もしかして精霊か? 精霊なのか!?」と内心で興奮しつつ、邪魔しないように黙って見続けた。
やがて、ミリアは納得した様に一つ頷くと、俺たちに顔を向けた。
「この壁の向こうに通路があるわ。 その先に階段があるみたい」
「え? 何で分かるんだ?」
「多分、精霊に聞いたんだよ、兄貴」
「精霊に聞いた? そりゃミリアはエルフだし精霊使いなのは知っているが、そんなこと可能なのか」
「可能なんでしょ。 あたしも精霊術については研究してないから、詳しくは知らないけど」
「じゃあ、何でわかるんだよ」
「あくまで推測。 このスリットが、この部屋の出入口だとすれば当然その向こうには通路ぐらいあるでしょ。 そして出入りせず、しかも壁の向こうを見ずに通路が分かったんだからそう考えるのが自然と言う物よ」
「アローナ、正解」
「そ、そうですか……」
納得したのか、それとも出来ていないのか。 何とも曖昧な感じで、ウォルスが答えていた。 ただ、そんなことは部屋から出てみれば分かる。 取り敢えず出入り口と思える様な個所があるのだから、開けばいい。 俺がそう言うと、皆からも同意が得られる。 それから、見つけたスイッチのような物に近づくとアローナ言った通りに踏みつけてみた。
それから間もなく、壁の一部が部屋の外へと押し出されたかと思うと、横へスライドして行く。 やがて動いた壁が停止すると、そこにはぽっかりと口を開けた出入り口が存在していた。 しかも少し弱めだが、明かりも見える。 少なくとも、何かあるのは間違いないだろう。 とは言え明かりが弱いためか、よく分からなかった。
するとその直後、アローナは魔術の光を送り出す。 その光に照らされた其処は、ミリアが先言った通り通路となっていた。
「ほぇ~。 本当なんだ。 精霊に聞けば分かるとか」
「全部という訳ではないから、そこは誤解しないでね」
「ふーん。 分かった。 そういうもんだと理解しておく。 じゃ、進んでみるか?」
「いや。 その前に、折角の財宝を何とかしよう」
「そうだねぇ。 じゃ、先ずはそっちを何とかしようよ」
この場所が何であれ、目の前のお宝を放っておくのはもったいない。 そこで俺たちは、財宝を物色し始めたのだった。
財宝は結構な量があり、選別をどうしようかと考えたがそれは取り越し苦労となる。 その理由は、財宝の中に紛れて容量拡張が付加された魔具のバックパックが幾つか見つかったからだ。 しかもかなり入るらしく、次々としまわれていく。 結局のところ、部屋にあった物は一つを除いて見つかったバックパックの中へと収納されてしまった。
さて唯一の例外だが、それは椅子である。 元々大きいのだが、バックパックへ入らなかった理由は別にある。 単純に床へ据え付けられていたので、動かす事が出来なかったのだ。 まさか、床石ごと引っぺがして持って行くと言う訳にも行かない。 幾ら豪華そうな椅子だとは言え、そこまでする気になれない。 もしやろうものなら、どれだけ時間が掛かるか分からないと言うのも理由にあったが。
何であれ、部屋にあった財宝らは椅子を除いて奇麗さっぱりバックパックへ収納される。 そうなれば、もう此処に用はない。 いったん閉じていた壁を開く為に先程のスイッチを押して出入口を開くと、今度こそ通路へと進んだ。 その通路だが、先程までいた部屋と違い、明かりは少ない。 ところどころにはあるので、足元が全く見えないと言う事はない。 何よりアローナの生みだした魔術の光があるので、歩くぐらいならば問題はなかった。
その通路も大した長さなどなく、やがて階段へと突き当たる。 しかし階段は天井によって遮られているので、昇ったところで意味はないだろう。 そう思っていたんだが、いきなりアローナが調べ始める。 それを見て、俺を除いた他の面子も辺りを探し始めた。
「エムシン。 あんたも探す」
