第十一話~事件解決?~
第十一話~事件解決?~
ガアルの町に到着して翌日、いつものように朝の鍛錬をこなすと部屋に戻る。そこで着替えてから、ミリアと共に宿屋の食堂で注文した朝食を待っていた。すると、視界の隅に二階から降りて来るウォルスとアローナとディアナを認める。そこで俺は、三人に対して手を上げた。
「一緒に食べよう」
「ああ」
ウォルスは頷くと、椅子に座る。アローナとディアナの二人も、ウォルスに続いて椅子に座っていた。それからウォルスたちも、朝食を選び始める。そんな中、宿屋の娘であるメイが俺とミリアが注文した朝食を持って来るとテーブルの上に並べる。それが終わると、ウォルスたちへ声を掛けていた。
「ご注文は?
「Aセットが二つとBセットが一つ」
「分かりました。少しお待ち下さいね」
注文を受けたメイは、厨房の方に行き注文を伝える。そんなメイを軽く一瞥してから、ウォルスに話し掛けた。
「で、答えを貰っていいか?」
「ん?……ああ、昨日の勧誘か。主語が無いから、一瞬分からなかった」
「そりゃ、すまない。それで?」
「俺とアローナは問題なし。 ィアナも、俺とアローナが良いと言うならと了承を貰った」
ウォルスの言葉を聞いて、視線をアローナとディアナに向ける。すると二人は視線に気付いたらしく、ゆっくりと頷いた。
「そっか、良かった。じゃ、朝食の後は早速ギルドにいって仕事を……って、そう言う訳にはいかないんだっけ」
「そうね。事情を聞かれるだろうし」
昨日のミリアとの会話を思い出した俺は、うんざりといった表情を浮かべる。 そんな態度から察したのだろう、ミリアが律儀に答えをくれた。
「あー、面倒くさいな。回避とかできないのか?」
「まず無理ね。諦めなさい」
「やっぱりか」
どうにもならない様子に、がっくりと肩を落としながら朝食のパンを口に頬張る。それから程なくしてウォルス達の朝食がテーブルに並ぶと、彼らもまた食べ始めた。やがて朝食後の一服とばかりに寛いでいると、宿屋に兵士が現れる。目的は俺たちで、事情を聞きたいらしい。既に諦めているので、素直に従って兵士の詰所に向かった。
とはいうものの、ギルドの話した以上のことなど知らないので、同じ話の繰り返しとなる。それでもしつこいくらいに何度も同じような質問を繰り返されたが、こちらとしても同じ答えを繰り返すしかなかった。
やがて数時間後、漸く聴取から解放される。だが、呼び出しはその日だけで終わらなかった。結局のところ、都合三日連続で呼び出され聴取を受けることになる。その地獄のような三日間も終わりをつげ、やっと兵士から解放されたのだ。
「あ~、漸く終わった」
「まさに漸く、と言う感じだわ。これで報酬も受け取れるし、町からも出られるわ」
「ああ、そうか。色々ごたごたしていたんで、それも後回しとなってたんだけっけ。と言う訳で、悪いがギルドに向かうぞ」
「……あー、そうだね。早めに仕事しないと、手許不如意になりそうだしね。ただ今の時間じゃ、碌なのもなさそうだけど」
ウォルたち達に声を掛けると、気だるそうにしながらもアローナが了承の旨を伝えてくる。彼女は、俺とミリア以上に疲れている様子であり、流石に心配になって声を掛けてみた。
「どうした? 俺とミリア以上に疲れている感じだが」
「何でもないよー。少し、追及が厳しかっただけ」
「追及が?」
思わずミリアと視線を合わせた。
事情聴取だけでなく追及されたというのは、どういうことなのだろう。
「どうもディアナが攫われたことで、逆に勘ぐられちゃったみたいなのよ」
「もしかして、関係者じゃないかと思われたのかしら?」
「そうなのよ、ミリア。全く、冗談じゃないわ。何であんなやつの仲間とか思われなきゃならないのよ!」
相当腹に据えかねたのか、アローナは声こそ大きくはないが言葉を荒げている。そんなアローナにミリアは、宥めるような仕草をしながら言葉を続けた。
