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光と闇の少年  作者: リグレッド
1.光は日々を過ごす
8/23

戦闘終了

戦闘訓練、今回で終了です!

エドがシルヴァのナイフで弾を弾くようになってから、エドの傷の数は数えられないほど多くなっていた。特にナイフを持つ両手は、どこが傷で、どこが血で塗れているのかわからない。


それくらい血まみれだった。


だが、エドの意識は痛みで飛んではいない。ナイフを握る力も、弱まるどころか逆に強くなっている。


「なんで気絶しないのよ!!!」


耐え切れずにハユラが叫んだ。




全ての学校で、銃は『弾をかすらせること』は可能だが、『相手の体を貫通させること』は禁止している。一応、回復魔法を習得した保健の先生は存在するが、そんな先生でも心臓を撃ち抜かれた生徒は治しようがないからだ。


だからと言って、心臓などの臓器以外を打ち抜いてもいいことにすると、今度は神経を貫きかねない。


そのため銃を武器として扱う者は、かすり傷を作って出血させ血の流しすぎによって貧血を起こさせるか、その痛みで気絶させるかしかないのである。




「それに、なんで音速を超えた私たちの弾をあいつは弾くことが出来るの?あり得ないわ!!」


ハユラの問いかけに、アインが答えた。


「あいつの手を見てみろ、薄く光っているのが分かるか?」


確かに、よく見ると淡い光に包まれている。光魔法を現す、黄色い光に。


「……まさかっ………」


ハユラが信じられないという顔で呟いた。


「スピード強化で私たちの音速の弾と、同じ程度の速度で動かしているというの!!?」


「しかも、エドがナイフを握ってからシルヴァには弾の一つかすってない」


「……………」


自分の弾が相手に届いていないということに、エドがそこまでしてシルヴァを守っているという事実に、ハユラは言葉を失った。


「さっきシルヴァは、2分で酸素を集め終わると言っていた。たぶん、それが完了したら俺たちは負けだ」


「2分っ!!?そんな、後ほんの少ししか時間がないじゃない!」


「ああ、だから……」


アインは指でエドたちの方を示しながら


「俺たちも二手に分かれよう。まあ、向こうと違うのはどっちも攻撃する側だってことだな」


「どういう……」


ハユラが言い終わらないうちにアインが答えた。


「ハユラは今まで通り弾丸を操って攻撃してくれ。俺はエドと肉弾戦をしてくるから」


「はああっ!!!?」


ハユラは今日何度目かもわからない驚きの声を発した。


「あいつと肉弾戦でやって勝てるわけないじゃない!だいいち、弾を当てないという保証はないわよ!!?」


「それでもいい。向こうも慣れないナイフを使って戦ってんだ、俺にだって勝機はあるさ」


そういうと、アインは銃をしまいエドの方へと飛び出していった。


エドが驚いた顔をして、突然目の前に現れたアインに対し防御の姿勢を取る。


それを見ていたハユラは、今の状況についていけず呆然と立っていた。が、すぐに気持ちを落ち着かせると、弾を操る事に集中した。


「男って、ほんと無茶ばっかりする……」


思ったことを、『久しぶりに』素直に呟きながら。






◇◆◇◆◇◆◇◆






突然目の前に現れたアインにエドの頭はついていかなかったが、体が代わりに反応してくれた。


なんとか防御の構えを取り、アインの拳を間一髪のところで受け流す。


「お前っ……、なんでこんなところに!!」


「なんでって言うのはおかしいだろ。俺だってコート内にいるんだぞ。まさか、このまま銃を撃っているだけだと思ったか?」


鋭い一言だった。


アインの言うとおりだ。こちらに勝機が芽生え、あと2分と聞いて勝った気でいたが、相手がシルヴァの言葉を聞きのがすはずがない。当然、そのタイムリミットまでに何か仕掛けてくるはずだった。


