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第三十二話~溶岩エリア、進行中~


第三十二話~溶岩エリア、進行中~



 この溶岩エリアだが、暫く進むうちに少々面倒なことが判明した。

 溶岩の川や湖と言うか池と言うか、兎に角その様な場所の中に魔物がいると気配を探りにくいのだ。 近づけば気配を探れるのだが、ある程度の距離があると気配を捕えずらい。 その為、敵の気配に勘づく前に敵から攻撃を受けることがしばしばあった。

 そんなメンバーの中で、精霊使いのミリアだけは例外である。 と言うのも精霊使いは、精霊の存在有無によってそこに何かが居ると判別することが可能らしい。 逆にゴーレムなどの、精霊が介在しない様な存在は捕える事は出来ないとの事だった。

 その為、相も変わらず一行の先頭はミリアが務めている。 彼女が溶岩の中に潜む魔物の存在を感知する事で、対応しているのだ。 だが対応と言っても、何時でもカウンターを放てる様に身構えるぐらいしかできない。 ファイアバットの様な此方から手を出さなければ何も反応しない相手なら問題はないのだが、サルマンドやフレイムフィッシュの様な溶岩の中に居る魔物に対しては手出しなど出来ないからだ。

 幾ら耐火のアミュレットを持ち、かつ精霊の力で温度を下げて貰っているとはいえ溶岩に直接触れたりしたら無事では済まないのである。 よくて火傷で、最悪の場合は死亡するのは間違いなかった。

 だがこの溶岩の存在は、此方にも一応の恩恵を齎している。 それは幾ら溶岩に潜む魔物であっても、流石に溶岩の中に居ては此方を攻撃できないと言う事である。 魔物が溶岩から顔を出すか、若しくはサルマンドと取った行動の様に実際に陸地まで上がって来るかしなければ此方を攻撃できないのだ。

 そしてそうなれば、反撃も可能である。 例え溶岩の中から顔を出して攻撃したとしても、その瞬間は溶岩から肉体の一部が出ている。 そんな魔物に攻撃を加えれば、ダメージを与えられるのだ。

 最も一撃で相手を屠るか瀕死の状態にまで持っていかないと、魔物に逃げられてしまう可能性があるのだが。


「飛衝拳! ったく、面倒くさい」


 溶岩の川から顔を出したフレイムフィッシュが、口から炎の塊りを吐き出して来た。

 何度目か分からない魔物からの攻撃だが、回数が増えればいい加減に慣れる。 フレイムフィッシュが放った炎の塊りをかわしつつも、カウンター気味に技を放つ。 するとその攻撃は、首尾よく溶岩の川の中へ戻ろうとする魔物を捕えていた。

 衝撃を伴う技を喰らったフレイムフィッシュは、溶岩の川から吹き飛ぶ。 そのまま、人が歩ける地面の部分に落ちたフレイムフィッシュはビチビチと跳ねまわっていた。


「うん。 流石は魔物だね。 陸地に上がっても、活きがいい」

「アローナ。 それって感心するところ?」

「そうだよ、ミリア。 非常に興味があるからね」

「……ああ、そう言う意味なの」


 どうやらアローナは、魔物の持つ生命力の強さに興味があるらしい。 何でそんな事に興味があるのか、全く理解など出来ない。

 最も、する気もないが。

 基本的に討伐を前提とした行動しているので、魔物の生命力の強さなど厄介でしか無い。 普通の猪などならば致命傷となるダメージを与えたとしても、魔物ならな生きている可能性の方が高いからだ。

 無論怪我を負った状態ではあるので、幾ら生命力が強い魔物であったとしても動きなどはいささか鈍る。 しかしだまだ動けると言う事実は変わらないので、魔物に大怪我をさせたと思って油断をしていると逆に自分達が狩られる事になってしまいかねないのだ。

 それは兎も角として、陸に上がったフレイムフィッシュがどうなったか。

 視線を向けると、それなりに弱っている様子が見て取れる。 それにフレイムフィッシュは魔物だが、基本形態は魚なので陸の上では殆ど行動出来ないのだ。 それでも通常の魚の様に跳ねる事で、方向の転換は可能らしい。 この意味でも油断をしていると、口から炎の塊りを吐かれて火傷を負ってしまいかねなかった。

