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2-4.解呪完了! ……やったよぉ

 庵の玄関扉がコンコンと叩かれる音がした。作業に集中していたエルシアは、ハッとして手を止める。

(……今、ノックの音した?)

 自信がなくて、ジッと扉を見つめる。再び、コンコンとノックの音がした。

「あー、やっぱり! ごめんごめん、今開けまーす!」

 エルシアは慌てて扉に駆け寄り、勢いよく開く。開いた扉の向こう、イケメンが呆れ顔で見下ろしていた。

「お帰りなさい! 出るの遅くなっちゃって――」

「扉は、相手が誰か確認してから開けてください」

「うわっ、そうだった!」

 言われて気付いた。「人にも気をつけろ」と注意されていたのに。自ら危険を招き入れては意味がない。

「ごめん。次からは気をつけるね」

 エルシアは素直に頭を下げる。だが、イケメン――スタンの表情は変わらない。

「約束をお守りいただけないのであれば、今回のような遠出は二度と――」

「本当にもうしない! 次からは、スタンの声かスタンの手かちゃんと確かめる! 煙突からの侵入者はちゃんと茹で上げる!」

「……」

「だから、お願い、もう行かないとか言わないで……」

 エルシアは、子豚や仔山羊にも劣る自身の危機管理能力を恥じた。シュンと落ち込んでいると、スタンが嘆息する。

「……本当にお守りいただけるのですね?」

「うん。守る、絶対」

 子どものような返事――実際、約束の内容も子ども向け――だが、エルシアは真剣そのものだ。その本気が伝わったのだろう。スタンが無言で革袋を差し出した。袋の中で、チャリと金属の音がする。

「え? これってもしかして?」

「お預かりした薬の代金です。五万エンリになりました」

「五万!? え、すごい! あの量で五万エンリになったの?」

 城を出る前、エルシアは厨房でこの国の相場についてレクチャーを受けた。

 ピンク色の岩塩を持ち出そうとしたエルシアに、「そっちは絶対に駄目!」と断固拒否した料理長。彼は「二十万エリン、見習いコックの給料一月分するんだぞ!」と目を血走らせていた。つまり、エルシアのハンドクリームは、一瓶で新卒社会人の給料の四分の一ということになる。

「ボロい、ボロい商売だ。濡れ手に粟……」

 エルシアは唖然として、それから徐々に悪い笑顔になった。途端、スタンの冷静な声が降る。

「今回はあくまで、希少性を加味しての値段だそうです。持ち込んだ薬屋の評価ですが、量産するのであれば単価は下がるかと」

「……そっか。そうだよね」

 流石に、そこまで甘い話ではなかった。

(うーん。しかも、あのサイズだと一月は保つからなぁ。バンバン売れる商品でもない。そうなると……)

 エルシアは天井を注視する。

「やっぱり、トマトかなぁ」

 トマトであれば、購買層も広く、需要も十分に見込める。健康によくて美味しいし、何より色がいい。作りすぎて困るということはないはずだ。

「うん、やっぱり、トマトだね!」

 そう判断したエルシアがスタンを見上げる。彼は、先程までと寸分違わぬ場所に立ち尽くす。つまり、まだ家の外。

「あ! ごめんごめん、スタン。入って入って」

 エルシアは扉の前を退き、スタンの入室を促す。目礼で答えた彼が靴の汚れを落とし、部屋に入った。途端、部屋の中央――作業台を見て動きを止める。

「……これは、一体」

「うん、すごいでしょ! 集中して作ってたら、いつの間にかこんなになっちゃってて」

 作業台の上、置かれて――積み上げられているのは初級ポーションの瓶。但し、「蓋なし」、「倍量」、「十段積み」してある。窓からの夕陽を受けてキラキラと輝く緑のピラミッドは壮観だった。

