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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

赤い月の下で

作者: 工藤るう子
掲載日:2012/09/23





 まぁ、な。


 これまでオレは話に聞くだけで、かかわりがなかったし。


 変なやつがいるもんだで、済んでたさ。


 けど、こう、面と向かっちまうと、バリバリ違和感がありまくりだぜ。


 なんでも、どっかの陰陽道だかなんか不思議系の世界の跡取りらしいって噂話で聞いてはいたけどさ。


 そういう世界のヤツって、普通のかっこうしてしらっとガッコに通ってるって思ってた。もしくは、はなっから一般常識から逸脱して、ガッコには通ってないとかさ。




 一度縁がつながっちまうと切れない相手っているんだよな。


 不思議と出会う回数が増えたりするし。


 大学では結構見かけて、挨拶するくらいにはなってたけど。それらを数には入れないでいいだろ。


 だから、今回が、二回目だ。


 オレだって、さして運動神経がいいほうじゃないけどさ。


 格好のせいもあるだろうけど、こいつには、勝てる。


 手を引っ張って、こいつに絡んでた相手から逃げてた。


 大学にもなって結構悪趣味な人種がいるもんだ。


 カツアゲするよか、ナンパでもしろよな。


「あんた、世話、焼ける」


 もういいだろうって、キャンパスの外れにある特別棟の壁にもたれながら、オレは言った。


 ファーストコンタクトも、これと似たようなシチュだったからな。


「す、みません………」


 上半身を折るようにして喘ぎながら、


「高野林太郎さん」


 そう言われて、


「えっ?」


 まじまじと見てしまった。


 だってな、名前、教えてなんかないんだぜ? こいつはともかく、オレは、目立つ性質じゃない。なのになんで知ってんだ?


 身長はさして変わらないんじゃないかな。


 体重は、オレもどっちかっつーと細身だとは思うんだが、そいつ、目の前にいるアナクロな格好をしてるやつは、オレよかもっと細そうに見える。


 アナクロな格好。


 うん。


 二度目だしな、前ほどの衝撃はない。


 有名人だし。


 けどな、いくら大学が服装自由だからってさ、やっぱ、いくらなんでもこれはないだろ?


 白くて小さい顔。


 これは、普通というか、明らかに美形な部類に入る。


 弓なりの眉に、少し垂れ目気味の琥珀色の目が、節目がちにオレを見てる。くちびるは紅をさしてるわけでもないだろうにやけに赤くて、クッと口角が持ち上がってる。


 好き嫌いはあるだろうが、基本、女の子にもてるはずだ。


 もっとも、ネックは、さっきから言ってる、格好だろう。


 白い着物に、浅葱の袴。それに、風呂敷包みを抱えてさ。


 まるで、神主みたいな格好で、いつも大学に通ってんだよな、こいつ。


 しかも、髪型が、頓狂なんだ。いやいや、女の子がする分には可愛いよ。けどな。


 おとなしそうな顔して、結構図太いんじゃなかろうか。


 女の子――っつうか、昔はやったって言うアニメの少女がよくやってたって聞いた記憶があるけど。腰までありそうな長い黒髪を、ツインテール――ほんとはツーテールっつうらしいんだけどな、日本じゃなぜかツインテールっていうらしい――に括ってるんだ。しかも、耳の上で一度輪っかにして残りを流したタイプの髪型でさ。


 さてさて、あまりにじろじろ見てしまったからか、顔を赤くした。


 やっぱ、箱入りさんだ。


 風呂敷包みを胸元でぎゅうっとだきしめて、オレに頭を下げる。


「ありがとうございました」


 今にも消え入りそうな声だった。


「気をつけなよ」


 言ってるそばから、こけてやんの。


 オレは、抱き起こしてやったさ。


 トマトみたいに真っ赤になって、相手は、駆け去っていったのだ。




 これが、オレ、高野林太郎と、姫宮和佐のセカンドコンタクトだった。




 おいおい。


 オレは、空を仰いだ。


 コンパに呼び出されたんだけどな。


 気が乗らなくて悪いとは思ったけど、ドタキャンしちまった。その帰り道だ。


 空はとっぷり暮れちまって、盛り場の空だから、星は見えやしない。


 ただ、大きな丸い月が、真っ赤というか、黒味がかったオレンジ色して空にかかってた。けど、それも、ぼやけててさ。


 なんか物悲しくなって、電柱にもたれた。


 タバコ吸うヤツはこの辺でパッケージ取り出したりするんだろうけどな。オレはあいにく、吸わない。余計な税金払ってまでからだ壊したくないんだよ。


 ざわめく人ごみの繁華街。


 オレってばまぬけだよな。


 溜息をついて背中を電柱から引き剥がしたときだった。


 あれ?


