表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/51

第三十一話~火属性の魔物~


第三十一話~火属性の魔物~



 階段を降り切った先は、ちょっとした広場になっていた。

 上の階では遮断されていた熱気だが、この階に降りると流石に感じる。 それは前に一回、階段を下りた時にも感じた訳だが、アミュレットの効果もあり抑えられているのだろう。 だが、きつい事には変わりが無かった。

 その時、ミリアがサイレントスピリッツを唱え始める。 やがて詠唱が終わると、ミリアの近くに気配を感じた。

 彼女はその気配に対して、サイレントスピリットで話し掛けている。 すると、今まできついと感じていた熱気も感じられなくなった。


「え? 何をしたミリア」

「火の精霊に頼んで、温度を幾分下げて貰ったわ。 本当なら、もっと下げられる筈なんだけど上手くいかないわ」

「何でだ?」

「力が及びづらいみたい。 より強い力が、ダンジョンに係わっているとか何とか」


 そんなミリアの言葉に、アローナが首を傾げた。


「そんな事、ありえるの?」

「さぁ。 私には分からないわ」


 肩を竦め、お手上げという仕草をしながらミリアはアローナに言葉を返す。 その返答を聞いて、アローナがブツブツと何か呟きだした。

 さりげなく耳を傾けると、所々が耳に入って来る。 と言うか、アローナの声自体が小さい為に、ところどころしか聞こえて来ないのだ。 そして聞こえて来る内容も、良く分からない。 「……ん献に記載さ……」とか「……そじゃなかっ……」などと呟いているのだ。


「おーい、アローナ」

「…………え? 何?」

「いや、何じゃなくてよ。 そろそろ、移動するぞ」

「へ?……あ、ああ。 ごめんね」


 謝る仕草をしながら近づいて来るアローナに、ウォルスは呆れた様な表情をしていた。


「だから、考えるのはダンジョン出てからにしろよ」

「もう。 分かってるよ兄貴」


 少し頬を膨らませながら、アローナはウォルスに言葉を返した。

 兄に注意された事に対する照れなのか、それとも態度が表す様に少し不機嫌だからかは分からないがアローナの頬は少し紅く染まり、頭の上に付いている帽子から覗いている耳はせわしなく動いていた。


「ま、兄妹のじゃれあいは後にし『じゃれあいじゃない!』て……傍から見れば、どうみてもじゃれあいだから」

『むぅ』

「兎に角、二人にディアナ。 熱くは……じゃなくて暑くは無いんだよな」

「……何で言い直したのか分からないが、暑い訳じゃないぞ。 な、ディアナ、アローナ」


 ウォルスに問われた二人は、ほぼ同時に頷いた。

 その事に関しては、俺も同意する。 確かに少し気温が高く感じるが、それだけでしかない。 比較としては、夏と秋の間ぐらいと気温に近い様に感じた。

 また、此処から見える景色も、前回降りた時に見た景色と変わり映えはしない様に思える。 溶岩の川(?)らしきものが流れていたり、その川が沼と言うか池と言うか、はたまた湖と言うか、兎に角そういう感じに見える溶岩の溜まった場所に流れ込んだりまた流れ出たりしているのだ。

 またその溶岩の川(?)や湖(?)に……ああ、まどろっこしい。 「川と池でいいや!」って誰に言ってるんだ俺は。 

 それはそれとして、フロア内で歩けるところはその溶岩の川に沿う様に走っている。 また池を囲む様にも歩ける場所はあるので、現状では移動にさほど困る事は無かった。


「しっかし……なんてところだ此処は。 この暑さも含めて、生き物が生きれる場所じゃ無いよな」

「どうかしら。 ねぇ、アローナ」

「そうだね。 どうだろうね」


 いや、どう考えても生物が生き残れる場所じゃないと思うんだが。 それとも世界には、この苛酷な状況でも生きている生物が居るというのだろうか?


