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第十六話~護衛のお仕事~

第十六話~護衛のお仕事~



 明けて翌日、朝食を食べてから宿屋を出ると先ずギルドに向かった。

 どうせ町を発って次の町へ向かうのならば、何か仕事があれば受けた方が効率もいいし何より金にもなる。 ただ必ず受けなくてはなどと考えている訳ではないので、無ければ無いで諦めるつもりである。

 ギルドの建物に入り、早速仕事が張られている掲示板に向かう。 そこは相も変わらずであり、仕事を探すギルドメンバーでごった返していた。


「何か仕事があるかな? どう、兄貴」

「さてな。 隊商の護衛とか、物品や手紙の輸送護衛依頼なんてのがあればいいんだが」


 ウォルスとアローナの兄妹に続いて、ディアナとミリアが掲示板に向かおうとする。 しかしそんなミリアを俺は呼び止めると、気になった事を尋ねてみた。


「なぁ、ミリア」

「何?」

「隊商の護衛ってのは分かるんだが、物品や手紙の輸送の護衛って何だ?」


 始め聞かれている意味が分からなかったのか、ミリアは軽く首を傾げている。 そんなミリアの仕草は、元々美形であるエルフであると言う事もあってとても様になっていた。

 思わず動悸が少し乱れてしてしまうぐらいに。


「……ああ、そう言う事ね。 エムシン、ギルドでは品物や手紙を別の町の支部に届けるという事もしているの」

「物品や手紙を届ける?」

「そう。 基本的に町や大きめの村には大抵ギルドがあるから、何か物や手紙を届けたい人はギルドに頼むのよ」


 ギルドは、そんな事もしているらしい。 正に何でも屋の面目躍如と言ったところであろうか?


「それって、やっぱり依頼か?」

「そうね。 形としては、やっぱり依頼になるわね。 そして依頼を受けたギルドは、ある程度溜まると荷物や手紙を持って町を発つわ。 その時、当然護衛も引き連れるんだけど、その護衛をギルドメンバーから募集するのよ。 でも、必ずそこに行くギルドメンバーがいる訳じゃないから時間が掛かる可能性もあるけど」


 それはそうだろう。

 その為だけにギルドメンバーになった者など、先ず皆無な筈だ。 中には、そんな仕事を生業としているギルドメンバーもいるかもしれないけどな。

 ミリアと話しつつそんな事を考えていると、掲示板の前で仕事を探していた三人が戻って来た。 ミリアと話し込んだ為、仕事探しを手伝えなかったので俺としては少々ばつが悪い。 それはミリアも同じだった様で、やや微妙な表情をしていた。

 だが、そんな気持ちと裏腹に三人はにこやかな笑みを浮かべている。 どうやら、都合がいい仕事があったらしい。 アローナの手には紙が一枚握られていて、そこに書かれていたのはミリアと今まさに話していた護衛の任務だった。

 その届け先はアラル王国にあるトナルという町で、ウォルスの話によると国境を越えたところにある町の更に先にある町らしい。 トナルの町は、これから向かう予定のダンジョンに最も近い町の手前に存在しているそうだ。


「大儲けって事は無理だけど、旅費と宿代ぐらいは十分賄える依頼だ。 方向も合うし、問題は無いと思う」

「それで、出発は何時だ?」

「明後日だって」


 アローナが指さした先には、出発の日にちが書いてある。 そこには確かに、明後日の日付が記入されていた。

 元々明日以降に出発する予定であったから、丁度いいだろう。


「護衛は私達だけかしら」

「ミリアさん、それは分かりません。 明日の午後にギルドの建物に集まるみたいですから、そこで分かると思います」


 ディアナの言葉を聞いて、依頼書をよく見てみた。

 するとそこにはディアナの言った通り、明日の昼過ぎにこのギルドの建物に集合する様に書かれてある。 恐らくそこで、説明や他に面子が居た場合の面通しか何かをするのだろう。


「それじゃ、先ず仕事を受けるか。 その後で町へ行って、買い物をしよう」

「そうね」



 無事に仕事を受けると、ギルドの建物を後にして全員で町へと向かう。

 幸いな事に戦いなどを殆ど行っていない為、武器や防具の損耗は無い。 少なくとも、俺の装備には問題は起きていなかった。 そしてそれはミリア達も同じらしく、他の面子からも武具屋や防具屋へ行きたいと言う話は出ていない。 その為、行き先は最早毎度おなじみとなった道具屋だった。

 店に入ると、手分けをして必要な物を揃える。 とは言え前の仕事で揃えた品物の残りもあるので、どちらかと言うと消耗品の補給と言った感じだった。

 一通り揃え終えたので何とはなしに店内を物色していると、回復薬や治癒薬が目に入って来る。 財布に入っている金額的には十分買えるのだが、今は馬車購入と言う目的もあるので出費は出来るだけ押さえておきたかった。

 内心で「今回も見送りだな」と思いつつ、他に視線を向ける。 暫く店内を見て回ったが、「是非購入したい」と思える様な物は見受けられなかった。

 いわゆる掘り出し物が見つからなかったので、店を後にして宿屋に向かう。 必要な物は買い揃えたので、一度宿屋に帰って荷物を置く為だ。

 やがて到着した宿屋のフロントで部屋の鍵を受け取り、部屋へと入るとそこで荷物を置く。 それから、再び出て行こうとした。


「エムシン。 何処に行くんだ?」

「図書館」

「何で」

「ダンジョンや、魔石の情報とかを手に入れる為だ」


 魔石に関して全くと言っていいぐらい知らなかったし、ダンジョンに関してもあまりにも知らなさすぎる。 その為、少しでも情報を手に入れたいのだ。

 最も他の面子は、先ず考えはしないだろう。 ダンジョンで魔石が手に入る事も、そしてダンジョンに出没する魔獣や魔物がワンランク上な事も彼らにとって当たり前の事なのだから。


