贄にされた少女
初作品です。
至らないところが多々ある、拙い文章ですがご了承下さい。
村で一番の美女である事を認められた。
それは誉れではない。この村では美女は差し出される。古の怪物に。
そう、この村随一の美女になるということは――贄になるということだから。
村の外れには洞窟がある。
その洞窟は天然の迷路になっていて、正しい道を気の遠くなるほど進んでいくと巨大な空間に辿り着くと伝えられている。
そこには古の怪物が住んでいて、怪物の寵愛を受けることが出来れば、願いを叶えられる、とも。
その日の生活に困るほど貧しくもないが潤っているとも言いがたい村に私は住んでいた。
村長は少し肥えているが、村人は痩躯で作物の収集を主としたどこにでもあるような村。
村は、その年の天候などによって生活が左右され、村人の手に負えないときや厄災に見舞われたときには、『贄』を立てるのが習わしとなっていた。
その年は、疫病が流行して、年寄りや子供など力ない者達から次々と倒れていった。
―――年老いてから、子をなした私の両親も。
幸いにもさほど強くないもののようだったが、感染するのを恐れ、村人は出歩かなくなり、村は一気に活気が失われ、廃村に見間違えるほど廃れていった。
そして、誰かが口にした、「贄」を立てるべきだ、と――
贄とは古の怪物の寵愛を受けられる女のことで、贄に選ばれるのは村で一番の美女と決まっていた。
今回、贄となるのは私だ。
そう、私なのだ。
その事実に苦笑すら零したくなる。
鏡に映るその姿は、見るに耐えないほどではないが端麗というほどでもない。
ぱっと目を引くような顔ではなく、よく見ると整っているという程度の地味な顔。
妖艶と呼べるほど魅力的な身体つきでもない。
むしろ背が高い分、貧相な身体としか見られないだろう。
それなのに村一番の美女と持て囃される。
三百人程度の集落で若い女は五十人ほどだが、その中で十の指に入るかもしれない。
だが、一番というほどではないと冷静に自己評価できるからこそ、嗤いたくなる。
「贄」に選ばれたは何故か。
理由は、明白だった――わが身可愛さに仕組まれたのである。
誰も好き好んで肉親を贄に捧げようなんて思わない。
疫病で肉親を失った私なら、誰も咎めない。だから、私なのだろう。
美女を決める夜、暗黙の了解で村の総意のように推された。
獲物を狙う肉食動物のように私を捉えて離さないような人、目を合わせられないと俯く人と様々だったが、村人たちは妙に団結していて、その光景はどこか滑稽だった。
贄の衣装は美しかった。
服の色は白。純白の白、穢れ無き白。
死装束なのか白無垢なのかわからないような衣装だが、絹で出来ているのだろうか、肌触りも着心地も良い。
胸まである髪はあえて結わず、何色にも染まらない漆黒の髪と純白の衣装が対になるように施されている。
綺麗、と着させてくれた者は褒賛したが、それを手放しに受け取ることは出来なかった。
花嫁姿に憧れた時期もあっただが、こんな形でなんて叶うとは望んでいない。
もしかしたら、死装束かもしれないが、その可能性はあえて考えないことにする。
どちらにせよ、自ら望まず誰からも祝福されず、ただ村の犠牲になることを主張している衣装に代わりはない。
賛辞を受け入れてしまうと、今の状況すら受け入れてしまうことになる。
贄になんかなりたくない。
まだ生きていたい。
それが本音。
仕組まれたとはいえ、村の為受け入れなくてはならないことは、わかっていた。
わかっている、わかってはいるけれど、それでもその運命を抗いたい気持ちでいっぱいだった。
着替え終わると、格好が目立つからなのか、贄、だからなのか私の周りには人垣が出来た。
駆け寄ってきた友人と呼んでいた人達。
ごめんね、と謝罪の言葉を連ね、気をつけてね、と私の身を案じる言葉を投げる。
嘆き悲しんで、どうしてどうして、と言うが、だからといって自分が身代わりになろう、なんて誰も言い出さない。
わが身の可愛さに私を売ったのだ、もしくは売ることに反対しなかったのだ。
感情が一気に褪めるのがわかった。
友情がいかに脆いか克明に映し出された気がした。
疫病で肉親を失った私に矛先を向けた人達。そう認識すると上手に言葉が紡げない。
友達とも認識する事も出来ない。
あの楽しかった日々は虚像だったのだろう。所詮赤の他人、誰よりも自分が可愛い人たち――
投げかけた言葉も自己満足のためのものかもしれない。
そう考えている時点で、ここにはもう自分の居場所はないと自覚できた。
未練などもう無い。
ワタシノイバショハナイノダカラ―――
沢山の供物とともに自分は洞窟の入り口に残される。
それでいいのだ。
贄になってやろうじゃないか。
お前たちの望む、贄になってやろうじゃないか。
それで、生まれ育った村への恩を返せばいいのだろう?
