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第四十三話~仲間の待つ洞窟にて~

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第四十三話~仲間の待つ洞窟にて~



 悪魔ブロルトと対峙し、そしてうち滅ぼす為の力として求めた≪混沌の力≫を先代の「混沌の落とし児」を事実上吸収することで何とか自分のモノにできた。 これによりアザーティになったと言えるんだと思えるけど、厳密に言えばきっと別の存在なのだろう。  だが、そんな事はどうでもいい。 重要なのは、これでどうにか悪魔ブロルドと対等……かどうかは分からないが戦えると言う事実だ。

 これで決着をつけてやると内心で意気込みながら、クレア爺さんと合流する。 その爺さんだが、かなり疲れた様な顔をしていた。 不思議そうに尋ねてみると、どうやら俺と先代の「混沌の落とし児」による、いわば主導権争いが原因らしい。 全く関知していなかったが、あの争いの余波は現実の世界にも影響を及ぼしていたそうなのだ。

 ≪混沌の力≫の流れに気付いたクレア爺さんは、急いでこの辺りに結界を張って周りへ影響が出ない様にしたらしい。 術自体は元々この場に≪混沌の力≫を押し止める為に使用してた術であったので、展開自体は問題なかった。 しかし俺と先代の力の衝突には、クレア爺さんの想定を超えていた様なのだ。

 その為、展開した結界を維持する為に力を注ぎ込み続けなければならなくなってしまう。 結果、クレア爺さんの疲労度が増したと言うのが真相の様だった。


「全く……≪混沌の地≫の消滅の為に来たと言うに、逆に疲れるとは思いもよらなんだわい」

「あー、それはその。 申し訳ない」

「まぁ、よい。 何であれ、この森より≪混沌≫は消えたのだ。 善哉よきかな善哉よきかな


 そう言う好好爺こうこうや然としたクレア爺さんの様子に、少々毒気が抜かれる。 だが、爺さんの機嫌がいいのなら問題はないだろうと考え、それ以上には突っ込まない事にする。 下手に勘ぐって、藪蛇にでもなるのは御免被りたいと言う思いもあったがそれは言わぬが花ってやつ何だと思う。

 その後は、クレア爺さんに結界内で何があった野かを話しながら、爺さんの家でもある洞窟へと戻る。 クレア爺さんの転移術で戻れなくもなかったのだが、結界の展開と維持に予想外の力を使い疲れている言う爺さんの言葉もあって徒歩で戻ったのだ。

 どの道、此処ここ如何いかに東大陸最高クラスの秘境魔境魔の森だったとしても、エルダードラゴンと≪混沌の地≫に揺蕩たゆたっていた全ての≪混沌≫を取り込んだ俺に対して、いきなり襲って来るような存在はいない。 その意味で言うと俺とクレア爺さんは、魔の森の頂点近くに位置付けられると言って多分過言ではない存在だった。

 場違いなくらい和気藹々わきあいあいにも似た雰囲気のまま、俺はクレア爺さんに結界内で起きた事を話しつつ魔の森を進む。 話している内容自体はかなり物騒と言えるものだが、所詮はもう終わった事でもある。 それに俺が宿した≪混沌の力≫が暴走することも多分ない筈であり、そう考えれば深刻になる必要もなかったからだ。

 そんな様子で森の中を進み、やがてクレア爺さんの家である洞窟へと到着する。 そこで俺は、ウォルスから手荒い歓迎を受けた。 それが、心配の裏返しであることは流石に分かる。 だからこそ、甘んじてその歓迎を受け入れていた。 それからディアナとアローナの二人から、普通に出迎えを受ける。 流石に女性である二人からは、ウォルスの様に手荒い歓迎はなかった。

 ただ、内心でアローナはあるかもと思っていたのは秘密である。 何と言っても、ウォルスとアローナは兄妹なのだ。 実際、何気ない仕草で似通っていると思う事が偶にある。 だから手荒い歓迎を受けた後は彼女からもあり得るかも、少し身構えていた。

