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第三話~図書館~


第三話~図書館~



 町に付いた俺達は、入り口で受付を済ませると町に入った。

 なおギルドカードがある場合、ギルドの保証がある為に大分簡素化される。それでも面倒くさいことに変わりはないが、楽になるのは間違いなかった。

 町に入った俺たちは、まずギルドへと向かう。するとそこには、朝ほどの喧騒は無い。それなりに人はいるが、混雑しているとは感じはしなかった。

 ミリアは少しギルド内を見回していたが、やがてカウンターに向かう。そのあとを、俺も付いていく。そこが、換金をするところだからだ。

 因みに、オークから剥ぎ取りはしていない。正確には、する必要が無い。なぜなら、買い取り部位がないのだ。


「換金お願い、私と彼の分」


 あとでいいと考えていたのだが、いきなりミリアにうながされる。慌てて、討伐証明部位と依頼の薬草の束を袋から取り出した。


「確かに数はあるな。それとオーク……六体? おい、あんたたち。どこで討伐した?」

「どこって、ここから半日ぐらい離れたところだけど、それが?」

「半日だと!? それは本当か!」


 報告を聞いたギルドのスタッフに、なぜか驚かれる。思わずミリアを見たが、ミリアも首を傾げるだけだった。


「いや、嘘をいってもしょうがないだろう。もし信じられないというなら、現場まで案内するよ。他の魔物なんかに喰われていなけりゃ、見付かるだろうし」


 そういいつつ、内心では今さら行っても見つからないだろうと思っている。それは、俺が住んでいた森ではそうだったからだ。

 何せ森では下手をすると、食料の為にと狩った獲物ですらその場で狙われる。俺自身や、死んだ爺ちゃんも含めてであった。


「いや、それはいい。半日も経っていれば、死骸などないだろう」

「あ、そう。なら、それでいいけど」

「と、そうだ換金だったな」


 ギルドスタッフが奥に引っ込むと、やがて戻って来た。

 スタッフの男は、カウンターの上に置き皿を置く。その皿には硬貨が入っていたので、その金を取ろうとした時にカウンター越しではあるがギルドのスタッフから声が掛かった。


「あ、それからオークを倒した場所の方角だけは教えて欲しい」

「いいけど……」


 何でそんなことを聞くのか分からなかったが、別に隠しておくことのものでもない。一つ肩を竦めてから、聞いてきたスタッフにオークを倒したおおよその場所を伝える。そして今度こそ金を皿から掴むと、ギルドの建物から出た。



 こうしてギルドを出たあと、ミリアから宿屋に心当たりはないかと聞かれたので宿泊している宿へ案内する。やがて到着した宿屋に別に不満はなかったらしく、ミリアは取りあえず五日の宿泊費を払っている。そのあとで、俺も同じく五日分の宿泊費を払っておいた。


「良かったよ、お客さん。今日払われなかったら、部屋を開けていたよ」

「へ?……あっ」


 宿屋の女将さんからの言葉に、三日分しか払っていない事を思い出した。思わず後頭部に嫌な汗をかきつつも、間に合った事に安心しつつミリアと共に部屋へと向かう。

 因みにミリアの部屋は、同じ階の隣だった。


「じゃ、後で」

「ああ。取りあえず食事だな」

「そうね」


 部屋に入った俺は、まず肩から荷物を下ろす。そして着替えてから部屋のベッドに腰を降ろす、何となく安心した。

 装備を外したことで気持ちが幾分軽くなったのだろうと漠然と考えていた時に、扉の外に気配を感じる。その直後、扉がノックされた。気配から大体誰だか分かっていたので、さほど警戒することなく扉を開くと、果たしてそこには鎧を脱いだミリアがいた。

 但し、俺と違って武器だけは佩いているが。


「じゃ、行きましょう」

「ああ」


 連れ立って降りた食堂で椅子に座ると、食事を注文する。俺が頼んだのは、お勧めメニューだ。料理する人間が適当に選んで構成されたセット物らしいので、いちいち内容を考えないですむ。そしてミリアは、スープを中心とした肉のない料理だった。


