第二十七話~熱への対策~
第二十七話~熱への対策~
目を開けると、目の前には碑がある。 そして碑を囲む様に、皆が居た。 どうやら無事に、転移はは完了した様だ。 俺達は早速、部屋から出る事にする。 一本道を進み突き当たりにある扉を開き、ダンジョンの通路に出るとそのままダンジョンの外に出た。
外は夜の帳が降りており、空には月が煌々と辺りを照らしている。 また月明かりに負けない様な星も、瞬いていた。
さてどれくらい潜って時間が経ったのか、ダンジョン内に居ると時間的な感覚が分からない。 目安となる物が、存在しないからだ。
強いて言えば、食事の回数と睡眠が目安と言えるかもしれない。 しかしそれとて腹が減ったから食い、眠くなったから眠っているだけでしか無い。 だから「当てになるか?」と言われれば「参考には」と答えるしかないのだ。
とは言え、一回は就寝している。 普通に考えれば、二日は経っている筈だ……多分。
取り敢えず考えてもしょうがないので、ギルドの出張所に向かう。 建物の大きさから相変わらず名前とのギャップを感じるのだが、まぁどうでもいいのでその事は置いておくとしよう。
入口に回り建物の中に入ると、少しはギルドのメンバーが居る。 しかし時間もそれなりに遅い事もあり、入口のホールはやはり閑散としていると感じられた。
それに反比例するかの様に、少し奥まったところは中々に賑やかだ。 そこは食堂兼酒場となっていて、昼間は食事を出し夜は食堂兼酒場となるからだろうと思う。
恐らくギルドメンバーが、酒でも飲んでいるのだろう。 これから行ってもいいが、正直何かに騒動に巻き込まれると面倒くさい。 今日のところは、自粛する事にした。
「さて、と。 先ずはダンジョンを出た事の報告と換金か」
「そうね。 エムシンは報告をお願い。 換金なら、私達でやっておくわ」
「りょーかい」
ミリアに返事をしてから、カウンターへと向かった。
ギルドだが、よほどの事情でもない限り基本二十四時間開いている。 それは、ギルドの出張所である此処でも変わりは無いのだそうだ。
そんなギルドのスタッフに、ダンジョンから出て来た事を告げる。 俺の言葉にギルドスタッフは頷き了承すると、書類に何か書きこんでいた。
今の今まで気付かなかったが、あれでダンジョンに潜っている面子を管理しているんだろう。 きっと。
「あ、そうだ。 ちょっと、聞きたいんだけど」
「何でしょうか」
「此処の店って前に覗いた時は良く使う様な物しか見当たらなかったんだが、それ以外の物って売ってるの?」
「それ以外の物ですか? 具体的にはどんなものでしょう」
「例えば、耐性を上げる様な装備品とか」
「んー?……さぁ、分かりません。 私も、店の者では無いですので」
聞けば分かると思ったが、予想に反してギルドスタッフも知らないらしい。 あの店はギルドで運営しているのだとばかり思ってたんだが、違うのだろうか……って、考えても分からないから聞いてみると、店の設立にはギルドが係わっているが運営は商人に任せているらしい。 ギルドは場所を貸し、いわば賃貸料を取っているだけの様だ。
良く考えてみれば、当然と言えば当然の措置だった。 餅は餅屋、商品の売り買いなんて商人に任せれば一番確実だ。 何よりギルドは、商人じゃない。 商人が所属する商人ギルドがあるんだから、そちらに任せた方が良いに決まっているのだ。
「それもそうか。 邪魔したね」
「いいえ。 あ、それとご無事で戻られて何よりでした」
「ああ。 ありがとう」
カウンターから離れると、視線を巡らした。
するとウォルスとディアナが椅子に座っているのが見えたので、そちらに向かう。 二人に報告を済ませた事を話してから、空いている椅子に座った。
「ご苦労さん」
「ウォルス、大した事は無い。 それで、ミリアとアローナは?」
「まだ買い取りして貰ってる。 結構量もあったし、前頼は品質が良い魔石もある。 何よりカウンターの前に、ぞろぞろ四人で並ぶ必要もないだろう」
それは、確かに。
別にねぎったり、必要以上に売値を高くする必要はない。 ある程度は、目安となる値段は存在する。 そこから極端に安くなければ、特に問題にする必要は無かった。
他にやる事もないので、ボーっと二人の用件が終わるのを待つ。 やがて終わったらしく、ミリアとアローナが視線を巡らせた後で此方に向かって来た。
二人の表情は悪くないので、極端に安いという事は無いだろう。
「ミリア、アローナ、どうだった?」
「思ったより、値段は上だったわ。 案外、魔石の質と剥ぎ取りの物がよかったみたい」
アローナの返事に、俺とウォルスは笑みを浮かべる。 それから、二人の拳を軽く打ち合った。
「そりゃ、何よりだ。 じゃあ、取り敢えず此処のベット借りて寝るか」
「そうねぇ……無理に町へ帰る事もないわね。 町の方が寝心地はいいけど」
「そうそう。 何度か往復して危険は少ないと思うけど、用も無いのに態々夜に歩く必要も無いわね」
「そういうこと」
「じゃあ、空いてるか聞いて来るわね」
再度、ミリアがカウンターに向かいベットの空き具合を聞きに行く。 まぁ、最悪そこらに雑魚寝でもいいんだけど、女性は不味いのかね。 最も、こんなギルドスタッフの目もある場所で、ギルドに所属する女性へ襲いかかる様な馬鹿が居るとは思えないけどな。
程なくして、ミリアが戻って来る。 彼女曰く、数は問題なく確保できるとの事らしい。 それならばと早速二階へ移動して、確保したというベットで全員眠りに付いた。
明けて翌日、俺は目を覚ますと周りを見た。
すると大部屋に寝ていた者の中で、既に起きている者が四割ぐらいで残りの六割ぐらいはまだ寝ている。 そしてわが愛すべきパーティーメンバーはと言うと……全員爆睡中の様だ。
と思った瞬間、ディアナがゆっくりと起き上がる。 雰囲気的には少し眠そうに感じるが、俺を見ると朝の挨拶をして来た。
「お早うございます、エムシンさん」
「ああ。 おはよう」
「すみませんが顔を洗って来たいので、荷物を宜しいですか?」
「構わねえよ」
「では、お願いします」
相変わらず丁寧と言うか何と言うか。
ウォルスやアローナと喋る時みたいに、ざっくばらんに話してくれてもいいんだがこればっかりは仕方無いだろう。 そのうち俺やミリアにも、喋ってくれ……アレ? ディアナってミリアにも丁寧だったっけか?