 しかし、その様なこともなくてよかった。 勿論、自分の内心の葛藤など、わざわざさらけ出す気はないので表面上はすました顔でつくっておいた。 そんな俺の態度に何かを感じたのか、アローナが訝しげな表情をしている。 こういう事に女性は鋭いのかと俺は、新たに学習したのだった。

 それはさておき残ったミリアであるが、彼女は嬉しそうな表情をしている。 だが、目には涙がにじんでいた。 その様子に俺は「また心配かけてしまったな」と、少々ばつが悪くなる。 どういう態度をすればいいか分からず、ただ後ろ頭を掻きながらミリアの前に立っているしかなかった。

 その時、彼女がにこりと微笑む。 その表情があまりにも綺麗で、余計に動きが取れなくなる。 するとミリアは「くすっ」と小さく笑うと、その腕を広げてゆっくりと抱きしめてくる。 俺は驚く間もなく抱きしめられると、彼女は小さく口を開いていた。


「おかえりなさい」

「ああ……うん。 ただいま……ただいまっ!」


 ミリアの言葉に、皆のところに生還できたんだと実感する。 その途端、意識するでもなく俺は涙を流しながら彼女の体を抱きしめていた。 まるでミリアを確認でもするかの様に、ただひたすらに抱きしめる。 自分でも分からなかったが、何故なぜかそうしなければならない気がしてならなかった。

 どれぐらいそうしていただろう。 一瞬かも知れないし、もしかしたら長い時間だったのかも知れない。 しかしながら俺は、そこで俺達へ向けられる複数の視線に気づいてしまった。 抱きしめているミリアの髪に埋もれていた顔を上げると、そこには五対ごつい十個の目が向けられているのが分かった。

 それは言うまでもなくウォルスとアローナ、それからディアナとクレア爺さん。 それと、クレア爺さんの本体となるエルダードラゴンからの物である。 先ずウォルスとアローナはと言うと、流石は兄妹と言える様なよく似た態度をしていた。 二人はにやにやとしており、似た様な反応で俺とミリアを見ている。 そしてディアナは優しく微笑みながら俺達を見ていて、流石は神官だと思わせる優し気と思える視線だった。

 最後にクレア爺さんとその本体となるエルダードラゴンからだが、基本的に向けられている視線は同種の物である。 そしてその視線が纏う雰囲気自体は、ディアナに似てなくもない。 だが、彼女とは何かが違う様に感じた。

 そう。

 クレア爺さんの視線から図れる雰囲気は、微妙に違っている。  いわゆる親愛と言うかそう言った類の物であることは分かるし、悪い様な物は感じない。 いったい何なのだろうと思っていると、クレア爺さんの隣にいたディアナが微笑みながら話し掛けていた。


「まるでお孫様を見ているようですね、クラレンス様」


 クレア爺さんがエルダードラゴンロードと知ってから、ディアナはクレア爺さんを様付けて読んでいる。 クレア爺さんは、尊称など必要はないと言っても聞かなかった。 だからからか、今は完全に流している。 どうやら、もう諦めたのかもしれなかった。


「まぁ、そうじゃの。 こ奴は、孫みたいなものじゃからのう。 ガライアの奴も、もうおらぬしな」

「まぁ。 それは、そうかもしれませんね」


 ディアナが微笑みを浮かべながらしているクレア爺さんとの会話で、何が違うのかようやく分かった。

 俺が町で何かと足りない知識を頭に叩き込む為に読み散らしていた本の中に、会話にあった孫を見るような目と言う物が偶々だが書かれていた。 後でミリアに何げなく尋ねてみたが、彼女の説明もどことなくふわっとしていてたのだ。

 違いがあると言うのはなんとなく分かるのだが、漠然としていて要領を得なかったと覚えている。 しかしクレア爺さんお視線を見て、そしてディアナの話を聞きやっと理解できた。