「ん? 不思議そうだね、エムシン」

「いや、そりゃそうだろアローナ。 俺達はアミュレットの力があるし火の精霊からも力を貸して貰ってるからまだ普通に行動できるけど、それが無かったら先ず活動は厳しいんじゃないのか?」

「普通ならそうだね。 でも、中にはそう言う一部の属性に特化した生物や魔物もいるんだ。 だからもしかしたら、此処にもそんな存在が居るかもね」

「そんな奴が、いるのか?」


 アローナに問い掛けながら、思わず周囲の気配を探ってしまう。 しかし幸いな事に、近くには俺たち以外の気配を感じる事は出来なかった。


「くすくす。 取りあえずは大丈夫だと思うよ、多分」

「そこは断定しろよ。 ま、気配は感じ無いけどな」


 最も、流石にこの階全てを網羅したなどとは絶対にいえない。 気配を探れるのは、あくまで近くだけなのだ。 


「凄いね、エムシン。 そんな事も分かるんだ」

「近ければな。 それはそうと、先ずは進もう」

「そうだね」


 中々に脱線したが、俺達は漸く行動を起こした。

 とは言え前述した通り、アミュレットと火の精霊のお陰で抑えられている。 だが暑い事に変わりはしないので、行動は慎重に行った。

 ゆっくりと進みながら、気配を探っていく。 その時、気配を感じて視線を上に向ける。 するとそこには、蝙蝠の形をした何かが飛んでいた。


「ファイアバットだよ。 あたしも初めて見た」

「初めて? あれって蝙蝠じゃないのか?」

「半分当たりに近くて、半分外れ。  あれは、蝙蝠に類似した魔物なの。 この場所みたいな、火の属性が強いところにしか居ないとされているわ。 あたしも、今まで見た事無かったわ。 勿論、兄貴もディアナもね」


 どうやらアローナの話によると、火の属性が強いところにしか現れない魔物らしい。 存在し続ける為には、そんな環境が必要なのだそうだ。


「と言う理由だけど、分かる?」

「うーん。 兎も角、火が必要って事だけは分かった」

「それだけで十分よ」

「ところで、あいつら襲って来ないのか?」

「刺激しなければ大丈夫……らしいわ。 珍しいタイプの魔物よね、あちらから襲って来ないんだから」


 それはそうだ。

 魔物は基本、此方を見ると問答無用とばかりに襲って来る。 少なくとも今まであった魔物は、皆同じ反応だった。 だからあちらから襲って来ないという魔物と遭遇したのは、正直初めての遭遇だったりする。 思わず注視したのだが、その為に気付くのが僅かだが遅れてしまった。

 突然、脇を流れる溶岩の川の中に気配を感じる。 視認する間もあればこそ、咄嗟に大きく後ろに飛んで避ける。 何とかぎりぎりのタイミングであったが、どうにか喰らわずに済む。 ただ代償として、髪を幾らか燃やしてしまった。

 

「あっち! って何だ!?」


 そちらを見ると、溶岩の川から何かが這い出して来る。 それは何となくだが、シルエット的にサンショウウオに似ている様な気がした。


「あれは……サルマンド!」

「アローナ。 サルマンドって何だ?」

「炎属性を持つ魔物よ! 文献には、炎の塊りを口から飛ばすってあったわ」 


 どうやらさっき襲ってきた何かは、その炎の塊りと言う事らしい。 恐らく溶岩の川の中か、若しくは顔だけ出して炎を吐き出したんだろう。

 川から出て来たのは、奇襲が成功しなかったからかそれとも別の理由か。 何であれ、溶岩の川の中から攻撃されるよりはましってものだ。

 全員が迎撃の為に構えたその時、上から妙に甲高い声が複数聞こえて来る。 反射的にそちらを見ると、天井辺りにいたファイアバット達が此方に向かってまっすぐに飛んで来るのが見えた。