その時、ミリアが体を起こす。 彼女は小さく欠伸をした後で顔が洗いたいと、ディアナと同じ事を言う。 俺がその言葉に頷くと、ミリアもまた水場へ向かった。
それから程なく、ウォルスとアローナの兄妹が目を覚ましたかと思うと、アローナもまたディアナやミリアと同じく水場へ向かう。 流石は兄妹と言ったところなのか、ウォルスはアローナから何も言われなくても妹の荷物を気に掛けているみたいだった。
「オッス、ウォルス」
「おう。 何時もの事だが、早いな」
「昔からの癖みたいなものだし、今更変える気も無いな」
「ま、早起きが悪い訳じゃないし、いいんじゃないのか? ネボスケよりゃ遥かに良いだろう」
「違い無い」
ウォルスと雑談をしながら女性陣を待っていると、程なくして戻って来る。 そこで入れ替わる様に立ち上がると、俺達は水場に向かった。
水場は、ギルドの建物の裏手にある。 そこには井戸が掘ってあり、そこで水を汲むんで使うのだ。
「あー、やっぱ気持ちいいわ」
汲んだ井戸水で顔を洗ってから、持参した手拭いで顔を拭く。 隣では、ウォルスも同様に手拭いで顔の水気を拭き取っていた。
「ああ、確かに…………さて、それじゃ取りあえず戻るか」
「だな」
水場から戻ると、ミリア達は雑談していた。
そんな彼女達に、声を掛ける。 その声で俺達に気付いたのか、彼女達は手を上げて答えて来た。 此方も手を上げて挨拶し返しながら近付くと、自分達の荷物を抱える。 そしてミリア達もまた、荷物を抱えて立ち上がった。
眠っていた大部屋から出て一階へ降りると、食堂に向かう。 そこで食事を取りながら、これからについて話し合った。
「先ずはそこの店で、改めて品揃えを確認しましょう。 無かったらアアクの町に戻って、欲しい物があるか探してみましょう」
「そうだな。 だけど、町でも見付からなかったらどうする?」
「そうなったら諦めるか、更に足を伸ばして別の町で買い求めましょう。 でも手間だから、そんな事にならない事を祈るけれどね」
食事を終えてから店を覗いてみたが、やはり欲しい物は見付からない。 念の為に店員に尋ねたが、やはりないらしい。 時間を掛ければ取り寄せる事も可能らしいが、それならばアアクの町で取り寄せても同じだ。 いや多分だが、町で取り寄せた方が早く手に入るだろう。
「じゃ、アアクの町へ戻るか」
「そうだね。 このお店にあれば、楽だったんだけど……そう簡単には行かないね」
「ところでアローナ。 買おうとしてる物って、特殊と言えば特殊なんだろう?」
「うん。 一応、魔道具になるからね。 値段は効果によってピンキリだけど、安い奴でもそれなりだった筈だよ」
やはり、魔道具になるのか。
そうじゃないかと思っていたが、予想通りだったらしい。 しかしどれぐらい掛かるか分からないけど、これでまたしても目的の馬車が遠ざかるな。
「それ何だけど……効果は高くなくても多分大丈夫よ」
「何で? ミリア」
「私が、精霊に頼んで熱を下げて貰うわ。 常温にするのは、流石に無理だけど」
「本当? 本当に可能!?」
「ええ」
驚き詰め寄るアローナに、ミリアが頷いている。
そう言えば、以前ミリアに教わったな。 精霊に頼めば、そんな事も可能だと。
「やたっ! 効果が低くてもいいなら、手に入り易いよ。 無かったとしても、取り寄せるのも簡単になるし何より安くなるっ!!」
ミリアの言葉に、アローナは本当に嬉しそうにしている。
無論それは、俺やウォルスも同じだ。 紛いなりにも、階段を下りた先の環境を目の当たりにしている。 その苛酷さは、短時間とはいえ体感したのだから。
「じゃあ、取り敢えずアアクの町へ戻ろう。 先ずは探して、その結果次第で先の事は考えようぜ」
皆が頷いたのを確認すると、俺は扉を開けてギルドを出たのであった。
ご一読いただき、ありがとうございました。




