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第三十九話~嘗ての死に場所へ~

不定期で申し訳ありません、更新です。


第三十九話~嘗ての死に場所へ~



 エルダードラゴンロード、それは伝説の存在だ。

 伝説中の伝説とされるエンシェントドラゴンには劣るらしいが、それでも先ずはお目に掛かれない存在である。

 そもそもエルダードラゴンとは、年を経たドラゴンが成れる存在だ。 つまり長く生きれば成れる訳だが、だからと言って必ずしもドラゴンが全て成れると言う訳ではない……らしい。 どうも、ドラゴンの中でも一部の者にしかエルダードラゴンには成れないらしかった。

 因みにエルダードラゴンになれずに年を経たドラゴンに対してだが、特に決まった名称などは持たない。 ただ年を経ていると言う事実から、シニアドラゴンなどと言われる事がある。

 話を戻して、言わば希少種とも言えるのがエルダードラゴンなのである。 そんなエルダードラゴンの長の地位にあるのが、目の前に居るクレア爺さんことクラレンスと言う訳である。 その様な稀有な存在に出会った故の、ミリア達の反応だったのだ。


「ふむ。 先程の≪混沌の地≫についても含め、何ゆえにわしがエルダードラゴンなのかと気づいたのは気に掛かるのう……やはりガライアにでも聞いたか?」

「いいや。 爺ちゃんからは何も聞いていない」


 これは事実だ。

 ある日、起きたら死んでいた爺ちゃんだから話す暇がなかったのかもしれないが、聞いていないのは間違いない。 俺自身の事も、そして嘗ての俺が不覚にも命を落とした≪混沌の地≫とやらについてもだ。

 そしてクレア爺さんの身の上についても、聞かされた事などなかった。

 ならばなぜクレア爺さんの正体について分かるのか、それは≪混沌≫を操る上だからである。 前述した様に≪混沌≫は、全ての始まりでありそして終わりである。 その性質上、混沌には全ての要素が含まれていた。 それこそ法則だろうが概念だろうが、種族を形成する要素だろうがである。 ありとあらゆるモノが「あのお方」より生じ、何れは「あのお方」の元へと帰っていくとされているのだ。

 即ち≪混沌≫とは出発にして終焉であり、創造であり虚無である。 すべてを生み出す事も、そして滅ぼす事もできる。 ≪混沌≫とはそんな存在だった。

 だからと言って俺にその様な事ができるのかと言えば、それは不可能としか言えない。 そんな事ができるのは「あのお方」や、「あのお方」が最初に生み出した万物の母などの他数柱ぐらいだろう。 当然ながら俺も……いや俺の元となった「混沌の落とし児」であっても、やはり不可能だった。 


「そうか……まあいい。 してエムシン、そなたは何ゆえに≪混沌の地≫を求める?」

「それはあいつに、炎の悪魔であるブロルドを滅ぼす為だ。 今のままじゃ、勝つ事など到底無理だから」

「ち、ちょっと待てエムシン。 ブロルドと今一度対決するのか!?」

「そうだ。 それにギルドも、推奨してるしな」

「おいおい。 確かにそれはその通りだが、それが建前なのは知ってるだろう」


 呆れた様にウォルスが言うが、実のところその通りだった。

 確かにギルドで悪魔や邪神の討伐は推奨しているが、実のところはその様なスタンスを取っているだけに過ぎない。 それならば何で推奨しているのかと言えば、各国がそう公言しているからだ。

 邪神や悪魔と言った存在は、国として看過かんかできない。 何せ享楽で、町や下手したら国すらも滅ぼそうとする存在だ。 幾ら元が神や魔神であったとしても、そんな輩を認めるなど出来る筈もないのだ。

 翻ってギルドはと言うと、公共性のある側面もないではない。 だが、基本的には営利を目的としている。 一応国などとは一線を画し独立している存在なのだが、だからと言って国からの影響を全く受けないと言うのは土台無理な話である。 それに各国の国内に拠点を構えている以上、ある程度は配慮しない訳にはいかないらしい。 そこで悪魔や邪神の討伐は、推奨と言う形にしていたのである。 つまりギルドは、表向きは各国に協力していますと言うスタンスを取り代名詞とする事で要らぬ摩擦が発生しない様にしていたのだ。 

 図らずも実際に対峙した事で分かったとも言えるのだろうが、邪神や悪魔は存在が違うと言っていい。 嘗ては神や魔神と謡われた彼らであるので、それも当然と言えば当然だろう。 だからこそ、嘗ての力を取り戻したい。 最早十全は無理だが、それでも≪混沌の地≫に揺蕩たゆたうであろう≪混沌≫を再度自分のモノとすれば十分渡り合える筈なのだ。