「何をだよ、アローナ」
「階段の先、天井部分を開かせるスイッチよ。 ある筈だから」
どうやら、行き止まりなんかではないらしい。 アローナにそう言われ、頷くと参加する。 元々それなりに明るい上、ミリアやアローナが明かりを追加したので探す事に問題はなくなった。 探す事暫し、今度はミリアが壁にスイッチらしき物を見つける。 それからもアローナの指示で周辺を探したが、他にスイッチの様なものは見つからない。 ならば押すしかないと、ミリアの見つけたスイッチもどきを押してみる。 すると、階段の先の天井部分に切れ目が走る。 そして天井部分は、ゆっくりと跳ね上がって行った。
警戒しつつ、階段を昇りそっと辺りを見回す。 そこは、かなりの広さを持つ空間となっており、石造りのかなり頑丈そうな場所だった。
それよりも不思議なのは、どこかで見た事がある気がするのだ。 それも、つい最近だ。 そのことを不思議に思っていると、ディアナがポツリと言いだした。
「ここは……私たちが入ったダンジョンで最後に闘った場所だと思います」
『え!?』
そう言われて俺たちは、辺りを見回す。 すると、扉が二つあるがその一つに見覚えがあった。 確かにこの扉は、何日か前に潜った事に間違いはない。 と言う事は、ここはダンジョンなのだろう。 しかし、よりにもよってダンジョンなんどにゲートを繋げたのかが分からない。 何でだろうと頭を捻っていると、アローナがポンと手を打つ。 思わずそちらを見ると、彼女は謎が解けたとばかりに笑顔を浮かべていた。
「そう言えば、ブロルトはこのダンジョンを創ったと言っていたよね」
「え?……あ、言っていたかも」
「ミリア、でしょう? だから、此処につなげたんだと思う」
そういう物なのかと、取り敢えず納得しておく。 と言うか、俺自身あまりよく分かっていない。 ただ戻ってこれた事と、外に出られる当てがあると言う事が分かれば十分だった。 何せここは、元々ガーディアンが守っていた部屋となる。 ならば、外へと繋がる帰還の碑が存在する筈だからだ。
そしてその候補も、見つかっている。 初めてこの部屋に到着した時には、扉は一つしかなかった。 しかし、今は二つある。 そこから考えられることは、そこに帰還の碑があるのだろう。
「……なあ、ミリア。 何で、扉が増えたんだ?」
「多分、ガーディアンを倒したからだと思う。 と言うか、他に思い当たらないわ」
「そういう物なのか?」
「さぁ。 だって、他に思いつかないもの」
首をすくめて、ややおどけた様な感じで答えが返ってくる。 俺としても思いつかないので、そういう物だと思うしかなかった。
兎にも角にも、先ずは外に出ようと新たに現れていた扉を開いてみる。 するとそこには、帰還の碑があった。 それを起動させて、全員で触れる。 何時もの奇妙な感覚に襲われたあと、俺たちは移動していた。 その部屋の唯一の扉を開けると、何度か通っただろう一本道が続く。 やがて辿り着いたその終点にある扉を開くと、そこはやはりダンジョンの外だった。
ゆっくりと辺りを見回せば、少し離れた場所にダンジョンの入り口が見える。 そこで漸く、ブロルトとの闘いが終わったことが実感できた。 思わず、喜びの声を上げる。 それから暫く、子供のように喜んでいた。 ただ、帰還の碑を使うのは俺たちだけじゃない。 何度か他のパーティーに奇異の目や生暖かい目で見られたみたいだが、今はそんなことなど気にならなかった。
その後、やっとのことで落ち着くと、今度はお互いに笑い合う。 先程までの、ある意味で感情を爆発させたかのような感じではない。 ただ笑みが溢れてしまう、そんな和やかな感じで俺たちは笑い合うのであった。
財宝ゲットです。
やっぱ、ダンジョンにはお宝でしょう。(爆)
ご一読いただき、ありがとうございました。