 スタンが長い溜息をつく。

「なぜ態々ガラス瓶を積み上げる必要が? 倒れた時の危険を考えなかったのですか?」

「……でも、床に置くわけにはかないし」

「食卓でも台所でも、他に置く場所はいくらでもあるでしょう」

 正論で問い詰められ、エルシアはボソリと答える。

「台所遠い。面倒くさい」

「……は?」

「っ!?」

 地獄の底から聞こえた「は?」に、エルシアは言い訳の路線変更を強いられる。

「違う! あの、集中してたから! 集中してると、人ってとんでもないことやらかすことあるでしょう? 買い物カゴ持ったままお店出ちゃったり、ヨーグルトにお醤油かけたり!」

「……何を言って――」

「つまり、悪いのは集中してた私なんだよね! 今の私は悪くないというか、ちゃんと『駄目』って理解してる!」

 だから、「怒ってくれるな」という視線で監視者(ほごしゃ)を見上げるエルシア。スタンは冷静な判断を下す。

「承知しました。では、御身の安全のため、今後は王妃陛下をお一人にせぬよう――」

「はい! 悪いのは私です。『移動面倒だから積んじゃお』、『シャンパンタワー、ウケる』と思ってやりました! 出来心です。もうしません!」

 二度目の「もうしません」を口にしたことで、完全に陳腐化した約束。だが、エルシアには他に手段がない。潔く腰を折って頭を下げる。

 沈黙の末、スタンが口を開いた。

「……出過ぎたことを申し上げました。ただ、王妃陛下の御身をお守りするのが私の役目だということはご理解いただきたい」

 スタンの静かな言葉に、エルシアの頭が冷える。

「はい。……スタンの言う通りです。ごめんなさい」

 職務に忠実な彼が、自らの主張を曲げて街へ行ってくれたのだ。それは、エルシアを信頼したからこそ。条件となる約束を守らないのは彼への裏切りだ。エルシアは「調子に乗りすぎた」と反省する。

 頭を下げ続けるエルシアに、スタンがフッと息を吐き出した。

「……私も、集中しすぎて剣を持ったまま湯船へ浸かったことがあります」

「えっ!?」

 突然の告白に、エルシアはガバリと顔を上げた。スタンは無表情を崩さぬまま、「瓶を移動させます」と作業台へ向かう。涼しい顔でピラミッドの山を崩していく彼に、エルシアの動悸は止まらない。

(待って、待って待って! え? それってどういう状況!?)

 果たして、そんな状況が本当に起こり得るものなのか。

(だって、だって、服を脱ぐ時に剣は外して置くよね?)

 その後、無意識に剣だけ持ち直したというのか。

 エルシアは、裸体に剣一本というスタンを想像しかけて、慌てて頭を左右に振る。浮かびかけた裸像を振るい落とし、代わりに、「服を来たままお風呂に入っちゃったのかも!」なイメージを浮かべ直した。

 着衣のまま剣を片手に湯船に浸かるスタン――

(うん、これなら、まだ……!)

 「服を脱がなかったから帯剣に気づかなかった」という言い訳が立つ。

(あ! で、でも、待って!)

 エルシアは重大な事実に気づき、漏れそうになる悲鳴を両手で抑え込んだ。

(湯船があるのって大浴場! 流石に他の騎士が気づきそうなもんじゃない!?)

 瞬時に、裸体の集団が頭の中を覆い尽くさんとする。エルシアは再び邪な想像を振り払った。

(違う! 騎士の人たちもきっと服を!)