 確かに、これは説明しずらいと思える。 実際に見るとか体験てみれば分かるが、そうでないとどうにも分かりづらい気がする。 俺を育ててくれた死んだ爺ちゃんが向けてくれた視線にも似ながらどこか違うと言う、なんとも説明がしづらいのだ。 

 まさかこんなところで、疑問に思っていた事が解消されるとは思ってもみなかった俺だったが、視界の片隅に何か赤っぽい物が見える気がする。 何だろうと思いそちらに目を向けると、それはミリアの真っ赤になった耳だった。 エルフである彼女……正確にはハイエルフらしいが……の耳は人に比べて大きいし先端も尖っている為に、視界に入ったのだ。

 だが俺には、何で赤くなっているかが分からない。 抱きしめていた手をほどくと、俺の腰に回っているミリアの手も解く。 それから彼女の顔を覗き込むと、何故なぜか真っ赤になっていた。


「え? えっと、ミリア。 どうした?」

「……何でもないわ。 この、鈍感っ!」

「は? 鈍感って、俺が?」

「ふんっ」


 顔と耳を赤くしたまま離れていくミリアを、ただ黙って見ている。 何故か今は彼女に声を掛けない方が良い、その様な気がしてしまったからだ。 そんな俺達のやり取りを、先程までと変わらず四人は見ている。 その様子に、何ともむず痒い様な言葉に表しずらい心持となってしまった。

 洞窟内に何とも言えない空気が漂ってしまっていたが、何時までもこんな雰囲気に居たくもない。 だがどう反応していいか分からず動けないでいたその時、ディアナがパンと一つ手を打った。


「さて! こうしてエムシンも戻ってきた事ですし、これからの事を考えましょう」

「え、ええっ。 そうね! そうしましょう」

「えーー。 もう終わり」


 ディアナの言葉に便乗するかの様に、ミリアが口を開く。 すると、詰まらなそうなアローナの言葉が続いて聞こえてくる。 あからさまに変わった変わった場の雰囲気に、なんとなくほっと息を吐くとぽんと軽く背中を叩かれる。 そちらに目を向けると、ウォルスがそこにはいた。

 さっきまで浮かべていたにやにやは消えており、ほがらかとは違うが穏やかな表情となっている。 そんなウォルスに、俺は何でか安堵していた。

 

「さて、と。 話に参加しようぜ」

「ああ。 そうだな」


 そう答えてからミリアたちにの方へ目を向けると、そこはかしましく賑やかに話している女性陣の姿が見える。 そこは、先程までとは違った意味で近寄りがたい場となっていた。


「三人寄れば姦しいなんて言葉もあるけど、本当何だな」

「ああ。 これが、そうなんだ」

「って、知らねえのかよ」

「ま、そうじゃの。 あの環境じゃ、仕方なかろうて」


 近づいててきたクレア爺さんの言葉に、ウォルスがぽんと手を打ちそして納得したかの様に頷いている。 だが言われた俺としては、自覚など有りはしない。 爺ちゃんと二人きりと言うのは、当たり前であったからだ。 その暮らしに不満が全くなかったとまでは言わないけど、物心ついた頃からそうだったのである。 偶に行く町での違いは分かっていたが、だからと言って不思議だとか不満だとか思うことはなかった。

 今考えれば、≪混沌の力≫を宿している俺が静かに暮らすには都合が良かったのだろう。 下手な存在に目を付けられないという意味では、最適とも言える環境だったからだ。


「まぁ、良い。 あそこに突入する気概は、儂にもない。 我らだけで、取り敢えず話をしておくぞ」

「ミリア達には、後で話せばいいか」

「だな」


 後ろでまだきゃいきぃと話している三人を背中越しに感じつつ、これから動きについて話し合いを始めた。

 先ずは、悪魔ブロルトの居場所である。 これが分からなければ、どうしようもない。 かと言って、この世界の何処にいるとも分からな相手を永遠と探す気にもならい。

 と言うか、まず無理な話だと思えた。

 何せことは、世界にある五大陸全てを探すことになるかもしれない話である。 こう冷静になって考えてみると、途方もない事をやろうとしたんだなと改めて認識していた。

 しかしながら、そのこと自体は大丈夫だとクレア爺さんは言う。 何でなのかと理由を尋ねると、爺さんは見覚えのある大ぶりの剣を取り出していた。 いわゆる「グレード・ソード」と呼ばれる両手持ちの剣であるが、何よりその剣はダンジョンの最奥で死んだ名も知らないローブの男が持っていた剣だった。


