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第十話~町に着いて~


第十話~町に着いて~



「やれやれ。 どうにか、辿り着けたか」


 視線の先には、ガアルの町へと入る門が鎮座していた。

 そう、やっとガアルの町へと戻ってきたのである。遺跡に捕えられていた数人と共にした旅だったが、正直に言えばもう二度と御免だった。基本的に、彼らは旅に慣れていない。そんな、旅に慣れていない彼らを連れての数日間である。負った苦労は、推して知るべしだった。

 さらに野宿の際は魔物避けの香を使い、かつ俺達が見張りをするので問題はないと言い聞かせたのだが、攫われた上にあの遺跡で捕えられていたからだろうか。彼らは、野宿の時に物音がするたびに怯えるのだ。

 いや、怯えるだけならまだいい。何か物音がするたびに見張りとして起きているメンバーへ声を掛けるのは勿論、何と寝ている者たちすらも起こすのだ。お陰で寝不足となり、遅々として行程が進まない。そんな事情もあって、ローナン兄妹やディアナから今回の件に関わった理由について詳しい経緯を聞き出せずにいた。

 それだけならまだしも、多めに神殿遺跡から拝借した食料が、つい前日に底を尽きていたりする。その為、今日は誰もが水以外口にしていない。そんな中で漸くここまで到着した俺の口から出たのが、先ほどの言葉だったといわけだった。


「さて、取りあえずギルドに行かないとね」

「ああ、そうだな。報告もあるし、何よりこいつのこともある」


 ロープで縛り猿轡を噛ましている二人へ、目を向けた。

 彼らにはローブを着せ、深くフードを被らせている。その為、ぱっと見には、暗い雰囲気を持った者だという印象ぐらいしか感じられなかった。

 それから暫く進み、やがて町の近くまで到着すると、俺とミリアは神殿遺跡から救出した彼らをウォルスとアローナとディアナに任せて一足先にギルドへと向かう。やがて到着したギルドの建物に入ると、そのままカウンターに向かった。


「あら、お二人とも。戻ったの?」


 声を掛けて来たのは、俺がギルドに登録する際に受け付けをしていたギルドスタッフのイェルダだった。知り合いが受け付けをしていたのはちょうどいいとばかりに、イェルダを捕まえて事情を説明する。こういう説明は、ミリアの方が上手いので彼女が行う。俺が拙い説明をするよりは分かり易いだろうからと、最初からミリアが話すことになっていたからだ。


「そ、そんなことが……エムシンさんたちは、ギルドマスターに事情を説明して下さい」

「会えるのか?」

「事情が事情ですので」


 待つこと間もなく、俺とミリアはギルドマスターに会うこととなった。通された部屋には、五十がらみのおっさんがいる。彼はガアルの町のギルドマスターで、名をニコ=ハルユといった。


「イェルダから、ざっと事情は聞いた。改めて、説明して貰えるか?」


 ギルドマスターの言葉に頷くと、早速とばかりにミリアが事情を説明する。そのかん、黙って聞いていたギルドマスターは、話が終わった途端すぐに手を打った。


「町の役人には、ギルドより説明する。お前たちは俺を、その連れて救出してきた人たちの元へ連れて行け」

「了解」


 その後、ギルドマスターと彼が連れてきた十名ぐらいの荒事も可能なギルドスタッフと共にウォルスたちがいる筈の場所へと向かう。やがてその場所へ到着すると、神殿遺跡より救出してきた彼らと、彼らを攫っていた二人をギルドマスターの管理下へと移動した。