 湯船に浸かる騎士服の集団を想像し、エルシアは漸く心の平穏を得た。ホッと胸を撫で下ろし、スタンの隣に並ぶ。ポーションの瓶を運ぶ彼の背中をシゲシゲと眺めてから、ポンポンと軽く叩いた。

(……うん、ゴワゴワしてない)

 この騎士服はきっと入浴を免れたのだろう。

 スタンが「何か?」と見下ろしてくる。エルシアは「何でもない」と首を横に振った。クール系イケメンなのに、集中すると着衣のまま入浴するスタン。妙な親近感が湧いて、エルシアは彼を微笑ましく見つめる。ジッと見下ろした彼が、何も言わずにポーション瓶を手渡した。エルシアも黙って受け取り、瓶を運ぶ。


 ピラミッドの解体作業が終わり、「いい時間だから」と夕飯の時間になった。今日もまた、メインはエルシア作のトマトと鹿肉のミネストローネだ。そこに、気の利く男スタンが買って帰った白パンが添えられる。

 但し、食卓は瓶でいっぱいなので、食事を取るのは台所のカウンター。立食でのディナーとなる。

「スタン。パンを買ったお金って、どこから出したの? 自腹? それなら後で精算させてね」

「……私の所持金からですが、大した金額では――」

「駄目駄目。そういうのはちゃんとしとかないと。少額だからって毎回出してもらってたら大金になっちゃうんだよ? 返せる内に返しとくものなの」

 でなければ、いつ何時返せなくなるか分からない。

 エルシアは「食べたら直ぐに」と心のノートにメモし、眼の前の白パンにかぶりつく。

「え、美味しいー! なにコレ、フワフワ」

 帝国ではハードパンが主流。ハバストに来てからは「お察し」の食事内容だったため、エルシアは前世以来の神パンに衝撃を受ける。 忘れていた「美味しい」という幸福に存分に酔った。

「想像以上……、幸せ」

「……王宮でのお食事には劣ると思いますが、街で評判とのことでしたので」

「劣んないよ! すっごく美味しい。ありがとう、スタン!」

 エルシアは小麦の味を噛み締め、会心の笑みを浮かべる。エルシアの笑みに、スタンが薄らと眉間に皺を寄せた。

「お気に召すなら、もっと購入してくるべきでしたね」

「うん、また買ってきてくれたら嬉しい! ほらほら、スタンも食べて食べて! でないと、私が全部食べちゃうよ?」

 その言葉に、スタンは黙ってパンを盛った皿をエルシアの方へ押しやった。

「ちょ! 冗談だよ、スタン。流石に一度には食べ切れないから」

「しかし……」

 スタンのもの言いたげな視線が、料理の置かれたカウンターを見下ろす。それから、立ちっぱなしのエルシアに向けられた。

「王妃陛下にこのような……。せめて、椅子に座ってお食事していただけるよう、配慮すべきでした」

「いやいや、それは、私がポーション作りすぎたせい! それに、立食は慣れてるっていうか、私の生まれ故郷では立派な文化だから!」

 蕎麦とか角打ちとか――

 エルシアは「嘘は言ってない」と真っ直ぐな目でスタンを見る。不審そうにしていた彼だが、やがてエルシアの曇りなき眼に納得がいったのか、静かに頷いた。

「……王妃陛下が気にされないのであれば。ですが……」

 そう言って、食卓の上に置かれたポーション瓶へ視線を向ける。

「早急にあれらをなんとかしませんと。このままずっと、というわけにはいきません」

「ああ、それなら大丈夫!」

 自信満々のエルシアに、スタンが首を傾げた。エルシアが「ふふん」と胸を張る。

「まぁ、楽しみにしてて。明日の朝までには綺麗さっぱりなくして見せるよ!」

「……また、朝まで錬金をなさるおつもりですか?」

 お見通しと言わんばかりの言葉に、エルシアは笑顔のままギクリとする。スタンが呆れたようにため息をついた。

「錬金がお好きなのは分かります。ですが、お身体を壊されるような作業は止めてください。また、先日のように倒れられては困ります」

 スタンの苦言に、エルシアは「おや?」と首をかしげる。

「珍しいね。ていうか、初めてじゃない? スタンが私の作業に口出しするのって」

「それは……」

 エルシアとしては、純粋に「珍しいこともあるものだ」という思いで口にした言葉。なんなら「気にかけて貰えて嬉しい」という思いまである。だが、エルシアの言葉を「拒絶」ととったらしいスタンは頭を下げた。

