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光と闇の少年  作者: リグレッド
1.光は日々を過ごす
6/23

作戦開始

エドは、何かを仕掛けられる前にアインに向かって跳んでいた。10メートルという距離は3歩もあれば届く距離だが、エドにとっては一瞬で動ける距離だった。


(作戦が本格的に始まる前に……仕留める!!)


魔法を発動させ、拳を握り、アインの顔めがけて高速で突き出す。


だが、アインはその拳を首を動かしただけでかわすと、代わりにエドの腹に自身の拳を叩き込んだ。


「ご…がぁっ!!」


細身のアインからは考えられないほどの重い一撃が、エドの体をコートの白線すれすれまで吹っ飛ばす。


エドはこみ上げてくる吐き気を必死に抑えた。


「ぐっ……」


「俺を見くびってんじゃないだろうな。レベルだけが戦いじゃないって知ってるだろ?」


確かに知っている。レベルが強ければ強いほど魔法を多用し、魔法を使えば使うほど、その使い方が重要だと気付かされる。


とくにエドは、日々のけんかでそれを誰よりも実感していた。




例えば、魔法を発動した高速の拳でも、そのスピードについていける肉体があればその魔法はほぼ無力と化す。魔法で剣を出したとしても、実物の剣があれば事足りる。


魔法とは本来、自身の体では出来ないことを補うための物。レベルはその強さをあらわしているだけにすぎないのだ。




「さあ、楽しんで戦いましょうよ、アイン!!」


「そうだなっ!!」


アインは返事を返すと共に、銃をエドではなくシルヴァに向けて引き金を引いた。


風魔法で速度の上がった弾丸が、シルヴァの元へと吸い込まれるかのように飛んでいく。


「シルヴァっ!!!」


シルヴァからはこちらが見えていない。完全に死角からの攻撃で、危険を教えようと声を上げたのだが、その弾はシルヴァの体の数センチ手前でポトリと落ちた。


「…………え?」


思わず、疑問がエドの口から言葉となって発せられる。


「私の魔法は空気を操るって言うのは知ってるわよね?だから、空気砲をはなつこともできるの」


「俺の弾に、その空気砲をぶち当てたってことか。それも、死角からの攻撃に」


アインは素早く状況を把握する。


「そういう事よ、残念だったわね」


短く返すシルヴァに対し、


「いいや……」


自分の攻撃が効かなくなったというのに、アインはまだ余裕の表情だった。



なぜなら。



まだコートの中には7発の弾が『ハユラに操られて』飛び交っているのだから。


「それくらいの方が面白い。こっちもやりがいがある」


「やりがい?どういう……」


その時、いつの間にかシルヴァの近くにいたハユラが顔めがけてナイフを突き出した。


「っ……!!?」


とっさに半歩下がり、腰をひねってなんとかハユラのナイフを避ける。


「さすがレベル8!!!」


「皮肉のつもり!!!」


シルヴァもナイフを握り、ハユラに向かって連続で付きだした。


金属音がコート内に響き渡る。聞いている者にとっては、あまりにリズミカルで音楽を聴いているような錯覚すら覚えるほどだった。


「あいつら、ナイフのスキルを最大まできわめてやがるな……」


アインが二人のナイフ裁きを見てつぶやいた。というよりは、自然と口からこぼれたと言った方があっているかもしれない。中等部、高等部を合わせてもアインの銃の腕はピカイチだ。


それは学園に入った時の武器テストで誰もが知っている。もちろんスキルも最大まできわめているだろう。


そのアインが思わず見とれるほど、シルヴァとハユラの戦いは優雅(ゆうが)で、綺麗だった。




一方、エド自身の武器でもある肉弾戦にスキルなどは無いので、すべて独学だ。


エド自身スキルなど持っていないし、武器を扱う物は中学に上がる前にスキルを学び、後は自分で習得していくものなので授業で出てきたことがない。


それでも、スキルは高校生……つまり、義務教育が終わるまでに7割が終わっていれば優秀と言われているらしく、中学生でそれを極めてしまうというのは『すごい』の一言でしかない。


