蓮と美羽編 第一章 人間ペットのこどもたち
休み時間
チャイムが鳴り、子供たちは一斉に教室から飛び出していった。
廊下や校庭は笑い声で満ちている。
人間ペットの家庭から来た子供…蓮は校庭の隅に立っていた。
普通に遊びたいと思っていたが、周囲の視線が気になって足が止まってしまう。
そこへ数人の同級生が近づいてきた。
「なあ、お前の親って熊に飼われてるんだろ?」
「ペットの子供ってこと?じゃあお前もペットじゃん!」
蓮は必死に否定する。
「ち、違うよ!ぼくは人間だよ!」
だが同級生たちは笑いながら取り囲む。
「じゃあ四つん這いになってみろよ!」
「餌あげるから口開けろよ!」
「わんわんって鳴いてみろ!」
からかいはどんどんエスカレートし、周囲の子供たちも面白がって集まってくる。
誰も「やめろ」とは言わない。むしろ「もっとやれ」と煽る声が飛ぶ。
蓮は涙目になりながらも必死に耐えた。
「ぼくは……人間だ……」
しかしその言葉は笑い声にかき消され、校庭の隅で「ペットの子供」というレッテルだけが強く刻まれていった。
蓮は涙目で家に帰り、両親に訴える。
「今日、みんなにペットって言われて……わんわんって鳴けって……」
しかし両親は首輪を揺らしながら「わん……わん……」としか返せない。
蓮は絶望し、床にうずくまる。
その瞬間、飼い主の熊が立ち上がり、低い声で吠えた。
「誰がそんなことを言ったんだ!」
翌日
熊は学校に現れ、いじめていた子供たちを睨みつける。
その巨体と怒気に、子供たちは青ざめて後ずさりする。
「ご、ごめんなさい……もう言わないから……」
教室の空気は一変し、子供たちは恐怖で黙り込む。
蓮は守られたが――それは「親」ではなく「飼い主」によってだった。
昼休み、校庭で遊ぶ子供たち。
蓮は勇気を出して声をかける。
「いっしょに遊ぼう!」
だが、周囲の子供たちは一瞬黙り込み、視線を逸らす。
「……ごめん、今はもう人数いっぱいだから」
「先生に怒られるから、また今度ね」
そう言って散っていく。
誰も直接いじめはしない。
でも、誰も近づいてこない。
蓮は校庭の隅で立ち尽くし、笑い声だけが遠くから響いてくる。
数日後
校庭は笑い声と歓声で満ちていた。
鬼ごっこに走り回る子供たち、ボールを追いかける子供たち
――その輪の中に、蓮の姿はなかった。
校庭の隅、砂場の影にしゃがみ込んだ蓮は、膝を抱えて小さく泣いていた。
「……ぼくは、人間なのに……」
涙が頬を伝い、服の袖を濡らす。
周囲の子供たちはちらりと視線を向けるが、誰も近づこうとはしない。
「ペットの子供だって……」
「関わると熊に怒られるし……」
ひそひそ声が風に混じって蓮の耳に届く。
蓮はさらに顔を伏せ、声を殺して泣いた。
孤立の痛みと、どうしようもない無力感が胸を締め付ける。
その時――
「……君も、親がペットなんでしょ?」
声をかけてきたのは、美羽という名の少女だった。
彼女は少し恥ずかしそうに立ち尽くしながらも、蓮の涙に寄り添うように視線を落とした。
蓮は驚いて顔を上げる。
美羽は小さく笑った。
「うちもそうだから。だから、気持ち分かるよ。」
蓮の目に新しい涙が浮かぶ。
「ほんとに……?」
「うん。だから、いっしょにいよう。」
美羽はそっと蓮の隣に腰を下ろした。
二人は校庭の隅で小さな輪を作り、互いの存在に安堵して笑い合った。
その様子を遠巻きに見ている子供たち。
以前なら「ペットの子供だ!」と囃し立てていたが、
熊が怒鳴り込んできた一件以来、誰も声を荒げることはなくなった。
「……近づくとヤバいよ」
「熊に睨まれたら終わりだし」
ひそひそと囁き合いながら、まるで腫物を避けるように距離を取る。
笑い声は遠くに響いているのに、蓮と美羽の周囲だけは不自然な静けさに包まれていた。
それでも――二人にとっては、その静けさの中で寄り添えることが救いだった。