「クレア爺さん、何でその剣を?」

「下手に放置して、素性も知れない奴儕やつばらに持たれるならばと回収しておいたのだ」

「へ?……あっ、そうか。 クレア爺さんは、ダンジョンの最深部に現れたんだっけ」

「うむ」


 もう機能を果たせなくなってしまった俺の持っていた腕輪を造ったメンバーの一人がクレア爺さんなのは、前にも述べた。 その腕輪が気になって転移してきたことも、同様である。 結果としてクレア爺さんの保護下に入れた形となり、俺は悪魔ブロルトへの対抗手段を手に入れていた。

 そう考えると、感謝してもし足りないのかもしれない。 そう、今更になって思ってしまった。


「ありがとう、クレア爺さん」

「何じゃ、急に」

「なんとなく言っておいた方が良いと思った」

「そうか。 まぁ、良いわ。 話を戻すが、この剣を使ってブロルドの探す。 この剣には、ブロルドの力が宿っている。 その力を頼りに、現在の居場所を突き止める」

「そんな事が可能なんですか?」

「可能じゃ。 そうでなければ、この様な事は言わぬ」


 ウォルスの疑問に、クレア爺さんはきっぱりと答える。 その自信ありげな言葉を説得力に溢れていて、それだけで納得させられてしまった。

 また、剣に術を施して移動されてもその向かった方向が分かる様にするとも言う。 確かに今は分かっても、移動されたら追えなくなってしまう。 その度にクレア爺さんのところに戻って術を掛けて貰っていては、非常に効率が悪い。 その点からも、ありがたかった。


「じゃが問題は、そなたたちの装備よ。 寧ろブロルトと会合し、かつ使途とも言えるやからと戦いながらよく装備が壊れていないのだと感心しておるわい」

『あははは……』


 そうは言っても、元々は馬車とそれを引く生き物を買う為の金稼ぎにダンジョンへと入ったのだ。

 そのダンジョンが悪魔ブロルドが魔神であった頃に作ったダンジョンであり、しかも最深部で会った上にその炎の剣を持った過去に因縁の有るローブの男と再戦するなど予想しろと言うのが土台無理な話である。 いわば完全に成り行きであり、偶然が生んだ結果だと言って間違いない……と思う。 最も、あちら側としては目を付けていたと思われる。 しかしその様なことを知り察知しろなど、此方も無理な話でしかなかった。

 どう答えていいか分からず、笑い声をあげるしかなかった俺とウォルスに対してやれやれとも呆れともつかない溜息をクレア爺さんは漏らす。 それから爺さんは、まだ姦しく話しているミリアたちに声を掛けた。

 流石にそれで彼女達も話と言うか雑談と言うか、兎に角話を止めて俺達の処に寄ってくる。 それからクレア爺さんが、ミリアたちに今話し合った事を伝えていた。

 黙って聞いていた彼女達だが、特に反対する様子はない。 実際、代案があるのかと言われればそんなことはないのだろうから反対する理由などないのだろう。 ただ、アローナだけはきらきらと目を輝かせていたのが印象深かった。


「あれは、自分の知らない術に出会える可能性が嬉しいんだな多分」

「ウォルス、そうなのか?」

「俺も魔術は専門外だから詳しくは分からないけど、それでも兄妹だからな。 妹の性格は分かる」

「そう言う物なのか?」

「そういうものだな」


 そう言えば、転移術にも興味を示していたのを思い出す。 魔術師と言うのはそんな存在なんだなと、新たに俺は認識したのであった。


まだ向かってません、魔の森でラブコメしてます。

どうしてこうなった。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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