唐人駄場遺跡
足摺半島は、標高433mの白皇山を頂点とした島が四国にくっ付いたような形状をしている。ぐるりと一周回ってみても28kmしかない。こじんまりとした半島だ。その先端に足摺岬があり、ここが四国の最南端になる。足摺半島を訪れる観光客の多くは、足摺岬を見学した後、隣の白山同門や第三十八番札所である金剛福寺を訪問して帰ると思われる。
この足摺半島の山の中を南北に縦断する足摺スカイラインがあった。いま僕はその道を走っている。時刻はもう直ぐ20時になろうとしていた。山に囲まれたその道は、真っ暗で何も見えない。海が見下ろせるわけでもない。今回の旅では、夜であってもスーパーカブを走らせていたのだが、そのことでひとつ気が付いたことがある。
――スーパーカブのヘッドライトは弱い。
光量が足りなくて、前方が全く見通せないのだ。走り難くて仕方がない。夜であっても街中を走っている時はそのような不便さはあまり感じたことが無かった。なぜなら、街灯が設置されているから。しかし、ここは僻地の足摺半島。昼間であっても誰も走らないようなこの足摺スカイラインに街灯は設置されていない。道は整備されていて走りやすいけれど、前が見えないからスピードが出せない。いやそれ以前に、非力なスーパーカブは登り坂では全く登らない。どちらにせよ、トロトロと走っていた。
幾つものカーブを曲がっていると、やっと「パワースポット唐人駄場遺跡」の看板が見えた。右折する。道が細くなり、更にカーブを曲がっていると、その先に照明で白く輝いた木造の建物が見える。形状から公衆トイレだと分かった。スーパーカブを停める。目的地である唐人駄場園地 キャンプ場に到着したようだ。ただ、初めての訪問な上に、辺りが真っ暗なので何処にテントを張ったらよいのかが分からない。すると、奥からランタンをぶら下げた女性がこちらに向かって歩いてきた。意を決して声を掛ける。
「あのー、すみません」
ランタンを持った女性が、僕を見て警戒する。
「はい、何でしょうか?」
女性を驚かせないように、丁寧な物腰で問いかける。
「キャンプ場はその奥なのでしょうか?」
「ええ、そうですよ。皆さんテントを張られています」
「そうなんですね。ありがとうございます」
頭を下げた。トイレに向かう女性をすれ違い、スーパーカブを奥に進める。駐車スペースがあり、車が4台と50ccのスーパーカブが停まっていた。
――おお、お仲間だ。
そのお仲間の隣に僕もスーパーカブを停める。キャンプ場を眺めた。暗くて全容は分からないが、広大な芝生の広場だった。大掛かりなテントが4張り、ドーム型テントが1張り設置されている。このドーム型テントの主は、多分お仲間のスーパーカブだろう。大掛かりなテントは、どれも一流のギアを使っていた。それぞれのテントから焚火の炎の揺らめきが垣間見える。かなり羨ましいくらいの設備だ。
さて、テントをどこに設置しようかで悩んだ。野宿派の僕はスーパーカブの隣にテントを設置することが多い。ところが、このキャンプ場内に相棒を乗り入れることは出来ない。別にこの駐車場にテントを設置しても僕は構わないのだが、折角ここまで来たのだからこの綺麗な広場を楽しみたい。駐車場に近い広場の縁は既に占拠されていた。広場の真ん中に大きな木が一本立っていて、その手前に、大きなテントが2張りある。僕は少し遠くなるけれど、その大きな木の向こう側にテントを張ることにした。
小さなスーパーカブだけれども、荷物は意外と積載している。2回に分けて荷物を運んだ。ドーム型なので、テントの設置は直ぐに終わる。テキパキと作業を進めて、七輪に火を熾した。腰を下ろして、先ずはビールを取り出す。
「乾杯!」
独りなので、別に口に出して言うほどのこともないのだけれども、テンションは上がる。晩餐が始まった。今晩の為に用意したメニューは、砂肝と塩サバ。それと、自宅で漬け込んだカブの漬物。それから土佐の銘酒である司牡丹。先ずは砂肝を焼いた。
僕はそこそこに料理が出来るので、色々なキャンプ飯を楽しむことが出来る。最近であれば、大阪府金剛山のキャンプ場で、アヒージョとペペロンチーノをセットにして楽しんだこともあった。ただ、ネタとしては面白いけれど、どこか落ち着かない。何度も何度も野宿を繰り返すなかで、僕なりに落ち着いたのは、七輪での炭火焼というシンプルなスタイルだった。食材は自宅から用意する場合もあるけれど、今回は現地調達。土佐らしい一品を求めたけれど、結局のところ大阪でも購入できる砂肝と塩サバになってしまった。だって、高いんだもの……。
ピチピチと炭が熾る音がした。砂肝をひっくり返す。焼けたものから箸でつまむ。噛みしめた。旨い。この砂肝は味付けがされていて、ゆずの香りが口内に広がった。この一寸した味付けに気を良くする。追いかけるようにしてビールを飲んだ。旨い。
塩サバは昆布〆されていて、脂の乗りも良かった。ワンランク上の塩サバ。魚系のアテは是非とも、日本酒と合わせたい。わざわざ持ってきたぐい呑みに司牡丹を注ぐ。旨い。ところで、キャンプで日本酒を飲むのであれば、器は大切だ。以前に、シェラカップで日本酒を飲んだことがあったが、金属は日本酒の美味しさを損ねてしまう。それ以来、ぐい呑みは必需品になった。
今回は、熱燗も用意する。だって、寒いから。ガスストーブでお湯を沸かして、ぐい飲みごと火にかけた。温まるまでの時間が待ち遠しい。冷酒も美味しいのだけれども、寒い夜の熱燗は、また格別な美味しさがある。塩サバをつまんだ。
いつもなら、焼き物が終わった後、七輪で焚火を楽しみ、持ってきたウィスキーを嗜んだりする。でも今回はやめた。真っ暗なキャンプ場で小枝を集めるのが大変だったから。それに、今日は疲れた。時刻も22時になろうとしていた。テントのファスナーを下げて、寝袋に潜り込む。音楽を聴きながら、このキャンプ場の情報を検索した。
唐人駄場園地 キャンプ場って、妙な名前だなと思っていたけれど、それは唐人駄場遺跡があるからだと知った。何でも5,000年前の縄文遺跡で、大きなものでは10mはあろうかという巨石が、まるで巨人が積み木で遊んだかのように積み上げられているそうだ。その巨石の数も250もあるそうで、サークルに並べられたものもあるらしい。
――マジか!?
行ってみたくなった。当初の予定では、足摺岬で日の出を拝むつもりだったけれど、同じ日の出なら唐人駄場遺跡の岩に登って拝んでみたい。スマホを消して、目を瞑る。この日の夜は、蒲生田岬よりも寒くなかった。それはコンクリートではなく、芝生の上だからと理解した。野宿旅では、アスファルトの上で寝ることもあったけれど、芝生の快適さを知った。