「って、何で! 刺激しなけりゃ、大丈夫なんじゃないのかよ!!」

「怒鳴られても知らないよ! あたしだって、文献で見ただけなんだし!」

「いいえ、刺激したわ。 私達では無いけどね」

『え”』


 ミリアの言葉、嫌な予感が背筋を走った。  

 俺達が刺激した訳じゃない、でも刺激自体はしている。 となれば考えられるのは一つ、さっき避けた炎の塊りしか考えられなかった。


「もしかして……さっきの炎か?」


 窺う様にミリアに尋ねると、彼女はこっくりと頷く。 思わず上を仰いだその時、視界にファイアバットが数匹見て取れた。

 咄嗟に身構えたると、その数匹から炎の礫が飛んでくる。 【こいつらも火を飛ばすのかよ!】と内心思いながら、放たれた火の礫を避ける。 と同時に、反撃した。


「飛衝拳」


 放たれた衝撃波が、ファイアバットを襲う。 咄嗟だったので威力が足りなかったらしく、当たったがそいつは落下して地面で甲高い鳴き声を上げながらもがいている。 すると、ミリアが刃を突き立てていた。


「サンキュー」

「どう致しまして」


 そのまま次のターゲット目掛けて、連続で技を放っていく。 今度は確りと気を込めて撃っているので、当たると幸いに絶命していった。

 偶に当たりどころが良く、死なない奴もいる。 だが大抵は落下しているので、先ほどと同じくミリアが止めを刺していた。

 因みに彼女は、精霊術を使っていない。 正確には、火の精霊に準拠する術以外は使いづらいのだそうだ。

 何でも使えない訳は無いが、より集中が必要らしい。 此処の様な、属性が特化した場所ではそういう事が偶にある事象なのだそうだ。

 ただ確実に属性が特化した場所全てがそうなるという訳では無いので、偶々このダンジョンがそうだというらしい。

 何とも、面倒な事だ。

 まぁ、それはそれとして、やがて俺は全てのファイアバットを撃つ落とす。 ざっと見まわして討ち漏らしが無いかを確認したその時、アローナの術がサルマンドとやらを襲っていた。

 

「アイススピア!」


 氷で出来た長さがショートスピアぐらいの槍が生まれると、一直線に魔物に襲いかかる。 だが口から炎の塊りを撃ち出して、氷の槍目掛けて放つ。 そのまま氷の槍と炎の塊りはぶつかり、水蒸気を発生させながら互いに消滅した。

 すると一瞬だけ、辺りに水蒸気が立ち込める。 その水蒸気を隠れ蓑に、ウォルスが突撃した。 不意を突けたらしく、バスタードソードがサルマンドに大きな切り傷を作った。 すると魔物は、慌てて踵を返す。 向かっているのは、溶岩の川だった。


「逃がすかよ!」


 一気に踏み込んで、魔物の前に立つ。 そして間髪入れずに、技を放った。


「喰らえっ! 龍呀脚!!」


 蹴りによる上下の二連撃を喰らわせて、サルマンドを吹き飛ばす。 そこには、バスタードソードを振りかぶっているウォルスが居た。

 するとウォルスは、そのまま剣を振り下ろす。 俺の蹴りで勢いよく吹き飛ばされたサルマンドは、振り下ろされたバスタードソードによって綺麗に二枚に下ろされたのだった。


  

『イェーイ』


 それから近づいて、ウォルスと手を打ち合わせる。 彼の後ろには、二分割されたサルマンドが横たわっていた。


「ナイスタイミングだったぜ、エムシン」

「任せろ」

「はいはい。 仲がいいのは分かったから、先ず探しましょ」

『ふぁーい』

   

 ミリアの声に従い、魔石を探す。 ファイアバットからは、少し大きめの魔石が数個。 そしてサルマンドからは、それなりの大きさと悪くない品質と思える魔石が一つ見つかった。

 それから、剥ぎ取りを行う。 火の属性を持っているので、大抵は耐火の力を持っている。 お陰で通常の素材より高く売れるとは、アローナの談だった。


「さて、と。 回収も終わったし、先へ進みますか」


 皆にそう声を掛けて頷いたのを確認すると、探索を再開したのであった。


ご一読いただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