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お飾り王妃の離活~ご安心ください!わたくし前世で錬金術を嗜んでおりましたので@ゲーム~  作者: リコピン


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5-4.揺らぐ歩み(Side S)

 王城へ続く道を、四つの足音が土を踏みしめながら進む。

 先頭のスタンは、背後から伝わる気配に注意を払っていた。

 不意に、その中の一人が足を止める。

 気づいたスタンも歩みを止め、振り返った。

 

 足を止めた人物――クラウディアが口を開く。


「スタン。貴方にお話があります」


 言って、彼女は背後を振り向いた。


「ケリー、リンダ。少し下がっていて」

「クラウディア様!? 駄目です! そんな男と二人なんて危険ですっ!」


 ケリーが大げさに声を上げる。

 クラウディアは静かに首を横に振った。


「スタンのことはよく知っています。彼は清廉な騎士よ。大丈夫だから、……ほんの少し、二人で話をさせて」

「ですがっ!」

「見える距離でいいわ。声が届かない程度に離れてついてきてちょうだい。……いいわね?」


 クラウディアは有無を言わさず、二人を退かせた。

 ケリーは不安げに、リンダは従順に、距離を取る。

 クラウディアが歩き出した。それに合わせて、スタンも歩き出す。


(……何を話されるおつもりか)


 スタンは淡々と歩きながらも、油断なくクラウディアの気配を探る。

 その横顔は静かだが、彼女は見た目と異なる強い意志を持つ。でなければ、彼女は今、側妃という立場にない。


「スタン」


 クラウディアが口を開く。


「貴方の目から見て、陛下とエルシア様のご関係は、どのようなものですか?」

「……答えかねます」

 

 スタンの返事に、クラウディアは寂しげに笑った。


「……私には言いづらい関係。そういうことでしょうか?」

「いえ」


 スタンは咄嗟に否定したが、それ以上を語ることはできない。沈黙。結局、答えはそれしかなかった。

 クラウディアは前を向いたまま、話し続ける。


「誤解しないでほしいのですが……、私は、陛下が望まれるのであれば、いつでもエルシア様に陛下の隣を明け渡す覚悟ができております」


 一瞬、スタンの呼吸が乱れた。クラウディアの言う未来を想像して、目の前が暗くなる。


――嫌だ。


 胸の奥で、黒い渦が勢いを増す。

 それでも、スタンは表情を変えずに歩き続けた。

 クラウディアが言葉を重ねる。


「陛下は、エルシア様を王宮へ連れ戻すおつもりです」


 それは、スタンも薄々気づいていた。

 ヴィルヘルムはエルシアに執着している。彼女を自分の手元、王宮に置こうとしているのは間違いない。

 クラウディアの硬い声が告げる。


「陛下はエルシア様の錬金の腕が必要だと仰います。確かに、そういう思惑もあるのでしょう。ですが、それ以上に……」


 彼女の声は震えていなかった。ただ、事実を淡々と述べる乾いた響き。


「陛下はエルシア様に惹かれておいでです」

 

 その一言に、スタンは動揺する。

 ただの執着ではない。恋慕だと――他ならぬクラウディアから――断じられた衝撃に、思わず歩調が乱れる。

 彼女が小さく苦笑した。

 

「エルシア様には『分からない』と申し上げましたが……、これだけ長く一緒にいるのですもの、陛下のお気持ちは分かります」


 クラウディアは、「ずっと見てきましたから」と目を細める。遠くを見つめる瞳。口元には薄らと笑みが浮かぶ。


「……エルシア様はとても愛らしい方です。おまけに、陛下を支える力をお持ちですもの。あの方が惹かれるのも当然だわ」


 スタンは沈黙する。クラウディアの言葉を否定する根拠がない。どころか、ヴィルヘルムの眼差し――エルシアに向けられる熱が演技などではなく、彼の想いの吐露だと言われたら、素直に納得してしまう。

 幸いにも、今は未だ、エルシア自身がそれに気づいた様子はない。

 

(だがもし……)

 

 彼女が気づいたら? ヴィルヘルムが想いを明かしたら?