「確かに預かった。あとはこちらで対処する」

『お願いします』

「しかし……面倒な時に面倒な事態となったな」

「面倒?」


 町から遺跡に出かける前に何かあったか考えたが、心当たりはない。不思議そうな顔をしていることに気付いたのか、ギルドマスターが説明してくれた。


「町からさほど離れていない場所に、少なくはないオークどもが住みついたのだ。それを駆逐する為に、ガアルの町の領主殿は旗下の兵を出した」

「それは、いつ?」

「領兵が出立したのは、今朝だな」


 また、随分なタイミングである。

 そして、確かにそんな事態となっているなら面倒だと思っても仕方がない。そこに人さらいと被害者を連れてきたのだから、頭が痛いどころの話ではないだろう。


「なるほど……そういう事情ですか」

「ああ。だからという訳じゃないが、お前たちも問題は起こさないでくれ」

「分かった。善処はしよう」


 わざわざ注意喚起ちゅういかんきなどしなくても、騒を起こす気などはない。別に、アウトローを気取りたい訳ではないのだ。無駄に格好を付けてお縄になるなど、まっぴら御免である。それは兎も角として、ギルドに下駄を預けた俺たちは宿屋に向かう。行き先は勿論、何度か利用したあの宿屋だ。

 因みに、ローナン兄妹とディアナも同行している。ガアルの町は詳しくないらしいので、それならばと連れて来たのだ。


「いらっしゃ……あら、お客さん」


 宿屋に入ると、宿屋の娘であるメイが声を掛けてきた。

 すると俺とミリアは、手を挙げて彼女に軽く挨拶してからカウンターへ向かう。そのカウンターには、宿屋のおばちゃんが立っていた。


「無事に戻ってきたようで何よりだね、お客さん」

「何とか無事に戻って来たよ。それで、部屋は空いているかな?」

「大丈夫だけど……うしろの人達たちかい?」

「そうだけど、もしかして部屋がないのか?」

「いいえ、そんなことはありません。これは、宿屋からの確認ですよ」

「じゃ、よろしく」


 その後、受け付けを変わったローナン兄妹とディアナは、それぞれが部屋を確保する。それから、一旦部屋に入り荷物を置いてから、一階の食堂兼酒場に集合した。そこで改めて、自己紹介をしたのである。


「俺はエムシン=アトゥ。気術使いの武術師だ」

「私がミリア=セラエノ、エルフよ」


 俺に続いてミリアが名乗った。

 その名乗りのあとは、ウォルスたちの番だった。


「俺はウォルス=ローナン、剣士だ。それで、右隣りにいるのが妹のアローナ」

「アローナ=ローナンだよ。魔術を扱えるから」

「最後に私は、ディアナ=レアードと申します。神術を扱う僧侶です」


 ウォルスとアローナの兄妹と違って、ディアナは律儀に頭を下げている。また、ガアルの町に着くまでに分かったことであったが、彼女は総じて物腰が低い。自分を攫った相手に対しても、対応は丁寧だったぐらいなのだ。

 もっとも、ただ丁寧なだけであったが。


「それで詳しい事情は聞いてないんだが、そもそも攫われた理由って何だったんだ?」

「さあ、分かりません。あの人は、「我が神に捧げる」と言っていました。ですが幾ら堕ちた神とはいっても、その様な事態を望むとは思えません」

「と言うことは、あの男の勝手な考えなのか?」

「恐らくではありますが、多分その通りだと思います」


 ディアナの答えに、呆れ顔になった。

 はっきり言って、何ともはた迷惑な男である。勝手に生贄が必要と考えて、人を攫いあまつさえ彼らを生贄としたのだから。これをもし、救出してきた人たちが聞いたらどんな反応をするか。

 怒るかそれとも嘆くか、はたまた呆れるか。どれもありそうで、判断がつかなかった。


「でも対峙した時、一つ気になることを言っていたわね」

「あ、そうそう。あたしも気になった」


 ミリアの言葉に乗ったアローナの言葉を聞いて、俺は不思議そうな顔をした。二人が不審というか、気に掛かるようなことを言っていたのだろうかと。


「何か言っていたか? あの男」

「ええ。「あの方より力を授けられた」とか、言っていたわ」

「「あの方」ねえ……碌な存在じゃないだろうな」

「それは俺も同意だな」


 俺の言葉に、ウォルスが同意する。あんな男が信奉しそうな相手何て、普通な存在じゃないだろう。ありそうなのが、堕ちた神とやらに力を授かったとかだろう。だが、堕ちた存在とはいえ間違いなく相手は神である。そう簡単に人の前に出てくる物なのだろうか。