 たしかに、見たような気がしたんだ。


 あの、頓狂な髪型をさ。


 なんか、また、走ってるような。


 と、なんとなく視線だけで探してしまい、案の定っつうか、見つけちまう。溜め息つきそうになりながらなんとなく見ていると、


「またかよ~」


 がっくしとオレの肩が落ちた。


 あの箱入りさんは、夜の繁華街をなにうろうろしてんだよ。


 おかしげなやからが、どうやら、彼を追っかけてるらしい。


 見てみぬ振りが出来ればよかったんだけどな。


 いかんせん。


 袖触れ合うも他生の縁――っつうのかなんつうのか。


 三度目ともなると、神さまの作為を感じるな。いや、悪意だろうか。


 二回助けることができて、三回目助けられなかったっつーのは、寝覚め悪いだろ。やっぱ。


「ハードボイルド林太郎ってかぁ?」


 オレ、強くないんすけどね。


 基本、肉体派じゃないんだよ。


 ぶちぶち言いながら、オレは、姫宮らしき人影が消えただろう方向へと走り出したんだ。


 お定まりといえばお定まりな場所で、姫宮は三人の男に絡まれてた。薄暗い路地裏で、街灯が今にも切れてしまいそうに点滅している。


 ああ、暗い、な。


「高野さんっ」


 そんな嬉しそうな顔をされたら、オレは、逃げられません。


「なにやってんだっ」


 ジーンズの尻ポケットから携帯を取り出し後ろ手にピッポッパと押しながら、姫宮と正道から足を踏み外してるだろう三人の男の間に割り込んだ。


 背中に姫宮を庇う。


 足が震えてるけどな。


 男たちに携帯を向けた。


「警察に通報したからな」


 今一決まらないけどな。こう、情けない威嚇だったりするけど。


 これが、覿面だったりした。


 顔を見合わせた三人が、チッとばかりに地面につばを吐いて、背中を向けた。


 ほっと息をついたとき、やつらのうちの一人が、手にしてたジャケットで、オレの顔をぶちやがった。


「これでかんべんしてやるよ」


 結構きつい衝撃でさ。


 オレは、情けないけど、その場にしゃがみこんじまった。


「高野さん、大丈夫ですか、高野さんっ」


 姫宮の焦った声が、オレの耳を打つ。


 頭はくらくらするし、頬は痛いしで、泣きそうだ。


 ふらふらと立ち上がったオレの涙でぼやけた視界一杯に、街灯に照らされてる姫宮の顔。


「あ、ああ。どうにかな。そういうあんたは?」


「僕なんかどうでもいいです」


 姫宮があたふたとオレの顔を覗き込んだ。


 ぼんやりと浮かぶ赤い月が、その時、姫宮の背後で一瞬だけ強い光を放った――ように見えた。


 ぴくんと、姫宮のからだが弾んだ。


「お、おいっ?」


 大丈夫か。


 蹲った姫宮が、顔を上げた。


 ちかちかと瞬く街灯の下、姫宮の整った、でも気弱そうな顔が、オレを見上げて、笑う。


 赤い口角を片方だけきゅっと引き上げて、にやりと笑った。


 背中が、逆毛立つような、そんな、表情に、オレは、咄嗟に身を退こうとして、できなかった。


 手首をとられて、まさかっていうくらいの力強さで引き寄せられた。


 オレは、姫宮にキスされたんだ。


 それは、まるで、オレを喰らおうとするかのような、そんな、くちづけだった。


 地面が揺れる。


 空が、姫宮が、オレが、揺れる。


 そうして。


 オレは、意識をすっ飛ばしたんだ。






 気がついたとき、オレは、まるっきり知らない場所にいた。


 広い和室の中央に敷かれた布団の上で、オレは眠っていたのだ。


 高い天井を見上げながら、なにが起きたかを思い出して、全身の血が引くのを感じていた。


 底なし沼に埋まってるみたくからだが動かないオレの傍で、姫宮が、シクシクと泣いている。


 ごめんなさい。


 ごめんなさい。


 と、しゃくりあげながら、繰り返し繰り返し謝っている。


 そうか。


 オレってば、こいつに、抱かれたんだよな。


 記憶に残るこいつの顔は、今のこいつとは百八十度違って、艶をまとっていた。


 こいつじゃ無理だってほどの力強さで、オレを押さえ込み、思うままに操った。


 何度も何度も貫かれて、底なしの精力というのがあるのだと、教えられた。


 男も、男に抱かれて、感じるのだと、教え込まされた。


「大丈夫だ………」


 他になにが言えただろう。


 こいつを罵るのは簡単だけど、こんなにも悄然としているこいつをいたぶったからって、今更なにがどう変わるわけでもない。


 なかったことにしよう。


 多分、忘れるには時間がめちゃくちゃかかるだろうけど。


 精神衛生上は、それが一番に違いないのだ。


 だから、オレは、そう言おうとしたんだ。


 けど。


 心底悔やんでるって感じで泣いていたこいつが、ふと、オレに視線を向けたんだ。


 泣き顔だ。


 まだ、涙も乾いていない。


 なのに、その白目が赤く染まった両眼は、オレを見据えて、揺らぎもしない。


 いつもの気弱げな姫宮じゃなかった。


「お、おまえ、だれだっ」


「私? そう、私は、もう一人の和佐ですよ」


 和佐と私とは、ふたりで一人なのですから。


「なんで、オレに………」


 グニッと、和佐の片側の口角が持ち上がる。


 ふてぶてしい笑みをたたえたままで、


「愚問ですね。和佐も私も、君を気に入ったからです」


 和佐はあんな性格ですから、君に告白することも、ましてや押し倒すことなど論外だったでしょうが。


「姫宮……………が?」


 あの気弱な姫宮が、オレのことを?


「私は、欲しいものは手に入れる主義ですから」


「っ」


 耳元でささやかれ、ぞろりと舐め上げられた。


 背中が、ぞわりと、粟立つ。


 これは、昨夜の、あの時の姫宮だった。


「忘れるなど、許しませんよ」

 

 響きのよい声が、オレに告げる。


「逃げるなど、論外です」


 もっとも、逃がしませんけれどね。


 乗り上げるようにしてオレの顔を覗き込み、笑う。


 クツクツと、姫宮ではない姫宮が、笑う。


 ぞくり――――と、オレのからだの奥深くが、引き攣れるように震えた。


 それは、嫌悪などではなく。


 それに気づいて、オレは、オレの顔が赤く染まるのをいたたまれない思いで感じていた。







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