戦闘訓練場
帝夜学園、戦闘訓練場。
なんとも仰々しい名前だが、言い換えればただの『体育館』である。もっとも、普通の体育館よりは頑丈にできている。
縦100メートル、横80メートル、高さ15メートルという馬鹿でかい体育館に、その他組のメンバーはジャージを着て集まっていた。人数が少ないことも影響しているのか、体育館にいる17人からは『ポツン』という印象を受ける。
そんな体育館にポツンといる17人だったが、戦闘に必要な剣であったりナイフや銃は持ってきていた。
「よーし、それじゃあ戦闘訓練を始めるぞ。最初はAコートでシルヴァ、エドとアイン、ハユラチーム。Bコートでチナ、ジュリとロイド、サオチーム」
ジャージに身を固めたナイスバディのくせに色気ゼロのその他組担任、アラバス先生が声をかけた。
その掛け声に関係のない生徒たちは壁際に移動し、各自、見たい『戦闘』をするコートの周りに集まっていく。
帝夜学園の体育館は、床にひかれた線によってAコートとBコートに分けられていた。戦闘訓練とは主にこの二つのコートを使い、線から出るか気絶したら負けというのがルールなのである。
もちろんシールドなどという魔法をコートの外に出さないための物が無いため、攻撃はコート外に飛び出すが、それを生徒たちが避けるのも『戦闘訓練』の一つとなっていた。
つまり、自分が戦っていない時でも気は抜けないのだ。
「エド、私はハユラを狙うわ」
コートに入り、準備運動をすませたシルヴァがやる気満々で言った。
「狙う奴決めたらペアの意味なくならないか?」
と思ったことをそのまま口にするエドであったが、シルヴァは聞こえないとでもいうように強引に話を進める。
「あんたはアイン担当ね。あいつって確か銃使うでしょ?肉弾戦専門のあんたには良い練習になるじゃない」
「それは俺のためを思って言ってんのか、それともただ単にハユラと戦うための理由か?」
「あら、決まってるじゃない。相棒のあなたを思っての事よ」
ばっちりスマイルウインク付きで言われ、ため息すら出てこないエド。これが漫画なら背景にキラキラがつきそうだ。
「ていうか、なんでハユラなんだ?何かあったのか」
言った瞬間、シルヴァが首をコキッと鳴らした。突然すぎるシルヴァの変わりっぷりに、思わず距離をとるエド。
「ハーユーラーはーねー」
妙に間延びしたしゃべり方。こういう物はだいたいお決まりのパターンだ。
「えーっと、シルヴァ………さん?俺は何か聞いてはいけないことを………」
「この前の戦闘訓練で私に勝っちゃったのよ……ね~?」
「…………。やっぱりただ恨んでるだけじゃねえか!!負けたこと認めろよ!!」
「うっさいわねっ!やっぱりって何よ、負けず嫌いって言って!!!」
予想してたけど何か怖い。もう、食い物の恨みなんてレベルじゃない。
『女は怒らせると怖い、絶対に恨まれたりするなよ自分!!』と心の中で唱えながら、エドは黙々と準備運動を進めていった。
長年の付き合いから、ピリピリしているときのシルヴァには近づかない方がいいと知っている。
……今まで何度失敗してきたことか…………。
彼の頭の中では、中等部に入ってレベルをグンと伸ばした幼馴染とのさまざまな『思い出』が思い返されていた。が、彼はそれを強引に振り払い、大きく深呼吸をした。
何はともあれ、これから始まる戦闘に気持ちを集中させなければならない。
エドは確かに『最強』だった。だが、それは『レベル』の話だけであって、戦闘では負けることだってある。ただ、戦闘は魔法のレベルの強さが重要になっているのでそう呼ばれているだけなのだ。
現実に、ハユラはレベル7だがレベル8のシルヴァに勝っている。
エドが戦うことになったアインはレベル6だが、相手の扱う武器は銃で素手で戦う者にとってはもっとも不利な状況だった。
「まあ、そこまで心配はしてないんだけどな……」
「え、何か言った?」
「いや、何でもねえっ!!」
「……?」
妙に明るい声を出したエドを不思議に思うシルヴァだったが、特に気にせずに所定の位置についた。エドもシルヴァの後を追うように位置につく。
エドは銃を使うアインをそこまで警戒していなかった。
毎日ケンカをしているからなどではなく、なんとなく、心のどこかが落ち着いていた。
向かい合った四人は、ほとんど同時に魔法を発動させる。それぞれの魔法を象徴する色の光が足元のあたりから煙のように立ち込め、オーラのように生徒たちを包み込む。
下から自然と起こる風に髪をなびかせながら、四人は戦闘態勢に入った。
それを見て、Aコートの周りにいた生徒達も各々の武器を取り出し、いつでも自分の身を守れるようにする。
「Aコート、戦闘開始!!!」
アラバス先生の掛け声とともに、四人はコートの中心で衝突した。
◇◆◇◆◇◆◇
戦闘が始まる少し前、コートに入ったアインとハユラは『作戦』をたてていた。
二人は幼馴染などではなく、この『その他組』になってからつるむようになった仲だが、そもそもペアでの戦闘は『作戦を組み、協力して戦闘を行う事』が目的なので、二人はその目的をちゃんと果たそうとしていた。
「おいハユラ。お前はあのシルヴァに勝ったこと、あるんだよな?」
準備運動をしているハユラに、アインは唐突に質問をした。
「え?ええ、まあ一応ね」
「どうやって勝ったんだ」
「シルヴァは空中からの戦闘を得意としてるでしょ?だから私の『風魔法』で体勢を崩して、そこを攻撃したの。今回も通じるとは思ってないけどね……」
「体勢……つまりバランスを崩したってわけか」
感心したようにつぶやき、アインは自分も体をほぐしながら得られた情報から作戦を考える。
「アインって、私と同じ風魔法だけど威力が弱いから『銃の弾丸』に魔法を発動してその弾丸を自在に操ってるのよね?」
レベル6のアインの魔法を何の悪気もなく『弱い』と言ってのけるところ、それだけ自分たちの魔法の強さを分かっているのだろう。アインの方も言われたことに怒りを表すこともなく、質問に対する答えを口にする。
「ああ。俺はレベルの弱さを補うために、銃の腕を磨いてきたからな…」
「だったら、その銃の腕を生かしましょうよ」
「………?」
何の事かさっぱりわからないアインに、ハユラは小声で思いついた『作戦』を打ち明ける。
「無茶にもほどがある」
「無茶しなきゃあのレベル8と9には勝てないでしょ」
語気を強めたハユラの言葉に、アインは薄く笑ったが、
「確かにな」
と短く同意した。
そして、ちゃんと『作戦』をたてた二人は、所定の位置につき魔法を発動させる。
足元から煙のように光が立ち込め、『風魔法』を扱う二人を同じ水色の光が包み込む。下から自然と起こる風に髪をなびかせながら、ハユラはゆっくりとナイフを持っていない左手を握りしめた。
この時、目の前にいたエドやシルヴァはもちろん、四人のコートを囲んでいた多くの生徒達は気付かなかった。
アインが愛用している銃の弾丸の半分を、ハユラが握っていたこと。そして、それがいつ、ハユラの手に渡ったかということに。




