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第三十三話~炎の悪魔~


第三十三話~炎の悪魔~



 トラップなのか偶然の産物なのか判別できない溶岩の川やら飛び石状になった道、またそう言う場所を狙ったかの様に襲って来る魔物などをどうにかやり過ごした果てに辿り着いたのが、やはりガーディアン部屋と思える場所だった。

 そう思った理由は、見た目の変化だ。 今まで続いた自然の洞窟の様相から、階段を下りてみれば石づくりだと思われる様相に変わっている。 ただ触ってみても、石なのかそれとも違うのかは相も変わらず分からない。 石の様な手触りの様な気もするし、違う様な気もするのだ。

 そんな床を足でトントンと突つきつつ、ミリア達の方を見ながら尋ねる。 するとそれには同じ考えらしく、皆も頷いていた。 この手の事にメンバーの中では一番詳しいと思うアローナも頷いているのだから、他の面子が良く分からないのは仕方が無いのだろうきっと。


「考えても仕方が無いし、先に進むかどうかを決めようよ。 と言っても、今更戻るなんて選択はないと思うけど」


 まぁ、それはアローナの言う通りだろう。

 戻ると言っても、十階ぐらいは階段を上る必要がある。 その間、またあの熱地獄を戻るなど正直ごめんである。 つまりは少し先に鎮座する扉を開いて、先に進むしかないのだ。

 ただ一つ、不思議と言えば不思議な事がある。 周りが石づくりと思われる場所に居るにも拘らず、熱を感じる事だ。 通過した階層より暑いなんて事はないが、その原因と思われた溶岩が無い。 それなのに暑いのだ。

 とは言え、分からない物は分からない。 何かの切欠で調べる事が出来たなら、その時調べる事にすればいい。 そんなチャンスが来るかどうかなんてのは、全く持って分からないのだが。

 

「じゃ、行くとするか。 まさか反対はしないよな」


 一応ミリア達に尋ねるが、皆は首を縦に動かす。 やはり、あのクソ暑い道を戻ると言う選択はしたくない様だ。 必要ならば暑い中を引き返すのも吝かではないが、今必要かと言われれば首をかしげざるを得ない。 先に居るだろうガーディアンの強さは分からないが、少なくともこのまま戻ると言う選択を優先させる理由に今はなっていないのだから。

 兎にも角にも、皆からの同意は得られたので取ってに手を掛けると、ゆっくりと扉を開く。 それと同時にミリアが、光の精霊であるウィラザウィスプを隙間から中に飛ばす。 白々とした光に照らされた場所は、やはりただ広い空間だった。

 だが、以前のガーディアン部屋とは違うところもある。 この部屋には、今まで部屋に鎮座していたガーディアンに当たるゴーレムが居ないのだ。 それどころか、何も存在していないのである。 気配も全く感じられず、光が届かに様な場所に隠れているとは思えなかった。

 ミリアもそれは考えたのか、ウィラザウィスプを操って部屋の中を移動させている。 しかしそれらしい影は、全く持って存在していなかった。


「どういう事だ? ガーディアンの部屋じゃないのか?」

「でも、構造は全くそっくりだよね」


 取り敢えず危険はないと判断した俺達は、全員で部屋の中に入った。

 中に入ると、早速と言った感じでアローナがざっと調べているが彼女の言う通り取り分けて変化がある様には見えない。 ミリアが光源確保の為に追加で一体のウィラザウィスプを呼び出しているが、その光に晒されても特段の変化がある様には感じられなかった。


「やっぱり、変化は無しだな」

「その様ですね、エムシンさん」


 相変わらずディアナは、丁寧な言葉で応答してくる。 ウォルスやアローナには普通に話しているのだから、元からと言う事はない筈だ。

 「ま、今更出しそのうちに話してもくれるだろう」などと考えながら何となく部屋を眺めていたのだが、ふと何か違和感を感じる。 始めは全く気にもならなかったのだが、何かが違う。 そんな気が、し始めたのだ。

 俺は違和感の理由を探るべく、今度は慎重に部屋を見てみる。 そんな雰囲気に気付いたのか、ミリアが話し掛けて来た。


「どうしたの? エムシン」

「いや。 はっきりとした感じじゃないんだが、こう違和感があるんだ」

「違和感?」

「ああ。 何だと言われると答えられないんだが、何かが違う。 そんな感じだな」

「違和感……ねぇ」


 ミリアは、半信半疑と言った感じだ。

 まぁ、自分としても自信がある訳じゃない。 気のせいだと言われれば、それまでなのだ。 だけど、やはり気になるのは事実だ。

 一応、ミリアがアローナ達に言っているみたいなので、そちらは任せるとしてより注意深く部屋の中を観察する。 やはり部屋を調べていたアローナも、先程よりは慎重に調べている。 そんな殆ど手探りの状態でで部屋の中を調べるうちに、漸く俺は己の違和感の原因を突き止めた。