だが、エドは音速を超えて飛んでくる弾の事で頭がいっぱいで、『他の攻撃にどうするべきか』ということにまで頭が回らなかった。


「くそっ!!」


そこを突かれた。


「シルヴァ!!あと何分だ!!?」


「1分!!」


数歩後ろにいるシルヴァから返事が返ってきた。それをエドと共に聞いていたアインは、無言で攻撃の威力を強くする。


「ナイフじゃ……うまく攻撃できねえ!!!」


「弾を弾くためには、素手じゃ限界があるからな……これだけハンデがあれば、俺にも勝算はある」


そう言うと、アインはエドの顔に拳を叩き込んだ。掌で受け止めようとしたエドはナイフを持っているためどうしていいか分からず、その一瞬の迷いで拳をまともに受けてしまった。顔面に強い衝撃が走る。


「ぐ……があぁっ」


普通ならそのまま倒れこみ、少しでも衝撃を和らげようとするのだが、後ろにはシルヴァがいる。もしも今倒れこんだら、その隙にハユラがシルヴァに弾をぶち当てるだろう。


それだけは絶対に避けなければならない。


なぜなら。


『弾一つかすらせない』と、そう約束したのだから。


だからエドは足を踏ん張り、倒れ込みそうになる体と、飛びそうになる意識をなんとか押さえつける。


そして、


「うおおおおおぉぉぉっ!!!!」


ナイフの柄を握ったまま、その拳をアインの腹に叩き込んだ。右、左と連続で突き出す。


一つ一つに、重い衝撃があった。


「ごがぁっ……!!!」


アインが腹を押さえてひざから崩れ落ちた。だがこれで終わらない。


それを待っていたかのように、アインの後ろから弾が飛んできた。なんとか弾くが、刃の部分を小指側にして持っているのでナイフに思うように力が入らず、どうしてもぶれてしまう。


その時、


「エド!!!集め終わったわ!!」


シルヴァが叫んだ。


「よっしゃあっ!!!」


(待ってました、その言葉!!)


エドは持っていた2本のナイフを放り投げると、一気に自身の魔力を高めた。体が黄色い光で包まれ、それが両手に集中していく。


「まだ終わってない!」


エドの変化に気付いたハユラが弾をこちらに飛ばしたが、その前にエドは魔法を発動した。


「はああああぁぁぁっ!!!!!!」


黄色く光る弾がエドの手からコート全体にはなたれ、次の瞬間、爆発した。




バンッ!!という爆発音が何度も炸裂する。


爆発で生じた風が、本来ならコート外に出ていくのだが、今はハユラの魔法でコートの白線の上に内側に向かって風が吹いているため、コート内は竜巻の中にでもいるようになった。




前からも後ろからも風が押し寄せ、エドは立っているのかどうかも分からなくなる。


が、その爆発も風もやみ、ようやく目を開けられる状態になると、遠くでハユラが倒れているのが見えた。


多分気絶しているのだろう。かすんでいるその視界を元に戻そうと瞬きを繰り返していると、そのハユラに近づく者がいた。アインかな?と思ったエドだったが、その正体は自分の後ろにいたはずのシルヴァだった。


「…………………」


シルヴァはしばらく無言でいたが、やがて倒れているハユラを見下ろして


「今回は私の勝ちね、ハユラ!!!」


と言った。


(負けず嫌いにもほどがあるだろ……!?)