「そんなので、体が持つのか?」

「私、あまり肉って好きじゃないの」

「へー、そうなのか」

「全く食べないという訳じゃないけどね」


 それから暫く俺たちは、しゃべりながら食事が出てくるのを待つ。もっとも、殆ど俺がミリアに疑問を投げかけていたのだが。

 それというのも、俺はあまり森から出たことがないので、各国のことについてもよく知らないのである。だからこれ幸いにと、ミリアから情報を得ているのだ。

 そんな話で時間を潰していると、料理が運ばれてきた。


「お待たせしました。キノコスープと野菜のサラダ、それとお勧めセットです」

「おっ、来たな」

「そちらのお客さんには、後で果物お持ちしますね」

「ええ、お願いね」


 宿屋の娘から告げられたミリアが答えると、彼女は厨房の方に向かっていく。恐らく、次の料理を運ぶ為だろう。すぐに興味をなくした俺は、運ばれて来た料理に手を付けた。


「うん、美味い」

「あら、悪くないわね」


 前にこの宿に泊った時も思ったことだが、ここの料理は値段の割には美味しいのだ。

 安く美味く食える料理に、不満など有る筈もない。俺もミリアも、舌鼓を打ちながら料理を堪能していた。すると最後に、ミリアの果物が出てくる。それをミリアが食べ終えてから、勘定を払うと、一旦部屋に戻ってから風呂に入った。

 水浴びや体を拭うだけとは違い別料金が掛かるのだが、オークを倒したお陰で懐が暖かいことと綺麗に埃を落としたいという気持ちも相まって風呂を利用する気になったのだ。風呂で誇りを落とし、ホカホカ状態で風呂を出た俺は部屋に戻る。そして部屋の鎧戸を開けて風を通し、火照った体を冷やしていく。やがて体の熱も収まると、鎧戸を閉めた。


「さて、と。武具の手入れでもするか」


 鎧戸を閉めたあとで、身に付けていた鎧と籠手を取り出すと手入れを始めた。

「本格的な手入れは武器屋や防具屋でないと無理だが、日頃の手入れが武具の寿命を延ばす」と爺ちゃんに散々口煩く言われたのだ。子供の頃は「そんなことあるもんか!」と反発していたが、実際問題として俺が子供の頃に使用していた武具と爺ちゃんの扱っていた武具では全然持ちが違っていた。

 流石にそれ以降は、爺ちゃんに教わりながらちゃんと手入れをするようになった。

 そんな子供の頃のほほえましい思い出はひとまず置いておくとして、今は手入れである。めつすがめつ眺めてみたが、籠手も鎧も特に問題がある様子はない。そのことに安心しながら武具の点検を終えた俺は、明日の予定を考えた。


【やっぱり森にいたせいか、各国の情報とかに俺は疎いな……そういえばこの町、図書館あったよな。明日当たり、行ってみるか】


 そう結論付けると、俺はベッドへ潜り込んだ。

 翌日、いつものように朝の鍛錬を終えてから朝食を取る為に食堂へ向かう。するとミリアも起きており、食堂に腰を降ろしていた。


「ミリア。俺、今日は一日図書館に行く」

「え? 何で?」

「昨日、ミリから聞いて色々うといなと思ったんだよ。その辺りを調べてみようかと」

「ふーん、分かったわ。私も、レイピアを武器屋に出したいしいいわよ」

「何かあったのか?」

「昨日のオークとの戦いで、少し無理させちゃったみたい。何となくだけど、違和感あって」

「そりゃ、すぐに行った方がいい」

「ええ、朝食後にね」


 その後、朝食を注文し平らげてから宿屋を出ると俺は図書館へ、ミリアは武具屋に向かった。



 図書館は公営であり、入るには金が掛かる。しかし一回入れば図書館から出ない限り何冊読もうが勝手である。そういう意味では、本を買うより遥かに経済的だといえた。

 ただ閉館時には、追い出されるが。

 そんな図書館の入り口で金を払った俺は、各国に付いて記された本が置かれているエリアへと向かう。そこで適当に本を取り出すと、読み始めた。

 何となく手にした本にはその国独自の習慣が乗っていたり、土産物が列挙されていたりと中々に面白い。さらに何冊か読んだ俺は、時に感心し時に驚きながら本を読んでいたのだが、いつの間にか昼を過ぎていた。


