四話
「王命!辺境伯は解体!財産は全て国庫に帰属する。辺境伯令嬢ナツ・ササキは王宮に行儀見習いとして出頭せよ。理由、アキ・ササキは、聖女殿に数々の嫌がらせを行い。いくら止めても聞かなかった。辺境伯は不正に財産を蓄えている・・」
イセ辺境伯なのに、こいつの家門はササキ、イセと言う名の家門はいない。
蛮族の風習らしい。
行儀見習い。嘘は言っていないが、本当のこともいっていない。下女としての行儀見習いだ。王宮に着いた後、どんな顔をするかな。こいつ、蛮族にしては、顔は整っているという。
外国の賓客の夜の接待として使う計画だ。
黒髪は召喚勇者の証。ありがたがる国もあるだろうとの目論見だ。
その前に、陛下に、花を散らしてもらう。私の手柄だ。
処女かな。魔女の三歳下だから、15歳か・・いや、やっぱり、私が頂こう。今夜は夜とぎをさせよう。
王命を伝えた後は、優しく諭す。
「私も見ましたが、あれは、酷かった。嫉妬のあまり、聖女様を噴水に突き落とした。
聖女様は泳げない。発見が遅れたら死ぬところであった。
しかし、一族の処刑までは、望まないと陛下と王太子殿下、聖女様のお情けである。君さえ、王都に行けば、全て解決する。
一族はここに住めると約束しよう」
まあ、一族は住めても、奴隷としてだけどな。
私が代官として治める予定になっている。
キャリアを積んで、次は宰相だ。
反応はどうだ。
まだ、顔を上げない。
そうだ。なら、脅しだ。
「私は、君をこうはしたくない。善き返事を期待しているよ」
コロン~
護衛騎士に持たせた箱には、塩漬けにした魔女の首が入っている。
それを取り出し、ナツの前まで、転がした。
臭い。
鼻をつまむが仕方ないだろう。
おっ、プルプル震えているよ。成果ありだ。
「お、お姉様・・・」
うわっ、腐った首を、抱えて、胸で抱いている。どういう神経しているのだ。
「お、お姉様、お姉様、お姉様に、馬鹿王子は勿体なかったわ」
・・・何だと、言うに事欠いて、
「いくら、悲しみのあまりだと言っても、不敬罪に相当しますよ!そもそも、反逆罪の罪人を出した家門は、討ち取ってもらったことのお礼を言うべきです。『罪人を討ち取って頂きありがとうございます』と言いなさい。さすれば、今回だけは見逃します!」
「フフフッ」
何がおかしい。
ナツの発言は続く。
「あ~あ、聖女なんて、いじめ殺せばよかったのに、もっとも、お姉さまはそのようなことはなさらない」
「「「反逆罪だぞ!」」」
「メガネ以外は、殺せ!」
「「「えっ」」」
・・・正気か?
ナツの命令で、
ゆっくりと、接遇の間の四周の扉から、この国ではあまりなじみのない長い刀、日本刀を持った兵士がワラワラ出てきた。
「反逆罪だぞ!俺たちを殺したら、たった、100人で、1万人を超える国軍を相手にすることになるぞ!」
「だから?なに?」
「ヒィ、やっぱり、野蛮人だ!」
「チェスト!」
バシッ、バサ!
護衛騎士は応戦をするが、一方的に斬殺された。
「ヒィ、何だ!その刀は、何故、鎧ごと、剣ごと切断出来る!わかった。私を人質に交渉すればいいよ。なあ?父上にいえば、身代金を出してくれるぞ」
「フフフ~~ン、お前はお姉様の首を持ってきてくれた。だから、お礼に、お空を飛ばせてあげるの。生きたままだけどね」
「な、何を言っている!」
「イセ航空隊前へ!」
「「はい!」」
「作戦を立てなさい。王家の直轄地に焼夷弾を爆撃、あと、メガネも王宮に落としてきなさい。優先順位は、一、搭乗員の命、二、穀倉地帯への爆撃、三、メガネ、
最悪、メガネは、どっかに落としてきてもいい。理由、命をかける作戦にあらず。代替作戦あり」
「「了解です!」」
「すでに、気球と焼夷弾の準備はOKです。夜のうちに、焼夷弾を落とし、日の出と共に、王宮に爆撃する航路を算定しています!」
「ちょっと、待て、何をする気だ!」
「ナミ、貴方を私、直属、通信班長兼一科長兼秘書官に任命するわ」
「ふえぇ~ん。何か多そうです。分かりました!」
次々に、部屋に人がやってくる。
ナツは報告を受け。命令を下す。
「長老議会より、正当防衛派遣の承認を受けました!」
「有事行動要領に基づき。戦闘団幕僚本部開設!」
「予備自招集作業と並行し、物資の買い付け!ポーションを忘れるな!」
「「「了解!」」」
「戒厳令の鐘を鳴らせ!これより、イセ辺境伯は、イセ戦闘団と呼称を変える!」
「「「了解!」」」
「準備終わり次第報告」
「準備の期間は、いつまでですか?」
「今!」
「了解!」
※「今」・・・期限は今、つまり、早くやれという言い回し。
カーン!カーン!カーン!カン!カン!カーン!カーン!カーン!