「申し訳ありません。また、差し出がましいことを――」

「違う違う! 差し出がましいとかじゃなくて、今までは黙認してたのに、『なんでかな』って思っただけだよ!」

 エルシアの言葉に、スタン自身、答えが見つからないのか「なんでか?」と首をひねる。熟考し始めたスタンの横で、エルシアは三個目のパンに手を伸ばした。手にしたパンをジッと見つめる。

(……大丈夫。スタンの分、まだあと三個残ってるから)

 エルシアの中で体格差と消費カロリーを考慮しない「半分こ」が成立した。

 三個目のパンが残り体積三分の一を切った頃、スタンが「ああ」と口に出す。どうやら答えに思い至ったらしい。無表情な彼の、闇を溶かした瞳がエルシアを捉える。

「……どうやら、怖いようです」

「え?」

「貴女が魔力切れで倒れるのが怖い。意識のない貴女を見たくありません」

 ジッと見つめる闇。エルシアの喉がゴクリと鳴った。残り体積三分の一の白パンが姿を消す。

「……で、でも、前に倒れた時は何も言わなかったよね?」

「そうですね。あの時は特に何も思いませんでした。ですが、今、貴女が倒れるのを想像すると……」

 言葉通り想像しているのか、スタンの瞳はエルシアを逃さない。エルシアは身動ぎ一つできなくなる。怖いわけではないが、下手に動くととんでもない何かが起きそうで――

 スタンが口を開く。

「……ですので、どうか。無茶はなさらないようお願いいたします」

「は、はいーっ!」

 呪縛の解けたエルシアは直立不動で答える。脊髄反射で出た返事に、スタンのため息が返った。


 *****


(って、昨日の夜、あれだけ言われたのに、『はい』って答えたのに、私の鳥頭ーっ!!)

 そう、どれだけ後悔しても遅い――

 朝靄立ち込める早朝。足音を忍ばせて自室へ向かっていたエルシアは、二階の廊下で石と化していた。眼の前には、行く手を遮る悪鬼羅刹のごとき何か。軽装かつ黒尽くめの今は冷酷非道なアサシンのようでもある。特に目。感情の読み取れない――読もうとすると「怒」しか見えない――いや、辛うじて「恕」と読めないことも――いや、やっぱり無理――な目がエルシアを見下ろす。

 エルシアは反転した。戦略的撤退である。何事もなかった顔で「いい朝だなぁ。今、起きたとこだよぉ」という体で廊下を戻る。目指すは一階。安全圏。しかし、三歩撤退したところで、限界を迎える。

「グェッ!」

 まさかの首絞め――否、首根っこを掴まれた。

「スタン! 無理無理、ギブ! これは駄目、本気であかんやつ! 騎士と王妃の体幹の差を考えて!」

「……それだけ話せるのであれば、問題ない気がしますが」

 そう言いつつも、スタンは掴んでいたエルシアの襟を離す。解放されたエルシアは、先手必勝に出る。グルリと背後を振り返り、潔く頭を下げる。

「すみません、調子に乗って徹夜しました! でも、あの、ちゃんと理由があるんです!」

 言って、ワンピースのポケットからガラス瓶を取り出した。先程漸く完成した大事な大事な一本。十字架を模した蓋付きの瓶の中で、オパールの輝きを放つ液体が揺れる。エルシアは、この輝きを枕元に置いてニヤニヤ眺めようと思っていたのだ。

 だが、ここでスタンに捕まったのも何かの縁。ズズイと、瓶を彼に差し出す。

「飲んでください! 若しくは、浴びてみてください!」

「これは……」

「最上級品質の聖水です!」

 初任給四分の一の岩塩がなくても作り上げた。今のエルシアが作れる最上位の錬金物だ。

 スタンの長い指が、スッと瓶を持ち上げる。エルシアが恐恐と見守る中、彼は無言のまま、瓶の蓋を開けて中身を一気に煽った。飲み終えたスタンが動きを止める。何かを確かめるようにジッと宙を睨んだ後、服のボタンを外してグイと襟を押し下げた。