 なお、だからと言って、嘗て一度もギルドの所属する者が邪神や悪魔と対峙した事がない訳ではない。 もし、万が一にでも倒す事ができれば、名誉栄達は思いのままと考えた者もいたのだ。 最も、そのことごとくの行方は杳として知られていないらしいのだが……。


「ああ、知っている。 だが、俺個人としてあいつを見逃すなど出来ない。 それを成す為には、今の俺でも無理だ」

「マジかよ……」


 ただ一つ気に掛かっている事があるとすれば、目の前にいるクレア爺さんである。 最も、これも正確な表現ではないだろう。 何せクレア爺さんは、厳密に言えば目の前に居ないだから。

 クレア爺さんの本来の姿であるエルダードラゴンロードは≪混沌の地≫と名付けられている嘗て俺が命を落とした場所に居るのだろう。 そこで≪混沌≫の力を抑えている……のだと思う。 多分。

 それで何でその様な事ができるのかと言えば、ドラゴンが生物の中で最も≪混沌≫に近い存在だからだ。

 つまりその特性を生かし、クレア爺さんは≪混沌≫を抑えている様なのである。 お陰で、混沌を操れるようになった今でも「混沌の落とし児」だった時に死んだ場所が特定できないでいる。 だからこそ、クレア爺さんに聞いたのだ。 嘗て一度、命を落としたその場所について。

 とは言え、こんな事を通常のドラゴンや、また他のエルダードラゴンであってもできやしないと思う。 ドラゴンの中でもとび抜けた存在であると思われるクレア爺さんだからこそ、出来た事だと言えた。

 しかしながら、かなりの負担になっているのも想像に難くない。 何せエルダードラゴンロードがその場から、一歩も動けずにいるのだから推して知るべしであろう。 ≪混沌の力≫が世界に住む生物へ影響を与えない様にとの事なのだろうが、クレア爺さんはとびぬけた存在であるとも純粋な生物である。 そのままでは生物に取り劇物にも等しい≪混沌の力≫は、エルダードラゴンロードと言う存在を持ってしても影響を与えてしまうのだ。 

 むしろ良く持っていると、感心すらしてしまう。 ≪混沌の力≫を抑えつつ、その上で分身体をこの地に送るまでの事をやっている。 これだけでも、普通とは一線を画していると言えた。


「クレア爺さん。 幾ら爺さんでも、もうきついのだろう?」

「…………」

「だから、任せてくれないか。  俺なら、そこにある≪混沌≫を何とかで出来ると思うから」

「……まぁ、であろうな。 わしとて、≪混沌≫を操り行使するなど出来はしない。 唯一お主だけが、現時点でこの世界において可能なのだからな」

「ああ。 必ず何とかして見せる。 だから、教えてくれ。 クレア爺さんが、本来いるその場所を」

『……え?……ええっ!?』 


 俺の指摘を聞いたミリア達が、揃って驚きの声を上げた。

 それも仕方がないだろう。 実際目の前に、クレア爺さんが居るのだから。 しかしあくまで分身体であり、本体ではないのだ。

 そんな驚きを露にしている仲間達の中で、ただ一人だけ驚きの直後に真剣な表情となった者が居る。 それは、魔術師のアローナだ。 彼女はじっとクレア爺さんを見ていたが、やがて意を決したかの様に近づいていく。 やがてアローナは、ただ一言問い掛けていた。


「も、もしかして……ど、ドッペルゲンガー?」

「ふむ。 そう言えば、そなたら魔術師はその様な研究をしていると聞いてはいたが」

「え……っと。 アローナ、どういう事かしら?」


 クレア爺さんとアローナの会話を聞き、ミリアが伺う様に訪ねている。 ただそれは他の面子も同じで、俺を含めて視線で二人に問い掛けていた。 そんな視線を感じ取ったのか、アローナは少しばつが悪そうになる。 それから一つ咳ばらいをすると、問い掛けた理由を話し始めた。

 アローナ曰く、魔術師の間で研究がされているらしいある魔術があり、それがドッペルゲンガーと仮称されている魔術なのだそうだ。 仮称なのはまだ完成していない術で、正式名称ではないからだそうだ。 そしてその魔術なのだが、ある術を参考に考えられている。 その術とは、竜術と言われるドラゴンやドラゴニュートにしか使えない術であった。

 竜術の中で高位の術に、クレア爺さんが行っている分身体を作ると言う術があるらしい。 その術の存在を知った魔術師の一人が、何とか魔術でも出来ないかと研究を始めたのが切っ掛けだったそうだ。

 しかしながら前述した様に、未だ持って完成はしていない。 何せ高位の術とあってか、ドラゴニュートでは使える者もあまりいないからだ。 ドラゴンならば使える存在もいるのだが、そもそも彼らは人間や亜人に協力的だとは言えない。

