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六話 王都にて

 アサカ会戦から3日後には、王都前の平原に、ナツ率いる辺境伯軍が現れた。

 高機動車6台で、移動した先遣隊だ。

 この世界では異常な早さだ。

 王宮はパニックになる。


「まだ、穀倉地帯の火事も消えていないのに」

「王都防衛隊が、向かっていますが、魔法よりも離れた距離から、バタバタと死にます」


 辺境伯軍の正規軍30名に、現地人、予備自三等陸曹フリッパーと、冒険者ギルドで雇った雑務兵扱い10名の、計40名だ。


「警戒員以外は、鉄条網を張りなさい。爆雷の設置も平行して、御大の居住区と司令部の設置は、私らでやります」


「「「了解」」」


「予備三等陸曹フリッパーと、リリー親子、前へ」


「ヒィ、フリッパー、出頭しただ!」

「「ヒヒヒヒ、親方様、命令を」


「王都市民に紛れて、物資を買ってきなさい。王都の上杉商会に話は通してあるわ。これはお金よ」


 ジャラ、


「「ヒャハー、お買い物だ!」」

「あの、ナツ様、ヨビジは、兵団の皆様が外征されたときの本領土防衛任務とか補助的任務ではなかっただか?いや、ございませんでしただがや?」


「遠征手当、一日大銅貨2枚プラスよ。円表記で貴方の日当は、1万500円よ」


「いや、そういう・・」

「ヒヒヒヒヒヒ、さあ、リーダー、王都に行きましょうぜ」

「ヒィ、腕を引っ張るのやめろだ。こら、草むらに隠れて、薄暮の時間を狙っていくだ」


 彼らは、王都の上杉商会に向かった。

 名前からして、日系企業である。

 上杉家の発祥は、戦闘団解散時に、トラックを分けてもらって商売を始めた陸曹家である。


 その頃、

 上杉商会の代表、タモン・上杉は、王宮で商談をしていた。



 ☆☆☆王宮


「キャ、これ、最新のドレスじゃない。宝石も、皆、いただくわ!」

「リリアン様、有り難うございます。しかし、手形ではなく、現金払いとさせていただきます」

「わかったわ。そこの侍従、お金を渡してあげて」

「・・・リリアン様、王太子殿下にご相談された方が宜しいかと存じます」


 ガタン!とドアが開き。

 王太子が飛び込んできた。


「リリアン、予算っていうのを編成するから、帳簿をって言ったのに、また、ドレスを買っているの」

「ヘンリー、ジェイドがなくなって、寂しいのよ」


 ・・・魔女の代わりに政務を見させているけど、全然じゃないか。


「今、目の前に、奴らが来ているのさ。ドレス買っている暇はないよ!」

「数十人でしょう?簡単じゃない!」

「返り討ちにあっている。そこの商人、帰ってよ」


「おや、まあ、せっかくのドレスを、お安くしますよ」

「何で、お前は、この非常事態に、ドレスを売りに来ているんだよ!お前の所だけだぞ!」


「ところで、徴兵の方は進んでおりますか?」


「あいつ、ナツは、ジェイドの内ポケットに挑戦状を入れていた。『徴兵をしろ。王都平原で決戦しよう』ってさ」


「最低、3ヶ月は掛かりますな。各諸侯軍を集めるのに一月、編成訓練に一月、予備に一月ですな」

「馬鹿にしやがって!とにかく、金が掛かるのさ!魔女め。死んでからも、迷惑を掛けやがって」


「なら、増税をすれば如何ですか?」

「なるほど、お前は賢いな。じゃあ、早速そうしよう。リリアン、ドレスは買って良いぞ。お金が入ってくるからな」


「キャア、ヘンリー有り難う」


 馬鹿か。増税には、もっと、時間が掛かるだろうよ。

 それに人心が離れる。悪手だぜ。

 とタモン・ウエスギは心の中でほくそ笑んだ。


 この世界は地産地消である。王都近郊の畑でとれた物産で、王都市民の食料を賄っていた。

 穀倉地帯を焼かれても、まだ、余裕はある。これから、ジワジワと効いてくるのだ。


 ナツの補給の戦略は、野菜やパン、エールを上杉商会から購入する。

