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第二十二話~ガーディアン~


第二十二話~ガーディアン~



 階段を下りた先は、前の階と同じ様に部屋となっている。 ある程度の広さがあるので、「せまっ!」とか「息苦しいな、おい」などとは思わなかった。


「なぁ、ミリア。 階段を下りたこの場所って敵とか出るのか?」

「え? さぁ。 私も、ダンジョン(地下迷宮)に何度も行ったって訳じゃないし……アローナ達はどう?」

「あたし達も、熟練してるなんて訳じゃないから。 ね、ねえ兄貴、ディアナ」


 ミリアに問い掛けられたアローナは、ウォルスとディアナに同意を求めている。 そんな彼女の言葉に、問われた二人は頷いていた。


「と、いう訳だからエムシンの疑問には答えられないの。 だけど、何でそんな事が気になったの?

「いや、な。 あくまで素人考えなんだが、もし敵とかで無いなら休憩などに利用出来ないかなと思っただけ」

「ああ、そう言う事ね。 残念な事に、そんな話聞いた事ないわ。 アローナ達はどう?」

「うん。 あたし達も無いね。 その辺りを調べたいなら、要検証かな」


 確かにアローナの言う通りだ。

 上の階と下の階で全く気配が無かったから何となく思ったんだが、安全地帯というかそんな場所があるなら確かにやり易いだろう。

 何より、まだ二か所しかいっていないのだ。 更に進んで、何回もその場所に立たないと分かる事ではない。 アローナの言う通り、検証するのが一番正しいのだと思う……多分。

 それはそれとして、取りあえず先へ進む事にした。

 部屋の出口である正面の扉を開けるとそこは左右に向かう通路だったので、今度は左に向かってみる。

 なお並び順だが、上の階と全く同じとした。

 通路を進んで様子を見る限る、上の階と変わっているとは思えない。 壁も床も天井も、一見石としか見えない材質で構成されているし、通路の広さも変わっている様には感じ無かった。

 あまり変わり映えしないんだなと思いつつ、先へと進む。 二か所ほどの角を越えた辺りで、先頭のミリアが歩みを止める。 すると僅かに遅れて、気配を感知した。


「数は二……いや三か」

「そうね。 音の感じから三体だと思う」


 元々エルフは、耳がいい。 風切り羽の様に鋭角となっている耳をしているし、その分だけ人より大きい。 耳がいいタイプの獣人よりは落ちるが、人間なんかより遥かに性能は良かった。


「うん。 あたしもそう思うよ」

「アローナ、聞こえるのか?」

「これでも、獣人の血は引いているから。 知ってる? 純潔より混血の方が生物的には強いんだよ。 それに伴って、特徴が補強される場合もあるんだ。 勿論、逆の場合もあるけどね」


 頭についている耳を除けば、ウォルスとアローナは殆ど人と変わらない。 そんなアローナが、耳がいいなど思ってもみなかった。


「はい。 お話はそこまで。 見えるわよ」


 ミリアの言葉に、会話を止めて視線を前に向ける。 そこに現れたのは、ゴブリンだ。 見た目はよく見かけた事があるゴブリンだが此処はダンジョン、普通のゴブリンより強い筈。 何より強化の度合いがよく分からない以上、油断するなどもっての外だろう。

 まず先制とばかりに、飛衝拳を放つ。 地上に居るゴブリンならば、間違いなく倒せるだけの力を込めて。

 すると、武器の棍棒を振りかざして此方に向かって来ていたゴブリンの一体が後方に吹き飛んでいく。 更に同じ力でもう一回放ち、もう一体もやはり吹き飛ばした。


「ぎゃろううう!」


 全く意味不明の叫び声を上げながら残ったゴブリンが、武器を振りおろして来る。 その速度は、確かに地上のゴブリンより早い。 だが、十分許容範囲だ。 棍棒を避けつつ、醜悪なゴブリンの顔を掴む。 同時に足を払って体勢を崩すと、後頭部を思いっきり床に叩きつけた。

 手に伝わる骨が砕けた感触からして、ほぼ間違いなく絶命したとは思う。 そちらの警戒はミリアに任せ、俺は吹き飛ばした二体のゴブリンを警戒した。 すると、迫って来るゴブリンの姿が見える。 弱冠ぎこちないので、怪我は負っているのだろうという事は想像出来た。 