「なぁ、ディアナ。神や魔神っていうのはホイホイと簡単に現れるのか?」


 僧侶なら詳しいだろうと思いディアナに尋ねるが、そんな俺の質問に彼女は苦笑を浮かべた。 

 

「エムシンさん。神や魔神は、それぞれに異界を作り移動していますが」

「……あー、そう言えばそんなことをミリアから聞いたんだっけ」


 ディアナの言葉の意味が分からず、一瞬だけ考える。だが同様の意味の言葉をミリアから聞いていたのを思い出した。


「えーっと……じゃ、邪神や悪魔は?」

「それこそ、分かりません。強いて言えば、気分次第となるのでしょうか」

「気分次第?」

「はい。それに何より……堕ちた存在とはいえ元は神や魔神です。彼らの行動を推し図ろうなど、ほぼ不可能です」

「……そういう物なのか?」


 ディアナに尋ねると、彼女ははっきりと頷いた。

 彼女のような神に仕えるとされている僧侶が分からない物を、宗教に全く関わっていない俺が考えるだけ無駄ということだろう。

 実際、俺が考えたところで、分かる訳ではないだろうしな。


「ふーん。それじゃ、考えたところで意味はないな。ま、いいか。それはそれとして……ウォルス、アローナ、ディアナ。俺達と一緒に、行動しないか?」

『え?』


 三人へ伝えたその言葉に、彼らは思わずといった感じで俺を見ている。暫くお互い見合っていたが、やがて三人を代表する形でウォルスが問い返してきた。


「……えーっと、それはつまり勧誘ってことなのか?」

「まぁ、そうなるかな。ウォルスの腕も、アローナの魔術も見た。それに、ディアナという神術使いが居るというのは安心感が増す」


 神術には状態変化系を癒す術があり、負った傷を回復もできる。それと同時に、身体能力を向上させる補助系も多い。つまり何が言いたいのかというと、仲間として共に行動する場合、神術使いは安心できる存在なのだ。

 

「うーん。俺としてはやぶさかじゃないが、明日まで待ってくれるか? 相談したい」


 ウォルスは、アローナやディアナに視線を向けてから俺に答えた。

 こちらとしても、今すぐに答えを出せなどと理不尽なことを言う気はないし、無理強いをしたくもない。何よりその場で断らず、考えてくれると言ってくれただけでも上々の反応だった。


「それでいい」

「じゃ。取りあえず、話は終わりという事にしましょ」


 ミリアが話を締めるかのようにいうと、ウォルスたち三人も立ち上がる。そして彼らが、連れだって部屋に向かうのを、黙って見送った。


「やっぱり、即決にはならなかったか」

「でも検討はしてくれるという言質を取れたのだから、今は十分でしょ? それにどうせ、数日は町から出られないしね。ここは図書館に……」

「え? 出られないってどういうことだ、ミリア」


 ミリアの言葉を聞いて、彼女の声を遮る様に問い掛ける。ガアルの町から出られないなんて、初めて聞いたからだ。するとミリアは、俺の反応に対して意外そうな顔をする。暫く見続けたあと、何か納得したかのように頷いていた。


「そう……気付いていなかったのね。明日か明後日あさってかまでは分からないけど、私もエムシンも事情を聞かれると思うわ。無論、私たちだけじゃなくてアローナやディアナたちも聞かれるだろうけれど」

「事情って今回の一件のか?」

「そう。そして、その事情聴取が終わるまで、町から出られないと考えた方がいいわ」

「まじっ! 面倒だな」


 ギルドマスターに引き渡して事件も終了と思っていただけに、驚きも一入ひとしおであった。 


「声を上げたくなる気持ちは分からなくもないけど、協力した方が早く解放されるわよ」


 そんなミリアの言葉に、内心で「そういう事情なら仕方がない」と腹を括る。そしてミリアに対して、肩を竦めながら了解の合図をしたのだった。 


ご一読いただき、ありがとうございました

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