 しかしよく気を付けておけば、まず喰らう事はない。 フレイムフィッシュは、跳ねる事ででしか大雑把に方向を変えられないのだから。


「さて、アローナ。 そろそろ止めをさしたいんだが……」

「えー。 もう少し待ってよ兄貴」

「いいや、待たない。 大丈夫だとは思うが、変な反撃など喰らいたくはないからな」

「そっか……そうだね。 じゃ、どうぞ」


 このまま放っておけば何れ死ぬか、運が良ければ溶岩の川に戻れるかもしれない。 しかしそんな事を待つ必要はないので、止めをさす事にする。 アローナがフレイムフィッシュから距離を取って、自らの安全を図る。 すると代わりにウォルスが進み出ると、バスタードソードを逆手に持ち振り下ろした。

 剣の一撃を喰らったフレイムフィッシュは、一つ痙攣してから命のともしびを消した。

 さてこの階層まで下がって来ると質は置いておくとして、魔物は大体魔石を持っている。 そこで探してみると、やはりフレイムフィッシュから魔石は見付かった。

 しかし、魔石の質としては階層に比べるとやや悪い気がする。 ただそれは比較の問題なので、それなりの値段で売買される事は間違いなかった。


「ほい。 ディアナ」

「はい」


 アイテムの管理を任せているディアナに、フレイムフィッシュから採取した魔石を放り投げる。 彼女は空中でキャッチすると、丁寧に扱いながら魔石をしまっていた。

 ディアナが魔石をしまったのを確認すると、そこから移動を始める。 フレイムフィッシュは剥ぎ取るところが無いので、魔石以外に用は無いのだ。

 流石は魚、といったところであろう。


「ミリア。 他に居るか?」

「うーん。 居る事はいると思うけど、此方に向かって来るか分からないわ。 魔物の方が気付いていないという可能性もあるのだけれど……」


 この溶岩エリアに入ってからだが、基本的に道の真ん中を通る様にしている。 こうして進むと、溶岩の川や溶岩の池のすぐ傍を進むより魔物から襲撃される確率が下がると言う事が分かったからだ。

 またその道に関してだが、道自体も広くなっているところの方が多かったりする。 勿論狭くなっているところも一部にはあるのだが、どちらかと言うと道自体が広いのだ。

 その意味でも、真ん中を通る様にしている。 魔物に襲われるなどは取りあえず置いておくとして、道の端を通るより道の真ん中を通る方が歩き易いという事実もあるのだ。

 そして道が広いお陰で、魔物に襲われて戦闘になったとしても場所的な制限をあまり受けなかったりする。

 何とも皮肉な話であった。


「じゃ、警戒を怠らずに先へ進むとするか。 先頭は頼むぞ、ミリア」

「ええ」 

 

 隊列は相変わらずミリアに先頭を任せて、この熱地獄の中を下へと向かっていった。

 さて、どれぐらい進んだだろう。

 ある階層に辿り着いた時、俺達は思わずと言った感じで立ち止まってしまう。 その理由は、目の前の光景にあった。

 とは言え、別に道が途切れて少し先から続いているとかそんな風になっている訳ではない。 ちゃんと道は、その先に通じていた。

 だが……


「…………これを行けって、そう言うのかよ……」

「……それしか無いでしょうね、エムシン」

「でも、ミリア。 これは無いんじゃないか?」

「じゃあ、迂回する?」

「そりゃ無理だ。 溶岩の川と溶岩の池ぐらいしか、行ける所ないだろう」

「じゃ、進むしかないわね」


 うん、分かっている。 それしか道が無いのは、分かっている。 そんな事は分かってはいるのだが、目の前の光景はきつい物があった。

 それと言うのも、道は確かに奥へと通じているだが、その道の上空を壁から噴出した溶岩がアーチ状に通過しているのだ。

 そして、アーチ状になった空中の溶岩から下へ向って溶岩の一部が零れ落ちて来ている。 しかし、とめどなく落ちている訳では無いので通過自体は可能なのだが、通過の際に溶岩を被る可能性があった。

