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第十五話~次の地は?~


第十五話~次の地は?~



 馬車屋を出てみると、日も傾きかけている。今からどこかに出かけるというのも、中途半端だった。それに、馬車を購入するのかという話もある。結論が出るのかは別にして、すぐ答えを出さなければいけない話でもないだろう。

 取りあえず購入資金の話でもあるので、宿屋に戻ることにする。町の中央部にあり、露天市場にもなっている広場を抜けながら、軽くつまめるものを購入して宿屋に向かった。

 やがて到着した宿屋のフロントで部屋の鍵を貰うと、一度部屋に入る。部屋に荷物を置くと、ミリアたち女性陣の部屋に向かった。それは彼女たちの部屋の方が広いというのが、主な理由となる。それでも五人になるから狭いだろうが、二人部屋に五人も入るよりはましな筈だ。


「入るぞ」

「……いいわよ」


 女性陣の部屋扉にノックをしてから声をかけると、暫く間が空いてから了承の返事があった。その言葉に従って中に入ったが、部屋の構造的にいえば二人部屋と変わらない。違いはベッドの数と、部屋の広さぐらいである。そんな女性たちの部屋に入った俺とウォルスは、部屋に備え付けの椅子に腰掛ける。そして部屋の主であるミリアたちはと言うと、ベッドに座っていた。


「取りあえず話を聞いた訳だけど、馬車を買うことに変更ってあるか?」

「私は買うでいいと思うけど……」


 町の中央部の広場で買って来た食べ物を、一つ摘まんで口に入れてから提案してみる。するとミリアから、引き続いて馬車を買う事に賛成の返事があった。

 次いで他のメンバーに視線を投げると、皆は頷いている。つまりパーティー内で、馬車を買うことには異論がないようだ。そうなれば、次に問題なのはどのグレードの馬車にするかである。車体も勿論だが、馬車を引く生物も考慮しなくてはならないだろう。 


「馬車の車体だけど、考慮として二種類は駄目かな」

「アローナ、二種類とはどういうことだ?」

「うん。ミリアは五人から六人って言ったじゃない。それはそれでいいと思うけど、もう一回りぐらい大きくてもいいかなーと思ったの。余裕的な意味も含めて」


 うーむ。

 一回り大きな車体か……確かに余裕と言う意味ではいいかもしれない。馬車に積める量も増えるし、乗っている間も窮屈よりはいいだろう。

 但し、どれぐらい金額が上乗せになるかは分からないが、その辺りは聞けばいいだけだ。


「要相談ですね」

「勿論だよ、ディアナ」

「そうだな。車体は取りあえずその方向でいいとして、だ。馬車を引く生物だが馬は……無理だよな」

「そうね。お店で、馬での値段を聞いた私が言うのも何だけど」

 

 ミリアが尋ねた時、馬は店長さんがお勧めしなかったぐらいだからな。

 街道を行き来する商人ならばまだしも、ギルドに所属する者は道なき道を行ったりすることも度々たびたびある。普通の馬ではへばってしまう可能性があり、その意味でも幻獣や魔獣の方がいいのだろう。


「だけど、どっちにしても高いだろうなぁ」

「でしょうね。安かったら、そっちを勧めてきたでしょうし」


 ミリアの言った通りだと思う。

 店長さんは「馬はお勧めしない」とはっきり言ったのだ。それも、こちらがギルドに所属していることを知った上である。もし多少高い程度なら、寧ろそちらを勧めていた筈だ。

 その時、ずっと黙っていたウォルスが話し掛けてきた。


「……なぁ、どちらにせよ金は必要だよな」

「そりゃあね。だけど、仕事を受けまくるぐらいしかないけど」

「だったら、ダンジョン(地下迷宮)に行かないか? あそこなら金を稼げるだろう」

「やっぱり、それが一番早いかな」

「だろう? アローナ。少なくとも、俺はそうだと思う。それなりの報酬となる仕事を数多くこなすより早いだろうし、多額の報酬が出る仕事を待つより確実だろう」


 ウォルスの話にアローナが賛同しているし、ミリアやディアナも取り分けて反対していない。ということは、ウォルが言っている事に間違いがないということになるのだが……何でダンジョンに行くと金が稼げるのだろうか?