「それは……災難だったわね。でも解放されたのだから、問題ないのでしょ?」
「うん。 それは間違いないよ。ねー、兄貴、ディアナ」
アローナの問い掛けに、ウォルスとディアナは頷いていた。
「そうか。じゃ、今はそれでよしとしておこうぜ。それはそれとして、ギルドに行こうか」
「……そうだな」
やや憮然とした表情をしながらも、ウォルスは同意した。そしてアローナもディアナも、そしてミリアも反対などしない。こうして俺たち五人は、取り調べの行われた詰め所を出た足でそのままギルドに向かった。
やがて到着したギルドの建物に入ると、カウンターに向かう。そして、カウンターの内側に座っているイェルダに話し掛けた。
「どうも」
「あら、エムシンさん。事情聴取、終わってよかったですね」
「流石ギルド。話し、はえーな」
「そういう訳でもないですけどね。ところで、時間あります?」
「そりゃあるけど、何で?」
「なら、こちらにきていただけますか? ああ、ミリアさんたちもご一緒に」
ここにいる五人全員に用と言うことは、多分事件についてなのだろうと当たりを付けながらイェルダについていく。勿論、ミリアたちも一緒に。やがて、ギルドの一番奥の部屋に案内される。そこでイェルダがノックをすると、部屋の中からギルドマスターの声が聞こえてきた。
「開いているから入れ」
「はい」
イェルダに促されて、俺たちは部屋に入った。
その部屋は、ぱっと見には書斎のように見える。そして、部屋に設置してある高級そうな机に備え付けられたやはり高級そうな椅子には、ギルドマスターのニコ=ハルユが座っていた。
「支部とはいえ、ギルドマスターの御指名か」
「面倒くさそうに言うな。それにあの事件は、あまり声高にも出来ん」
それはそうだろう。
連続誘拐など、早々ある事件じゃない。それに、今回助けた人以外にも多分攫われた人はいるのだろう。そして、既に生贄として犠牲になった人も。
「一応、事情は察します。それで、御用件は何ですか?」
「うむ。一応事件のあらましを話しておこうと思ってだな」
ミリアの言葉に促されたような形でギルドマスターが一言、前置きしてから事件の内容を話し始めた。
それによると、先ず誘拐事件だがそれ自体は割と最近に発生したらしい。ただ領主側の手落ちか、それとも事件を起こした奴らが巧妙だったのかは知らないが、事件自体が明るみにはなっていなかったそうだ。
そんな中、俺とミリアが遺跡の確認仕事を受けて、偶々だが関与する。そして、ウォルスとアローナが、仲間のディアナが攫われたことでやはり関与した。その結果が、あの不審な男たちと遺神殿跡で対決という流れに繋がったというものだった。
「ふーん。偶然って怖いな」
「まぁあ、確かにな。それでだ、今回の事件解決に協力したとして、領主からギルドへ褒賞が払われた」
「ってことは、ウォルスたちにも?」
「うむ。それで少し待て、もうすぐイェルダが来る」
俺達を案内した後、部屋に入らなかった理由はそれらしい。やがてギルドマスターの言葉通り、程なくイェルダが部屋に入ってきた。そしてイェルダは、ギルドマスターの机に二つの袋を置く。するとギルドマスターは、小さい袋を持つと俺とミリアを手招きした。
「これが今回の仕事の報酬だ」
「どうも」
奇しくもの手ずから報酬を貰うという、ある意味で珍しい経験をした訳だが別に思うところなどない。ガタイのいいおっさんから手渡しで金を貰ったところで、その手の趣味を持つ人以外に嬉しいことなどある筈がなかったからだ。
それからギルドマスターは、少しだけ大きめの袋を開くと机の上に金を出す。それから手招きをして近くに呼び寄せると、均等に俺たち五人に金を渡して来た。
「態々すまなかったな。もう下がっていいぞ」
ギルドマスターの言葉に頷くと、イェルダに従って部屋から出る。そのままイェルダ先導の元、カウンターの外側に出た。
