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神の国  作者: 五十鈴カッシーワ


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命と知識

サイとの激闘の末、謎のノイズによりマツカゼは敵を斬ることが出来なかった。ウィータの判断により、逃走を決意して無我夢中で走っていた。

 とにかく夢中で走った。足がもつれて転び、倒れ込む。気付いたときには壁沿いにそそり立っていた大きな建造物の付近まで来ていた。


「もう大丈夫だ、ありがとう」


ムラクニは申し訳なさそうに離れて、下を向く。


「ウィータ、足は大丈夫か?さっき攻撃を受けていた所だ」

「そういえばそうだったな」


足を見下ろしたが、目立った損傷は見られなかった。だがおかしい。確かにあいつの攻撃を食らって、大分痛ませながら走ってきたのに。


「まぁ、大丈夫そうならそれでいい。それより…本当にすまなかった。あの時、俺が戦いを選んだせいでこんな危険な目を…」


ウィータはムラクニの肩をポンと叩いた。ムラクニがきょとんととした顔でこちらを見る。


「命は使う物じゃない。命は運ぶ物だ」


それを言ってから、もう一度口を開く。


「怒りや焦りのままに投げ出したり、誰かのために簡単に差し出してしまうような軽いものでもない。命は、使えば減る燃料のようなものではなく、もっと静かで、もっと重いものだ。まるで壊れやすい灯りを手のひらで守りながら歩くように、人はそれを抱えて進んでいく。急いで振り回せば火はすぐに消えるだろう?」


ムラクニは唖然としていた。僕自身も驚いた。自分の中にこんな思想があったなんて。記憶と言うより、自分の本質が「そう」だった感覚だ。ムラクニはそれに納得して、噛みしめるように「承知した」と一言つぶやいた。





僕らはそそり立った施設の近くまで歩き、外観を見て回った。すると、鋼鉄で出来ているであろう硬い壁に大きなマークが描かれてあった。角の丸い六芒星のてっぺんに、四つ角の星(グランドクロス)があり、六芒星の中にデフォルメされたいかにも科学者な絵が描かれていた。


「こんなゴツゴツの場所にしては、思ったよりポップなマークなんだな」


そう口からこぼれた途端、それを拾うように壁から飛び出しているスピーカーから声が出てきた。


「それだけで片付けて貰わないでくれるかな?」


驚いて上を見る間に次々とスピーカーから言―葉が発せられる。


「ちゃんと試行錯誤して、様々な意味を重ねた精巧なマークだぞ!もう少し噛み砕いて理解を深めて欲しい物だな」


ウィータは呆気にとられて声が出ない。そんなことはつゆ知らず、声の主はとどまるところを知らない


「君にも理解してもらおう。まず六芒星とは、過去よりたびたび究極の魔除けとして使われてきたらしい。それも世界各地でだ。そのようなスピリチュアル的な面は個人的に興味はあるのだが、その前にボクは科学者だ。科学者、理論を基礎として行動する者は、そのように証明されていない現象は信頼しない。だからその意思表示として角を丸くする。もちろん比喩表現の「角が丸くなる」の意味も含まれているぞ。それから上のグランド…」


「ストップ!…ストップ…」


ウィータが咄嗟に止めると、声は静かになった。


「すまなかった。自分の作品を馬鹿にされたようで…ついな」

「いや、僕もここに人の気配があると思ってなかったからさ」


少し絆され、安心がこみ上げてくる。そこにマツカゼまでやってきた。マツカゼはスピーカーに大変驚いて、鮮明な声が出てくるとさらに驚愕していた。


「君たちはこの場所の地上から陥没で落ちてしまい、上がれずに迷い込んでしまった。と言ったところか」

「その通り、かなり大変だったよ」


「…それは迷惑をかけてしまったな。今すぐにでもそこから出たいだろう」


スピーカーの声が明らかにトーンダウンした。反省が声に現れていた。それだけで悪い人じゃあないと信じれた。

少しすると、施設の中央に位置していた巨大で重厚な扉が轟音を立てながら開きだした。


「今、扉を開き、セキュリティも解いた所だ」


ウィータはここのことや彼について聞こうと振り向いて声を出そうとしたが、それは声の主に制止された。


「君たちにはとても興味があるし、君たちもボクに聞いたり言ったりしたいことが山ほどあるだろう。だが、あいにくボクはここで小話をさせてもらえないほどに忙しくてね。このまま付き合うのが難しい」


しばらく沈黙し、ウィータは「分かったよ」と一言いって、とびらにはいろうとした時、またスピーカーから話しかけてきた。


「だが、お詫びはしなければならない。この後、その扉の奥にあるエレベーターで地上へ上がってもらうんだが、「ボクの名前はミリアーナである」という情報と「エレベーターの前に置いてあるコア」を持って行ってくれないか。こんな物しか用意できないが、大分使える物だから、ここはそれで許して欲しい」


「健闘を祈っている」


その後、スピーカーから声が出ることはなかった。


僕らは恐る恐る施設を進み、何にも触れずにエレベーターの前まで着いた。ミリアーナと名乗ったあの人が言っていた通り、いくつかの重要そうな機械の備品が転がっていた。


「思ったより荒れてなかったな。外はすごい遺跡みたいな苔むしり方だったにもか関わらず」

「それほど僕たちがイレギュラーだったってことだと思うよ」


僕は棚の上に置いてあった、球体型でリンゴと同じくらいの質量と大きさのコアを手に取って、上下左右から眺めた。特にどうと分かるわけじゃなく、ポケットにしまおうとしたが大きすぎて入らなくて結局手でわしづかみで運んだ。


「取り敢えずこれでいいんだよね?」

「あの人の言うとおりにすればな」


二人はエレベーターに足を踏み込み、入って横並びになる。それが合図となり、自動的に装置は動き出した。

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