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蒲生田岬

 船旅というのは、旅の味わいをより一層深くさせる……はずなんだけれども、乗船した僕は、煌々と輝く三宮の港の夜景を楽しむわけでもなく、サッサと自由席に向かい寝転べる場所を確保した。缶ビールを開けて、軽く酔う。寝るためだ。高松に降りたら、その後、蒲生田岬までの3時間半ほどのナイトランが待っている。少しでも休んでおく必要があったのだ。


 しっかりと4時間ほどの睡眠を取った。普段も4時間くらいしか寝ていない。十分だ。船内放送が流れる。車やバイクの乗船客は、階下の車両甲板で待機するようにと指示が出た。荷物をまとめて階段を降りる。船内の車両甲板は、年末ということもあり満席だ。多くの乗用車だけでなく、長いコンテナ車両も所狭しと並べられている。そんな隅っこに、バイクがまとめられて駐車していた。


 フェリーが高松港に停泊する。無骨な鉄板が作り出す強大な閉鎖空間の前方の壁が、大きく口を開けた。真っ暗な高松の空がその先に見える。甲板誘導員の指示にしたがって、夥しい数の乗用車が次々と吐き出されていった。僕の番が来る。アクセルを回した。滑るようにして相棒が走り出す。いよいよ四国一周の旅の始まりだ。


 船内から高松に降りると、強い冷気が顔を撫でる。寒さに対する対策は十分なはずだが、それでも寒い。真っ直ぐに南に走ると、国道11号線にぶち当たった。右に曲がれば愛媛に向かい、左に曲がれば徳島に向かう。目的地は蒲生田岬なので、左に曲がる。東に向かってアクセルを回した。


 高松から蒲生田岬まで、およそ125km。時間にして、3時間半の時間を要する。ルートは海岸線に沿って走る国道を使うので、道に迷うことはない。ただ、一つの懸念があった。給油問題。この問題は、四国一周全般でいつも気にしなければならない問題だった。


 二年前に、正月から紀伊半島を一周した時のこと。熊野古道に入る手前の山中で、ガス欠に見舞われた。伊勢神宮を詣った後、給油するつもりだったのに、つい忘れてしまったのだ。急遽、山間部の農村の近くでテントを張り休むことにする。しかし、今後のことを考えると眠れない。夜中の三時に、意を決してテントを撤収した。そのままスーパーカブを押し始める。


 この時点で、選択肢は2つあった。このまま先に進むか、伊勢に戻るか。今から思えば、伊勢に戻れば、正月でも営業しているスタンドがあったはず。それなのに、そのまま先に進んだものだから、正月休みのスタンドを延々と見送ることになってしまった。スーパーカブを押しながら、坂を登って坂を降りて、延々と30km。とても長かった。あの原体験があったので、給油問題に関してはとても慎重だったのだ。


 僕の相棒はスーパーカブではあるけれど、燃費が著しく低下していた。つまり、通常よりも航続距離が短い。ガソリンを入れた携行缶は用意しているので、最悪ガス欠になったとしても、少しは走ることが出来る。でも、使わないことに越したことはない。これは保険だから。


 蒲生田岬までは、徳島市と阿南市という大きな街を通過するので、夜中でも営業しているスタンドはあるだろうと読んでいた。ただ、問題なのは、それから先なのだ。四国南東部の海岸線は大きな街が無くなるので、年末でスタンドが休業しているかもしれない。給油地の候補として最適なのは、阿南市になる。徳島よりも南にあるからだ。ただ、夜中に営業しているスタンドがなかった場合は、もう一度、徳島市に戻らなければならない。そんなことを、グルグルと頭の中で考えながら、国道11号線を走り続けた。


 東かがわ市を通過して、徳島県鳴門市に入った。ここからは延々と海岸線を走ることになる。左側の海は真っ黒で何も見えない。車も走っていない。僕のスーパーカブだけが孤独に走っていた。悪くない。僕は、どうしてこうも独りになりたがるのだろうか。そんな自分のことを深く考えたことはない。でも、人が嫌いな訳では無い。求められると一肌脱ぐタイプで、社会との関わりは卒なくこなしているつもりだ。でも、根底には独りの時間を楽しみたがる僕がいる。現在、このように独り文章を書いているが、このような時間がとても好きだ。


 徳島市に入り、吉野川を渡った。国道11号線が、国道55号線に変わる。思わず「ゴーゴー!」と叫んでしまった。これは、眠気覚まし。実は、この頃から少しづつ睡魔に襲われ始めていたのだ。高松から休憩無しに走り続けていたので、ここいらで休憩が必要だろう。コンビニに立ち寄ることにした。眠気覚ましの定番はコーヒーだが、蒲生田岬に到着してから眠れないのでは困る。レジ横のホットコーナーを眺めていると、甘酒を見つけた。


 ――これだ!


 手にとって購入する。最近のお気に入り。甘酒の砂糖ではない香ばしい甘さが、とても美味しい。少しテンションが上った。眠気もなくなる。飲みながら給油について考えた。徳島市の国道には営業しているスタンドが幾つもあった。給油しておこうか……と考えもしたが、そのまま走ってきた。これから徳島市を離れるので、次の給油候補地は阿南市になる。多分、大丈夫だろうと踏んだ。飲みきった甘酒の缶をゴミ箱に捨てて、スーパーカブに跨る。南に向かった。


 都会だった徳島市から離れるごとに、周辺の風景が畑に変わっていく。少し警戒した。阿南市を流れる那賀川周辺のスタンドは、軒並み閉まっていた。これはヤバい。そこそこに長いトンネルを抜けると、市街地がなくなった。ここでやっとスーパーカブを停車させる。スマホのGoogleマップを立ち上げ、スタンドを検索した。ここから先に目ぼしいスタンドはない。戻る必要があった。


 ――やっちまった。


 再びトンネルを抜けて北上する。なるべく時間的なロスは避けたいので、阿南市でスタンドを見つけたい。国道沿いにはないが、市街地に入るとスタンドが幾つかある。グーグルに従って、スタンドを巡ることにした。一軒目は休業。二軒目で営業しているスタンドを見つけた。


 ――ラッキー!


 これで憂いはなくなった。結果的に、最も最適な場所で給油したことになる。この分なら、高知までなら給油無しで走ることが出来るだろう。後は、目的地である蒲生田岬に向かうだけだ。


 国道55号線を離れて、蒲生田岬へ続く道を走る。案外と寂れていて、山間部を走り続けた。四国の最東端に向かっているのに、観光地的な施設が見当たらない。道も細い。四国一周の旅では、それぞれの岬に立ち寄ったわけだが、ここ蒲生田岬は他の岬とは比較にならないほどに寂れていた。ただ、それが良い。辺境地感に癒やされる。街灯もない真っ暗な道の先に駐車場があった。ここで行き止まり。ここから先は、徒歩になる。蒲生田岬に到着した。


 蒲生田岬の灯台から日の出を見るつもりなので、今は休まなければならない。日の出は7時すぎ。今からなら3時間は寝ることが出来る。海岸沿いのコンクリートの上にテントを張った。寝袋に包まる。とても寒い夜だった。


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