 エルシアが恥じらいを思い出す暇もなく、その変化は如実に現れた。服に隠れる部分――心臓の辺りにまで達していた黒の文様が消えていく。徐々に徐々に、黒が霞んで元の肌色を取り戻す。ついには、元から何もなかったかのように、綺麗な肌だけがそこに残った。

 「やった……」

 エルシアの身体から力が抜けた。ガクリと膝が折れる。けれど、その身が地面に倒れる前に、スタンの腕に抱きとめられた。

「王妃陛下、やはり無茶を……。部屋までお運びします」

「だ、大丈夫。ちょっと気が抜けたっていうか。こんなに上手くいくとは思ってなくて……」

 後は、正直寝不足だ。

 エルシアは、スタンの袖に掴まって体勢を立て直す。意識して足に力を込め、なんとか立つことに成功した。目の前に晒された肌をジッと観察する。次第に、目の奥が熱くなった。

「……良かった。本当に解呪できてる」

 言葉にしたらもう駄目だった。

 エルシアの両目から、ボロボロと涙が溢れる。泣くつもりなんてなかったのに。やはり、徹夜明けは怖い。感情の制御が上手くいかず、エルシアの口からは「良かった良かった」と何度も同じ言葉が繰り返される。

 スタンがフッと息をついた。

「……ありがとうございます。王妃陛下。どうやら、貴女のおかげで生きながらえることができたようです」

 静かな声が淡々と告げる。エルシアが見上げると、水の膜越しの彼は穏やかに笑っていた。

「っ! 駄目だよーっ、ほんっともう、今、ここでそんな顔したら、涙、涙が止まんなくなるからーっ!」

「どうして陛下が泣く必要が――」

「そんなの、スタンが笑ってくれたからでしょー!」

 死ぬのは怖い。それを「仕方ない」と受け入れていた彼が礼を言い、おまけに笑ってくれたのだ。そんなの、嬉しいに決まっている。自分がやったことがただのお節介でなく、ちゃんと報われたのだ。

 感極まるエルシアは、もう一つの感情に気づく。安堵だ。

「……もし、呪いが解けなかったらって、やっぱり思うじゃない? 諦めないつもりだったけど、失敗したらって思うとさぁ」

 エルシアは服の袖でグイと涙を拭き、静かに見下ろす瞳を見つめる。慣れ親しんだ黒がそこにあった。

「やっぱり、無理だよ。こんだけ仲良くなっちゃったら、『スタンがいなくなる』って想像しただけで無理……!」

 勝手に想像して、勝手に苦しくなったエルシア。胸が締め付けられ、ブワリと涙が溢れ出す。

「良かった、本当に良かった……!」

 繰り言を口にしつつ、今度は自画自賛を始める。

「偉い! 私、偉い! 本当によくやった。頑張った。偉い!」

 力いっぱいの言葉に、エルシアの身体がフラリと揺れた。スタンが危なげなく支える。エルシアは、半分閉じた目でスタンの胸元を見つめた。

「ごめん、スタン。これ、アレだ。私、多分、魔力切れ……」

 先程から自分でも「酔っぱらいか?」と突っ込みたくなる言動。流石に異常を自覚する。

 スタンが頷いた。

「そのようですね。……部屋までお連れします」

 そういうと、エルシアの身体をヒョイと持ち上げるスタン。前回も思ったが、造作もなくやってしまう彼の身体能力が恐ろしい。エルシアは黙って、スタンの胸元に縋る。落ちないように。頑張って開こうとする瞼は、しかし、直ぐに持ち主を裏切る。

「無理だ。寝ます……」

 エルシアの宣言に、スタンが何かを言う。それに、意識の遥か彼方で返事を返しつつ、エルシアは身体の力を抜いた。


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