「隙だらけだぞ」


突然、真後ろからアインの声が聞こえたかと思うと、腰に重い衝撃が走った。


アインの回し蹴りが、エドの腰を正確にとらえたのだ。


「っ…、いつの間に」


「お前があの二人に見とれている間に」


エドは受け身を取ってうまく床を滑りると、後ろに飛んでアインから10メートルほど距離を取り、いつでも反応できるよう構えた。


「見とれてたのはお前もだろ!!?」


思わずつっこんでしまっているが、そのエドの表情は決して笑ってなどいなかった。


「大丈夫か?」


「お前に言われても嬉しくねえなっ!!」


そう言うと、エドは大きくジャンプし、アインの脳天めがけて右足を振り下ろした。


衝撃が訓練場の床を揺らす。


手ごたえあり。


だが、その蹴りはアインの脳天ではなく、交差された腕のちょうど真ん中をとらえていた。


避けきれないと判断したアインが、とっさにガードしたのだ。だが、銃を使うアインにとって、腕を動かせないのは致命的。


(チャンスっ……!!)


「おおおおおぉぉぉっ!!!」


エドは右足をアインの頭上に残したまま上半身を右に大きく傾け、右手をアインの腹にあてると、魔法で手の先を爆発させた。


先ほどのアインの攻撃で(何とも情けない話だが)腰を痛めているので、苦痛で思わず顔が歪んだが、何はともあれレベル9。爆発の威力は絶大なものだった。


バンッ!!!という何かがはじく乾いた音が鳴り響き、爆風が衝撃波となって辺りにいる生徒の髪をかき乱した。


「ぐあぁっ……!!」


アインは腹を直接爆発され、後方にかなりの勢いで吹っ飛ばされた。が、コートの白線の上まで行くと、その体が不自然に止まる。


「白線の上にはハユラの魔法がかかってたんだったな。気絶させる以外勝利は無しってわけか……」


普段ならこれで戦闘終了なのだが、女子二人のし烈な争いのためか、負けにくいコートになっている。


アインは分からないが、エドにとっては迷惑以外の何物でもない状況だった。


「空中で体を回すとは、さすがだな。それと……何となくかっこいいこと言ってるが、腰に手を当てていわれたら雰囲気ぶち壊しだな」


腹を押さえ立ち上がりながら、アインはエドを見て言った。その声には若干あわれみがこもっている。


「うるせえっ!!一言余計だ!!!お前は肉弾戦じゃないから知らないかもしれないけど!!腰ってのは鍛えようにも鍛えられない場所の一つなんだぞ!!!」


「背筋じゃだめなのか?」


「漢字で気付け!思いっきり『背中』の『背』の字がついてるだろ!!!」


「背筋って、肺筋って漢字じゃないのか」


「それにしても『肺』がついてるだろ!!?お前、漢字苦手なのか?いや、苦手で済まされないレベルのような気もするけど……?」


「アインっ!何余談なんかしてるのよ。早く『撃って』!!!」


シルヴァとナイフを交えているハユラの罵声が飛んできた。それを聞いたアインが、半分呆れたような顔をする。


「俺たちは完全にサポート役だな、エド」


「俺の場合はサポート役じゃなくて、ただ人数を埋め合わせするための様な気もするけどな」


「アインっ!!!」


「ああ、分かった!!」


ハユラのいら立ちのこもった声に、アインは大声で返事をすると、銃を構え、何もない空間を撃った。


だが、そのすぐ後に金属音が鳴り響く。


「え……、お前どこ撃ったんだ?」


「動かない方がいいぞ」


アインがそう注意した。何のことか全くわからず、(だま)すためかと思い動こうとした次の瞬間、目の前をものすごい速さで『弾丸が通り過ぎた』。


「え…あ―……は?」


目の前を通り過ぎたと分かっただけでも勲章ものの、それくらいの速度の弾だった。


「まさか、飛んでる弾を撃ったのか………!?」


「ああ」


アインが短く返答した。




一言感想を言わせてもらうと、あり得ない。


どこの漫画の戦闘シーンだここは。目で見るのもやっとの弾に正確に当てるなんて、あいつの動体視力はどんなことになってんだ!!


心の中でツッコミまくるエドだったが、現実にアインはそれを成し遂げている。


そして、エドは気付いた。


「これが、もしかしてお前らの作戦か……?」


ハユラがコート内でアインの弾を操り、その弾にさらにアイン自身が弾を当てて軌道をずらし、相手に攻撃を予測させない作戦。


これが、ハユラとアインが即席でこなしている作戦の内容だった。




次で、戦闘訓練は終了の予定です。


その後は、『帝夜学園の朝休み』で携帯を握りつぶした少年がようやく出てきます。

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