諦めに似た感情を抱き、一瞥を投げたあと、無言で駕籠に乗りこんだ。
駕籠に揺られながらこれからの事を考えた。
自分の短い人生に終止符を打つ、ということを。
古の怪物の寵愛なんて言っているが、食べられることは明白だ。
村人が自分たちの都合よく、響きがいい言葉で置き換えただけであることは明らかだったからだ。
その証拠に寵愛の受らけれる女は『贄』と呼ばれる。
神仏に供える食べ物の意味であるその呼称で。
人柱として捧げられるより、女として捧げられたほうがまだ体裁がいいし、愛という幻想があると女は観念して贄になるだろう、という魂胆もあるのかもしれない。
食べられたとしても、愛でられるとしても、きっと私は村には戻らない。
戻れない、といったほうがいいのだろうか。
空虚な自分の体を抱きしめて、別れを告げる。
誰に、何に対してなのかはわからないけれど、そうしなきゃいけない気がした。
一刻もしないうちに、駕籠が下ろされた。
どうやら、着いたようだ。
駕籠を運んでくれたであろう人達の足音が遠ざかるのを聞いて、簾を捲る。
待っていれば迎えが来ると聞いていたので、一緒に持ち込まれた供物にどんなものがあるのか検分して周り、時間を潰すことにする。
古の怪物とはどんな生き物か少し位供物から探れないかと思ったが、煌びやかな装飾物や食糧ばかりでそれらしい手がかりは掴めなかった。
むしろ、こんなに供物が出せるほど、村が蓄えていることに驚いた。
ここにある供物を換金すれば村人が一年働かなくても暮らせる。
廃村寸前だった村のどこにそんな貯蓄があったのだろうか。
これだけあれば、疫病の治療薬も手に入るし、医師だって呼べる。
何故、疫病対策としてこの供物を充てなかったのかと考えてしまうと村の愚かさに苛立った。
しばらくすると洞窟の奥から明かりが見えた。
迎えは驚くことに人間だった、しかも女性の。
二十才前後に見える女が片手に松明を持ち、長い髪を揺らしながら近づいてくる。
手足はすらりと長く、服越しでもわかるグラマラスな体型で、腰まである髪はどう手入れしたらそうなるのか知りたい程綺麗な漆黒の髪。
顔は小さく、恐ろしい程整っている。
身に着けている服ですら、華美ではないが、その質の良さが分かるものである。
薄暗い洞窟なのに彼女の周りだけ煌々と輝いている。
それはきっと松明のおかげではないだろう。
迎えが来るのは正直半信半疑だった。
迎えなんてこないか、魔物でも来て早々に食べられるのかと思っていたのに、
人間、それも絶世の美女が来たのである。
狐にでも化かされているのだろうか。
目を開いては擦り、また目を開いてみたが、姿は変わらない。
開いた口がふさがらない、とはまさにこういう事だろうか。
頭の中で数字を数え、もう一度見る、やはり変わらない。
やはり絶世の美女のままである。
村一番の美女という名目で来た私と比べたら月とすっぽんで、なんだか申し訳ない気分になる。
そんな私を尻目に、使者は可笑しそうに「くすっ」と上品に笑うと、
ついて来なさいというように来た道を引き返した。
その妖艶な笑みに見ほれたが、慌てて後を追う。
きっと彼女は古の怪物の使者なんだろう。
この洞窟は天然の迷路と聞いている。一人では進めないだろう。
とりあえず、迎えが本当に来たので安堵する。
放置されたら、行くアテすらない。
使者が長いコンパスでスタスタ歩くので、置いて行かれないよう黙って付いていくことにした。
洞窟の中は入り組んでいる以外何も無かった。
そう、何も無かった。死臭もしなければ、人骨も無い。草木もなければ、人も無い。
使者の持つ松明が唯一のもので、二つの人影が動き、足音を響かせるだけだった。
