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第二話~出会い~


第二話~出会い~



 翌朝早朝、いつもの時間に目覚めた俺は宿の裏手を借りる。さほど広くはないが、一人で鍛錬を行うには十分な広さを持っていた。


「ここなら大丈夫だな」


 さっそく、爺ちゃんに叩き込まれた武の型を修練する。爺ちゃんの素性はよく知らないが、かなり強かった。その爺ちゃんに、散々鍛えられたのだ。途中何度も逃げ出そうとも考えたが、結局のところ逃げ出さなか……いや、正確には逃げられなかった。

 何と言っても森には、強い野生動物や魔物が闊歩している。そこで子供が一人で逃げても、エモノにされるのが落ちである。生存本能に従って、庇護者である爺ちゃんの元にい続けたのだ。

 もっとも、今となっては鍛えてくれたことと育ててくれたことに感謝の念しかないのだが。


「あー、気持ちいいなぁ」


 一通りの型を修練しおえると、宿屋にある井戸の水を被って汗を流した。するとその時、こちらを見ている気配を二つ感じて後ろに視線を向ける。そこには宿屋の建物から出て来たおばちゃんとその娘が、こちらに向かってきているところだった。


「おや、早いねぇ」

「あ、どうも」


 どうやら水を汲みにきたらしく、二人は手に桶を持っていた。

 俺は場所を譲ると、手拭いで体をふく。水気をふきとると、井戸の水で手拭いを濯いでから部屋に戻った。

 部屋の中には濡れた物を干せる場所があるので、そこに手拭いを引っ掛ける。それから服を着替えると、暫く寛いでから部屋を出ると食堂に入り、適当なテーブルに座った。


「注文は?」

「このモーニングセットってやつ?」

「何で疑問形なのか分からないけど、モーニングセットね」


 俺が頷くと、注文をとりに来た宿屋の娘が厨房に近づいて中に声を掛ける。すると「おうっ」という男の声が聞こえた。

 程なくして、娘が声をモーニングセットとやらを持ってくる。そこには黒パンとハムと付け合わせの野菜が皿に盛られており、一緒にオレンジジュースが添えられていた。


「あ、そうだ。 携帯用に、何か作れる?」

「サンドイッチならできるわよ」

「じゃ、出掛ける前に声掛けるからよろしく」

「はい」


 モーニングセットを食べ終えると、食事代を払ってから部屋に戻り武装を整えた。

 爺ちゃんの戦い方が、肉体を使った戦い方であったので俺もその戦い方で戦っている。ゆえに俺は鉈やナイフといった野外生活で必要な物は持っていても、武器は持ち合わせていなかった。

 拳と下腕を守る籠手、そして甲猪と呼ばれる固い外皮を持つ魔獣の皮を使用した皮鎧が俺の装備である。その上から外套を着てバックパックを背負えば、それで終わりだった。


「おしっ! じゃ、行くか」


 部屋に鍵を掛けて、宿屋のフロントに鍵を預けた。

 そして金と引き替えに、注文していたサンドイッチを受け取るとギルドへと向かう。到着したギルドは、昨日来た時よりギルドは大分人でごった返している。そんなギルド内を進み、俺は依頼が張ってある場所へと向かった。

 どうやら仕事は、早い者勝ちらしい。とりあえず試しに、薬草取りの仕事を受けることにした。仕事を受注する方法は簡単で、依頼書を持ってカウンターに行けばそれで仕事は受けられる。あとは、仕事を完遂するも失敗するも受けた人間の技量によるものなのだ。


「はい、確かに。ところで、薬草の見分けはできます?」

「大丈夫だ」


 嘘では無い。依頼の薬草は、つい先日まで住んでいた森にも自生していたのだ。なので、森に変えれば見つけることはできるだろう。もっとも流石に距離があるので、帰る気にはならないがな。


「そうですか、では頑張ってください。あ、それと魔物や魔獣を討伐したら証明部位を持ってきてください。種類によって金額の違いはありますが、報奨金が出ます」

「報奨金?」

「はい。国が出している恒常的な依頼みたいなものです。魔物や魔獣は数が多すぎて、国だけでは対処仕切れないのです」

「あー、そうだろうなぁ」


 魔物や魔獣にカテゴライズされる奴らは、弱い奴ほど繁殖力が異常に高い。そして増え過ぎると、食料などを得るために集落や村などを襲うことがしばしばあるらしい。実際、亡くなった爺ちゃんが若かった頃にそんな仕事をやったと聞いたことがあった。


「あと、剥ぎ取りすればそちらも買い取りますよ」

「ギルドが? 店じゃ無くて?」

「ギルドの場合、市場より若干安くなりますがほぼ安定した値段で買い取ります。店の場合は、交渉の腕次第ですね」


 交渉の腕など、持ち合わせていない。ならば、もし得られたらギルドに持ち込む方が無難なのだと判断して、頷くことで了承のサインとしていた。



 さて薬草の採取する目的の場所は、この町から距離にして約一日のところにある。規模としても、さして大きくはない森だ。この森に、依頼の薬草が生えている……らしいとはギルドからの情報だった。