ハユラが気絶している時点でエドとシルヴァの勝ちが決まったが、シルヴァにとってはアインとエドなど、もはや外野らしい。




「うっ………」


数歩となりで、アインが起き上がった。体中にすり傷があり、顔にはあざがあったが骨折はしていないようだ。


ハユラとシルヴァをその目にとらえると、勝敗が決まったことを確認し、こちらにしっかりとした足取りで歩いて来た。腹を押さえながら横に並ぶと、呆れたように一言。


「あいつらは、ライバルか何かか?」


「俺に聞くな。逆にこっちが聞きたいくらいだ」


エドは即答した。なぜなら、エドも同じことを思っていたからだ。


アインは疲れを体中から追い出すようにため息をつく。


「まあ、とりあえず終わったな。結局、肉弾戦ではお前には勝てないか…」


「そんなことないと思うぞ?結構、攻撃が重いしな」


そう言って、エドはいまだに痛みを発している腰に手を当てた。それを見たアインが申し訳なさそうに、それでいてすっきりとした顔で笑う。


コート内で、美しい友情を築き上げたエドとアイン。しかし、そんな雰囲気などお構いなしに、誰かが二人を後ろから思いっきり殴りとばした。


「ぐふっ……!!?」


「がっ……!!?」


殴られた頭を押さえ、後ろを振り返るとそこにいたのは担任のアラバス先生。その顔は笑ってはいるものの、こめかみのあたりに『怒りのマーク』がついているような陰のある笑顔。


なぜ殴られたかも分からない二人は、はてなマークを頭の上にくっつけてアラバス先生に声をかける。


「あー……俺ら何かしました?」


遠慮がちに聞いたエドに、


「何かしましただああぁぁ?」


その声は、怒りではない何かが含まれていた。


「っ…まさか!!!」


突然アインが声を上げ、辺りを見回し始めた。最初は何のことか分からなかったエドだったが、すぐにピンときて一緒に辺りを見回す。


「もしかして、訓練場壊したか!!?」


訓練場は、校舎の壁などと比べて頑丈に作られており、普通の生徒の戦闘では壊れない作りになっている。生徒が訓練場を壊したなど、高等部でしか聞いたことがない。しかし、今4人がしていた戦いには『音速を超える弾丸』や『中等部最強の爆発』が含まれる。


それらは『普通の生徒の戦闘』では見られない代物で、訓練場の一部が壊れていてもおかしくは無かった。


そして、


「おい、嘘だろ……」


案の定、訓練場は壊れていた。


正確に言うと、Aコートの床に弾丸によって空いた穴がいたるところにあったのだ。


「壊れたら、壊した奴が弁償するってのは知ってるな?ちゃんと口座からひいとくから、保健室行ってけが治してこい!!」


「そんな……!!」


学生は皆、レベルや成績の良さで学校からもらえる生活費が変わる。それを考えると、『レベル9』であるエドはアインやハユラ、シルヴァよりはお金をもらっており、貯金も多かったが、今回弁償しなければならないのは『訓練場の床』だ。


どれだけかかるか見当もつかない。


ましてや、今日は夏休み前日。しかもよく考えれば、空いている穴はハユラとアインが使っていた弾のせい。


エドはグワッ!!と頭を抱えた。


「あああぁぁっ!!!!!不幸だっ!!!!」


「まあ、そう落ち込むな。どうせ4人で割り勘だ」


「てめ……っ!!」


あくまで落ち着いているアインにエドはいら立ちを覚え、感情に身を任せて拳をアインの顔に叩き込んだ。


「ぐっ……!??」


「てめえらのせいで、俺達まで払わなきゃならないんだぞ!!!」


「男なら腹をくく……」


突然、アインが倒れた。首の後ろを押さえ、苦しそうにせき込んでいる。何が起こったのかわからずにいると、アインの後ろからシルヴァが現れた。


その顔は先ほどまでの勝利など感じさせず、ただただ怒りに満ちている。


「シ……シルヴァ?お前何したんだ?」


「イラついたから、空気砲をぶち当ててやったのよ!!」


なぜか質問しただけのエドが怒られ、シルヴァはそのまま気絶しているハユラをおんぶして保健室に行ってしまった。いつの間に先生の言葉を聞いていたのだろうか。


疑問が残ったが、その後ろ姿を見送っていた男二人は、先ほどのちょっとした口論など忘れて……


「女って怖いな」


「ああ………」


意見を一致させていた。



『シルヴァ=短気』の文字が、二人の男の頭にインプットされた瞬間だった。



次は新しい章に入ります。

いよいよ謎の少年がエドと対面!!


果たしてその正体は!!!

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