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第三十話~仲間の判断~


第三十話~仲間の判断~



 明けて翌日、朝食を済ませてから宿屋を出るとそのままアアクの町を出る。 行き先は無論、ダンジョンだ。 昨日買ったアミュレットの力と、ミリアが精霊に頼む事であの熱が溢れる階層を突破する為である。


「エムシン。 珍しく、遅れがちだよ」


 何時もは前を歩くことが多いが、今日は一番後ろを歩いている。 するとそんな俺に、ディアナと一緒にすぐ前を歩くアローナが声を掛けて来た。


「何でも無いさ」


 そう言うと、仲間に追い付く為に少し歩みを早める。 しかし頭では、昨日の夜の事を考えていた。





 アローナから、腕輪には封印の術が掛かっていると聞かされたあの後、俺は仲間全員を集めた。


「何かしら、話って」


 すると、ミリアが尋ねて来る。 そこで、アローナに分かっている事全てを話す様に頼んだのであった。 そんな俺の言葉に、アローナ以外の仲間は首を傾げる。 しかし、唯一事情を知る彼女だけはそんな態度はしなかった。


「まぁ、当人から許可が出るなら話すのは吝かじゃないけど……いいの?」

「ああ。 一緒に行動してる訳だし、黙っておくのもな。 そしてそれが原因でパ-ティを解消されたとしても、それはしょうがないだと思ってる」


 するとその時、ウォルスが言葉を掛けて来た。


「あのよう、二人だけで会話をしないでくれ。 取り残され感が半端無いから」

「ああ、すまん。 さ、頼む。 本当は俺が説明出来りゃいいんだろうが、専門的過ぎて結果しか把握してないんだ」

「そう。 わかったわよ」


 そこでアローナは居住まいを正して、真面目な顔つきとなった。

 どちらかと言うと明るい感じな時が多い彼女だが、表情を引き締めると知的に見えるから不思議な物である。

 それはそれとして、アローナは表情を崩さないまま淡々と話していく。 感情や妙な感想が混じらない話し方に何かを感じたのか、ミリアとディアナとウォルスも真面目な表情をした。


「いい。 よく聞いて。 実はウォルスの腕輪の事なんだけど……アレには封印術が掛かってる。 ただ、その術の目的は分からないんだけどね」

「何でだ?」

「兄貴、幾つか理由はある。 でも最大の理由は、時間が無いんだよね」

「時間?」

「そ。 それこそ術が高度で、じっくり調べないと分からないんだ」

「……つまり、解析に時間が掛かるのね」

「ミリア、大当たり! 流石だよね、筋肉馬鹿の兄貴とは大違い」

「おい!」

「にゃははは。 冗談だよ、ジョーダン」


 そんな彼女の言葉に、ウォルスが軽く拳で突っ込を入れた。

 アローナは、頭を押さえながらその拳から逃げる様な仕草をしている。 何だかんだと言っても、そこはやはり兄妹。 仲はいいのだろう。

 少しの間、兄妹漫才が続く。 和やかな雰囲気が部屋に満ちた後、話は俺が引き継いだ。


「話はこれからが本番だ。 アローナが言った通り、この腕輪には封印が掛かっているらしい。 何かを封じ込めているのか、それとも何かを抑えつけているのか、もしくはそれ以外なのかは全く分かってないんだけどな、不気味な事に」

「…………それで? エムシン、お前は何が言いたい」

「分かるだろう、ウォルス。 言ってしまえば、得体が知れないって事に。 俺はこの腕輪を、処分などといった事をする気はない。 となれば、このまま一緒に行動すれば何がお前達に起きるか分か……アタッ!」


 「分からない」とまで言い掛けた時に、ウォルスからデコピンをされた。 唐突だったので対応が遅れ、普通に喰らった。

 最も、痛い訳では無かったのだが。


「ばーか。 気にし過ぎだ」

「いや。 でもよ」

「もし分かれる気だったら、あの時店で言い出してる。 忘れたのか。 俺もお前の隣で聞いてたんだぞ」

「あっ!」

「ま、内容が良く分からなかったというのは分かるが「兄貴! 分かんなかったの!?」……分かるか! いいか、アローナ! 俺は術師でも何でもない、ただの戦士だぞ。 そんな俺が、やれ神術がどうの魔術がどうのなど言って理解出来る訳が無いだろうが!! な、エムシン。 お前もそうだろう?」

「まぁな」


 術に関しては爺ちゃんから教わっていたので、種類とか術専門の言葉があるぐらいは知っている。 ただ逆に言うと、それしか知らないのだ。 


「……それは分かってるけど。 でもだったらあの時、聞いてくれればよかったのに」

「あの雰囲気で聞けるか! 店主とのめり込む様に談義を咲かせているお前に!」

「あ、ははは……」


 アローナはばつが悪そうに、後頭部を掻きながら笑い声を上げる。 弱冠だが、笑い声がひきつっている様に聞こえたが……きっと気のせいだろう。 うん。

 それからウォルスは、一つ咳払いをしてから話を続けた。


「まぁ、それは今更だから置いておくとしてだ。 話を戻すが少なくとも俺は、エムシンと別行動する気はないぞ」

「うん。 それに関してはあたしも同じで、分かれる気なんて無いよ。 むしろ、その術を研究したいぐらいだもんね。 何と言っても術の複合、それも異なる術の複合なんて、初めてみたの。 こんなサンプルが目の前にあるのに、それを逃すなんてもったいない」