 エールは酒だが度数が低い。この王国では飲み水の代わりとなっていた。アルコールが殺菌作用を働いている。


 その他を、本土から運ぶ。


 ☆深夜


「ナツ様、第一陣が来ました。上空に来ています」

「そう、こちらも、合図を出して」


 イセ航空隊の飛行船である。輸送任務は評価試験も兼ねている。


 着地せずに、ロープで物資、布鎧と呼んでいる防弾チョッキや弾薬、新鮮な肉、信頼できる水源から取った水を下ろしている。


「思ったよりも、水素の充填は早かったようね。火矢一本で爆発の元だからね」


 飛行船は目立つ。水素をためるために時間が掛かる。開発したばかりのスターリングエンジンはまだ信頼性が低い。

 先制攻撃は信頼性の高い気球で行った。


 ブロロロロロ~~~


「フフフ、エンジン好調のようね」


 ランプをグルグル回し、ナツは合図をする。

 実は、車両も完成していた。65型自走荷馬車である。

 後陣として来る予定だ。


「まさか。内炎機関とギヤが、完成した年に、こんなことになるなんてね」


 彼らの文明は着実に、進んでいた。

 佐々木三等陸曹のマニュアル本によるところにも大きいが、この魔法世界特有の事情があった。




 ☆☆☆65年前


 ・・・多田一佐が、8日7夜の不眠不休の指揮を執られ、疲労が原因で殉職をされてから、半年が経過した。

 戦闘団の7割が死亡、358名が生き残った。


 我らは、最強の武器を持っているが、弾薬は2日分しか無かった。魔族は味方の屍を超えてやってくる。

 圧倒的な不利な状況の中、多田一佐の指揮の元、野戦築城を駆使し、数十万の魔王軍を撃退しつつ、別働隊が、ポイズンドラゴンを討伐した。野戦築城には、佐々木三等陸曹が持ってきた資料を基にしたという。


 私は、医官、吉田咲、


 ブロロロロロ~~


「おお、三トン半トラック動いたぜ!」

「上杉曹長!まだ、ガソリン残っていたの?!」


「吉田先生、俺、トラックをもらうわ。報奨金を基に、商売をやるつもりだ」


「上杉曹長・・ガソリンは無くなったのではないのですか?」

「それが、佐々木がガソリンを作ってくれたのよ。装置は、佐々木の設計図を基にドワーフたちが作ってくれた」


「どうやって」

「ほら、あそこで、やっているよ。あの天幕の中だ」


 上杉曹長が指を指した先には、


 佐々木三等陸曹と、ドワーフたちがいた。


 天幕の中で何かを煮ている。え、機械?何かボイラーみたいなものがある。


 ドワーフたちと、外で見ているわ。


「ちょっと、佐々木三曹、何をしているの?」


「あ、はい。今、ドワーフたちと、原油からガソリンの精製をしています。燃える水としてこの世界にもありましたから、ここから見て下さい。中は危険です」

「石油を鍋で煮て、気体にして、筒を通して何かの装置に送っている!」


「これは、アフリカの石油泥棒が、パイブラインから原油を盗んで、ガソリンを精製しているニュースから、着想を得ました。

 デンジャラスですが、簡単です。原理は蒸留です。ほら、上の方のタンクに貯まっている液体は、ピンクです。これはガソリンですよ。下に進むにつれ、軽油、重油になるそうですよ」


「なら、車は、まだ動かせるのね」


「ええ、ところで、どうですか?この国の人たちは?」


「そうね。はっきり言って、一般人は、無知蒙昧だけども、知識階級が違う」


「私も、そう思います。先生の所見を教えて下さい」


「彼らは、魔法があるせいか。見えない力を覚知する力があるの。おそらく、原子の大きな力とか、小さな力とか、電磁気力も理解できると思う。実際、重力魔法がある。引力を知っているのよ」


「「文明は中世のレベルなのに!」」

「ですよね」


「でも、何でも、魔素で説明するから、「気」で説明する東洋文明で科学が発展しなかったような状態、因果関係を重要視しない。原理が分からないから、【魔】法なのよ。文明が進まないジレンマが発生している・・・と思うわ」