「出口が……ない……」

『え?』


 思わず漏れた言葉に、皆が反応した。

 自分も口に出してみて、漸く違和感の正体に気付けたくらいである。 つまりガーディアン部屋と思われる此処には、今までの部屋と違い入って来た扉の他に扉が見当たらないのだ。

 今までであれば、ガーディアン部屋は通過の場所であった。 必ず入って来た扉の他にももう一つ、扉があったのである。 しかしこの部屋には、入って来た扉以外には全く見受けられないのだ。

 この事実に思わず首を傾げた瞬間、部屋の中にいきなり気配が現れる。 すぐ近くに感じた気配に、咄嗟に飛びのた。 それが吉であったらしく、直前まで居たその場所を何かで薙ぎるのが見て取れる。 それでも完全にとはいかなかったらしく、自分の髪がハラハラと目の前を散っていくのが見えた。


「ほう。 まさか避けるとはな」

「誰だ!」

「誰とは挨拶だな。 俺は一時も忘れた事など無いと言うのにっ!!」


 敵意や憎悪と言った感情を迸らせながら、不意打ちをして来た存在が言う。 そこに居るのは、ローブを纏っている男だった。 年の頃なら、三十~四十ぐらいだと思われる。 そんな男が、俺を睨んでいるのだ。

 だが、正直に言って心当たりが無い。 少なくとも記憶にある中で、目の前の男から怨みを買った覚えなど無いのだ。


「……えっと…………誰?」

「オノレッ! 愚弄するかっ!!」

 

 目の前の男は怒りを露わにしているが、見覚えがない。 思わずまじまじと見てみたが、やはり記憶にないのだ。


「ねぇ、エムシン。 あなた本気で言ってる?」

「本気って何が?」

「……本当に本気なのね……」


 一瞬言葉を切らしたかと思うと、ミリアが呆れた様に言う。 だが、記憶にないのだからしょうがない。 ない物は無いとしか、言い様が無いのだ。

 そんな態度が更に気に触ったのか、目の前の男は怒りを募らせている。 まるで癇癪を起こしているかの様に、手にした剣を振りまわしていた。

 そんな男をもう一度見ながら、思いだそうとするがやはり思い出せ……ん? いや、どこかで見た様な気がして来た。 何処でだっだかと思い出そうと考えた時、ミリアが溜息を一つ吐く。 それから額に手をやりながら、男の正体を教えてくれた。


「私達が、アローナ達と会った遺跡。 あそこで妖しげな術をしていたでしょ」

「あ?……あーあー! 思い出した! あの暗いローブ男か」


 ミリアにいわれてようやく思い出した。

 確かにウォルスやアローナ、それにディアナと出会ったあの遺跡に居た男だ。 遺跡の調査で向った先で生贄と称して、ディアナを殺そうとしていた奴に間違いない。 正直に言って気味の悪い男だったし、いわゆる狂信者って奴らしかったから覚える気もなかったのだ。

 そう言えば、名前も知らないな。


「てめぇ! 本気で忘れてやがったのかっ!」

「いや、覚えておく理由がないし」

「ふっざけんなっ!!」


 その瞬間、男が手にした剣から炎が噴き上がった。  

 まさかの現象に驚き、思わず剣をまじまじと見てしまう。 そんな俺達の様子を見てかどうか分からないが、男は得意げな表情をしている。 だが、そんな事など全然気にならない。 それぐらい、目の前で起きた出来事に驚いたのだ。

 はっきり言ってしまえば、そんな剣など聞いたことが無い。 図書館で調べた際にも、そんな武器があるなど載っていなかった。 炎の属性を持つ武器ならば、魔法の武器として読んだ本にも記載されている。 だが、炎を噴き出す武器があるなど少なくとも見た本の中では一つも出て来なかったのだ。


「……まさか、炎の剣……」


 そんな剣を見て驚いている俺の横で、ミリアが呆けた様に呟く。 するとその言葉に反応した様に、アローナとディアナがミリアに視線を向けた。

 どうやら、三人には心当たりがあるらしい。 すると俺と同じ様な表情をしていたウォルスが、ディアナへ確認する様に声を掛ける。 その言葉に頷くと、まるで説明でもするかの様に炎の剣について話し始めた。