供物を持ってきてないことに気が付いたが、今更な気がして口にしなかった。
どれほど歩いただろうか、
気が付くと目の前に明るい空間が広がった。
急な光に目が眩み、瞬きを繰り返していると、使者の姿は見えなくなっていた。
そして、目の前には古の怪物がいた。
古の怪物の姿をきちんと視界に捉えた瞬間、その存在の名前を私は呟いていた。
御伽噺にしか存在しないと思っていた生物だったが、すぐにそれであると認識できた。
悠久の時を生き、ヒトの何十倍も大きいであろうその体躯を持ち、赤い皮膚と鱗で覆われ、牙と翼を有し、炎や天候を自由自在に操り、森羅万象の知識を持つとされる、
竜である、と。
古の怪物とは、竜のなかでも位が高いとされる赤竜であった。
赤竜は雄雄しい姿をし、慈悲深い目でまっすぐ私を見つめて問うた。
何の為にきたのか、と。
重い、そう感じられる重厚感のある声、その威圧に慄いた。
それでも、臆しながらも村の状況と、そして今回の贄は自分であると伝えた。
食べられることになるのは承知の上だった。
食べられるのは覚悟していた。
どうせ、今更逃げ出せない。
逃げ出せたとしても、村には帰る居場所なんて無い。
頼るアテもない。両親や親戚は疫病で倒れていった。
命からがら村に帰っても石を投げられる生活になるのは目に見えている。
自分は贄なのだから、村の役に立たねばいけない。
それが仕組まれたものであろうとも。
そう決意して紡いだ言葉。
だが、赤竜の返答は意外なものだった。
「我はヒトを食べない、ヒトは不味そうだ。」
頭の中に疑問符が大量に浮かんだ。
ならば何故私は贄として連れてこられたのだろう。
過去にも連れて来られた人は沢山いたはず、その人達をどうしたのだろうか。
贄を差し出しても食べないのならば、村にも恩恵はないのだろうか、村は廃れるのだろうか。
村にはあのような習わしがあるのか。
頭の中を駆け巡る様々な疑問を私は矢継ぎ早に口にする。
「ヒトは我に女を差し出す。だが、我は女を欲しない。ヒトは女を差し出すことで集落の結束を高め、今まで災いを退けてきた。我は基本何もしない。ヒトが勝手に我の恩恵だと勘違いしているだけだ。時には我の気の向くままに天候を変えてやったこともあるが。これからどうするかは、お前の自由だ。」
ごくん、と唾を飲み込み、今の話の意味をも飲み込んだ。
確かに村は妙に団結していた。供物の蓄えもあった。きっと疫病が去ったら再び栄えるだろう。
そして、それが事実なら、なぜ贄を立てるなんてことをしたのだと憤りたくなった。
贄でなければ村で生活できた、友のままでいられた、死を決意しなくてもよかった。
決意した結果がこれなんて、あんまりだ。
死ななくてもいいという、勝手にしろという、身寄りもなく当ても無い私に死より辛いことをいう。
だが、それは赤竜のせいではない。
赤竜は残酷だと、責めるのは見当違いだとわかっていた。
責めるべきは村である、と。
疫病でどうしようもなかった、習わし通り赤竜を頼るしかないと思っていた。
その行為が結果的に団結を生み、解決しているなんて微塵も思わなかった。
赤竜が願いを叶えてくれていると思い込んでいたのだ。
蓄えがあるのに、自分たちで解決できる力があるのに、どこまでも他力本願な村なのだろう。
どうして自力で道を切り開けないのだろう。
村はなんて愚かなのだろう。
自分達はなんて愚かだったのだろう。
拳を握り締め、純白の衣装に染みを作っていた。
自分の瞳から流れ落ちるものによる染みで、その感情が、悔しい、という気持ちだと気づくのに時間がかかった。