「そうです。ドワーフ部隊と話していたんですが、奴ら、日本刀の基になった技術を知っていますし、コークスも使います。

 これなら、西洋の近世レベルの製鉄所ならすぐにつくれます」


「お~い。ササキ殿、もっと、面白いものないか?」

「あ、ちょっと、待って下さい」


「ところで、魔獣のわく、沼の開拓団の一員として行くのよね」


「ええ、この世界は、動物性脂肪が圧倒的に足りないでしょう?馬、牛は貴重だし、だから、魔獣の油脂で、ニトロや、ニトロセルロースが作れないか実験します」


「貴方って人は」


「まずは、製鉄所も作ります。砂型鋳造で、機械の部品も作れます。プレス機や工作機械を作ります。ボイラーを作り。コイルと磁石で、水力で電気を作りますね。

 銃はつくれそうですが、薬莢の復元には時間が掛かるでしょう。石英があれば、防弾チョッキもつくれそうですね」


「エンジンは?」


「はい、子供の工作キットで、スターリングエンジンがあるくらいですから、原理は再現できますが、車両レベルの実用化は時間が掛かるでしょうね」


「貴方は、自衛隊を再建したいの?」


 部隊の七割の人員が亡くなっても、残り三割が、徴兵した新兵を教育すれば、部隊を再建できるという第二次世界大戦のドクトリンがある。


「さあ、それは、正直、分かりませんが、日本人としてまとまっていたいと思います。変ですかね。この世界に融和しなければならないという気持ちと、ルーツとしての日本人のアイデンティティーを保ちたいという気持ちがあります」



 私は医官だ。それなりに影響力はある。

 生き残りたちは、それぞれ、各国に引き取られ、第2の人生を過ごす。

 個人、小集団に別れ、いずれ、この世界で埋もれていく。

 佐々木君の集団に、優先して、武器弾薬や野外ボイラーなどの資材を分けようと皆に呼びかけた。


 そして、お別れの日、

 私たちは、令嬢と結婚する者や、騎士に取り立ててもらったもの。商会を開く者。様々だ。


 佐々木君の集団は、36名で、開拓団に参加することになった。

 開拓地は魔獣だらけで危険なので討伐する役割だ。

 賛同したドワーフたちも一緒だ。

 文明の進みも早いだろう。


 副戦闘団長は、50代、孤児院で数学の教師をすることになった。佐々木君が持ってきた教科書を一生懸命に写して、復習をされていたわね。

 自衛隊は文書組織でもある。反故紙とA4用紙とペンは豊富だ。

 発電機があるので、コピー、プリントアウトも出来た。



「え、俺が、リーダー?俺は三等陸曹ですよ!」

「ヘリのない航空隊は意味がない。君がリーダーになって研究を進めろよ。普通科だろ?」

「そうだ。皆、不服はない」

「ドワーフも同意じゃ、早う。何か作らせろ。命令をしろ」

「「「そうじゃ」」」


 私は、聖王国に行く。もう、佐々木君に会うことはないだろう。


「そうだ。集団名を決めないと、戦闘団本部にあった神棚、伊勢神宮のお札だったから、伊勢にしよう。どこかで、伊勢の名を聞いたら、皆、集まろうぜ」


「神社は、異世界とはいえ。分社を作るのは気が引けるから、多田一佐の9ミリ拳銃を祀って、多田神社を作ろう」


「では、皆・・・・【気をつけ!別れ!】」


 副戦闘団長の号令の元

 ビシッと敬礼をし、皆、おのおの、迎えの元に向かった。



 ・・・・


「アハハハハ、開拓民代表のロンバルだ。これは妹のエミリだ。結婚しろ」


「ええ、私は25歳です。おいくつですか?」

「14歳ですわ!」


「ヒィ、無理、俺、ロリコンじゃないし」

「この世界は、好き嫌いで結婚するんじゃない。政略だ。運命共同体だ。向こうについたら君たちが、魔獣を討伐してくれ。俺たちは、平地を開拓する。そうだ。エミリの子と俺の子を結婚させよう。ずっと、婚姻関係を結ぼうぜ」


「それは、遺伝的にどうかな。これから、三代開けてぐらいなら、つまり、ひ孫の代だ」

「分かった。婚約を承諾するんだな」

「ヒィ」

「情けなや。殿方が悲鳴をあげてはいけませんわ!その馬なし車に乗せてもらいますわ!」

「あの、デレを下さい」

「何ですの?食べ物ですの?」


 ・・・・・


 ☆☆☆現在


 ナツたちは、昼夜作業により。王都前の平原に要塞を築いた。


「な、何だ。いつの間に、砦、いや、城が出来ているぞ!」

「賊軍のくせに」


 到着から三日後には、強固な陣地が出来上がっていたのだ。


 この日、やっと、王太子は、脅威と感じ。交渉を決意することにした。





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