 最も、そんな長い話しでは無い。 要は炎の剣とは、炎を司る魔神であるブロルトが生みだした剣らしい。 そしてブロルトは、いわゆる堕ちた神であり今の認識では悪魔と言う事らしい。 最も炎の剣自体は、ブロルトが魔神であった頃に生みだした剣なのだそうだ。


「何でそんな神話級の武器を、持ってるんだ?」

「そこまでは分からな「ならば教えてやろう!」い」


 さも偉そうに、男がミリアの声を遮る。 その姿はとても居丈高いたけだかであり、得意げだ。 正直聞くのもなんだなと思わないでもないのだが、教えてくれると言うのであるならば聞く事にする。 もしかしたら思いも掛けない情報が、入るかもしれないからだ。

 周りに目配せすると、皆頷く。 どうやら、考えは同じらしい。 俺達は警戒だけは解かずに、男の言葉に対して応とも否とも答えなかった。

 そんな事らの態度をどう思ったのかは知らないが、男は満足そうな表情をする。 それから、ゆっくりと口を開いた。


「当然! 俺が、選ばれた男だからだ。 だからこそあのお方が、この炎の剣ヴァルンを授けて下されたのだ!!」


 炎の剣は、ヴァルンと言うらしい。

 それはそれで良いのだが、随分と男は気になる事を言った。 選ばれた云々はどうでもいいとして、ヴァルンを授けられたのだと言う。 文献にも出ていない様な武器を授けることが出来るなど、どうやったら可能なのだろうか。

 その事を不思議に思い、ミリアに尋ねようとしたが声を出すのが憚られた。 と言うのも、ミリアもそうだがアローナもディアナも驚愕の表情をしていたのである。 その驚き具合に、声を掛けるのを躊躇ってしまったのだ。


「炎の剣を授けた……と言う事はあのお方って……まさかっ!!」

「ほう。 流石は神官、気が付いたか。 そうだブロルト様だ。 あの偉大なお方が、我が呼び掛けに答えて下され


たばかりか、ヴァルンを授けて下さった。 それだけでは無い、お力も分け与えて下さったのだ!」


 完全に自分の言葉に酔っているらしく、恍惚こうこつとした表情をしている。 その上、視線も何処を向いているのか分からなかった。

 まぁ、それも正直どうでもいい。 確かに想定通り情報は入ったのだが、碌でもない情報だ。 悪魔が動いているなど、知りたくはない情報なのだから。

 同時に、放っておける物でもない。 希望的観測で物を言えば、悪魔ブロルトの気が向いたからで済まされるかもしれない。 ミリアの話しでは邪神や悪魔は享楽的らしいからだ。

 しかしそうでなかった場合、どうなるか分かった物ではない。 それこそ、町や国が滅ぶかもしれないのだ。

 そんな最悪とも言える想像が頭の中で描いてしまったその時、男の近くに微かな違和感と言うか何かを感じる。 何故なぜかその何かが凄く気に掛かり、恍惚な表情をしている男すら無視してその何かの存在を探った。


【ほう? 気が付いたのか】


 その瞬間、頭の中に直接声が響く。 声自体は大きい物ではないが、とても楽しげである。 しかしそれ以上に、声に込められた何かに一瞬よろめいてしまう。 それでも頭を振って意識をはっきりさせると、ある場所へ視線を向けた。

 それは、先ほど感じた何かの場所である。 理由は分からないが、何故かそこに元凶がある様な気がしたのだ。

 すると今まで恍惚の表情を浮かべていた男が、今度は喜びの表情をする。 そして少し周りを見回すと、俺が見た場所に対して恭しく膝をついて頭を下げた。

 次の瞬間、部屋が物凄く明るくなる。 その明るさに、思わず目を瞑ってしまった。 同時に、凄まじい気配を感じる。 目を瞑っているだけに感じられたその気配に、内心驚いてしまった。

 程なく瞼越しにも感じていた紅い光も感じられなくなり、ゆっくりと目を開ける。 視界に入って来たのは、未だ跪いている男とローブを目深まぶかに被った男だった。


「誰……いや何だ?」

【何とは御挨拶だな。 分け身とはいえ、態々現れてやったと言うのに】


 相変わらず頭に響いて来る声に、顔を顰める。 だが二度目と言う事もあって、一回目程の衝撃は受けなかった。


「現れてやった?」

【今の今まで話していたではないか、そこの僕と】 

「話していた?……って、まさかっ!」

【そうだ、ブロルトだ。 そなたらの言い方では、悪魔ブロルトか?】


 楽しげな雰囲気を滲ませながら頭の中へ響いてきた声に、皆が皆驚愕の表情を浮かべてしまうのであった。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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