「そうか、分かった。 頑張れ」

「ああ。 それで、ウォルスはどうするんだ? 暇なら一緒に行くか?」

「……一緒に出かけるが、図書館は止めておく。 寝ちまいそうだし」


 出かけると言っているウォルスに、無理強いをする気は無いのでそれ以上は何も言わない。 部屋の鍵をフロントに預けてからウォルスと共に宿屋を出ると、そこで別れて図書館へと向かった。

 到着した図書館のカウンターで利用料を払うと、図書館のスタッフに魔石やダンジョンについて書かれている本の場所を尋ねてみる。 スタッフから関連本が置いてある棚の場所を聞き出すと、そこから数冊取り出して読み始めた。

 するとその中に魔具に関して書かれている本があったので、何とは無しに読んでみる。 そこに書かれていたのは、魔具作成についてであった。

 魔具は、魔石だけでは出来ない。 魔石はあくまで核であり、実際に魔具の機能を持たせるには錬金術と呼ばれる術を使う錬金術師の力が必要……らしい。 何の事だがよくは分からないが、魔道具の作成に錬金術師の力が必要な事だけは分かった。

 なお本には続きがあり、それによると錬金術はかなり秘匿されている。 錬金術師以外には、決して術を教えない。 その為、錬金術師専用のギルドがあると書かれていた。


「ふーん。 よくは分からんが、知識が増えただけでも良しとておこう」


 決して、理解出来ないからあきらめたとかでは無い事だけは断っておく。

 取りあえずその本は閉じると、本棚に戻してから次の本を探す。 すると、ダンジョンについて書かれてある書物を見付けた。 中を開くとそこには規模や種類が書かれている。 だが内容については、既に知っている事とあまり変わり映えはしなかった。

 他に何か何か面白い事でも書かれていないかと別の本を探していると、ダンジョンについて変な考察をしている本を見付けた。 その考察とは、ダンジョンの作成者についてである。 それによるとダンジョンの作成者は神や魔神、若しくは邪神や悪魔となっていた。

 またその本には、一応の根拠が記載されている。 その根拠とは、ダンジョン攻略時に手にする事が出来るアイテムだった。

 ミリアからも出た話だが、ダンジョン攻略を果たすと手に入れる事が出来る魔法の掛かった武具や防具などのアイテムには、かなりの確率でその神や魔神や邪神や悪魔の加護が掛かっているらしい……邪神や悪魔の場合、加護より呪いと言った方がしっくりくるんだがそれはひとまず置いておく。  


「加護、ねぇ。 理由としては大きい様な小さい様な……ま、面白いと言えば面白いな」


 他にも何かあるかとその本のとページを捲るが、見当たらない。 事の真偽は兎も角として、ダンジョン作成者に関しての説だけが一番面白いと思えた本であった。

 更に探そうとしたが、ふと時間を確認すると間もなく図書館の閉館時間となる。 これ以上読むのを諦めると、図書館から出て宿屋へ戻る事にした。

 程なく到着した宿屋のフロントでウォルスが帰っているか尋ねると、既に戻っているらしい。 三〇二号室に戻ると、ウォルスがベットに寝転んでいる。 気配から寝ている訳では無く、ただ寝転んでいるだけの様だった。


「ただいま」

「おう、エムシンか。 図書館から帰って来たんだな」

「ああ。 それよりウォルスは町へ出たよな、何か用件でもあったのか?」

「いいや。 ただの暇つぶしに、町をぶらぶらしただけだ」


 本当に町をぶらついただけの様だ。 それもまたよし、だろう。 どうせ、空いてしまった時間なのだ。 普段やらない事に費やすのも、また一興なのだから。


「さて、と。 ミリアのところに行くか」

「ん?……あ、そうか。 何時ものやつか」

「そう言う事。 楽しいご指導の時間だ」


 惚けた風に答えると、ウォルスはにやけた笑みをを浮かべる。 その笑みを浮かべたまま、ウォルスはからかう様な口調で聞いて来た。  


「エムシン、ほんとーにそう思っているのか?」

「さぁ、どうだろうな」


 ウォルスの言葉に乗る様に、あからさまにわざとな感じで方を竦めてみる。 するとウォルスは、にやけた笑みを笑いに変えた。 少しの間だけ笑ったウォルスは、軽く拳を出して来る。 その拳に俺も軽く拳を当てると、部屋から出てミリアの居る女性部屋に向かった。

 女性陣の部屋の扉にノックしてから扉越しに声を掛けると、間もなくミリアが扉を開けて現れる。 それから宿屋の裏手に向かうと、何時もの様にミリアへ護身術の指導を行った。 

 それが終わると、講師と生徒の関係が逆転する。 ミリアからの指導時間となる訳だが、結果だけ言うと俺は今日も精霊を見れなかった。


「感覚的には大分いいと思うんだけど、後は慣れなのかしら」

「済まないな」

「ううん。 私も指導して貰ってるからお互い様だもの、気にしないで」


ご一読いただき、ありがとうございました。

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