 エルシアの根本はお人好しだ。国のため、彼の想いにほだされて――理由は何にしろ――、ヴィルヘルムを受け入れてしまうのでは――?

 スタンの視界が暗く揺れた。


「……もう一度聞くわ、スタン」


 クラウディアが歩みを弛める。スタンを真正面から見つめた。


「貴方の目から見て、陛下とエルシア様の関係はどうかしら? 私は……、身を引くべき?」


 なぜ、彼女はこれほど穏やかでいられるのだろうか。

 クラウディアとヴィルヘルムの恋物語は国中の誰もが知る。彼女は、奪われた婚約者を思い続け、そうして愛する者の隣を手に入れた。それが政治的に正しかったかは、スタンの判断の及ばぬところ。しかし、確実に一人の人間の人生を追い詰めた。そうまでして想い合う二人。ずっと見てきたスタンからすると、クラウディアの落ち着き払った様子は薄ら寒いものがある。


(……それで言うなら、陛下の心変わりも俄には信じ難いが)

 

 スタンは僅かに視線を落とし、静かに告げた。


「……申し訳ありません。私には陛下のお気持ちを量ることはできません」


 求めた答えではなかったからだろう。クラウディアが小さく息をつく。

 スタンは「ですが」と言葉を続ける。


「王妃陛下の言葉に嘘はありません。あの方は本気で離縁を望んでおられます」


 クラウディアの肩がかすかに震えた。

 そして、一筋の涙が頬を伝う――

 

「……ごめんなさい。……覚悟はできているのです。……でも、やはり……」


 クラウディアは流れた涙を拭わぬまま、微笑んだ。


「貴方の口からエルシア様のお気持ちを聞けて、……少し、安心しました」


 そう言って、彼女は再び歩き出す。ポツリと小さな呟きを零した。


「私に陛下のお子がいたら……、こんな思いをしなくて済んだのかしら」


 スタンは聞こえぬ振りで、彼女の後に続く。彼女の痛みは、スタンが触れてはならぬもの。

 やがて王城の正面扉が見えた。スタンは扉の前まで三人を送り届ける。

 役目を果たした帰り際、ケリーが故意にスタンにぶつかる。衝撃にふらついたのは彼女の方だが、顔を上げ、スタンをキッと睨んだ。


「クラウディア様を泣かせてっ! 絶対に許さない!」


 スタンは弁明をしなかった。

 怒りの矛先、それが自分であれば問題ない。

 静かに頭を垂れる。

 ケリーがギリと歯ぎしりした。

 

「……見てなさい。絶対に、後悔させてやるわ!」


 そう吐き捨て、クラウディアを追って城内へ消えていく。

 スタンは静かにその背中を見送った。


***


 庵へ戻ると、エルシアが扉を開け放ち出迎えてくれた。


「おかえりー! どうだった? 嫌なこと言われなかった? 大丈夫?」


 そう言って、心配そうに見上げる。

 その顔を見ただけで、胸を締めつけていたものがフッと軽くなった。

 ただ、一抹の不安が残る。


「王妃陛下、今後、庵を離れる際は今まで以上にご注意ください」

「……何かあった?」

「クラウディア様が少々御心を乱され、ケリー殿が……」

「あー……」


 エルシアは「納得」と頷き、「分かった」と答える。


「なるべく外に出ないようにする」

「はい。……採集には私が行きます」


 スタンの言葉に、エルシアがスタンの服を掴む。不安げに数度瞬きした彼女は、やがてコクリと頷いた。 


 

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― 新着の感想 ―
ケリーはちゃんと処分されるべきでは? 本来なら一族全員皆殺しレベルじゃない? クラウディアがまずメイド1人コントロール出来ず錬金術もサポートも出来ない無能なのに王妃になりたいとかいうのがキチだわ 王は…
何だかんだでケリーを自由にさせてるクラウディアが無能って事ですね。実質、錬金以外の公的仕事とかしてるのはクラウディアのはずなのに、王妃務まるのかな?
物語的に良い意味で最悪な夫で胃が痛くなった! ゲス王はどっちからも愛想尽かされてほしい...
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