「生きてんのかよ。 普通なら、絶命するぐらいの力は込めたんだけどな」

「フレアスピア(炎の槍)!」

「シッ!」


 思った以上に頑丈だったゴブリンにいささか驚いたが、その直後にアローナの魔術とウォルスの矢が飛んでいく。 魔術で攻撃されたゴブリンは、炎で出来た槍をまともに喰らい全身を火達磨にしながら絶命した。 そして矢を受けたゴブリンは、いささか急所を外れた様で体に矢を受けながらもなお向かって来る。 しかしそのゴブリンも、ミリアの鋭い突きを胸に受けて永遠に行動出来なくなった。


「すまない、ミリア」

「大丈夫よ」


 矢の一撃で仕留められなかったからか、ウォルスがミリアに謝っている。 その傍らで俺は、辺りの気配探り追加の敵が現れないかを警戒したが、取り越し苦労で済んだ。


「あっ! やったね!!」


 アローナが、嬉しそうな声を上げる。 そんな彼女の手には、黒い何かが乗っていた。

 大きさとしては、彼女の掌の半分にも満たない物である。 それは真黒い石の様に見えるが、表面がミリアの召喚したウィラザウィスプ(光の精霊)の光を鈍く反射してる様にも見えるのでただの石では無いだろう事はすぐに分かった。


「アローナ。 もしかして」

「そう。 これが魔石。 とは言っても小さいし、質もあまりよくはないみたいだけど」

「見ただけで質なんて分かるのか?」

「うん。 質がいい物ほど、綺麗なんだよ。 いい物になると、それこそ宝石と見間違うぐらいなんだってさ」


 確かに、アローナが手にしている魔石はあまり光を反射していない。 はっきり言えば、磨いた石だ。 宝石と見間違うなど、まずあり得ないだろう。


「そう言う物なのか、魔石ってのは」

「うん。 でも質が悪くても需要が無い訳じゃないから、大した問題にはならないけどね。 ディアナ、預かってて」

「はい」


 アローナは、手にしていた魔石をディアナへ渡した。

 彼女から受け取ったディアナは、袋に魔石を入れると確り紐で口を絞る。 それから背負っている袋に、そのいわば魔石入れと言える袋をしまっていた。

 そんなディアナを横目で見ながら、他にはなかったのかをアローナに尋ねる。 彼女は首を振る事で、答えてくれた。



 その場を離れて暫く進んでいくと、何れは慣れて来る。 途中に現れる魔物も、数こそ多少の差はあるが強さにあまり変わり映えがなかった。 他に大蝙蝠が現れたが、力的にはゴブリン以下でありコボルトと大して変わらない。 数は多かったので、鬱陶しさだけは間違いなく上であった。 

 但し、数が多かったお陰で、複数の魔石を手に入れたのは僥倖といっていいいのだろうか。

 そんなダンジョンに際立った変化が現れたのは、丁度地下五階に下りた時だ。 階段を下りた先は今までの階と変わらず小さな部屋であったが、部屋の出口である扉の先が違っている。 かなり広い空間になっており、その部屋の中央には何かがあった。


「何だあれ。 というか、この部屋はなんなんだ?」

「ガーディアン(守護者)よ」

「ガーディアン?」

「そう。 ガーディアンよ」


 ミリアの話では、ダンジョンというか迷宮内部にはガーディアンと呼ばれる存在が何体かいるらしい。 その数は迷宮によってまちまちで、必ずしも規模と一致するという訳では無いそうだ。

 中にはガ-ディアンが居ない迷宮もあるそうだが、大抵の場合は存在する。 そしてガーディアンの数は、迷宮の規模が大きければ大きいほど多くなるのだそうだ。


「つまり、俺達の先で臨戦体制なのがそのガーディアンだと?」

「ええ。 多分そうだと思うわ」


 ミリアはそう言うと、そのガーディアンへウィラザウィスプを飛ばした。 大きさとしては、二一メートル弱ぐらいだろう。 それぐらいの大きさの物が、身構えた状態でそこにあったのだった。


「あれは、ゴーレム……か?」

「恐らくそうね。 身構えているだけで動かないところを見ると、この辺りに居るならば問題は無いみたい。 近づけば、動きだすと思うわ」

「そうか……邪魔をすると言うのなら打払うのみ!」

「無論だな」


 俺の言葉に、ウォルスが同調した。

 それからミリア達を見ると頷いているので、彼女達も引き返すという選択をする気は無い様である。 皆の意思を確認すると、おもむろに部屋の中へと歩み出した。

 ある程度近づくと、ゴーレムの容姿が判明する。 ゴーレムは、右手に剣を左手に盾を構えていた。 その姿は、さながら鋼鉄の騎士といった風情がある。 ゴーレムにそんな印象を抱いた正にその時、目に光が灯った。