「さ、サンプルかよ……」


 アローナの言葉に、思わず目が点となった。

 なんか別の意味で、身の危険を感じた気がする。 何と言っても、アローナ目が色々と訴えてて不味い気がする。 何とも言えない感覚が、俺の背筋を走っていた。


「私もそんな事、考えた事ないわ。 それにまだ、精霊術を教え切ってないし」

「あー、それに関しては申し訳ないミリア。 中々、見えなくて。 間違いなく存在は感じてるんだけどな……」

「仕方無いわ。 人それぞれだし」


 術も理解したし、精霊の存在も感じられる。 だけど、どうしても見えないのだ。 何か邪魔になってって、まさかこの腕輪のせいじゃないだろうな……んな訳無いか。


「エムシンさん、私もありません。 それに、まだ助けていただいたお礼をお返ししていませんし」

「え? 助けたって……もしかして遺跡の時か?」

「その通りです」

「いや。 あれはギルドの仕事だったし。 なぁ、ミリア」

「え? ええ。 そうね」

「例えそうであったとしても、助けていただいた事に変わりはありません!」


 何時もの穏やかな雰囲気とは違うさまに、俺とミリアが思わず一歩引く。 するとアローナが、耳打ちする様に小さく呟いた。


「あーあ。 こうなったら、何言っても無駄だよ。 普段は違うんだけど、何か一つ……こうと決めると梃子でも動かないから」

「あー、そうだな」


 アローナの言葉に、ウォルスも同意していた。

 そして同時に二人から諦めに居た雰囲気も感じる辺り、何度かその性格故に起きた何かに巻き込まれたのかもしれない。


「もしかして、初めてじゃないとか?」


 こっくりと頷く兄妹に、何とも言えない視線を向ける。 するとミリアが、アローナとウォルスの肩に手を置いて一言声を掛けていた。


「ご愁傷様」

『はぁ』


 溜息なのかそれとも諦めの何かなのか、兄妹揃って一つ息を吐いていた。

 うん、確かにご愁傷さまだ。 まぁ頑張れ。 特にウォルスは、未来の嫁さん候補らしいからな。


「ですので、エムシンさん!」

「ひゃ、ひゃい」

「これからも宜しくお願いします!」


 ディアナの勢いに押される様に、コクコクと頷く。 と同時に、彼女の雰囲気は何時ものように穏やかな感じとなっていた。

 あー、びっくりした。


「ま、何はともあれこれで話は終わりだな」

「あ、ああ……そうだけど、ウォルス本当にいいのか?」

「何度も言わすな」


 少し照れくさそうにするウォルス。 その周りで、ミリアやアローナやディアナも頷いている。 そんな彼らに、思わず涙腺が潤んだ。


「そうか……ありがとう」


 潤んだ目を隠す様に、頭を下げる。 同時に俺は、この仲間とずっと一緒に居たいと心の底から思っていた。





「で、何を考えていたの?」

「さっきも言った通り何でも無いよ、ミリア」

「そう?……そう言う事にしておきましょうか。 それに、もうすぐ到着みたいだし」


 ミリアに言われて視線を前に向けると、崖とギルドのダンジョン出張所が見えて来る。 その出張所は、相も変わらず出張所とは思えない大きさの建物であった。


「何であの規模で、出張所なんだかな」

「ダンジョン自体見付かったのが、比較的新しいせいだろきっと。 そのうち、ダンジョン支部とかに変わるさ」

「そんなもんか?」

「そんなもんだ」


 その後、出張所に入るとダンジョンに入る為に行う定例の手続きを進める。 パーティメンバーの名前を紙に記入し、ギルドスタッフに提出してからダンジョンへと向かった。

 以前と同じ様に、帰還の碑を触る。 すると例の奇妙な感覚がしたかと思うと、到達した最深部に最も近い階まで移動した様である。

 と言っても、確認の為に一回下の階へと降りただけなので、これから新たに探索なのは間違いないのだが。


「さて、と。 確認するか」


 部屋にあるたった一つ扉から、通路に出る。 その通路を少し進むと、扉が現れた。 その扉を開けると、すぐ近くに階段がある。 そして階段から少しだけ伸びた通路の先には、扉が一つ見えた。


「おー。 熱気を感じ無い」

「本当だね。 ちゃんとアミュレットは、機能してるんだ」


 買い求めたアミュレットの機能は耐火、付属として熱も遮断するらしい。

 なおより上位のアミュレットに炎無効なんてのもあるらしいが、かなりの値段で取引されるとの事だ。

 効果を考えれば、当然だろう。 そのアミュレットがあれば、それこそ火事の現場で炎に包まれながら茶を飲む事だってできるのだ。

 そんな馬鹿な事を、本当に行う奴がいるかどうかは別にしてだが。  


「じゃ、行くか」

「そうだな」


 皆の方へ振り向きながら声を掛けると、ウォルスが声を返してくれた。

 またミリアとアローナとディアナは、頷く事で返答としている。 そんな仲間達に対して俺も一つ頷き返すと、階段を一つづつゆっくりと降りて行くのであった。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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