「ちょっと質問だが、いいか?」

「エムシン、何だ?」

「基本的なことで悪いが、ダンジョンに行くと金が稼げるってどういう意味だ?」

『え?』


 何で、揃いも揃って不思議そうな顔をするのだろうか。もしかしたら……ダンジョンで稼がるというのは、常識なのか? 皆の反応を見てそんなことを考えていると、我に返ったミリアが口を開いた。


「……えっと、エムシン。ダンジョンは分かるのよね」

「ああ、ミリア。確か、地下迷宮とかそんなやつだよな。それが?」


 ダンジョンとは誰が作ったかもよく分からない、正体不明の場所だ。大陸内にある程度の数が、分布しているらしい。

 ただ、地域によって、偏りはあるらしいが。

 そして、これらのダンジョンだが、規模は様々となる。物凄く規模が小さい単純な物から、昔から名を知られていながら未だ誰も攻略されていないものまであった。さらに付け加えれば、構造も千差万別せんさばんべつとなる。俺がいったような地下で迷路状に広がる物から、地上の自然環境そのものといった物まであるのだ。

 ただ自然環境によるダンジョンは少ないらしく、大抵は地下にあるのでダンジョンイコール地下迷宮と認識されているらしい。


「それは知っているのね。逆に何で知っているのに、お金になる事を知らないのかが不思議なのだけれど……まぁいいわ。それで、ダンジョンに行くとお金になる理由はふた……あ、三つね」

「三つ?」

「ええ。まず一つ目は、魔石の存在 魔石は魔具の核というべきものだけど、魔石自体よほどの自然環境が揃わない限りダンジョンに居る魔物や魔獣からしか手に入れることしかできないの。それでも、魔物や魔銃を倒したからといって必ず手に入れることはできない。その辺りも、魔具が高くなる理由でもあるわね」


 魔具が高価なのは、ダンジョン内でしか魔石が手に入らないとの理由もあったのか。

 でもミリアの言葉から考えるに、他にも高くなる理由が存在しているだろう。気にはなるけど今は関係ないから、後回しだな。そのうちにでも、聞いてみるとしよう。


「それで、二つ目と三つ目は?」

「二つ目は、ダンジョン内に出る生物。ダンジョン内に出没するのはいわゆる魔物や魔獣だけど、地上で遭遇する魔物や魔獣と同じでありながら強さが上なの。それだけに、剥ぎ取れる物も見た目は同じでも性能が上となるわ。あと最後の三つ目だけど、これはおまけと言うか御褒美みたいなものでダンジョンを攻略すると規模に拘わらず必ず魔法が掛かった道具が手に入るのよ。武器か防具か、それ以外の物になるかは手に入れてみなければ分からないけどね」

「規模に関係なく?」

「そう言われているわ。でも、手に入れた道具の性能はダンジョンの困難さによるとも言われているわ」


 つまり簡単に攻略できそうなダンジョンなら程度の低い物が、攻略が難しくなればなるほど最終的にはよりいい物が手に入れられるということらしい。だったら、みんなみんな、ダンジョンを目指したりはしないのだろうかと不思議になる。そこで尋ねてみると、ミリアは横に首を振って否定した。


「残念ながら、そうはならないわ。言ったでしょう、魔物や魔獣が強いって。皮肉な話だけど、その事が結果的にダンジョンに向かう者のふるいにもなっているわ。行くのは本人の自由だけど、死んだら元も子もないということなのでしょうね」


