熊夫婦編 第三章 ヒューマンラン
週末の朝
ベアオとベアミは、彩花と美咲を連れて人間ペット専用の広場「ヒューマンラン」へ向かった。
そこは犬のドッグランならぬ、人間ペットが首輪を外され、芝生の上で自由に走り回る場所だった。
入口でベアオが彩花の首輪を外す。
彩花は一度振り返り、尻を振りながら嬉しそうに芝生へ駆け出した。
続いてベアミが美咲の首輪を外す。
美咲は尻を振りながらベアミの足元へ寄り、頬をすり寄せた。
ベアミは笑みを浮かべ、指先で美咲の頭を撫でる。
「行っておいで、美咲。」
その言葉に応えるように、美咲は軽やかに芝生へ飛び出した。
広場にはすでに何人もの人間ペットが集まっていた。
四つん這いで走り回り、肩をぶつけてじゃれ合い、時折飼い主のもとへ戻って甘える。
彩花は輪に加わり、芝生を切る風に目を細める。
美咲は彩花の軌道に寄り添い、並んで走ることで安心を確かめていた。
やがて、彩花と美咲は一匹の雌の人間ペットと出会った。
彼女は尻を振りながら近づき、不安げに二人へ声をかけるように鳴いた。
「く~ん…」
その声は寂しげで、甘えるように助けを求める響きだった。
彩花はそっと顔を寄せ、彼女の頬をぺろぺろと舐める。
美咲も尻を振りながら寄り添い、彼女の髪に鼻先をすり寄せた。
不安げだった瞳が次第に柔らかくほどけ、三匹は互いに鳴き声を交わす。
やがて打ち解けた三匹は並んで走り、転がり合い、鳴き声を響かせた。
その様子を見ていた飼い主の熊――クマキチが、ベアオ夫妻へ歩み寄る。
「こんにちは。仲良くしてもらってありがとうございます。」
ベアオも笑みを返し、軽く頭を下げる。
「こちらこそ。いい友達ができたようです。」
ベアミも頷き、互いに挨拶を交わした。
クマキチが続けて言った。
「申し遅れました、僕はクマキチと申します。あの子は紗季です。
あの子は初めて自分以外の人間ペットを見たので、他のペットと仲良くできるか心配だったのですが……
あなたたちのペットと仲良くなったみたいで安心しています。」
ベアオが微笑みながら応じる。
「僕はベアオ、こちらは妻のベアミです。」
ベアミも軽く会釈を返した。
二人は芝生で遊んでいる彩花と美咲に声をかける。
「彩花、美咲、こっちにおいで~。」
呼びかけに応えて、彩花はベアオの足元へ、美咲はベアミの足元へ駆け戻ってきた。
ベアオが彩花の頭を撫でながら言う。
「この子は彩花です。」
ベアミも美咲の頭を撫でながら続ける。
「そして、この子が美咲です。」
紗季は少し恥ずかしそうに尻を振りながら、彩花と美咲の隣に並んだ。
紹介のあと、飼い主たちの間に交流の輪が広がっていった。
夕方。
クマキチはベアオ夫妻に丁寧に挨拶をして、紗季を連れて広場を後にした。
リードに繋がれた紗季は、芝生の余韻を残すように時折振り返りながら歩いていた。
道中、クマキチが優しく声をかける。
「紗季、いい友達ができてよかったね。」
その言葉に紗季は振り向き、喜んだように「わんっ!」と鳴いた。
次の瞬間、リードに繋がれたまま、勢いよくクマキチへ抱きついた。
クマキチは少し驚きながらも微笑み、紗季の頭を撫でた。
「……僕も嬉しいよ。これからも一緒にいようね。」
夕暮れの道に、熊と人間ペットの影が寄り添いながら伸びていった。