「んー、一息入れるか」


 俺は読み終わった本を本棚へ戻すと、体を伸ばす。暫く同じ体勢で固まっていた為か、固まっていた筋肉や筋などが伸びて気持ちがいい。それから持って来ていた荷物から水筒を取り出すと、水を口に含む。すると結構喉が渇いていたことに、今さらながらだが気が付いた。


「集中していたからか。 ま、割と面白かったし」


 少し休んだ後、体をほぐす意味も兼ねて目立たないところでストレッチを軽く行う。それから戻ろうとしたが、ふと図書館の入り口に見た顔があった。


「よう、どうしたミリア」

「あ、やっぱりまだいたのね」

「ああ。割と面白くってさ」

「へー、本の虫には見えないけど」

「何だ失礼だなっ!……っていいたいところだけど、当たり。 面白かったから、のめり込んでいただけ」


「ずーっと部屋に籠って本を読め!」などといわれたら、間違いなくはだしで逃げ出す自信があるのだ俺は。


「そうなんだ……それにしても、時間が中途半端よね。今さらギルドへ行っても、この時間じゃ仕事少ないでしょうし」

「やっぱりそうなんだな。俺もそういわれたよ、ギルドで初めて受付した時に」

「んー……よしっ! 私も付き合うわ」


 少し考える様な素振りをしたと思うと、ミリアは俺につきあうと言い始めた。旅の先輩であるミリアが近くにいてくれることは、非常にあり難い。疑問に感じたことを、すぐに尋ねられるからだ。

 だが、無理につきあって貰うのも気が引ける。俺は念の為、その旨をミリアに尋ねてみた。


「いいのか? 俺の知りたいことなんて、ミリアは既に知っているだろう」

「別にエムシンと似た本を読む訳じゃないわよ。ああ、安心して。尋ねられれば、ちゃんと教えるから」


 俺にウインクをしながらそう答えたミリアは、受付で金を払うと図書館の中で俺と並んで腰を降ろす。そのミリアが手にしている本は、大陸各地に伝わる伝承か何かが記載されている本のようであった。


「ふーん、伝承かぁ。やっぱり、そういうのも読んだ方がいいのかな」

「いずれは、読んでおいて損はないと思うわよ。でも今は、まず各国のことを知りなさい」

「はーい、せんせい」

「よろしい」


 俺とミリアは小さく微笑むと、それぞれ本を読み出すのだった。



 結局、図書館が閉まる時間まで居座っていた俺とミリアは、宿屋へ向かっている。すると夕焼けの太陽が俺とミリア、そして町と帰宅を急ぐ町の住人を照らしていた。


「あー、肩凝ったなぁ」


 俺は、ほぐす様に肩を回してみる。お蔭で、少しは軽くなった。


「そうね。本と二重で肩が凝ったわ」

「二重? 何だ二重って」

「な、何でもないわっ!」

「そうか? なら別にいいけど」


 心なしかミリアの顔が少し赤いような気はしたが、夕日に照らされているからかも知れない。何より別段気にすることでもないから、俺は視線を外して正面に目をやる。するとミリアが俺の横で、安堵の息をついていた。


「さて、と。 明日はギルドで仕事を探すか」

「あら。明日も図書館に行くのかと思ったわ」

「そう一遍に詰め込めるような、ハイスペックな頭じゃない。残念だけどな。体を動かす方なら、いけるけど」

「ま、そうよね。オークとの戦いの時の動きを見てれば……ところで、あれって本気?」

「全力って意味か? それなら違う」

「そうなのね……私も教えて欲しくなるわね」


 はて?

 精霊術を使う精霊使いのミリアが、近接戦闘を覚えてどうするというのだろう。頭を捻って考えてみたが、答えは出ないなら本人に聞いてみるかと、ミリアに尋ねてみた。


「なぁミリア。近接戦闘を主体とする俺の戦い方、覚えてどうするんだ?」

「教えて欲しいのは、たい捌きよ」


 ミリアの言葉に俺は漸く納得した。そういう意味だったかと。


「ああ。 護身とか、防御的な意味か。そういうことなら良いぜ、お互いの為にもなるし。それで、いつから行う?」

「そうねぇ……いつなら良いの?」

「朝以外なら、俺は別にいつでもいい」

「何? 朝って」

「俺は大抵、朝に修練を行っている。流石に、邪魔をされたくない」

「あ、そういうことね」

「そういうことだ」


 納得してくれたようで、安心したのであった。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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