第68話:指輪の誓い、再び
お読みいただきありがとうございます。
第68話。二度目の指輪の誓いです。
既存の結婚観に縛られず、自分たちにふさわしい「家族の定義」を見出した二人。
大人だからこそ辿り着ける、深い信頼の形を描きました。
旗艦店のプレオープンが終わり、招待客が去った後の屋上庭園。
夜風に乗って、階下から微かにコーヒーの残り香が漂ってくる。
私は、自分の薬指に光るシルバーのリングを見つめていた。第2部の終わり、あの夕日の下でもらった約束の印。あの日、私は「形」になることを恐れていた。けれど、今は違う。
「志保さん」
瀬尾さんが、私の隣で静かに口を開いた。
「この三ヶ月間、プロジェクトを通して、僕は確信したんです。僕たちはもう、どちらかがいなくなれば、人生の設計図が描き直せないほど深く繋がっているんだと」
彼はポケットから、かつてと同じような、けれど少しだけ意匠の異なる別のリングを取り出した。
「以前の指輪が『約束』だったなら、今度のこれは『確信』です。志保さん……籍を入れるかどうかは、これからもあなたの自由でいい。でも、一生、僕の家族でいてくれませんか」
家族。その言葉が、三十八歳の私の胸にストンと落ちた。
名字が変わることでも、戸籍に記載されることでもない。
誰よりも先に異変に気づき、誰よりも長く痛みを分かち合い、誰よりも深くその成功を祈る。
そんな、世界でたった二人の「チーム」としての家族。
「……瀬尾さん。私、もう怖くないわ」
私は自分から手を差し出し、彼に新しいリングを嵌めてもらった。
「あなたが私の『ホーム』でいてくれるなら、私はどこまでだって自由になれる。……ありがとう。私を見つけてくれて。私を、ここまで連れてきてくれて」
二人の指で、二つのリングが月明かりを反射して重なる。
かつて孤独だった私の夜は、彼という「光」を得て、穏やかな凪のような幸福へと変わった。
私たちは、どちらからともなく微笑み合い、深い接吻を交わした。
それは、若さゆえの情熱とは違う、積み重ねてきた信頼と覚悟が溶け合った、大人の誓い。
夜更けのルミエールで始まった私たちの物語は、今、最高に美しい「家族の形」へと結実しようとしていた。
第68話、いかがでしたでしょうか。
「籍を入れるかどうかは自由でいい」という瀬尾くんの言葉に、彼らしい志保への深いリスペクトを感じます。
お互いの「個」を尊重しつつ「家族」になる。
そんな二人の姿を、最後まで見守っていただけると嬉しいです。
いよいよ物語は、感謝の夜を経て最終回へ。
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