熊夫婦編 第二章 とある休日
休日。
ベアオとベアミは彩花と美咲を連れて街へ出かけた。
首輪をつけた二人の人間ペットは、尻を振りながら楽しそうに歩いている。
だが、目の前に立ちはだかったのは「ペット禁止」と書かれた大きなデパートだった。
ベアオが眉をひそめる。
「……ここ、ペット禁止って書いてあるな。彩花と美咲、入れるのか?」
ベアミも心配そうに頷いた。
「せっかく来たのに、入れなかったらかわいそうね。」
二人は入り口に立つ警備員に声をかけた。
ベアオが丁寧に尋ねる。
「すみません、この子たち……人間なんですが、ペットとして暮らしていて。入っても大丈夫ですか?」
警備員は困惑した表情を浮かべ、二人を見比べた。
「えっと……一応、人間ですよね……でも、ペット扱いなんですよね……?」
ベアミは柔らかく微笑んで答える。
「人間だから、きっと大丈夫だと思うんです。」
しばらくして、スーツ姿の上司らしき人間が現れた。状況を一瞥すると、即答した。
「人間だからOK!」
警備員は目を丸くし、思わず声を漏らす。
「えぇ……でもペットなんですよね……?」
上司は肩をすくめて言った。
「規則には“犬猫などのペット禁止”としか書いてない。人間なら問題ないだろ。」
結局、ベアオとベアミは彩花と美咲を連れて堂々とデパートに入った。
リードを引かれた二人は犬のように四つん這いで床を進み、尻を振りながら嬉しそうに小走りする。
周囲の客はその異様な光景に目を丸くし、ひそひそと囁き合った。
ペット用品売り場
ベアオとベアミはペット用品売り場に到着した。
犬猫用の首輪や餌皿が並ぶ棚の前で、店員の女の子が商品整理をしていた。
ベアオがその背中に声をかける。
「すみません、ペット用品を探してるんですが……」
店員は振り返り、笑顔を浮かべる。
「いらっしゃいませ。どのような商品をお探しでしょうか?」
しかし視線の先に、四つん這いで尻を振る彩花と美咲が映ると、表情が固まった。
「……えっ、人間ですよね?え、人間が犬みたいに……?」
ベアミは柔らかく微笑んで補足する。
「人間なんです。でもペットとして一緒に過ごしていて……もし使えるものがあれば助かるんですが…。」
店員はさらに困惑し、笑顔が引きつる。
「……あ、あの……犬猫用ならこちらにございますけど……人間用は……ちょっと……」
周囲の客もそのやり取りを耳にして、ちらちらと視線を送る。
「人間ペットって本当にいるんだ……」
「え、あれって本当に許されてるの……?」
彩花は四つん這いのまま店員に近づき、尻を振りながら顔を舐めようとした。
美咲もじゃれつくように手を伸ばすが、店員は思わず一歩下がってしまう。
ベアオは苦笑して彩花の頭を撫でた。
「まあ、まだ人間ペット用の商品は広まってないんだな。」
結局、犬猫用の首輪を手に取る二人。
「これで代用するしかないか」と笑い合いながら、彩花と美咲を四つん這いで連れて売り場を後にした。
店員の女の子は「えぇ……」と困惑したまま、奇妙な「共存(笑)」の現実を見送るしかなかった。
デパートの帰り道、夕陽が道を赤く染める頃、ベアオとベアミは並んで歩いていた。
リードの先には、首輪を揺らしながら駆け回る彩花と美咲。
二人は尻を振り、犬のようにじゃれ合いながら走っては戻り、熊たちの足元にまとわりつく。
その光景に、通りがかった親子連れが足を止めた。
小さな女の子が目を輝かせて駆け寄り、声を弾ませる。
「この子たち、撫でてもいいですか?」
ベアオとベアミは顔を見合わせ、柔らかく頷いた。
「優しく撫でてあげてね。」
「もちろん。僕らの大事な子たちだから、そっとね。」
女の子が手を伸ばすと、彩花と美咲は嬉しそうに尻を振り、頭を差し出す。
小さな掌が髪を撫でると、二人は犬のように舌を出し、女の子の頬をぺろぺろと舐めた。
「きゃはは!」
女の子は笑い声を上げ、二人に抱きつく。
その様子を少し離れた場所から見ていた両親は、思わず顔を見合わせた。
笑う娘の姿に微笑みながらも、どこか引いたような、戸惑いの影が瞳に宿る。
「……人間なのに、犬みたいに……」
母親が小さく呟くと、父親は黙ったまま視線を逸らした。
夕暮れの帰り道、子どもの笑い声と、熊たちの満足げな息遣いが混ざり合っていた。
だがその背後には、まだ社会が完全には受け入れきれていない奇妙な共存(笑)の影が、静かに揺れていた。
熊に飼われた人間たちと触れ合った女の子は、
頬をぺろぺろ舐められた余韻を抱えたまま、家に帰ってきた。
玄関で靴を脱ぐと、弾む声で両親に向かって言った。
「ねえ、私も人間ペットが欲しい!」
母親は一瞬、言葉を失った。
「……え?」
女の子は目を輝かせながら続ける。
「だって、今日会った子たち、すごく楽しそうだったんだもん!
お尻を振って、撫でられると嬉しそうで……私も飼いたい!」
父親は苦笑し、額に手を当てた。
「……人間は犬じゃないんだぞ。あれは……特別な事情があって……」
母親も困惑した表情で娘を見つめる。
「あなた、本気で言ってるの…?」
女の子は頷き、無邪気に笑った。
「うん!だって可愛いんだもん。ペットショップに行けばいるかな?」
両親は顔を見合わせ、沈黙した。
その瞳には、笑う娘の純粋さと、社会が変わりつつある現実への戸惑いが入り混じっていた。
リビングの時計の音がやけに大きく響く。
「人間ペット」という言葉が、家族の空気を奇妙に揺らしていた。