「じゃ、戦闘開始と行きますか」

『ええ(おうっ!)』


 小手調べではないが、飛衝拳を打つ。 すると俺命名ガーディアンゴーレムは、盾で受け止めていた。 そこに、バスタードソードを振りかざしたウォルスが飛び込んでくる。 飛衝拳を受け止める為に突き出された盾を掻い潜るかの様に剣を振るったが、剣で受け止められている。 見た目に反して、かなり素早い動きも可能らしい。


「来なさい、サラマンダー!」


 ミリアがサイレントスピリット(精霊語)に続いて、精霊を召喚した様だ。 サラマンダーは炎の精霊、どうやらディアナの持つ松明の炎を利用した様だ。 しかし俺には相変わらず気配だけは感じられるが、見えはしない。 何時になったら、精霊を見える様になるというのだろう。

 因みに松明を持つディアナだが、彼女は松明と反対の手にモーニングスターを持っていた。


「アイスランス(氷の槍)!」


 アローナの魔術によって生み出された氷の槍が、ガーディアンゴーレムに突き進む。 だが氷の槍は、突き刺さる事は無かった。 寸でのところで、避けられたのである。 しかしこれは好機、体勢が崩れている相手に踏み込んで腕をとる。 そのまま、剣を持つ右腕の肘を肩で逆に決めた。


「せいっ!」


 幾らゴーレムとはいえ、体勢が崩れた状態では碌に力を出せはしない。 肘が本来曲がらない方向で投げを打ち、ガーディアンゴーレムを床へと叩きつけた。

 そこにウォルスが、剣を振り降ろす。 しかしバスタードソードは、少し食い込むだけであった。 


『ちっ!』


 ガーディアンゴーレムは、盾を持つ腕を無造作に振り回す。 咄嗟にはなれたが、ウォルスは剣を持っていなかった。


「どうした!」

「くそっ! 腕が痺れた。 なんて固さだ」 


 どうやらかなり固い金属で、ゴーレムは作成されているらしい。 そのせいで腕がしびれ、ウォルスは武器を取り落とした様だ。


「ウォルス。 これを!」


 ディアナが、手に持っていたモーニングスターをウォルスに向かって投げる。 ディアナは案外力があるらしい、ウォルスまで届きこそしなかったが近くまでは届いていた。


「ありがと、ディアナ」


 ディアナの投げたモーニングスターを、ウォルスは拾うと身構える。 確かに固いというのなら、打撃系武器の方が効果が高いだろう。 そしてそれは、俺にも言える事だ。 

 その時、ミリアの周りにに炎の塊りが幾つか現れる。 その直後、生み出された炎は全てガーディアンゴーレムに打ち出されていく。 すると咄嗟に盾で受け止めていたが、炎の直撃を受けて盾の表面が赤熱して少し溶け出していた。


「アローナ! 氷の魔術を打って!」

「え? あ、そうかっ!」


 ミリアの言葉に何かを察したらしく、アローナはマギ・ワード(魔術語)を紡ぎ始める。 それとほぼ同時に、俺とウォルスも動いた。

 まずウォルスは、胴へめがけてモーニングスターを振るう。 その後、その場を離れるとすぐ様技を放った。


「乱散拳!」


 拳による弾幕で、ゴーレムを釘づけにする。 そこにアローナの声が届いたので、咄嗟に距離を取った。 間もなく、アローナの魔術が盾にぶち当たる。 すると、盾に大きくひびが入った。


「貰った!」


 ウォルスが、盾めがけてモーニングスターを振るう。 その一撃は、ひびの入った盾では耐えられなかった。 完全に盾が割れ、ガーディアンゴーレムの足元に落ちる。 その瞬間、邪魔する物が無いゴーレムの懐に飛び込んだ。


「エムシン! 心臓の部分を打って。 そこにコアがあると思うわっ!」

「分かった。 喰らえっ!「徹振撃!」」


 ミリアの言葉に従い、人で言えば心臓に当たる場所に目がけて撃つ。 そのダメージは波として伝わり、ミリアの予測した通りの場所にあったコアを破砕する。 直後、ガーディアンゴーレムの目から光が消え、活動も停止したのだった。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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