 ただ基本的に植生はどこでも変わらない筈だと爺ちゃんもいっていたので、俺は爺ちゃんと一緒に住んでいた森に自生していた場所と似た様な場所を探して森を探索するつもりだった。

漸くして目的の森へと辿り着いたが、既に夕方に差し掛かっている。これから森に入る気になど到底なれず、俺は森の周辺部で夜営の準備を始めた。まず枯れ枝を探してきて、焚火を起こす。そして、出がけに作って貰ったサンドイッチを頬張った。

 サンドイッチを食べ終えると、焚火の近くで寝転がる。空には既に太陽は無く、大きな月と月光に負けない明るさの星が夜空にまたたいていた。


「森で見た夜空も、ここの夜空も変わらない、か……よっと」


 ふと気配を感じて起き上がると、そこで身構える。 というのも、恐らく魔物だろうという気配を、六つぐらい感じたからだ。

 程なくして、そいつらが現れる。子供を少し大きくした様な体に、犬の頭を乗っけたような魔物であった。

いわゆる、コボルトである。

 因みに二足歩行であり、そしてゴブリン以上に弱い完全な雑魚だ。

 正直、相手をする気も起きない。俺は森を出る時にしたように、殺気をコボルトに向けてやる。するとコボルトは、二、三歩あとずさったかと思うと夜の闇に消えていった。


「なんか雑魚ばっかりに会うな。 ま、楽だからいいけど」


 その後は襲撃などなく、無事に朝を迎えた。 朝日が昇ると、軽く体を動かしてから森の中に入る。途中で木に傷をつけながら進み、迷わない為の目印とした。

 森を進むさなかに何箇所か薬草が生えていそうな場所を見つけたが、残念ながら中々見つけることはできなかった。

 仕方なく、もう少し奥まで進んでみる。暫く森の中を進んでいると、突如視界が開ける。そこは、森の中にある湖だった。俺は湖に近づくと、少しだけ口に含んでみる。どうやら、問題なく飲めるということを確認した。ならばちょううどいいと、水を入れ替えてみる。水筒に半分ほど残っていた水を捨てると、空になった水筒に湖の水を汲む。それからその水を飲んで喉を潤してから、改めて水筒を湖の水で満たした。

 それから、ここを拠点に周囲を探索することにする。森に入ってきた方向が分かるような目印を木の幹に刻んでから、再度周辺を探して薬草を集めることにした。しかしこれまでと同様に中々見付からず、思いの外時間が掛かってしまう。それでも何とか数を揃えたが、結局のところ丸一日掛かってしまった。

 薬草を必要数揃えると、湖のほとりで火を起こしてから適当な太さを持つ木の棒を探す。幸い手頃の物が見つかったので、それを拾うと荷物の中から釣り用の糸と針を取り出した。

 そしてその辺りにある石をどかして、餌となる虫を探す。すぐに見つけると、その虫を釣り針に付けて湖に投げ込んでみる。待つこと暫し、軽く当たりが来る。しかしそこでは竿をあげずに様子を見る。やがて本格的に喰いついたらしく、浮代りとしていた小枝が湖に引き込まれるとタイミングを見計らって、一気に引っ張り上げた。


「おしっ! ゲット」


 釣り上げた魚を針から外すと、また虫を見つけては針に付けて投げる。どうやらこの湖であまり釣りをする者はいないらしく、続けて釣り上げることができた。さらにもう一匹釣り上げた釣りを止めると、ナイフで木の枝を削って櫛を作る。それに釣り上げた魚を刺すと、焚火であぶって夕食にした。


「おおー、いい匂い。やっぱ、シンプルだけど好きだな」


 魚が焼きあがると、軽く塩を振って味を付けてから焼けた魚を頬張る。綺麗に三匹を食べ終えてから、寝転んだ。そして空を見上げると、昨日と同じく月が夜空を照らしている。降り注いだ月光は湖を照らし、そして湖はその光を反射してキラキラと光っていた。


【こういうのを幻想的っていうのだろうな。もっとも見ているのが男一人じゃ、ムードもへったくれもないけど】


 そんな益体もないことを考えながら俺は夜空を、そして湖を見ていた。


「さて、と。そろそろ寝るか」



 開けて翌日、何事もなく目覚めると軽く体を動かしてからやはり湖で魚を釣り上げ朝食とする。それから焚火を綺麗に消して後処理すると、湖をあとにした。幹に傷を付けた木を頼りに、森を抜ける。それから方向を確認すると、町へ向かって歩き出した。

 やがて森と町の中間地点ぐらいまでくると、何かが爆発したような音が聞こえてくる。聞き違いかと思いつつは思い辺りを見回すと、さほど離れていない場所から上がる黒い煙が見えた。


「見て見ぬ振りをすべきか、それとも確認するか……どうするかな……いいか、行っちまえ」


 俺はバックパックを抱え直すと、煙を目印に走り始める。やがて到着したそこには、一人の女性とそれを囲んでいる豚面した人型の魔物、いわゆるオークが四体ほど見えた。そんな彼女の近くには、二体ほどのオークが倒れている。一体は鋭利な刃物で切られたのか、首がない。そしてもう一体は、全身黒こげだった。