 その上、その溶岩と道が立体交差している箇所を迂回する様な道は存在しない。 存在しない以上は、この道を進むしかなかった。

 その為にも、上手くタイミングを見極めて通過するしかない。 だがそれであったとしても、これは無いだろうと思えてしまうのだ。

 

「溶岩の雨なんて、一生味わいたくなかった」

「上手く通過すれば、まだ味わった事にならないよエムシン。 だから、元気出して行くべし」

「アローナは前向きだな」

「後ろ向きに考えても、しょうがないじゃん。 どの道、いかなきゃならないんだし」 

「それもそうか」


 確かに彼女の言う通り、先に進むのだから考えても仕方が無い。 それに考えたところで、今すぐ解決策が出て来るとは思えないのもまた事実だった。


「じゃ、覚悟を決めて行くとしますか」

「先ずは私が行くわ」

「え? いいのか?」

「先で魔物から襲われるかも知れない以上、探知できる可能性が高い私が先へ行くべきでしょ」


 ウインクしながらそう言ってから、ミリアは通過を試みる。 彼女は不規則に落下して来る溶岩の塊を上手くすり抜けて、無事に通過した。

 その次に通過を試みたのは、ディアナだ。 すると彼女も、ミリアと同様に上手くすり抜けている。 彼女の場合は、いわゆる神の御加護ってやつなのだろうか。

 その次に試みたのは、はアローナだった。 しかし此処で、思わぬアクシデントが発生する。 丁度彼女が通過しようとした際に、やや大きめの溶岩が零れ落ちて来たのだ。

 更に不味い事に、アローナが気付いていない。 彼女は通過に専念するあまり、いささか他への配慮を怠ってしまった為だった。


「あぶねぇ!」

「え? ちょっと、兄貴!」


 しかしその時、ウォルスが動いた。

 彼は咄嗟に、妹のアローナを突き飛ばす。 兄にいきなり突き飛ばされたアローナは、文句を言いつつ振り向く。 だがそこで初めて彼女は、溶岩の塊が落下して来ている事に気付いた。


「兄貴!!」

「全員避けろ! 飛衝拳!!」


 アローナの悲鳴の様な声と警告する俺の声、それと技の発動はほぼ同時だった。

 空中の溶岩から落下した塊は、飛衝拳が当たった事で吹き飛ばした。 その為、り構わずに溶岩の一部をまき散らしてしまう。 すると、ミリアとアローナとディアナは思いっきり後ろに飛んでいた。

 恐らく、危険を察知した咄嗟の行動だったのだろう。

 何であれ、危機を回避できた事で胸を撫で下ろしていた。 


「ふぃー。 危なかったなぁ、ウォルス。 大丈夫か?」

「……ああ、大丈夫だ。 助かった」


 自らに向かっていた溶岩の塊が吹き飛ばされた事を確認したウォルスは、既に通過していた。

 そこでざっと自らを確認してから、問題ない事を告げて来る。 その事に安心しつつミリアとアローナとディアナに視線を向けると、彼女達にも話し掛けた。 


「ミリアとアローナとディアナは大丈夫か?」

「ええ。 私は大丈夫。 アローナは?」

「うん。 あたしも大丈夫だよ。 ディアナ?」

「私も大丈夫です」


 どうやら避けるスペースがあったので、彼女達も何とか喰らわなかったらしい。 これで残すは、俺だけだ。 そこでタイミングを見計らってから、道を駆け抜ける。 するとぎりぎりのタイミングで落ちて来た溶岩の塊もあったが、何とか溶岩を浴びる事無くその場を通過出来た。

 全員がその場を通過してから、空中をアーチ状に道をまたいでいる溶岩を見る。 見ようによっては、空中に出来た溶岩の川の様でもあった。


「こうしてみると、空中に出来た溶岩の川みたいだな」

「本当ね」

「さて、と。 兎に角、無事に通過できたんだ。 さっさと進むとしよう、ミリア」

「そうね」


ご一読いただき、ありがとうございました。

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