落ち着くのを待っていてくれたのか、しばらく私の嗚咽以外、音がしなかった。
そして、質問の回答の続きを静かに切り出した。
「いつだったか、まだ、ヒトがこの場所と我を記憶していたころ、疫病を如何にかしてくれと村長と呼ばれる男がここにきて懇願しにきた。我は取り合わなかった。ならば、娘だけは疫病から逃がしたいと言ってきた。あまりにしつこいので、ここには他の地に繋がる道があると言うと、娘であろう女が訪れてきた。女が去って、疫病が退いた後、気づくと贄の話が作られていた。」
つまりは、村長が村人の手前、娘を逃がしたなどと言えず、でも、娘を疫病に罹らせたくない一心でついた嘘なのだろう。
娘は逃げたのではなく、疫病を治してもらうために、赤竜に捧げられた、と。
そして、赤竜の寵愛を受けることができ、疫病が退いたのだと。
自分の娘の権威を守りつつ、村長としての威厳を保つ上手い嘘である。
だが、村長がついた嘘で一体何人の女が涙を流したのだろう。
村に帰っても石を投げられる生活になるのは目に見えている、自分は贄なのだから、村の役に立たねばいけないと、強がった結果、帰るにも帰れず、贄としての役目も果たせずに嘆く女は何人いただろうか。
ヒトはなんて愚かなのだろう、再びそんな言葉が脳裏をよぎる。
「どうしたい」
赤竜に問われてようやく意図がわかった。
自分も疫病から逃げられることに。
そして、この贄を立てるという行為を村に戻り、止めさせることができることに。
どちらを選んでも困難な生活を強いられるのはたやすく想像できる。
どちらも選びたくない、選べない。
だが、この贄を立てるという行為を終わらせたほうがいいのだろうということはわかる。
わかるが、自分には…
そこでふと気が付く。
これまでの贄にも赤竜が同じことを告げたのならば、一人ぐらい村に戻って来てもいいのではないか。
贄を立てるという行為がいつから始まって、これまでに何人の女が捧げられてきたのかはわからないが、その全てが私のように村に居場所がなかったのだろうか。
愚かな村だが、生まれ育った地なのだから、一人ぐらい村に愛着があり、戻ろうとした者はいなかったのだろうか。
どうしてこれほど長い間この行為が止まらないか。
何故、赤竜ではなく古の怪物としてでしか伝わっていないのか。
途端に身震いをする。
疑心暗鬼な眼差しで赤竜を見つめる。
赤竜は私の顔つきが変わったのを読み取ったらしい。
戻る道について尋ねると、赤竜はにやりと笑ったように見えた。
「お前の思慮は正しい。我は喧騒を嫌う。だから、戻る道を行けば記憶は奪わせてもらう。ここで知ったこと、我に関する記憶はここのみでしか保てないようにしてある。記憶が消えるということはそのものの自我も消えるということ。お前はお前ではなくなって村に戻るのだ。なにも知らない無垢な赤子同然として。」
言葉を失った。
この贄を立てるという行為を村に戻って止めさせることは、不可能ということだ。
赤竜の言葉は真実だろう。そうであれば納得できる。
きっと一人ぐらいは村に戻っただろう、だが、それは無意味に終わった。
そういうことだろう。
だから、贄を立てるという愚かな行為は終わらないし、赤竜は古の怪物のまま紡がれる。
そして私は思慮をめぐらす。
他の地とはどこなのかを。
戻れないならば進むしかない。
そこで先ほど進むという道を何故選ばなかったのかと、ふと疑問に思った。
つてもない見知らぬ土地で暮らすことは確かに大変だろう。
だが、戻る道と比べると進む道はまだ希望に満ちている。
普通なら、戻る道についてではなく、進む道について尋ねる。
なのに、何故自分は戻る道について尋ねた?