 それもそうだな。

 金を稼ぐ為に向かったのに、すぐに死ぬか死なないまでも大けがなんぞ負ったらわざわざダンジョンに向かった意味がない。ならば、身の丈に合った仕事をした方が無難だ。

 それに別にギルドに入ってわざわざ危険な仕事をしなくても、始めから商人や農民や職人などを目指してもいいのである。


「ふーん。それだと、ダンジョンって危険じゃないか? それに、もしダンジョンから魔物や魔獣が出てきたら、どうするんだ?」


 ミリアの話を聞いて湧き上がってきた疑問について尋ねてみると、ウォルスが答えをくれた。

 彼曰く、ダンジョンから出てきた魔物や魔獣というのは、記録上は存在していないらしい。だが、今まで出てきた記録がないからといって、今後に出てこないとは限らない。そこでダンジョンと認識されている入り口の近くには、監視施設を兼ねたがギルド支部があるのだ。

 この監視業務は、国や地方領主から委託を受けてギルドが行っている。それにギルドでは買い取りも行っているし、ギルド支部内には各種店もある。町の中にある店に比べればギルド施設内にある店は多少割高になるが、ダンジョンが存在している場所によっては、町まで帰らなくてもそのギルド施設内に併設されている店で買った方が安くなったりする場合もあるのだ。

 要は、持ちつ持たれつといった関係なのだろう。

 ギルドは買い取りなども行うので、現地に支部を作るのは効率なども考えればある意味で自然な行為である。そして国などはギルドに委託することで、治安等もありダンジョンにまで兵力を割けない事情をフォローしているという訳だ。


「お互いの利益になる、そういうことか」

「分かり易く言えば、そうなるかな。それは兎も角として、つまりはそういう訳で俺はダンジョン行きを提案したのさ」

「うん、理解した」

「それは何より」

「じゃ、ダンジョンに向かうってことで皆はいいのか?」


 ミリアたち女性陣に尋ねると、三人とも首を縦に振っているので反対では無い様子だな……って よく考えたら誰も反対はしてなかったか。

 唯一、俺がよく知らなかったから、尋ねただけである。


「それでダンジョンに行くのはいいとして、どこにあるダンジョンへ向かう?」

「このガアルの町に近いところと考えれば、隣国のアデルでしょうか」

「そうだね、ディアナ。このルデア国内にもあるけど、ちょっと遠いし。距離的な意味でも、それが無難かな?」


 アデル王国は、このルデア国と同じく国王が治める国だ。

 国の規模としても、ルデア国とほぼ同程度と考えられている。この大陸内にある国の中で唯一国境が接した国同士であり、その距離的な近さからか、両王家間で血のやり取りも行われていた。

 緩い同盟関係にあるとも言われているらしく、大陸内にある他の三国と比べても容易に国境を越えることが出来る。勿論、他国である以上は国境でチェックはされるが、それも比較的簡単に済むのだそうだ。


「アデル王国かぁ。俺、ルデア国から出るのは初めてだ」

「そうなのですか?」

「ああ。 ずぅーっと、森で生活していたから。極偶に町に出たりすることはあったけど、それこそまれだったなぁ」


 町へ行くのは、多くて年に数回あるかないかでしかない。しかも、俺か爺ちゃんのどちらかが行けば済む話であった

 子供の頃は、森に残しておくと危険だからという物騒な理由で町へ連れていって貰っていたが、ある程度大きくなり強さも身に着くとそれもなくなる。だから下手をすると、町にきたのが一年以上はたっていましたなんてなんて時もあったぐらいだ。


「えっと、何と申しましょうか……」

「ディアナ、別にコメントはいらない。それに、今さら気にもしていないし」


 これは強がりなんかでもなく、本当にそう思っている。既に過去の事なのだ、今になって気にしたからといってどうにかなる物でもない。たとえ過去に戻れたとしても、どうにかしようとも思わなかった。


「そ、そうですか」

「ああ。それより、明日にはこの町を発つのか?」


 ディアナとの会話を切り上げると、全員に対してこれからの行動について尋ねる。すると、アローナが口を開いた。


「うーん。 別に明後日あさってでいいと思うよ。それに明日は、準備に費やしたい。 それこs、急いでいる訳でもないし」

「それもそうか。これといって仕事を受けている訳でもないし、焦る理由はないか」

「そう言うことだね、エムシン」


 俺の言葉を聞いて、アローナは笑みを浮かべながら答えたのであった。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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