宴と酔いと 1
まだ日の沈みきらない午後から、男たちの喜びの声が城中を揺らがせた。
酒の入ったグラスを割れんばかりにぶつけ合って、
大人げないほどに顔を赤くしながら談笑したり。
なんでも、しばらく続いていた隣国との戦に、
やっと勝利を収めた褒美・・・だとか。
・・国王も物好きだ。
私は今城の最上階エントランスにいるわけだが、
ここに来るまでにも、もう何十回となく酒の入ったグラスを勧められた。
というよりは、押し付けられた。
酒が苦手なので断り続けていたのだが、
あまりにしつこく勧めてくるものだから根負けして、
一つだけグラスを受け取ってしまった。
「―――――どうしよう・・」
所在無げに、グラスの中の金色の液体が揺らめいて光る。
酒だけは、どうも苦手らしい。
飲むとすぐに頭が真っ白になってしまう。
かといって、捨てるのももったいないし、申し訳ない。
ゆらゆらとこちらをうかがっているようなグラスの酒。
はやく飲め、はやく飲めと催促しているみたいだ。
夕日を受けて輝くグラス。
怪しげに色めく酒。酒。酒。
念のため、辺りに人影がないかを確かめる。
もしも誰かいたとしたら・・・私の酒癖の悪さを見られてしまうことになる。
それだけは避けたい。
そんなことがあったなら、この城で今まで積み上げてきた信頼を失うどころか・・。
呆れられて晒し者になって笑われる未来しか見えない。
「誰も・・・いないよね・・・」
やっと飲む気になったか、と満足げな酒の色。
あぁ、飲み干してやるとも。
仇をにらむような目でグラスを見据えた私は、
一気に上を向きグッとのどの奥へとソレを流し込んだ。
―――――
―――――
それから数分もたたないうちに、私は意識を放棄していたらしい。
気が付くと、そこは先ほどまでのエントランスではなく、ベッドの上だった。
あまり豪奢とは言えないが、きれいに整えられた、どこか懐かしい香りのするベッド。
・・・ベッド・・・?
・・誰、の?
・・・あれ?
思考が戻ってくるにつれて、今度は混乱へと陥っていく。
ここは誰のベッドで、誰がなぜ私をここへ運んできたのか。
・・いや、まて。
・・・もしかして・・
「―――――――見られたっ!?」
ガバッと上半身をベッドから起こす。
吐き気がしたが、それは関係ない。
いや、関係なくはないが、今はどうでもいい。
そんなことより、私の酒癖の悪さを誰かに見られた!?
そっちのことのほうで頭がいっぱいだった。
―――――あぁ、終わった・・私の儚い宮廷人生が・・短かったな・・。
諦観に覆いつくされていく。
さようなら、私の輝かしい宮廷人生。
さようなら、過去の栄光たち・・・・・。
ごめんよ、過去の、私・・・・。
とかなんとか。私が一人脳内芝居をしていると、部屋の戸が開く音がした。
「あら、起きたのね・・レオンス。水、持ってきたわよ」
片手に水の入ったグラスを携え、肩まで届きそうな短めの金髪を
揺らしながら、一人の女性・・もとい私の幼馴染がこちらへ歩み寄ってきた。
「・・・レリア・・?」
が、彼女の名前である。
なんだ、彼女になら酒癖の悪さを見られても別に大した害はないじゃない。
そう開き直ってまたベッドへ倒れこんだ私を見て、彼女は少し呆れた顔になった。
「レオンス・・・貴女お酒強くないのに、無理したでしょう」
「だって、飲まなきゃ付き合い悪いやつだって思われちゃうじゃない」
それに、断れない状況だったんだもの。
彼女から責めるような目で見つめられ、私はそっぽを向いた。
そんな私に、そっと水を差しだす彼女。
流石宮廷の召使い。気配りだけはうまいんだから。
水、おいしい。
「ねえ、レリアー・・・」
呼ぶと、彼女は私の隣に腰かけた。
飲み終わったグラスを手渡しながら、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「・・私、酔ってた時の記憶ないんだけど・・なにか、変なことしなかった?」
「―――――――えっ?///」
なぜか急に顔を真っ赤にするレリア。
「え、もしかして何かあった・・??覚えてないから、・・教えてほしいんだけd」
「ななにもしてないし、なかったわよ?!」
私の言葉を途中で遮って否定した。
顔を真っ赤にしながらも、必死に手をぶんぶんと横に振っている。
すごい慌てようだ。
「・・・本当に?」
「本当に!//」
しばらくの間、にらみ合い。
彼女が「グラスを片付けてくるから//」と部屋を出ていったのを見送って、
私はまた彼女のベッドに寝転がった。
まだまだ未熟者ですが、
・・・目指せ!単行本!・・なんちって(笑)wwww
生暖かい目で見守っていただけたならば、幸いです。
これからもちまちまと、頑張っていきたいです(*´ω`*)。