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光と闇の少年  作者: リグレッド
1.光は日々を過ごす
2/23

プロローグ

 この世には魔法が存在し、人間が住む世界『トレディア』と、精霊が住む世界『スプリット』がある。


人間たちが固体として存在しているのに対し、精霊たちは存在自体が魔力のため、体というものがない。その強大な魔力のせいで、体が崩れてしまうからだ。


精霊たちは長時間『トレディア』にとどまることは出来ないが、その代わり人間よりも圧倒的な魔力を保有し、人間は精霊達がなし得なかった科学技術を発展させた。



 そんな『魔法』と『科学』が隣り合わせの『トレディア』に、この物語の主人公、エドは生活している。

 

 彼が生活しているのは『王都』と呼ばれる半径70キロメートルの円形の街だった。それぞれ北と西区域は魔術、東と南区域は科学が発達しており、その中でも北と南は『学び』、西と東は『戦闘』に特化していた。


高く巨大な壁に周りを囲まれ、さらに四つの区域に分けられた王都だったが、その中心、半径2キロメートルは関係者以外立ち入り禁止の区域だった。なぜなら、その中には王都を収める『王』と『貴族』が住んでいるからだ。


この立ち入り禁止区域も高い壁に囲まれ、人々はこの壁を『絶対(ぜったい)防御壁(ぼうぎょへき)』と呼んだ。どんな攻撃でも壊れないと噂されているからだ。


中の様子は街中からは全く見えない状態だったが、その高い壁を超えるさらに高い建物がある。


城。


厳密には王が住んでいるとされる建物。


外見は19世紀の城をそのまま現代によみがえらせたかのようだが、中は最先端の『科学』と『魔法』であふれている。高層ビルの立ち並ぶ王都に場違いな建物だったが、その巨大さと威圧感から誰もが城を恐れ、それでいて憧れていた。


そこに………『秘密』があるとも知らずに。





 世界は巡り、常に何かと何かが天秤(てんびん)にかけられる。


例えば『人間』と『精霊』、『魔法』と『科学』、『戦闘』と『学び』……あるいは『表』と『裏』、『光』と『闇』。


背中合わせで存在するそれらは、必ず同じ重さで、量で、世界に溶け込んでいる。


そして彼の街でも、それは……『表』と『裏』は存在していた。





     ◇◆◇◆◇◆◇





 俺は、何か神様に恨まれるようなことをしただろうか。いいや、きっと神様は俺に「さぁ、今日もがんばれ。これを乗り越えてこそ明日がもっと輝かしいものになるんじゃないか」と言いたいんだと思う。


というか、そうとしか思えない。


「あああぁぁぁ…………」


おもわずため息が声となって発せられた。



 盛大にため息をついた少年の名はエド。帝夜学園中等部3年、扱う魔法は爆発やスピード強化を得意とする光魔法。武器などは使わず、体一つで戦う肉弾戦を得意としている。


そんな彼は現在、『西区域』のとある大通りから外れた路地裏で、同じ学園の生徒5人に囲まれていた。相手は高等部の、エドからしてみれば先輩にあたる人たち。


この状況からすれば、エドが何か先輩たちを怒らせることをしたのではないかと思うかもしれないが、実際に彼は何もしていなかった。学校からまっすぐ寮に向かっていただけだ。


だが、ちょうどこの路地裏に入ったところで、待ち伏せしていた先輩たちに囲まれてしまった。向こうはそれぞれ武器を持っており、明らかに『戦闘』が目的だと分かる。



 路地裏での学生同士のケンカは、そう少ない物ではない。


だが、エドはそのケンカの数が半端ではなかった。ほぼ毎日、多いときは一日3回はケンカをしている。というか正確に言えば、ケンカに巻き込まれている。


「だめだ、俺はいろんな意味で不幸だ」


頭を抱え、本気で悩むエド。だが、それを見ている先輩たちのいら立ちは最高潮に達していた。


「おい、お前さっきから何ぶつぶつ言ってんだぁ?」


「まさか、勝てるから別に注意を払わなくてもいいとか思ってんじゃないだろうな。俺らはレベル7だぞ」


『レベル』


 それは人間の魔力を数字で表したもの。科学サイドなら1~3、魔法サイドなら4~6が一般的な強さだ。高校生でレベル7というのは、さすが王都一、二を争う学園の生徒だとなるかもしれないが……


「いやいや」


レベル7の武器を持った学生たちに囲まれながらも、エドは笑っていた。


「先輩、俺レベル9なんですけど?」


「なっ……!!」


一同が声をそろえて驚きをあらわにする。


「お前があの、中等部最強のエドか!!!」


(ちゃっかり『中等部』って単語が入ってんだな……)


というツッコミが口から出かかるが、どうにか飲み込み、頭の中だけでつぶやく。これを言ってしまうと、この状況がもっと長引いてしまうと思ったからだ。


 それだけはどうしても避けたい。


なぜなら……



「ぐぐぐぐぅぅううぅぅぅ………」



腹が減って仕方がないからだ。


「おいてめぇ、腹が鳴るとはずいぶん余裕じゃねーか!!!」


「仕方ねーだろ!! あんたらみたいに学校サボって道端で菓子をふんだんに食ってるわけじゃね―んだよ!!!こちとら給食から今まで何も食ってねーんだああああ!!!」


突然理由を叫ぶエド。だが、現在午後11時。たとえ成長期の少年でなくても、食後約12時間では誰であろうと腹が減るものである。




 エドは自身の魔法を発動させた。エドの全身が光だし、その輝きがどんどん強くなっていく。


高等部の学生は突然のエドの叫びにしばらく呆然としていたが、すぐに体が反応し、各々の魔法を発動。中心にいるエドに向かって攻撃を仕掛けた。


この間わずか2秒。


『西区域』の学生でも、この素早い動きには到底ついていけないのだが、学生たちの攻撃はエドにあたることは無く、代わりに味方同士の攻撃を食らうことになってしまった。


「なにっ……が……」


あっけにとられる学生達。そこへ、遥か頭上からエドの声が降りかかる。


「それじゃ先輩、今日はこの辺で―――!」


上を見ると、そこには近くのビルの屋上で手を振っているエドの姿があった。あのわずか2秒の間で、直線距離にして100メートル以上を移動したことになる。


「お前、逃げるのか!!!」


相手の方が強いという事実を突き付けられながらも、挑発する学生たちに対し、エドは叫び返した。


「うるせぇっ!!! 俺にとっては逃げることも勝利の中に入ってんだよ!! こちとら毎日お前たちみたいなの相手にしてんだ、全部相手してられるかあああぁぁぁぁっっ!!!」


まさに心の叫び。


言い終わると、エドはそのまま地上に戻ることは無く、ビルの屋上を飛び移りながら姿を消した。きっと寮に帰って行ったのだろう。


その姿を地上から見ていた高等部の学生たちは……『そうやって移動すれば、ケンカに巻き込まれることも無いのでは?』と心の中で意見を一致させていた。





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