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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

1000文字小説

メリッサ

作者: 池田瑛

夏ということでホラー短編に挑戦してみました。残酷な描写や表現が使われています。苦手な方は読まないでください。全てフィクションです。

 「星子が死んだ。」


 私は、遠い異国の地で、妹からこの短いショートメールでこの訃報を受け取った。妹が星子の最後を看取ったらしい。私はベランダに出て、タバコを吸った。ベランダの下にあるマンション専用のプールでは、黒人系の子供二人がプールサイドで騒いでいた。


 星子は、私が小学一年生のことに拾って来た雑種犬だ。小学校6年、中学3年、高校3年、大学の2年目。少なくとも13年は生きた。犬の寿命で計算をすれば、大往生と言ってよいだろう。


 妹と交代で毎日散歩をした。小学生、中学生時代は、私は鹿児島市内に住んでおり、星子とは甲突川沿いを散歩した。今は移築されてしまった石橋、高麗橋を星子と渡って向こう岸まで行くのがいつもの散歩コースだった。星子はペットとは言え、家族の一員だった。


 室内に戻り、日経新聞をダウンロードしてコーヒーを飲みながら今朝の朝刊を読む。朝刊の社会面に友人の名前が載っていた。高校生になったとき、私が鹿児島から引っ越しをしたから、もう11年は会っていない。そんな懐かしい彼は、同僚を刺し殺した、とのことだ。私たちがよく一緒に遊んでいた頃だったら、きっと新聞に実名が公表されるようなことはなかっただろう。だが、時は経ち、お互いがとっくの昔に成年していた。そしてその事により、事件を彼が引き起こしたと私は知ることができた。


 仕事が終わった深夜、同僚の住んでいるアパートを訪ね、扉を開けたその同僚を玄関で刺し殺した。彼は、包丁で同僚を刺し続けたらしい。同僚が絶命した後もずっと。アパートの隣人が異変を察知して警察に通報。現行犯逮捕に至ったとのことだ。

 

 私は、またベランダにタバコを吸いに出た。彼の家も、ペットを飼っていた。ハムスターだ。そう、名前はメリッサだった。小学生と中学生のとき、よく彼の家にスーパーファミコンのゲームをしに遊びにいった。ロールプレイングゲームも何作も彼の家でクリアしたことがあったから、相当彼の家に入り浸っていたと言ってよいだろう。そのハムスターの名前はメリッサだった。ずっと名前はメリッサだった。寿命でも死んだメリッサもあれば、ケージから抜け出して不慮の事故で死んだメリッサもいる。けれどもずっと、名前はずっとメリッサだった。よく同じ名前を付けるな、別の命なのに、と思ったことを記憶している。そして、たまにしか見ない私でさえ、別のハムスターと分かるハムスターを、変わらずメリッサと呼び、良き飼い主であり続ける彼に異様さを感じたのを憶えている。


 何度も人を刺すのは、命というものの実感、死という実感を得られないからと、専門家がどこかのテレビ番組で解説していた。血が大量に流れている、瞳孔が開いている、脈がない、心臓が止まっている、だから死んでいる、というようなそんな理屈ではないのだろう。


 メリッサが死んだとき、彼にはメリッサが死んだという認識があったのだろうか。尊いものが永遠に失われたと、気付いていたのだろうか。彼に言えば良かった。メリッサは死んだんだから、別の名前にしろよ、と。






 同僚もしばらくすれば、俺に対して優しくなっているだろう。爪で俺の腕をよく引っ掻いたメリッサも、ぐっと握り潰した後、籠に放り込んでおいたら、数日後には毛並みのよいおとなしいメリッサになっていたし。


ご感想お待ちしております。

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