 但し、個人ではいるのかもしれないが。

 何であれドラゴンに協力する意思などない以上、殆どの魔術師が術の行使をその目で見た事がないらしい。 そんな幻とも言える術を前にしたのであるならば、アローナがクレア爺さんに話しかけている時に声と体が震えていたのも納得できると言えば納得できた。

   

「……そう言う訳で、少なからず研究している魔術師はいるの。 ただ、あたしはしていないけどね」

「なんでだ? お前、そういうの好きだろう」

「あのね、兄貴。 私は研究室に籠っている訳じゃないの。 旅の空で、そんな事ができますかって言うの。 少し考えれば、分かるじゃない」

「ふーん、なるほどね……うんうん」

「兄貴、理解してないでしょう。 ま、いいわ。 研究はしていないとは言え、気に掛かる魔術でもあるからね。 それで、思わず訪ねちゃったと言う訳よ」


 ウォルスのある意味でおざなりな態度に若干気分を悪くしたようだったが、アローナは直ぐに切り替えている。 それから全員に話しかける様に、クレア爺さんへ問い掛けた理由を話していた。

 まぁ、確かに使えたら面白そうだとは思う。 だが今は、クレア爺さんの本体がいるであろう場所を聞くのが先決と言えた。 そこでじっと爺さんを見ると、まるで全てを見透かすかの様な目を向けてくる。 その視線を真っ向から受け止め、真っ直ぐ見つめ返した。

 長いとも、短いともとれる視線をまじわったが、程なくしてクレア爺さんが視線をいったん外す。 だが直ぐに視線を戻すと、ゆっくりと口を開いた。


「……確かに、きついのは事実か…………いいだろう、エムシン。 そなたの目、信じる事にしよう」

「ありがとう、クレア爺さん。 それで場所だけど、何処なんだ?」

「大陸南部に存在する山岳部に、人間の王国であるガディア王国があるのは知っているな。 それよりもさらに南、大陸の南端にある人も住まぬ小さな半島全てに広がる魔の森。 そこが、わしのいる場所じゃ」


 ガディア王国は、この大陸にある五ヵ国の中で唯一竜騎士を擁する国家である。 それ故にその軍事力は、大陸中最大の軍事力を誇ると言われる国家、リガデル帝国にも匹敵するとさえ言われていた。

 そんなガディア王国は山岳国家であり、大陸南部に存在する山岳地帯を領土としている。 そのガディア王国が存在する山岳部を越えたその先に、一つ半島がある。 そこはどこの国家の領地でもなく、事実上放棄されているとミリアから聞いていた。

 条件としては温暖であり、寧ろどうして放棄されているのだろうと聞いた時に首を傾げたが、それも魔の森の事を知るまでだった。 その魔の森だが、植生や生態系が乱雑でとてもではないが手出しができない魔境だと書物にも記されているらしい。 その為、どの国も半島については無視しているのだとミリアから教えられた。 

 それならば仕方がないのかと聞いた時から思っていたのだが、まさか自身が深く関わっていたのは想定していなかった。 クレア爺さんの本体がそこにあると言うのだから、残滓ではない「混沌の落とし児」たる前の俺が最後に命を落とした場所であるのは間違いない。 つまり、そこに元からあったのだろう森を魔の森としてしまった理由が自分だという事は明白だった。


「分かった。 直ぐにでも行くよ、クレア爺さん」

「うむ「ちょっと待て、エムシン。 本気で言ってるのか?」

「ああ。 本気だ。 ギルドの推奨とか関係ない。 これは……俺自身の問題だ」

「そうか。 お前の問題か……分かった。 じゃ、行くか。 リーダーがこう言ってるし」

「そうね」

「あたしは、竜術が気になるし」

「神に仕える者として、悪魔は捨て置けません」


 ウォルスの言葉を聞いて間髪入れずに答えると、何とウォルスがミリアがアローナがディアナが同行すると言ってくれる。 一人でも行く気だった俺にとって、一緒に来てくれると言う言葉はとても嬉しい。 先ほども言った様に、俺が悪魔ブロルトに相対しようと言うのは矜持と言うかそんなものである。 言ってしまえば我儘わがままともとれる行動に、同行すると出してくれたのだから一入ひとしおだった。

 ふと見ると、クレア爺さんがこちらを見ている。 生暖かい様な視線に、何故か照れ臭くなった。


「ふっ。 では明日にでも、移動を開始する」

「えっと……ミリア」

「はいはい。 大丈夫よ」


 こうして俺達は、翌日に出立することにした。

 明けて翌日なって日が昇ると、朝食をとる。 それから爺ちゃんの墓に今一度挨拶をしてから、魔の森へ向けて移動を開始する事にしたのだった。


あんまり話が進んでいないような気はする……気のせいだきっと。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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