こうしてウォルスたちも報酬が貰えたので、すぐに仕事を受ける必要はない。だが金があって困る訳ではないので、ギルドの仕事を探して掲示板を見る。だが、やはりというかこの時間では碌な依頼がなかった。
「ま、こんなもんだろうな。幸い、今すぐに金欠となることもない。報酬を貰ったばかりだからな。取りあえず宿に戻り、明日来よう」
その後、宿に戻ったが、特に何かすることがある訳ではない。だからといって、出掛けるには中途半端な時間なので、何をするでもなくその日はすごした。
明けて翌日、昨日は早めに寝たので爽快に目覚めた俺らは、朝食後にギルドへ向かう。到着したギルドは、人でごった返している。やはり朝は、何時もの様に人が多い。それは彼らが、少しでもいい仕事をと思っているからだろう。
「さて、と。何にするか……」
「ねぇ。これなんかどうかな」
アローナが指さしたのは、狩りの依頼である。狩りの対象はコルセ鹿という、角に特徴がある鹿となる。この鹿は、コルセルカという槍の穂先とよく似た形の角を生やす。その角は非常に堅く、加工して槍の穂先にもできるのだ。
因みに鹿の名前の由来も、コルセルカから来ている。また肉も割りと美味いので、食用としても需要があった。
「近いのか?」
「んー、どうかな。あまりこの辺りの土地勘がないから分からない。 エムシンたちはどう?」
アローナに促されて依頼書を見てみると、割と近い。往復で三日から四日あれば、帰ることは可能だろうと思われた。
「近いと思うわ。ただコルセ鹿は、割と大きいから、運ぶ術は始めから用意した方がいいと思う」
「……そうだね」
ミリアの言葉には同意出来る。
実際、甲猪狩りの時もそうだった。狩る労力より、倒してから運ぶ方が苦労したのだ。
「また、手製のそりを作って運ぶ苦労はしたくない、先に運搬用の台車を手配した方がいいのか?」
「ギルドに申告すれば、運搬用の台車と言うか荷車を貸してくでしょう? ただ、補償金?みたいのを払わなくならなきゃいけないけど」
ただでは貸せないということらしい。
ま、分からんでもない。持ち逃げされても困るし、粗略に扱って壊されてしまっても困るだろう。だから先に金を取って、荷車を返せば金を返す。持ち逃げ、若しくは壊したら先に払った金で補填するという形にしているようだ。
「あれ? でも甲猪の時は、貸してくれなかったけど」
「え? おかしいわね。申告さえすれば、補償金引き換えに貸してくれる筈だけど……ちゃんと申告した? 自分から言い出さないと、ギルドからは何も言ってこないわよ」
「マジかよ!」
少しショックを受けながら、俺はイェルダのところに依頼書を持っていく。ついでに、荷車を念の為に二台貸してくれる様に申請しながら金を出した。差し出された金額を確認すると、イェルダから建物の裏手に行くようにと言伝される。彼女の指示通りにギルドの裏手へ行くと、間もなく男に引かれた荷車二台とイェルダが現れた。
「こちらです」
「どうも」
荷車を受け取ると、イェルダと台車を引いて来た男二人はギルドの建物に入っていった。それを見送ってから俺らは町へと繰り出し、必要な物を買い揃える。全てを買い揃えて店を出て宿屋へと向かったが、その道すがら俺は気になっていたことをミリアに尋ねた。
「なぁ、ミリア。店に魔具って売ってないのか?」
「また随分に、藪から棒なことを尋ねるのね」
「そうか? で、売ってないのか?」
「売っていない訳じゃないわ。ただ魔具は高価だから、店に並ぶことがないだけ。欲しければ、店主に話さないと駄目なだけよ」
「なるほど、それでか。図書館で見た本には載っていたのに、店でひとつも見たことがなかったのは。ありがとう、納得出来た」
「どう致しまして」
買い物のあとに宿屋に戻ると、部屋を引き払う。そして荷車を二台引きながら、俺たちはガアルの町を出て、コルセ鹿狩りへと出発したのだった。
ご一読いただき、ありがとうございました。




