~旅立ち~
~旅立ち~
「爺ちゃん。そろそろいくな」
俺は、目の前の墓を見ながら呟く。この墓は、捨て子であった俺を育ててくれた爺ちゃんの墓だ。今から十数年前に、俺は捨てられていたところを爺ちゃんに拾われたらしい。
決してありふれているとはいわないがさほど珍しいことでもない、死んだ爺ちゃんはそういっていた。貧しさから捨てられていたり、病気や賊に襲われて孤児になった者などは相応にいるというのだから、何とも世知辛い世の中である。
「雨、止まないな。涙雨なのかな?」
しとしとと、一向にやむ気配が無い雨を見ながら俺は呟いた。
「ま、こんな天気の日に旅立つのも悪くないか」
俺は度に必要な道具を入れたバックパックを抱え直し、爺ちゃんが残してくれた金を確認すると今度こそ墓に背を向けた。
雨にやや煙る視線の先には、今いる場所から森の外へと続く細い道が続いている。最後にもう一回だけ振り返ると、俺は手を上げて爺ちゃんの墓に分かれの挨拶をした。
「じゃ、いくか」
そして俺は、最初の一歩を踏み出したのだった。
さて、森の中には色々な動物がいる。虫や小動物から始まり、大型の蟲や獣まで様々だ。そして、魔物や魔獣と呼ばれる奴らもいた。 基本的に虫や蟲、獣の類は腹が減っているか自分のテリトリーに入らなければ襲われることはまず無い。
だが、魔物や魔獣は別で、あいつらは見境なく襲う傾向がある。しかし弱肉強食の世界に生きている為か、一度でも負けると負けた相手を襲わなくなる。もっとも、あくまで個体がそうであるというだけであり、魔物や魔獣全体ではやはり襲ってくるのだ。
「って、お出ましか。めんどくせぇ、もうちょっとで森を抜けるのに」
気配を感じたのは三体、道の先にたむろっているようだ。俺は気配をなるたけ殺して、近づく。するとそこに居たのは、申し訳程度の腰布で下半身を覆っているゴブリンだった。さほど大きくはない魔物であり、はっきりいって強い訳でもない。 有り体にいえば雑魚といってよく、何よりこんな雑魚を相手するのは正直面倒だった。
「さっさと失せて貰うか」
俺は一言呟きながら、殺気を放つ。気配に敏感で、臆病なところがあるゴブリンは何かあいつらにしか分からない言葉を発しながらきょろきょろとあたりを見回していたが、やがて我先にと逃げ出した。
「まったく……見送りがゴブリンとか冗談じゃねえ」
相変わらず降り続ける雨と追い払った雑魚に辟易しながら、俺は森を出たのであった。
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