【さっきの爆発音は、これか。取りあえず、詮索するのはあとだ。どう見ても、女性がオークに襲われているとしか見えないからな】


 そう結論付けると、身構えつつ拳を引く。その引いた拳に万物に宿るとされる気を込めると、気合いと共に振り抜いた。


「飛衝拳!」


 振り抜かれた拳の先から気の塊が生まれてそのまま突き進むと、それは一体のオークの頭に当たる。するとその衝撃で頭を揺り動かされたであろうオークは、ゆっくりと倒れ込んだ。

 その途端、オークもそして女性もこちらを向いたが、既に次の行動に移っている。俺は残りの三体の内の一体へ、一気に近付いたのだ。

 その動きに気付いたオークは、手にしている棍棒を振り降ろしてくる。その棍棒を避けると、しゃがみ込みながら回し蹴りを放ってオークの両足を刈った。足払いを受けて倒れ込んだオークに近づくと、頭を蹴り付ける。その瞬間、首から骨が折れる鈍い音がした。


「グギャ!」


 ほぼ同時に、後ろから叫び声がする。ちらりと視線を向けると、地面から生えた錐の様な物に腹を刺し貫かれたオークがいた。まだ絶命はしていないようだが、腹を貫かれては先ず生き残れはしないだろう。そう判断しつつ、残りの一体に近づくと腹を蹴り飛ばす。同時にジャンプして、吹き飛ばしたオークの頭を踏みつけた。

 グシャという感覚と共に、オークの体が痙攣する。だがそれだけであり、それ以上はピクリとも動かなかった。


「ふう」

「ありがとう、助かったわ」

「あ、悪い。ちょっと待って」


 俺は最初に倒したオークに近づくと、死んでいるかの確認をする。すると、既に絶命していた。


「用心深いのね」

「爺ちゃん……いや、師匠の教えでね。最後まで気を抜くなと、散々にしごかれた」


 取りあえず、倒した魔物の証明部位を回収するとその場から離れることにした。何せ死体の近くで話をする趣味など、持ち合わせていない。そして彼女も、俺の言葉に同意してくれた。

 まぁ、普通の感性を持つ者なら当然ではある。

 そこから離れながら、お互いの自己紹介をする。彼女はミリア=セラエノという名らしい。尖った耳を持つ亜人で、いわゆるエルフだ。そして、エルフにしてはまれなスタイルの持ち主でもあった。

 一般的にエルフは綺麗な顔つきをしているが、体つきは人に比べれば華奢となる。だが彼女は、エルフなのに人並みかそれ以上の体型をしていた。

 もっとも、エルフが華奢といわれるのが一般的なだけであり、中にはそういうエルフもいるのだろう。そんなことをつらつらと頭の中で考えながら、回収したオーク討伐の証明部位をミリアに見せつつ尋ねた。


「これ、折半するけどいいよな?」

「貴方がそれでよければね。むしろ私は助けて貰った方だから、全部あげるつもりだったのだけれど」

「俺が倒したのはあくまで半分、残りはミリアが倒した。だから折半だ」

「そう……ならあり難く」


 ミリアは俺からオークを倒した証明部位を受け取ると、袋にしまっている。そして俺も、証明部位を袋にしまった。


「で、ミリアはこれからどうする?」

「ガアルの町に向かうわ。元々、町に向かうつもりだったし」

「そうか……ところで話は変わるのだけど、ミリアは一人で旅しているのか?」

「ええ、そうよ。気ままな一人旅ってとこかしら。あ、もしかして勧誘?」

「ああ。俺も一人旅だし、一人より二人かと思ってさ。ここであったのも、何かの縁だと思うし。ただ、嫌なら嫌で、それはしょうがない。縁がなかったと諦めるけど、どうかな?」


 俺の言葉に、ミリアは考える素振りをしている。そして言葉こそ出ていないが、なぜか彼女の口が動いていた。

 それはまるで、見えない誰かと会話でもしているかようでもあった。

 そんな彼女の仕草がなんとはなしに気になったこともあり、自然と足が止まる。すると、ミリアの足も止まっていた。


「…………そうねぇ……いいわよ」

「マジッ!」

「ええ。彼女も保証してくれているし」

「彼女?」


 ミリアの言葉に不思議そうな顔をすると、彼女は小さく笑みを浮かべていた。


「ええ。風の精霊シルフよ。もっとも、エムシンには見えていないみたいだけど」


 風が吹くのも、火が燃えるのも精霊がいるからだといわれている。その精霊に助力を頼み、術を行使する者を精霊使いという。但し、精霊の助力を頼むには視認出来ないと駄目なのだそうだ。

 しかし精霊か……見えるなら見てみたいけど。


「ふーん、シルフねぇ。精霊がいるといわれているのは知っているけど、見たことはないからなぁ」

「それは仕方がないわね。精霊に対して親和性があるのかそれともないのかは、生まれつきのものだし」

「一種の才能だな」

「そうともいえるわね」


 そこでひとまず話を切ると、再びガアルの町へ向けて歩きだしたのだった。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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