何故進む道に飛びつかなかった?
考えてもその答えは出なかったので、赤竜に進む道に進んだ者について尋ねた。
「他の地に行った者は沢山いる。過去にここに来た女共は我先にと他の地を目指していった。だが、我はここから出ない。だから他の地のことは知りえない。ただ、他の地に行った者は戻ってこない。他の地からもここに来るものはいない。」
それだけで十分だった。
何故選ばなかったか、わかったからだ。
直感が告げていた。
他の地には行ってはならないと。
行ったら戻れなくなる。
永遠に。
戻るも地獄、進むも地獄。
赤竜の口角が上がったのが見えた。
さあ、どうする、と試すような上品な微笑み。
その笑みをどこかで見たような気がした。
そして、答えを見つけた。
「私をココに居させてください」
そうお願いをした。懇願といっても過言ではない。
恐怖に駆られ、進むか戻るしか頭になかった。
いつの間にか二者択一になっていた。
進むことも戻ることもできないからば、留まればいい。
留まることこそ最良の道。
赤竜は最初から提示してくれていた。使者という形で。私に選択権を与えてくれていた。
留まれば赤竜の庇護下のもと何不自由ない生活が出来るだろう。
あの使者の身なりの良さがそれを証明している。
それが寵愛ということなんだろうか。
きっとそういうことなんだろう。
赤竜は好む、賢きものを。
赤竜はヒトを試し、諮る。
寵愛をするのにふさわしいかどうかを――
赤竜の寵愛を受けられる資格を持つのは美しきものだけ――
使者の女は物陰から主様と贄としてやって来た少女のやり取りを伺っていた。
そして、顛末を見届け胸を撫で下ろす。
少女が賢くて良かった、と。
ヒトは少なからず誇りを持っている。
だから、他者から全てを教わるということを是としない。
全く知らない、わからないことを真っ直ぐ問うことが出来る人は極僅かに限られる。
少女は主様に質問を投げかけた。
必要な情報を集め、思慮し、また集め、そして最良の答えを最短で導いた。
主様は優しい。聞けばきちんと答えてくれる。
言葉数こそ少ないが、それでもきちんと答える。
ただ、聞かねば喋らない。
だからこそ質問をしなくてはならないが、錯乱状態に陥り、無意味な質問をし、主様のご機嫌を損ねた女は過去どれほどいただろうか。
先走って戻る道や進む道を選んだ女も過去どれほどいただろうか。
その末路は思い出したくも無い。
主様は語らなかったが、進む道に言った者の阿鼻叫喚は洞窟内で反響して聞こえてきた。
思い出すだけで、鳥肌が立つ。
ああ、本当に少女が賢くてよかったと、再度胸を下ろす。
贄とは古の怪物の寵愛を受けられる女と誰が言い始めたのだろう。
あまりの的確さに賛辞の言葉を贈りたいぐらいだ。
それが本当に寵愛だと知っているのは、寵愛を受けたものだけのはずなのに。
遥か昔、少女と同じように贄として捧げられ、寵愛を受けた。
悠久の時を主様と共に過ごし、その知識を享受した。
今では、できない事を数えたほうが早い。
最早、村とは言わず国家を担えるほどの人材だといえよう。
なに不自由ない生活であるし、ここには煩わしい人間関係も無い。
村と比べると、ここはとても快適である。
美しく賢い少女を愚かな村になんて留まらせておくのは勿体ない。
あんな愚かな村では埋もれてしまう。
愚かな村は、愚かな人間しかいなくていい。
そして、廃れてしまえばいい。
贄を立てる行為を止めるよう進言しないのは、贄にされた女のささやかな復讐。
だから、贄を立てる行為はなくならない―――
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。