☆デジマ地区、工房長室
「おお、長音三つと、短音二つ挟んで、長音だ。戒厳令の合図だ。連続操業の合図だ。と言っても、政変でアキ様が亡くなられた一報があってから、準備は終わっているがな。二組に分かれて、10時間操業だ。皆、稼ぐぞ!」
「「「オオオオーーーー」」」
「通達!8時間労働+残業2時間の二組体制、週一休みで、日産20時間体制で行えとの事です」
「ほお、そうか。分かったと伝えてもらおう」
☆畑
「ああ、やっぱり。あの王都からの役人を案内してから、こうなるじゃないかと思っていたんだぁ!」
「フリッパー、日給大銅貨8枚稼げるじゃん!」
「ええ、でも、あれだよ。何かあれだぁよ。怖いだ!!」
「お、もう、使者が来たよ」
「通達!フリッパー予備自士長!明日0900までに、辺境伯館まで出頭せよ。出頭をもって、予備自三等陸曹に昇任する!」
「ヒエ~」
「返事は敬礼で行え!」
「はい!」ビシッ
「やったな。出動手当、大銅貨8枚中銅貨5枚に昇給だ」
「微妙だ!」
☆辺境伯城下町商業ギルド
「今から、商業ギルドは、戦時行政庁になる!」
「「「はい!」」」
☆冒険者ギルド
「「「よっしぁ~~、稼ぐぞ!」」」
「うちは、特にないよ」
「「「何故!」」」
「ギルマス、何でだよ」
「魔獣は戦争が起きるから待っちゃくれないよ。魔獣狩り小隊がいなくなるから、忙しくなるぞ」
「通達!補給部隊を編成する!D級以下の冒険者限定だ。募集要項だ。確認されたし」
「はい、分かりました。ベテランは魔獣狩りで居残りですね」
☆辺境伯館
「え~と、メガネは、返事を王宮まで、持って行って」
・・・一体何なんだ。助かるのか?
書簡を服の内ポケットに入れられた。
え、縛られたまま、庭に出された。何だ。あれ、大きな風船?が二体ある。浮いている。籠が吊されている。二体あるぞ。私を籠の下部にロープでくくりつける作業をしている。
「ご先祖様は、ヘリという魔道具を操縦していたのだ。ご先祖様に顔向け出来るぞ。最終点検だ」
「了解!」
「ロープよし」
「焼夷弾投下索よし!」
「重りよし!」
「燃料よし!」
「物資よし!」
「あ、メガネよし」
「点火!」
ボオォオオオオオ
「ここにいる者は、【気をつけ!】イセ航空隊、加藤曹長と三村三曹の任務完遂を祈る!【敬礼!】」
気球はゆっくり上がった。
「ヒィ、せめて、私を籠に入れてくれ、そうだ、マイケルの騎士団の情報をほしくはないか?下してくれ!」
「メガネは、最期まで、口を割らなかった!メガネに【敬礼!】」
バシ!
「口を割る。割るから、ヒエェ~~」
気球は風を利用してしか飛ばない。
異世界フジから、吹き下ろす風を利用して、王都圏内まで進み。
爆撃した後、着陸して、現地人に紛れる作戦だ。
・・・・
「ナツ戦闘団長、各署準備完了の報告が来ました!」
「敵、騎士団、会敵まで、5日の距離、アサカ会戦と呼称していいかと、戦史研究班から、問い合わせがありました」
「そう、会戦名はお任せします。私は、少し、『予言の書』を読み返してきます。何かあったら、報告をお願いします。
各署、各自の計画で休ませるように」
「御意、ナツ様もお休みになられては」
「ええ、休みますよ。心配有り難う」
ナツの前には、地図があった。会戦地まで既に予定されていた。
☆☆☆王都グリーンランド大使館
グレース王女は、アキから預かった本を皆に紹介する。これは本来なら秘匿本だ。
「皆様、これは、『予言の書』の写本になります」
アキ様のご先祖様は、数々の知識の本をこの世界にもたらせてくれました。
発端は、ナツ様のご先祖は、異世界の騎士の10人長でした。
☆☆☆202X年、自衛隊某駐屯地、2000時、自習室
「佐々木三曹、何だ?『予言の書』って、中二病満開だな?」
「勝手に見ないで下さい!小説家ナリキリサイトや、カイテヨンデに異世界ものがあります。そのマニュアル本を作っています!」
「小説、書けば良いじゃん。簡単だろ?」
「難しいですよ。俺、いや、私では無理だから、作っているんです。軍事だけではなく、化学や農業、土木、教育とか。いろいろあるんです」
「このタブレットは?漫画とか入っているの?」
「それは、辞典や、全教科の教科書に、黒色火薬や無煙火薬、ダイナマイトやTNT爆破薬の製造法や、ボッシュ法の製造過程などの資料が入っています。漫画は歴史物とかですね」
「何だかな。それよりも、飲みに行こうぜ。先輩の誘いを断らないよな」
「それは、断ります」
ガチャ
「連隊長!」
「多田一佐」
「今度の警護訓練の計画作成のため残っていたが、自習室で声がした。ここは自習室だ。何をもめているか?」
・・・・
「ほお、なるほど、ネット小説は分からないが、そこから、勉強に入ることは良いことだ。邪魔してはいけないよ」
「「はい」」
「佐々木、悪かった」
「そうだ。今度の訓練、佐々木三曹は、戦闘団本部付として来なさい。戦闘団形式だから、他職種との交流がある。勉強になるぞ。教本も沢山持って行くぞ」
「有り難うございます」
・・・
こうした些細な出会いが、数々の本がもたらされ。『予言の書』の作成は進みました。
軍神タダとは、とても、聡明な方だったと伝わっています。